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「あれはダメだ・・・。アレは許されない・・・」
「ご愁傷さまでした・・・。て言うか、昆虫系の魔物も定番だし、この世界にもいるのは知ってたけど、アレは流石に無いですよね。・・・オレ、これから先、やっていける自信がなくなって来たんですけど」
あまりの衝撃に打ち震える俺に、激励の言葉をかけようとして、最悪の事態を想定してしまったのか真っ青になってこれからの将来を嘆くザッシュ。
気持ちは判る。俺も同意見だ。
レジェンドクラスとの死闘、激戦が始まって既に三か月。二十回以上の出現回数に、既に四十匹に達する現れたレジェンドクラスの魔物の数。
にも拘らず、一向に終わりの見えない事態の中で、遂に事件が起きた。
それは、考えられる中でも最悪の事態。最悪の凶事。現れてはいけない魔物がその姿を現してしまったのだ。
「G怖い・・・」
心の底からの恐怖は、俺自身のモノでもある。
そう、何故存在するのかも理解不能の恐怖の化身。レジェンドクラスのGの魔物がその姿を現してしまったのだ。
ある意味で、最初から嫌な予感はしていた・・・。
レジェンドクラスの魔物現れる場所はランダムだけども、一度現れた魔域から再び現れる事は今までなかった。つまり、回数が増えてくれば次に現れる場所の候補も少なくなってくるのだけども・・・。
そんな中で、出来ればあまり行きたくない魔域で出現の前兆が現れてしまった。
何故、行きたくないか・・・。
出来れば避けて通りたい理由は極めて単純で、その魔域からは昆虫系の魔物が多数出現するからだ。
魔域の特性によって、そこから現れる魔物も違ってくるのは当然で、海にある魔域からは水生の魔物が数多く現れ、砂漠の魔域からはサソリなどの砂漠の生物系統の魔物が現れやすい。
そんな中で、ムーランローラ王国の魔域深い森林地帯にあり、昆虫系の魔物が多数現れる特徴を持っていた。
よりにもよってソコが次の出現ポイントになった時点で、嫌な予感はしていたんだけども、本当よりにもよって最悪の魔物が出現した。
それは全長500メートルに及ぶ巨大なG。キング・オブ害虫の魔物。
それを見た瞬間。俺は本気で気を失いそうになった。
実は、前にも少し話したと思うけど、Gの魔物は確かにいる。特に女性の冒険者からは天敵と恐れられているAクラスの魔物で、10メートル近いGや、Bクラスの4メートルを超えるGなど、いくつかの種類が存在している。
実際に俺もそれらと遭遇した事もあり、問答無用で消し炭ひとつ残さずに完全に消し去った事があったのだけども、まさか、Sクラスを飛び超えてレジェンドクラスの魔物の中にGがいるとは夢にも思わなかった。
しかも、そんな最悪の魔物と遭遇するなんて天文学的なレベルの不幸に見舞われるなんて・・・。
一体誰が想像できる?
「俺は、今日ほど自分の不幸を呪った事はない・・・」
本当に、こんな不幸が起こり得るだろうか?
何故、いきなり巨大なGの魔物が現れる?
これまでに出てきた魔物は大半が食用になって、更に特に美味しいとされる当たりの魔物ばかりだったのに、いきなりG、昆虫系の魔物でもほかにいくらでも種類がいるはずなのに、それらの全てが無視されて何故かG。
いや、昆虫系の魔物でレジェンドクラスが、このG以外に居ない可能性もあるんだけどね・・・。
クモ系の魔物なら、ES+ランクの魔物がいるのを知ってるけど、更に上位種がいるかは判らないし、昆虫系の最強種があのGの可能性もあるんだけど・・・。
「だけど、これでもう二度と相対する事もないんですし、気を取り直しましょう」
「そうだな、こんな不幸はもう二度と起きないはず」
ザッシュに励まされて、ようやく気を持ち直す事が出来た。
気を抜くと目の当たりにしたその悍ましい姿を思い出してしまいそうになるけど、とりあえずは大丈夫だ。
「まあ、群れで現れる様な事がなかっただけマシだと思っておこう」
あんな悍ましいのは一匹でも無理なのに、もしもあれが複数匹いたらどうなるか・・・。
殲滅に時間がかかり、結果としてアレの攻撃を受ける様な最悪の事態にすらなり噛めなかった。
もしも、アレが目前にまで迫ってきたら・・・。
考えるだけで恐ろしい。今回はその姿を目撃すると共に瞬時に消し去ったから、数百キロの距離が離れていたから良かったけど・・・。
因みに、Gは素材も何も残さず完全に消し去った。
もし仮に何かしら素材が残っていたとしても、使う気全くない。
だってそうだろう?
