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ノイン視点、二回目です。

 バカンスとは一体どんな事をすればいいものなのだろう?

 これからしばらくは自由に楽しんでいいと言われても、正直、何をすればいいのか判らない。

 確かにここのところ色々あって私も疲れてきているのは感じていた。だから、休みを取ってシッカリと体と心を休めるべきなのは判るのだけど、じゃあ、どうすればいいのかが判らない。


 アベルたちと出会うまでは、休みなんてそもそもなかった。

 一年中、一日中働かされていて、それが当たり前だった。

 今は休む時はシッカリと休んで、決して無理はしない・・・。しない・・・?

 それは良いのだけど、結局、私には休むとはどんなものなのかが良く判らない。

 体や心を休めるのが目的なのだから、トレーニングなどをして負荷をかけたのでは意味がないし、だらだらと寝て過ごせばいいのかも知れないけど、一日くらいならともかく、そんなに何日も寝て過ごすなんて出来ないし、ここに居る間、私は何をしていればいいのかが解らない。


 判らないなら、他の誰かに聞くなり、同じ様にしてみればいいのは判っているけど、イッョ所に居るメンバーで一番親しくしているメリアたちは、友人や知り合いに会ってくると出かけてしまっている。

 この国は彼女たちの故郷だそうだから、知り合いもいて当たり前だし、そんな再開の場にのこのこついて行くつもりも無いので、お留守番になる。

 アレッサは残ったみたいだけど、正直、彼女とはどう接していいのか判らないでいる。

 年が違い過ぎるとかそんな問題じゃあない。それを言ったらミランダなんてどうなる・・・。いや・・・何でもない。何でもないって言ったら、何でもない。

 ただ、なんとなく彼女と接していると漠然と母親を、見も知らないお母さんを思い浮かべてしまう。

 ちょうど彼女が私の母親くらいの都市だからとかは関係ない。彼女の優しい、包み込むような雰囲気がそう感じさせているんだと思う。

 思うのだけど、だからこそどう接していいのかが解らない。

 

 そんな私の想いは、本人には当然だけど伝えていないけど、メリアたちには秘密にして欲しいとお願いして相談している。

 結構、深刻な悩みのつもりなんだけど、話したらメリアたちは凄く生暖かい感じで私を見ていた。

 彼女たちとは歳も近いし、割と気楽に接する事が出来るんだけど、彼女たちの方は私の事を見守っているような雰囲気が少しある。

 理由は判っている。

 私は彼女たちと比べて極めて特殊な環境下で暮らしてきた。

 結果、私は人としてはかなり歪な形に出来上がっている。

 アベルたちと一緒になって、この一年で随分と変わったと自分でも思うけれども、それでもまだまだなのは判っている。アレッサの事もそう。

 判っていてもどうする事も出来ないから、メリアたちに相談したのに、彼女たちは自分の想いを大切にしたらいいよとそれだけ。

 それじゃあどうしたらいいのか判らないよ。

 と言っても、他に相談できる人なんていないし・・・。

 アベルは絶対に無理。彼も私と歳は近いはずなんだけど、彼は絶対に何かどころか何もかもが違う。

 ユリィやケイはお姫様だし、こういう相談ごとに向いてない気がする。シャクティたちも同じ。

 ミランダについては対象外。こんな相談を彼女にしたら、その瞬間に全てが終わってしまっていそう。

 後はアレッサ、だけど本人に相談してどうする?

 実の所、こういう相談事をするのに一番いい相手が彼女なのは判っているけど、だからと言って流石にアナタに母をかさねてしまってどう接していいのか判らないなんて相談する事なんて出来ない。


 本当にどうしたらいいのだろう・・・。てっ、悩みが何時の間に係わっている。

 これからしばらく、どう過ごすか悩んでいたハズなのに・・・。

 うん。アレッサの事は悩んでもどうにもならないと思うから、今は忘れよう。

 

 そうだ、久しぶりに時間が出来たんだし、私もニーナたちに連絡を入れてみるのも良いかも知れない。

 私にとって家族のような存在。彼女たちが居たから私は歪であっても人として奴隷としての生活を続けられてきた。

 だからこそ、彼女たちに負担をかけたくないと私は、アベルの下でもっと強くなりたいと思った。あれから一年がったて、少しずつだけど変わった今の私を見てもらいたい。

 今更の様にそんな思いに駆られてくる。

 そして、今まで私から彼女たちに連絡した事がなかったのにも今更気が付く。

 これまで、ニーナたちから連絡が何度も来ていたけれども、私はそれに応えるだけで、自分から連絡しようとしたことは一度も無かった。

 こういうところが、私の歪なところの証拠なのかも知れない。

 だけど、こうして気付く事が出来た。気付ければ自分で直していく事も出来る。

 そうすれば私も自分で変わっていく事が出来る。


 それよりもニーナたちへの連絡。

 今すぐにでも連絡したいけれども、大丈夫だろうか?

