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 ルビー・クラブにアイス・ロブスター。エビ・カニ三昧の食事は大満足だった。

 個人的にはそのまま生で食べるのも良いけど、ほんの少しだけ湯通しして食べるのも身が更に引き締まって良い。冷水で締めるのもありだけども、ほんの少しだけ火を通す事で味が更に引き立つ感じがする。

 上手いご飯を食べるとそれだけで幸せな気分になれるし、疲れも消えていく感じがする。


 そんな訳で食事に満足した所で、これからはゆっくりと趣味に没頭させてもらおう。

 実際、これはもう趣味だ。自分の専用機をああでもない、こうでもないと無意味なまでのこだわりを満載にして設計していくのは、ロボットマニアの醍醐味。

 造ろうと思えば、これまでにすでに完成品を造り終えているのも可能なのに、なんだかんだで拘りまくって、まだ設計段階の途中なのには自分でも少し呆れてしまうけど、だからこそ今回、設計を仕上げてしまいたいと思う。


「サブ動力に対消滅機関を搭載して、その余剰エネルギーをフィールドにした攻防システムを設定。変形機構の要素も取り入れた各関節部の駆動域設定を計算してと・・・」


 変形したり合体したりするロボットはロマンではあるのだけども、当然ながら、そのぶん設計は複雑になり、難しい機体構成を余儀なくされたりもする。

 ぶっちゃけ、変形機能を取り入れて造るだけで、通常の人形ロボットである装機人の五倍以上の複雑な機体設計が必要になる。

 これで、もし合体要素まで取り入れたりしたら、一体どれだけ複雑に設計をしなければならないのか、考えるだけで気が遠くなりそうだ。

 そんな訳もあって、今回造るのはあくまでも普通の装機竜人の範囲の機体だ。

 変形合体をするロボットなんて造ってられるか。それに、もし造ったとしても実用性が皆無で使い物にならない。


「まあ、こんな所かな」


 思っていたよりも早く設計を終える事が出来た。

 と言っても、基本設計はずっと続けて来た訳だし、むしろこれまで出来てなかったのが時間をかけ過ぎていたんだ。

 時間をかけて設計したにしては、性能自体ははイマイチと言って良い代物なんだけど、そればかりは仕方がない。それに、イマイチなのもグングニールを比較対象にしてだ。

 結局、完成した機体の性能はグングニールよりもかなり劣るものになる設計になってしまったけれども、こればかりはどうしようもない。そもそも、グングニールなもの機体を造るには素材が足りない。

 十万年前、グングニールを造っていた当時はレジェンドクラスの魔物がそれこそ次から次へと襲ってくる様な地獄絵図。その代わり、レジェンドクラスの魔物の素材もいくらでも手に入る。ある意味で魔工学者や錬金術師にとっては夢の様な世界だった。

 今はレジェンドクラスの魔物の素材なんて滅多に手に入らない。それこそ数百年に一度手に入るかどうかだ。

 そして、当然だけどグングニールにはそんな超絶貴重に素材がふんだんに使われている。だからこその破格の性能でもある訳だけど、逆に今その性能を完全に引き継いだ機体を造り出すのはほとんど不可能になってしまう。

 そんな訳で、性能的に劣るのは仕方がないとして、俺の趣味に合った機能を満載にした機体を設計した訳だけども、おかげで機体バランスなどの調整にひたすら時間がかかって、設計が終わるのにこんなに時間がかかってしまった。

 まあそれは良いとして、設計が終わったのだから、早速造ってしまっても良い。

 材料とは全て揃っているし、製造設備も全て整っている。この休暇を利用して一気に造り上げてしまう事も可能だ。

 ・・・まあ、何も起きなければだけど。


 でも、とりあえずはまず、他のみんなの様子を確認してからにするか。

 ここ数日は、前もって宣言しておいたとはいえ、本当に設計にかかりっきりになってしまった。

 先日、メリアたちが友人たちへの挨拶を終えて戻って来たのは知っているけど、他のみんながどんな風に休暇を過ごしているのかまるで判ってない。

 そんな訳で、まずはみんなの様子を確認して来よう。

 俺自身ここ数日は部屋に籠りっぱなしだったし、製造に入る前に少し海でくつろぐのも良いかも知れない。

 早速部屋を出でみんなを探すと、どうやらティータイムの様だ。みんなそれぞれ好きなお茶とお菓子の組み合わせを楽しんでいる。


「これは、ちょうどいい所に来たかな」


 そう言えばそんな時間かと思いながら声をかける。

 全員そろっているかと思ったのだけど、よく見ればザッシュが見当たらない。


「あら、こうして出て来たと言う事は、専用機の設計は終わったの?」

「まあようやくね。それで、これから一気に造ってしまうのも良いかと思ったけど、その前に一休みと思ってね」


 飲茶のセットを楽しんでいるミランダがようやく終わったのかと呆れたように聞いて来るので、頬をかきながら答えておく。

 彼女の方は、当然だけどグングニールのデータを持たにして新しく設計した専用機の開発まですでに終えている。だから、いくら初めて造ると言っても、設計段階でこんなに時間をかけている俺に呆れていたのだ。