Gの外殻からつくった鎧、Gアーマーなんて身に付けたいと思うか?
或いはその素材を鍛えた剣、Gソード?
手にするのも絶対にゴメンだ。もしもそんなものがこの世界にあったとしたら、その存在ごと俺が責任を持って全て抹消する。
レジェンドクラスの魔石が一つ消えてしまったけれども、俺としては自分の魔力を込める魔晶石として使うのも嫌だし、そもそも使い道がないから問題ない。
それと、消し去るついでに魔域にもかなりの被害を出してしまったけれども、それも問題ない。三百キロ四方くらいの範囲が完全に焦土と化したけれども、あんなGの魔域がどうなろうと関係ない。
むしろ、存在ごと抹消したいと言うか、魔域の地理そのものを完全に変えてしまって、無理やりにでも出現する魔物を変えてしまいたい。
「とりあえず、あの魔域にはもう二度と行かないぞ」
「オレもです」
俺の宣言にザッシュも激しく同意する。
やはり、元日本人として巨大なGは生理的に無理だよな。
いや、元日本人でなくてもアレは無理だろう。今ここには俺とザッシュしかいないのも、モニター越しとは言えアレの姿を直視してしまった女性陣が揃ってノック・アウトしてしまったからだ。
ミランダですらアレは無理だったらしく、ゴメン、チョット静かに休ませてと自室にこもってしまっている。
実はこの国ははじめてじゃなくて、全開来た時にもGの魔物に遭遇したんだけども・・・。
あの時はそれでも今回ほどの悍ましさはなかった。10メートル級のGが数十匹犇めいている光景は、まさしく阿鼻叫喚の地獄絵図だったのだけども、即座に存在を消去して無かった事にして終わらせたのを覚えている。
「そう言えば、元々はこの世界を自分がプレイしてたゲームの世界だと思っていた訳だけど、そのゲームにもGは出るのかよ?」
「出ません!! 出る訳ないでしょう」
だよな。もしもグラヒィックに拘ったゲームなんかでGが登場したりしたらそれこそ大顰蹙だ。クレームの嵐で潰れる事にすらなりかねない。
そんなバカな真似するゲー会社もないだろう。
そう言えば、十万年前の転生者にとってはこの世界は前世でプレイしていたVRMMOの世界そのままらしいけれども、そのゲームにもこのGの魔物は出たのかと問い詰めたい。
無理だけどね・・・。
「もうGはゴメンですよ」
それは俺も同じ思いだ。もう今後二度とGの魔物が現れる魔域には行かないつもりだ。
「同感だよ。要請があっても絶対に行かないからな」
「それくらいのワガママは許されますよね」
要請とは、そのまま魔物の大軍が現れるなどの非常事態に対してギルドから高位の冒険者に出される出撃要請の事。
基本的にはこれは受ける義務があるのだけども、俺の場合は既にレジェンドクラス。俺が出向かなければいけない程の緊急事態なんて、今回のケース以外では、魔域の活性化以外ではまずない。
つまるところ、要請を受けてもSクラスに任せるべきだと断れるのだ。
そんな訳で、今後この国には魔域の活性化が起こらない限りは、何があっても二度と来ない。
因みに、何時の間にかザッシュが俺に対して敬語になっているけど、師弟の関係では当然と、これも割と中二病臭い理由で自分から言い出してきた事で、修行を受けている内に俺の事が恐ろしくなってきたからではない。
俺としても、ザッシュは気易く話せるので最近は結構気に入っているし、ある意味で助かっている。
彼は決して頭は悪くないのだけども、何所か抜けていて隙の多い人物で、例の件のようにそれで大ポカをやらかしてしまう事もあるけれども、その辺のフォローさえしておけば付き合い易い人物だ。
同じ男同士、気兼ねなく話し合えるのも大きい。
正直、周りが全員女性だけなのも流石に気疲れしていたのだ。気が付けば魔針は全員女の子、もとい、女性だけ、別に狙った訳じゃないのに何時の間にかそうなっていた。・・・いや、メリアたちの時は、最初の弟子がむさくるしい男なのも嫌だなと、狙ったのも確かだけどね。
気が付けば周りは十人以上の女性陣。何かと合わせたり気を使ったりしないといけなくて、そもそも人付き合いの苦手な俺にはかなり大変だったのも確かだったりする。
それがザッシュが入った事であまり気にしなくて良い様になった。