 この時間だと、彼女たちは魔物の討伐に出ている可能性もあるけど、毎日討伐している訳じゃないし、今日は休みかも知れない。

 うん。悩むだけ無駄だから連絡してみよう。出なかったらまた、夜になってからかけ直せばいいだけ。


「はい。ノイン? ノインよね? 貴方から連絡してきてくれるなんて、ひょっとして何かあったの?」


 そう思ってかけたら、ワンコールですぐにニーナが出た。


「別に変わった事は何もないよ。ただ、私たちは今、休暇中で、珍しく時間も出来たし、ニーナたちはどうしてるかなと思って連絡したの」

「そうなんだ。私たちも今日は、と言うかここのところは休みよ。ほら、貴方もてっ言うか、アベルさんが関わってるヒューマン至上主義者の一件。あれが片付くまでは大人しくしててくれってね。まあ、私たちも彼のクラウンの一員とみなされているし?」


 ああ、そう言えばニーナたちも戦女神の一員とみなされているんだっけ。

 戦女神。誰が言い出したのか知らないけど、アベルの率いるクラウンをそんな風に表するなんて、本当に命知らずだと思う。

 女の子にしか見えない自分の容姿を、実はアベルは人一倍気にしている。

 気にしてもどうにもならないと思うけど・・・。

 ハッキリ言って、この一年で彼は更に可愛らしくなった。それに信じられないくらいに綺麗になってる。

 もう同性の私たちがうらやましくて嫉妬しちゃうくらいに、絶世の美少女になっている。

 いったい彼は何処に向かおうとしているんだろうと本当に不思議に思う。

 本人がこの一年の自分の変化を、一番気にしているのは判っているから、本気で命が惜しいから絶対に聞かないけどね・・・。


「それ、クラウンの名前、戦女神は非公認だし、アベルはその名前凄く嫌がってるから、ニーナたちもクラウン名は否定しておいた方が良いよ。後で怖い事になりかねないから」

「そう。それはこれから気をつけないといけないわね・・・」


 私の忠告にニーナは若干声を震わせている。

 何を想像しているのか手に取るように判るけれども、それは多分正しいと思う。多分、想像した通りの事が間違いなく起きると思う。ひょっとしたらもっと酷い事になるかも知れないけど・・・。

 そう考えると、今からエクズシスに帰った時にどうなるか怖くなってくる。

 ニーナたちと直接会って、これまでの事とか色々と話したいのに、言ったらどうなるんだろうと正直に不安にもなってしまう。

 ・・・私たちの事とかもあったし、アベルの印象もあまり良くないかも知れないし・・・。

 私が心配する事じゃないと思うんだけど、どうしても不安になってしまう。


「うんそうしておいて、また今度、アベルと一緒に戻った時、そんなくだらない事で地獄を見るのはゴメンだから」

「ああうん、そうね。どんな事になるか想像するだけで怖いわ・・・」


 ニーナたちにはこれまでの事を色々と話してある。それに実際にアベルの下で修業をした経験もある。だからアベルとミランダ、この二人だけは絶対に怒らせてはいけないのを理解している。

 私たちと違って、本当の意味で実感しているとまでは行かないけど、そこまでの恐怖を味わう必要もないし、それで良いと思う。


「おいっ、ノインから連絡が来たって?」


 そんな風に考えていたらルークが姿を見せる。ルークだけじゃない。みんなも一緒だ。

 モニター越しにみんなが言い合っている姿が懐かしくて、自然に笑顔になっていく。そんな私の様子に、みんな驚いたようにして固まってしまう。そんな様子が更におかしくて、耐え切れずに声をあげて笑い出すと、ニーナが呆れた様に溜息を付く。


「本当に変わったわねノイン。そんなに自然に笑えるようになったなんて、アベルたちのお陰なんでしょうけど、正直少し悔しいわね」

「全くだ」


 ニーナは少し拗ねたような態度で、どうしてかみんなも一斉に同意する。

 私が自然に笑えるようになったのが悔しい?