「それで、結局どんな機体にしたの?」

「まあ、色々と突っ込みどころ満載なのは間違いないと思うよ」


 純粋に実用性うんぬんよりも趣味を優先した機体になっているのは間違いないから、ある意味で突っ込みどころ満載のネタに近い機体になっている感は否めない。


「まあ、そうなるだろうとは予測してたし、別に良いけどね」

「専用機ですか、私もいつかは造ってみたいものです」


 ミランダは俺が趣味に走るのも予想通りだったみたいだ。ひょっとしたら、彼女も初めて造った時は趣味に走ったのかも知れない。

 サナの方は、この前話した時には、装機竜人にはあまり興味を持っていなかったのだけども、実際にグングニールを動かしてみて、考えが変わったのだろうか? 

 まあ、実のところ彼女よりもザッシュの方が興味津々過ぎただけの気もするが、日本で中二病全開の年頃だったんだから、むしろ当然の反応だろう。

 実際にグングニールに初めて乗った時にはこちらが引くくらい興奮してたけど・・・。


「まあ、サナならあと半年くらいでSクラスに成るだろうから、今からある程度の設計プランを考えておいても良いと思うけど」


 て言うか、ザッシュの方は既に設計プランを練り始めている。

 魔工学や錬金術の基本知識もないズブの素人が造れる訳がないだろうと、ストップをかけて基本から勉強させているけれども、あの熱意なら思っていたよりも早く自分で専用機を造り上げるかも知れない。


「色々と面倒事が増えそうですし、出来ればそんなに早くSクラスにはなりたくないのですけど・・・」

「気持ちは判るけど、諦めた方が良いよ。どの道、アベルと一緒に居る限り避けては通れないんだし」


 ノインよ。その避けては通れないとは何を指しているのかな?

 Sクラスになる事か、それとも面倒事の方なのか非常に気になるんだが、それよりもキミは、何か随分と辛辣になってきてないか・・・。


「それより、ザッシュが居ないけどどうしたんだ?」


 言い返したいところだけど、反論の余地もない気がするので話を逸らす。


「ザッシュ様ならば、ここのところずっと泳いでいらっしゃいますよ。なにやら血が騒ぐとの事で」


 そう言えば前世じゃ水泳部で、全国大会にも出たとか言っていたな。

 今は前世とは比べ物にならないくらい早く、それに長く泳ぐ事が出来るだろうし、スイマーの魂に火が付いたのかな?

 ずっと泳ぎぱなしなのも凄いと思うけれども、実際はその辺りは、俺も人の事をとやかく言えない。ここ数日、装機竜人の設計にかかりっきりになっていた俺も同類の類だ。

 どうにも理解できないと言った様子のサナは冷たい緑茶に水ようかんの組み合わせで、しかも自身も浴衣姿。元々はドリルロールだったのを、俺たちと一緒に旅をするようになってから、魔法を使って無理矢理ストレートヘアに変えたのもあってか、浴衣姿も良く似合っている。


「楽しんでいるようならそれでいいか」


 それよりもどの組み合わせを楽しむかだ。飲茶にするか、ケーキに紅茶にするか・・・。

 うん。ここは俺も緑茶に和菓子にするかな。

 そう言えば随分と久しぶりな気がして、美味しそうに食べている姿を見ると我慢できなくなる。

 俺も冷たい緑茶。水出し玉露に水ようかん。それに水饅頭もあったのでそれもいただく事にする。


「うん。美味いな」


 なによりも落ち着くと言うか、安心する味だ。

 冷たいお茶は渋みと甘さがちょうどいい具合に調和していて、あんこの甘さと良く合っている。


「キミもその組み合わせなんだ。て言うかキミてヤッパリ鬼人の料理とか好きよね」

「それは否定しない」


 本気で否定のしようがない。

 実際、どうしようもなく和食や日本の味が欲しくなる時がある。

 転生前は、突然味噌汁が飲みたくなったり、肉じゃがなんかが食べたくなるなんて事はなかったんだけども、ネーゼリアに生まれてからは、時折どうしてもそう言った日本の味的なものが食べたくなってしまう事がある。しかも、聞いた所、ザッシュやサナも同じみたいで、本人たちも自分の変化に戸惑っていた。