その辺りの対応はザッシュがしてくれるようになったからだったりする。て言うか、まさか彼がこんなに女性の扱いが上手いとは夢にも思わなかった。
そんなきめ細やかな気配りが出来て、どうしてサナ相手にあんなバカな真似をしたり、彼女が同じ転生者だと気付かなかったりのミスを犯すかなとも思うけれども、その辺がやっぱり抜けている、隙の多い証拠なんだろう。
「本当に、Gはもう二度とゴメンなんだけど、一向に終わる気配がないから安心できないんだよな」
「いやでも、またアレが出て来るんてないでしょ?」
ザッシュはもう出てこないだろうと安心しているみたいだけども、俺はまだ安心しきれていない。
この世界はそんな生易しく出来ていない。明らかに悪戦苦闘してもがき苦しんでいるのを見て楽しんでいるだろと疑いたくなる様な意地の悪さをしている。
その上で、一向にこの異常事態が終わる気配がないから心配なのだ。
曰く、俺が自分の力を完全に使いこなせるなれば、自然に収まるらしいのだけども、それまではレジェンドクラスの魔物が次から次へと現れる今の状況がどうにかなる事はないらしい。
本気で何がどういう仕組みでそうなるのか甚だ疑問ではあるけれども、実際にそうなっているのだから文句を言っても仕方がない。
問題は、このまま何時まで経っても完全に力を使いこなせないようだと、ヒューマンの大陸に位置する全ての魔域から、レジェンドクラスの魔物が出現し終えてしまって、また、あのGの魔域に戻ってくる可能性がある事だ。
本気でそれだけは何としても避けたい。
「そう願いたいけど、油断できないのも確かだからな。その内、またあの魔域でれいの兆候が表れる可能性もあるし」
「いや、またあの魔域からレジェンドクラスの魔物が出て来たとしても、また、Gが出て来るとは限らないですよね・・・」
そこはあまり期待しない方が良い。
そもそも、あの魔域がGの魔域などと呼ばれるのには、それ相応の根拠があるのだ。
さっきも言ったけれども、俺たちも以前に数十匹の10メートル級のGの魔域を殲滅した事があるのだけども、あの魔域では以前、活性化が起きた訳でもないのに、数千のGの魔物が大軍を成して現れた事があるのだ。更に、活性化中には数億のGの大軍が進軍してきた事もあるという。
億。Gの魔物だけで億の単位。それは魔域全体を覆い尽くすかのような、まさに悪夢そのものの光景だったという。
その惨劇の後から、一部ではあの魔域がGの魔域と呼ばれてるのは公然の秘密だそうだ。
だからこそ、もしもあの魔域から再びレジェンドクラスの魔物が現れたとしたら、それは同じGの魔物である可能性が極めて高い。むしろ、確定と言っても良いだろう。
そんな事を説明してやると、
「Gの魔域・・・。異世界の脅威ですね」
ザッシュはまた顔を青くしてしまっている。あの500メートル級のGを思い出してしまったのか、それとも数億のGの大軍を想像してしまったのか、どちらにしてもトラウマ確定級なのは間違いない。
「後百年以上は魔域の活性化の心配も無いらしいから、あそこが活性化してGの大軍が現れる事もないはずなんだが、油断はできないからな」
「止めてください。想像しちゃったじゃないですか!! もうこの話題は止めましょう」
その魂の叫びは何よりも正しい。
俺も自分の精神の安定のためにも、これ以上この話を続けるのは止めた方が良いと本能のレベルで理解しているので、もうこれ以上続けるつもりは無い。
「まあ、今はそんな心配よりも、何時になったら力を完全に使いこなせる様になるかだよな」
「そうですよ。てっ、まだ完全に使いこなせてなかったんですか? オレはてっきり、もう完全に使いこなせてると思ってましたけど」
「使いこなせてたら、もうレジェンドクラスの魔物の出現も止まってるって、どういう原理か知らないけど、そういうモノらしいから」
使いこなせていないから、本来ならもう終わっても良い頃なのに、未だにレジェンドクラスの魔物が溢れ出す異常事態が終わっていない。
そう、俺がこれまでにレジェンドクラスへと至った先達の多くの様に、十数回程度の戦いで完全に使いこなせる様になっていさえすれば、あんなGと対するような悲劇が起きる事も無かったんだ。
