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ヒルデ視点、二回目です。

「アベル。焦る気持ちも判るけれども、最近のキミは少し気負いすぎたと思うよ」

 

 いまだに自分の力を使いこなせていない。その証拠に、何時まで経ってもレジェンドクラスの魔物の出現が止まない。そんな状況が続いて、またアベルが少し落ち着かなくなってきていたのが判ったから、気休めにもならないだろう言葉をついついかけてしまった

 自分でもそんな事言ってもどうしようもないと判っているから、もっと他に言う事があるはずと必死になって考えて、なんとか続ける。


「それにキミは力の繊細な使い方に拘っているみたいだけど、これまでのキミの力の使い方はむしろ力任せなところがあったんだし、私はそちらの方がキミに合っている気がするけど?」


 これは何となく彼の様子を見ていて感じた事。

 確かにレジェンドクラスになって、今までの力の使い方は通用しなくなったのは判るけれども、それでも、今までのスタイルを全て捨ててしまうのは違うんじゃないだろうか?

 なんとなくそんな気がした。ただそれだけだけど。


「いや、力任せじゃどうにも成らなかったから、繊細なコントロールを身に付けてるんだけどね」

「それは判ってるけど、いくら繊細な力のコントロールに気を使っても、力を使いこなせる様にならないでしょ? だから、それだけじゃダメなんじゃないかなって思うの。繊細な、針の穴に糸を通すような完璧な力のコントロールと、力任せなくらいの荒々しくも力強さ、その二つが合わさった感じが、元々のキミのスタイルだったから、自分にとって一番しっくりくる形だったスタイルに一度戻ってみたら?」


 彼の戦い方は、元々決してただ力任せなだけじゃなかった。むしろ、これ以上ないくらいに戦略的で、確実な戦い方をしていた。

 何時からその戦い方を確立していたのか知らないけど、ハッキリ言って、今のただ力をどれだけ確実に使う矩計り気を取られている戦い方よりもはるかに彼らしくて、合っていたと思う。


「まず一度、初心に戻ってみるのは基本だよ」

「初心・・・。そもそもの戦闘スタイルか」


 どうやら何か思うところがあったみたいで、そのまま考え込んでしまうけれども、これで何か、手掛かりになると良いんだけど。

 私の取るに足らないアドバイスを聞いて、何か自室で真剣に考え始めたのを見て、余計な事を言ってしまったかと思わなくもないけど、何かしらのキッカケになるかも知れないと思っておく。


 私としても、出来ればこの異常事態は早く終わった方が良いと思う。

 貴重なレジェンドクラスの魔物の素材が得られるまたとないチャンスでもあるから、一部ではこのまましばらく続けばいいと思っているのも居るだろうけれども、同時に、これ以上ない程に危険な状況に世界中が置かれているのも確かで、ある意味では間違いなく、魔域の活性化が世界中で連続しているよりもはるかに最悪な事態。

 そんな異常な、緊急事態が何時までも続いているのは、社会的にも当然かなりの負担になる。

 今はごく普通に社会を維持できているけれども、早々何時までも持たない。そんな予感と言うよりも、確信がある。


 それに、出来ればまた、あんな大惨事が起きる前に終わって欲しいと心から思う。

 本当に、もう二度とあんな思いはしたくないと心の底から願う。

 レジェンドクラスの魔物はどれもその圧倒的な力を示すような偉容を誇っていた。だけど、まさかその中にあんな禍々しい、悍ましい姿があるなんて思いもしなかった。

 思い出してしまうだけで身の毛もよだつ姿。全ての乙女の天敵。その最大にして最強の存在をまさか目の当たりにしてしまうなんて・・・。

 もう二度と、アレがこの世界に現れる様にことは絶対にあってはならない。それが私たちの総意。

 だから、アベルにはもうあんな事が起きる前に、急いで力を完全に使いこなせる様になって欲しいて気持ちも実はあったりする。

 ・・・もっとも、本当にアベルが力を使いこなせる様になったらこの異常事態も無事に終わるって保証は、どこにもなかったりするんだけども、そこはミミール様の言葉を信じるしかない。