「独特な味ですが、サッパリしていてとても美味しいですし。わたくしも大好きですわ」

「確かにね。なんというか一度はまると癖になると言うかって、そう言えばミランダも鬼人との間の交易ルート確保していたりして、この味が気に入ってるんじゃないか?」


 そう言えば、今まで聞かなかったけれども、関係が断絶している鬼人の国との交易ルートを確保していたのだから、ミランダもいわゆる和食系の味を気に入っていたのではないだろうか?


「当然よ。私も長い事生きてるしね。この歳になると素材の味を生かす料理とかが好きになるのよ」

「さようで」


 ミランダの場合は、純粋に和食系の味が気に入っているんだろう。

 俺なんかは日本風のカレーやラーメンなんかも食べたくなったりするので、その辺りは違う。

 この職に対する欲求辺りは、思いっきり前世を引きずっているのがまるだしなんだけども、こればっかりはどうする事も出来ない。

 それもこれも、実際に食べるととんでもなく美味いのが悪い。

 そう、本当に美味いのだ。

 前世に日本で食べていたものなんて比べ物にならない程に美味い。確かに、二十歳で死んだ居れば超一流の味を知っている訳じゃないけど、この世界の食べ物に比べたら、どんな一流の味も叶わないと確信できる程に美味い。


「まあ、最高の素材の味を存分に引き出してくれる料理法だと思うよな」


 その理由は明白で、この世界の食べ物の、正確には高位の魔物の美味さだ。

 肉も魚も信じられない程に美味いし。高位の魔物の素材からつくられた肥料を与えて造られた野菜なども想像を絶するくらいに美味い。

 特に鬼人は食に対するこだわりが強いのか、彼らの作る米や醤油、味噌なんかは破格の値段に見合う最高の味で、米十キロで一万リーゼ以上したりもするけれども、それ以上の価値のある味だと思う。

 キロ一万円以上もする米なんて前世では絶対買えなかったけど、今は金が有り余っていていくらでも使えるのも大きいかも知れないとは思う。

 てっ言うか、このままだと俺も、ミランダと同じようにお気に入りの店を金にモノを言わせて維持させたりとかするようになるかも知れない。

 なにか、もうそうなる未来が確定して目の前に広がっている気がする・・・。


「キミたちは若干気に入り過ぎの気もするけどね」

「わたくしは今までこういった文化に接する機会がありませんでしたから、とても新鮮で楽しいのです」


 ミランダは着物まで来て完全に楽しんでいるサナを見て呆れてみせるけれども、当の本人は平然としている。

 まあ、公爵令嬢として今までガチガチに決められた役割を果たしてきた彼女は、俺と違ってこれまで例えばおにぎりが食べたくなっても食べれなかっただろうし、今まで我慢してきた分の反動もあるんだろう。


「ようやく自由に出来るんですもの。思う存分楽しませていただきますわ」

「まあ、それで良いと思うよ。責務を果たす限り自由なのが冒険者だから」


 実際の所はなかなか自由とはいかないのが現実だけどねと心の中で付け加えるけど、サナの場合はこれまでとは比べ物にならないくらいに自由なのは確かだ。

 魔物の討伐を続けている限りは好きにしてくれて良い。

 どこからか面倒な話が舞い込んでくる可能性も十分にあるけれども、その辺りは俺の所でブロックしておけばいいだろう。

 ザッシュと一緒にそれくらいは守ってやって良い。

 別に同じ転生者だからではなくて、一緒に旅する仲間として、俺もそのくらいの駆け引きはこなせるくらいに各国との繋がりと言うか柵も出来ているし・・・。


「まあ、ウッカリしてると知らない内に柵が出来てたりするから気をつけた方が良いけどね」

「・・・実感がこもってますね。無駄な気もしますが気を付けます」


 うん。気を付けた方が良い。無駄だと思うけど。

 俺と一緒に居る時点で無駄なのが確定しているので、俺からはこれ以上は何も言えないし・・・。


 それにしても、別に何時もと何も変わらない日常と言えば日常なんだけども、きゅか中だと心なしかみんなも気が緩んで寛いでいる気がする。

 やっぱりたまには休むのも良いなと思うし、だからこそ、出来ればもう少し何も起きないで欲しいと思う。




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