全ては俺の不甲斐なさが生んだ惨劇。
いや、だからそれは今は忘れよう。
そうじゃなくて、一向に力を使いこなせる様にならない事だ。
このまま自己流で色々と試してみても使いこなせる様になる保証はない。そうなると、実際に使いこなせている人物に、ミミールに教えを乞うのが一番なんだけども、実はこの前、居っ声に使いこなせる様にならないのでどうしたらいいのか教えて欲しいと連絡したのだけども、
「それは自分で答を見付け出さないとダメよ。いくら時間がかかっても、自分一人で答を導き出さないと意味がないの」
とのありがたいお言葉と共に拒否されてしまった。
どうやらレジェンドクラス以降の力の近い方には決まった形、これが正解と言う型が無いらしく、一人一人、自分に合った本当の力の使い方を見付け出していくしかないらしい。
それはまた、厄介な事この上ないのだけど・・・。
つまりは、十万年前の転生者が残したチート知識も情報も、この件についてはどうにもならないらしい。
・・・実は、さり気なくどうにかならないモノかと頼りにしていたんだけども、無理らしい。
いや、今の所、俺が持っている情報じゃあ無理だったから、ザッシュとサナが仲間になった事だし、新しく遺跡を発掘して情報を得ようかとか考えていたんだけどね・・・。
流石に、今の状況じゃどれだけ時間がかかるか判らないカグヤへ行くなんて無理だし・・・。
まあ、今まで頼りっきりだった自覚はあるし、いい加減、自分でどうにかしろって事なんだろう。
ついでにカグヤ行きにつていもそろそろ考えても良い頃かも知れない。
ヒュペリオンを、カグヤに行ける宇宙戦艦を手に入れていながら今まで行かなかったのは、純粋に力不足だったからだ。
ネーゼリアの宇宙は地上よりもさらに危険で、レジェンドクラスの魔物がウヨウヨしているらしい。
そもそも何故、命の営みの無い宇宙にまで魔物が居るのか?
カグヤの力が最も強く効いているハズの宇宙がどうして、強大な魔物の巣くう魔境と化しているのか?
宇宙にそれ程の脅威が溢れているのなら、すぐにでも地上へと襲い来て、全てを薙ぎ払っていくはずなんじゃないか?
とまあ実の所、突っ込みどころ満載なのだけども、実際にカグヤで封印されてなお、宇宙は地上よりもはるかに危険な魔境らしい。
そんな訳で、力不足も甚だしいので今まで行かなかったのだけども、レジェンドクラスの力を得た今ならば行けるかも知れない。
もっとも、レジェンドクラスの魔物でも最上位のXYランクの魔物や、最悪、ジエンドクラスの魔物までいる可能性すらあるので、自殺行為になる可能性もまだ高いのだけど・・・。
そんな訳で、行くとしたら別の遺跡を発掘して、十万年前の転生者が使っていた専用機。グングニールとは比較にならない程に強力な装機竜人を手に入れてからか、もしくはジエンドクラスになってからだろう。
正直、レジェンドクラスの力でも持て余しているのに、ジエンドクラスになれるとはカケラね思わないけど、どちらにしてもまだ先の話だ。
今は少しでも早く、自分の力を自在に使いこなせる様にならないといけない。
まあ実の所、先の話だとか、成れるとはカケラも思わないとか言いながら、実は、ジエンドクラスになったら、その時にまた力の使い方を新たに覚え直さないといけないんじゃないかとか思っていたりするんだけど・・・。
確かに、レジェンドクラスになってこれまでの力の使い方を見直さないといけなくなった、だけど、真の力を得し者の、真の力がレジェンドクラスとは限らない。
実はジエンドクラスの可能性もある訳で・・・。
もし仮に、万が一にもジエンドクラスにまで成ったら、また同じような、それこそ比ではない阿鼻叫喚の地獄絵図が待っているんじゃないかと不安で仕方がない。
今からそんな事に怯えていても仕方がないっ判っているんだけどね。
それにしても・・・。
「強くなるほど、厄介事が増えるのは知っていたけど、まさかこんな事になるとは思わなかった」
誰に対して文句を言っても始まらないのは判っているけど、これは俺の偽りのない本音だ。
とりあえず、今は先の判らない事を考えている暇があったら、もう二度とGの出現を許さない様に、少しでも早く自分の力を使いこなせる様になるしかない。