 

 そう言えば、アベルがあの悍ましい魔物を欠片も残さずに完全に消し去ったのが、信じられない事に一部ではそれが不評との事。

 せっかくの貴重なレジェンドクラスの魔物の素材を無駄にしてしまうなんて、ありえない暴挙だと一部で騒いている連中がいると、ミランダさんがぼやいていた。


「もし仮にそのまま残っていたとしても、実際には使い道なんてないでしょうにあんな魔物・・・」


 GソードやGアーマーで身を固めて戦いたい様な変人なんてまず居ないでしょうにと嘆いていたけど、一応そんなバカに事で騒ぐ人も要るらしいので、アヘルの耳に入る前に潰してしまうのが一番と、早急に全力で相手をして差し上げたらしい・・・。

 自業自得だけど、ミランダさんに全力で相手をされた人たちがどうなったのか・・・?

 そこは深く考えない方が良いと思う。

 とりあえず、GソードやGアーマーなんて使いたいとも思わないのにだけは同意しておく。それに、戦車や戦闘機の装甲、装機竜人や空中戦艦の外装として使うのも微妙どころかNGだと思う。少なくても私はそんなのを使いたくはない。

 それとも、まさかその身を食べるとでも?

 信じられない事にごく一部では、Gを食材とする地域もあるなんてアベルが言っていたけれども、まさかアレを食べるつもりだったとでも?

 そんな暴挙は断じて許されない。絶対に許してはいけない。だから、アベルの判断は全面的に正しい。

 

「こんなくだらない事、アベルの手を煩わせるまでもないし、さっさと終わらせるに限るわよ」


 それについはて確かにその通り。ミランダさんとしても、どうにかして自分の力を完全に使いこなせる様になろうと四苦八苦しているアベルに、くだらない事で煩わせたくないのだと思う。


「このまま何事もなく終わってくれるといいんだけど、最悪、国の一つや二つ消えるのは覚悟しないといけないわ訳よね」

「そうですね。アベルに対応できる魔物ばかり現れる保証なんてないのですから」


 それに、今の所は表面化していないけれども、何時、アベルでは太刀打ちできない強さの魔物が現れるかも判らない。そうなったら、いくつの国が亡びるか判らない現実がある。

 アベルはVXランクのダーク・ドラゴンまでを倒す事が出来た。

 だけど、もしもレジェンドクラス最高位のXYランクの魔物が現れたら?

 或いはVXランクの魔物でも複数匹が同時な現れたなら?

 その時はアベルの力でも倒しきれない可能性が高い。それどころか辛うじて生き延びるのすら困難になるはずで、そうなれば現れた周辺の国は一瞬の内に壊滅する事になってしまう。

 ユグドラシルなどからミミール様たちが駆け付けるまでにどれだけの被害が出るか・・・。

 確実に十億を超える死者が出るのは決まっている。

 それに、アベルを含む私たちも無事でいられる保証は何一つないのです。


「その時は、私たちも覚悟を決めないといけませんね」

「その時になったらなったで、また、アベルが何かしらやらかしそうな気もするけどね」


 それは・・・。

 全く否定できませんね。

 既にそんな危機的状況に陥った場合も考えて、何かしら仕込んでいる可能性も否定できないのが怖い所なのだけど、同時に安心してしまうし、それならそれで見てみたいと思ってもしまうのもどうなんか思う。


「また久々なタイプの人だったな・・・」


 そんな事を話し合っているとアベル本人が、私たちが集まっているヒュペリオンのラウンジに来ます。

 ただ、随分と困惑した様子なのは何故?


