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どうにかレジェンドクラスの魔物二匹を倒す事が出来たんだけども、判ってはいたがその後も大変だった。
なにしろ俺が一人で倒したのだ。しかもグングニールを使っていないのだから、俺が既にレジェンドクラスの実力を持っているのがバレる事になる。
それはもう、本当に想像を絶するような大混乱と大騒ぎだった。
まさに阿鼻叫喚の地獄絵図と評しても良い。
まあ、当事者であっても俺は適当にその混乱と騒ぎを眺めてるだけで、特に何もしなかったが・・・。
「これから大変だろうけど、頑張ってね」
そんな事よりも、俺はミミールの相手をしないといけなかったので、構っている余裕がなかったとも言える。
ミミールは俺がアッシュ・ドラゴンとダーク・ヘビモスを倒したらすぐに駆け付けた。
なんで倒してからと思うかも知れないけれども、理由は決まっている。五百年ぶりのレジェンドクラスの魔物の肉を手に入れる為だ。
こればかりは、そもそもレジェンドクラスの魔物が現れないと手に入れようがないので、いくらミミールでもどうしようもなく。新たに出て来るのを今か今かと待ち侘びていたらしい。
それはどうなんだと思わなくもなかったが、曰く。
「こればかりは私たちにもどうする事も出来ないしね。そもそも、現れてくれないと手に入れようもないし」
との事。
確かにそれはそうだろう。レジェンドクラスの魔物が現れる非常事態が起きない限り、手に入れられないのは確かで、レア度と言うか希少性がとんでもなく高いのは確かだ。
そんな訳で、この日が来るのを待ちわびていたミミールは、合計20トンもの肉を買っていった。
そんなにいるのかと思ったけれども、流石に1人分じゃなくて、4人のレジェンドクラスで分けるらしい。要するに、欲しいのは全員同じなのだけども、流石に4人そろって押し掛ける訳にもいかないと、唯一会った事のあるミミールが代表で手に入れに来たらしい。
それでも1人あたり5トン。そんなに食べるのか・・・。食べるだろうな確実に・・・。
「それにしても、いきなりドラゴンとヘビモスとは運が良いよ。これは本当に美味しいからね」
「そうですか・・・」
何が運が良いものかと言い返したいが、レジェンドクラスの魔物の中でもドラゴン系とヘビモス系の魔物は特に美味しいらしい。
つまり、極上の獲物をゲットできるなんてラッキーと言う事らしい・・・。
確かに彼女の場合はそうだろうけど・・・。
いや、それよりも何か不穏なセリフがなかったか?
そう、確かいきなりとか・・・。
いきなりとは一体どういう事だ?
そもそも、いきなりも何も最悪の凶事はこれでもう無事に終わったハズだ。
「その顔は判ってないみたいだから説明しておくけど、レジェンドクラスの魔物が現れるのはこれで最後じゃないよ。これからしばらくは幾度となく現れて来るから」
はい?
イヤイヤ、ありえないだろうそんな大参事。非常事態とかそんなレベルで済む話じゃないよ。
いきなりの発言に大慌ての俺たちに、ミミールは平然と続ける。
「新しいレジェンドクラスが誕生した直後に、必ずレジェンドクラスの魔物が現れる時期を迎えるんだ。これは必ずで、その間に少なくても十数回は出現するね。過去には数百回に及んだこともあるらしいけど、今回はどうなるかな?」
チョット待って欲しい。あんなのが後最低でも十数回起こる?
流石に冗談であって欲しいのだけども、冗談ですよねと聞けば、冗談だと思うと真顔で返されてしまった。
つまりは本当にこれで終わりじゃなくて、むしろ始まのだと・・・。
いやだけど、別に俺一人がどうにかしないといけない訳じゃない。現れる先はユグドラシルやレイザラムなどの他の種族の統治する国にもなるだろうし、その場合は俺が出向く理由は無い。
うん。ヒューマンの暮らす大陸なんて、世界全体のごく一部なんだし、この後に俺が対応しなければいけないのも、精々が後数件だろう。
それでも十分過ぎる程に最悪だけど、他はミミールたちがどうにかしてくれるはずだ。
「それと、現れるのは新しくレジェンドクラスを輩出した種族の統治下に集中するから。私の時もそうだったし、千年前もそうだね」
あの時は本当に苦労したよと、自分がレジェンドクラスになった時の事を思い出して1人頷くミミール。
確かにそれは苦労しただろうけれども、俺にとってはそれどころじゃない。
あんな死線をこれから最低十数回は潜り抜けないといけない?
無理だ。今のままじゃ確実に途中で死ぬ。今回、何とか倒しきれたのだってほとんど奇跡に近い。
次からは先制で問答無用に攻撃を叩き込んで殲滅するつもりだから、今回よりは安全に、確実に戦えるはずだけども、それでも最低でも十数回もレジェンドクラスの魔物と戦って、無事に生き残れる気がまるでしない。
と言うか生き残れる可能性がゼロに近いと思うの危機の所為じゃないだろう。
「まあ、これもレジェンドクラスになった者が絶対に通る試練だから、生き残れる様に頑張る事だね。キミなら大丈夫だと思うし」
気楽にそう言うと、冒頭のこれから大変だと思うけど、頑張ってねと言い残してミミールはさっさと帰ってしまった。
後に残された俺たちは、これから先に待ち受ける試練の過酷さに呆然自失で、俺がレジェンドクラスになったのに騒ぎ立てる連中の相手をしている余裕がなかったと言うのが正しい。
だけど、何時までも呆然としている余裕はない。
次にレジェンドクラスの魔物が現れるのが何時かは判らないが、また出て来るのが確実なら、それまでに出来る限りの準備を整えておかないといけない。
具体的には、俺がもっと強くならないと話にならない・・・。
今回の戦いを経て実感した。俺は、レジェンドクラスになって増大した力を全く使いこなせていない。
圧倒的な力に振り回されているとでもいうべきだろうか・・・。
これまでの感覚で使おうとしてもまるで思い通りにいかない。感覚としてだけども、自分の力の10分の1も使いこなせていないだろうと思う。
もしもだけど、、俺が自分の力を使いこなせるようになれば、これから最低十数回は続く死闘にもある程度は余裕を持って臨めるはずだ。
そして、今更ながら、
「これから大変だろうけど、頑張ってね」
とミミールの言い残した本当の意味が判った。
つまりはこれも、かつてのミミールも通った道なのだろう。レジェンドクラスになった者はその圧倒的な力を使いこなす事が出来ずに振り回され、自分の力を全くコントロールできない現実にぶち当たる。
それを克服するために、一から自分の力を完全に使いこなせるように修行をしなおさないといけない訳だ。
確かに大変だ。大変で済むレベルなのか疑問な程に、これからの地獄が目に浮かぶ。
そう言えは、十万年前の転生者が残した記録の中に、理解不能な一文があったのを思い出す。
曰く、真の力を得し者、これまでの自分の在り方を捨て、真の自分を見出す事になる。
つまりは、レジェンドクラス以上になった者は、これまでのSクラスまでの自分の力の使い方や、戦闘スタイルがまるで意味をなさない現実に直面し、自分の本当に戦い方。力の使い方を見出していかないといけないと言う事だろう。
・・・正直。ミミールには初めから言っておいて欲しかったと思わなくもないけど、多分これは言葉でいくら説明されても理解できなかっただろう。
実際にレジェンドクラスの魔物を相手にして、自分の力を最大限使ってみなければ実感できない。
俺自身、これまでは違和感もなく力を使ってこれていた訳だし、Sクラスレベルの力を振るう分にはこれまでと同じで問題無い訳だ。
つまるところ、レジェンドクラスの力を使うには、これまでとは全く違うスタイルを確立しないといけないと判ったのは良いんだけども、じゃあ一体どうすればいいのかがまるで判らない。
とりあえず、今回の戦いで判ったのは力任せに魔力や闘気を扱うのでは絶対にコントロールできない事。
繊細に、圧倒的な力の奔流を完全に支配下に置いて僅かな狂いもなく使いこなす。そんな繊細で極限の集中力を必要とするコントロールが必要。
実際の所、これまでの俺は自分の魔力と闘気の総量にモノを言わせて、無理やり魔法を発動させるとか力付くの戦い方をしてきた面も確かにある。
そんな戦い方はこれからは一切通用しにないと突き付けられた感じだが、ここまでそれこそ全てが違うとは予想も出来なかった。
実際に戦いの中で実感するしか気付きようのない違い。
だからこそ、あえて彼女も何も言わなかったのだと判るのだけども、実際に死にかけたのもあってどうしても釈然としないものを感じてしまうのだ。
だけど、そんな文句を言っている余裕も暇もない。
今は少しでも自分の力を使いこなせるように感覚を掴んでいくしかない。