「どうかしたんですか?」

「いや、ついさっき、ムーランローラの冒険者ギルドから連絡があったんだけど、大規模な魔物の群が現れたから俺に討伐に来て欲しいって」


 当然断ったけどなと平然と続けるアベル。


「魔域の活性化でも起きてどうしようもない状況にでもならない限り、もう二度と、尾の国には行かないって決めてるし」

「それが良いわよ。好き好んでGの魔域に何て行く必要はないし。私もあそこは立ち入り禁止区域に指定してるしね」

「それならそうと、もっと早く教えて欲しかったんだけど・・・」


 ミランダさんはとっくにあの国には近づかないのを決めていたとの事、そう言えば、結局あの国ではミランダさんはヒュペリオンの中に籠ったまま出て来てもいなかった。


「どうせ今回も、Gの大軍が出たから始末してくれとでも言うんでしょ?」

「全く持ってその通り。数千規模のGの大軍が出たから、討伐してくれだってさ」


 A・Bランクの魔物の数千規模の大軍。それは確かに脅威ですね。

 アベルを頼りたくなる気持ちも判るけれども、そこでハイとアベルが討伐に向かってしまうのも実はダメだったりするのを忘れてますね。


「確かに危機的状況ですけど、アベルに救援要請を出すのは筋違いですね」

「ああ、だから当然、Sクラスの冒険者に頼むなり、それがダメなら国の竜騎士団に要請するなりするべきだって断ったよ」


 アベルは既に至高のレジェンドクラス力を有している。

 それはつまり、今回の様なレジェンドクラスの魔物が次から次へと現れる様な異常事態でもない限り、魔域の活性化が凝ったとしてもすぐには動くべきではないと言う事です。

 圧倒的な力を持つアベルが動けばすぐに解決してしまう。それでは次の世代の成長を妨げてしまう事になる。故にSクラスでもある程度は同じだけども、本当に緊急の場合以外はあまり動かないのが絶対的な力を持つ者の基本。

 今回の件も、数千のA・Bランクの魔物の大軍は確かに脅威ではあるけれども、アベルに頼るのではなくてSクラスの冒険者たちに依頼するのが正しい。

 もしも、Sクラスの冒険者に都合が付かなかったのなら、国の竜騎士団に殲滅を依頼するのが妥当な判断で、いきなりアベルを頼るのは間違い。


「大方、Sクラスの冒険者で来てくれるのを見付けられなかった上、竜騎士団も出動を渋ったんでしょ」


 Gの大軍が相手だと判っていながら、行こうとする物好きもまず居ないし、今は非常事態中だから断るのも容易なのよねとの事。

 私自身、もしも要請されても全力で断ったのは確実なので、それについては何も言えない。

 それと、あの国の軍も騎士団も、竜騎士団も共通して、Gとの戦いは嫌うそうな。

 気持ちは判るからなんとも言えないんだけどね。国に仕えて、国と民を守る立場にある以上、例え相手がGであっても躊躇わずに討伐に行かないといけないんだよ。

 それを全力で渋るから、アベルへとお鉢が回ってくるのだとミランダさんは呆れた様に言うけれども、それって実は結構深刻では?


「確かに割と深刻ではあるけど、あくまで国の問題だから、放っておけば良いのよ」


 確かに、特に私たちなんかが首を突っ込むと国際問題になってしまいかねない。王族の一員として、無闇に他国の事情に関わるべきじゃないのだから。


「話は分かりましたけど、それでどうしてそんなに困惑しているのですか?」


 他の冒険者なり竜騎士団に頼れで断れば良いだけの話で、アベルが困惑するような話でもないはずだけど?


「いや、話を持ってきたギルド長が強引でな」


 竜騎士団に頼るのは冒険者ギルドの沽券に係わるから避けたいとか言って、なんとか俺に討伐させようとしつこくてと、かなりお疲れの様子。

 イヤ、沽券に係わるも何もないと思うんだけど?

 

「オマケに、ガキの癖に言う事が聞けんのかとか逆切れし始めるし」

「イヤ、それは普通に無いでしょ?」


 どうやら、アベルは相当おかしな人に絡まれてしまったようです。



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