それに、実はもう一つ大きな問題がある。
それは魔晶石だ。
簡単な話、今の俺の魔力量に合った魔晶石がない。いや、これからアッシュ・ドラゴンとダーク・ヘビモスの魔石を使って二つはつくれるのだけど、今まで使っていた魔晶石がまったく意味をなさない現実にぶち当たった。
これはマリージアでの魔域の活性化の時にもぶち当たった問題だけども、今回はさらに深刻だ。
あの時は、Sクラスの魔石を手に入れる機会そのものがなくて、自分の、ES+ランクの魔力を込められる魔晶石をつくれずにいたのを、十万年前の転生者が残した裏技で、Aランクの魔物の魔石を複数組み合わせる事で、Sクラスの魔晶石をつくる事は出来たけれども、それでも、つくりだせるのは最高でSSSランクの魔晶石までで、俺の魔力量には全然足りなかったのだけども、なんとか数を揃える事で対応できていた。
その後、活性化中に手に入れたES+ランクの魔物の魔石を使って、俺の魔力量に見合った魔晶石をつくる事が出来て、それからは活性化が起きても魔晶石の不足に困る事はなかったんだけども、今回は本当に深刻な事態かも知れない。
流石に超絶ヒキョウな裏技でも、Sクラスの魔石からレジェンドクラスの魔晶石をつくる事は出来ないみたいで、実質これまで使っていた魔晶石は役立たずになってしまった。
あの時の戦いで魔晶石から魔力を回復して実感したのは、これまで使っていた魔晶石じゃあ全然魔力を回復できないと言う現実だ。
実際、マリージアでの時よりも魔晶石による回復量よりもさらに少ない。下手をすると、魔力を回復しきる前に魔晶石による回復限界を超えて、爆散してしまうのではないかを思ったほどだ。
まあ、魔晶石の問題はこれから、最低でも十数匹以上のレジェンドクラスの魔物と戦って、倒す事で魔石を手に入れられるから解決するのは確定なんだけども・・・。
何か、それも踏まえての事態な気もしてならないのはどうしてだろう?
と言っても、期間限定のレジェンドクラスの魔物大放出の大惨劇が終われば、実力に見合った魔晶石を十分に確保する必要性もなくなる気がするんだけど・・・。
とりあえず、今、俺のやるべきは少しでも自分の力を使いこなせるようにする事だ。
それが出来なければ確実に死ぬ。
後は、これから出て来るレジェンドクラスの魔物に、EXランク以上゛含まれるような最悪を通り越した事態にならない事を真剣に祈るだけだ。
ミミールなどは、
「出来れば格上のエイビス・ドラゴンとか出て来てくれないかしら」
なんて気楽に言ってくれていたけれども、辛うじてEXランクの魔物を倒せる事は出来たけれども、これから力の制御を身に付けて、完全に使いこなせるようになったとしても、VXランク以上の魔物なんて化け物が現れたら勝てる気がまるでしない。
因みに、話はまるで関係なく変わるけれども、これからもレジェンドクラスの魔物がいくらでも出て来ると判っているなら、そんなに買い込んでいく必要もないんじゃないかと、20トンも勝って行ったミミールに聞いてみたところ、
「確かに出て来るけど、今回みたいにオイシイ魔物とは限らないしね。手に入れられるときに確実に手に入れておかないと」
との答えが返ってきた。
まあ当然だけども、人形の魔物とか、レジェンドクラスの魔物でも食用にならない魔物もそれなりに居る。それらの魔物は、錬金術や魔工学の素材として最高の価値を持っているのだけども、彼女から言わせるとハズレらしい。
そんな訳で、レジェンドクラスの中では最下級のEXランクの魔物でも、極上の美味のドラゴンとヘビモスの素材が手に入ったのだから、これからもアタリが続くとは限らない以上、十分な確実に手に入れておくのは当然らしい。
ついでに、ドラゴンはシンプルにステーキ。ヘビモスは煮込んで食べると良いと料理法も教えてもらった。後、絶対にステーキならタルタルもいけと念を押された。
タルタルステーキは、ステーキとは言っても別のだと思うのだけど、これを食べないなんてありえないとの事。
まあ実際、彼女の態度からも、Sクラスの魔物の比ではない、最高や極上なんて言葉じゃあ言い表せない至上の美味が待っているのは確実なんだし、それを励みに、これからの地獄を頑張って乗り切ってみせますか。
そうしないと死ぬしかないのも確定だし・・・。