 ううん。彼女たちはそんな風には絶対に思わない。それじゃあ何が悔しいんだろう?


「本当なら、私たちが貴方をそんな風に、自然に笑えるようにしたかったんだけど、アベルたちに取られちゃったわね」

「まあ、正直少し不安だったけど、あの怪物もキチンと人の心に寄り添えたんだな」


 その発言はどうかと思うけど、気持ちは判る。

 アベルにミランダ。あの二人は私たちとはあまりにもかけ離れ過ぎていて、もう一年以上も一緒に居るのにまだたまに不安になる。

 私は彼と、彼女と一緒に居て良いんだろうか?

 どうして、私はここに居るんだろうか?

 そんな不安と恐怖が心に過る。


「アベルとミランダは私たちとは違い過ぎる。どうしてもそう思っちゃうからね。でも、二人とも本当は私たちと変わらないよ」


 どうしても不安になって、みんなに、そして本人にまで確かるてしまった。

 結果、答えがこの言葉。

 正直、私自身が信じ切れていないけれども、確かにそうなんだろうとも思う。


「それに、そんな事を言ってると、私たちにもブーメランになるから」


 それに、私たち自身も、A+ランクの力を持ち、戦車部隊を単独で簡単に殲滅出来て、普通の人の何倍もの寿命を持つ私たちも、普通の人から見たら同じかもしれないのを忘れちゃいけない。

 そう、私たちがアベルやミランダさんに感じる不安や恐怖を、普通の人たちが、周りの一般の人たちが私たちに感じているかも知れないんだから。


「ああ、それは実はこの前、実感した・・・」


 そう苦笑するのはルイン。

 元々は商人のでだった彼は、十分な力を付けてこれから先、もう二度とあんな思いをする事もないと、冒険者を止めて何か商売でも始めようかと思ったそうだけど、ものの見事な失敗したそう。


「まあ、向こうからしたら止めない訳にはいかないのも判るけどね」


 二十代でA+ランクの実力者。しかもパイプも強力となれば、このままシッカリと国の防衛に尽くしてほしいのが当然で、いきなり冒険者を止めて商人になるなんて言われていも、はいそうですか、何て行くはずもないと、判っているつもりだっったけど、あそこまで必死に止められるとは思わなかったとの事。

 だけど、それはルインの認識不足。

 今のルインが突然、冒険者を止めるなんて言い出して騒ぎにならないはずがない。


「今のままで十分に稼げるのに、わざわざ失敗のリスクのある商売になんて手を出す必要もないだろうって呆れられたよ」

「確かに、今の私たちならこのまま冒険者を続けていても、死ぬリスクはほとんどないし、その意味でも周りからしたら止めてもらったら困るわよね」

「そうなんだけど、俺としては商人としてやりたい事があったんだけど・・・」

 

 何を言ってるんだと信じられない者を見る目で見られたとルイン。

 だけど、それは周りからしたら当然の反応。むしろ、私から見てもルインが何をしたいのか理解できない。


「それは二百年くらいして、冒険者を引退してからやればいい。今からやろうとするなんて、ルインの方がどうかしている」

「ノインもそう思うか、判ってたつもりなんだけどな、元々は無理矢理でも、冒険者の道を歩んだ時点で、普通の一般人と同じ道は進めないって」


 正確には私たちみたいに圧倒的な力を持った冒険者はだけど、それくらいの事は、アベルの修行を受ける決心をした時にとっくに覚悟していた。


「ルイン。認識と覚悟が甘い」

「そう言われると、返す言葉がないよ。ノインは辛辣だな」

「むしろ当然の反応でしょ」


 その覚悟で出来てなかったルインが悪いんだけど、自分たちが普通とは違うんだって改めて実感したとルインは苦笑する。

 結局、普通の人にとってはアベルも私たちも変わらない。自分たちとは違う圧倒的な力を持って、長い人生を好きに生きているだけにしか見えない。

 私たちの苦労や苦悩なんて判りもしない。

 だけど、それは私たちも同じ、普通に生きている人たちの苦労や苦悩を、私たちは理解できない。

 生きている場所が、環境が余りにも違い過ぎるから。

 それと同じ事が、私たちとアルやミランダの間にも言える。

 ううん。本当は違う。余りにも違い過ぎるからって、理解しようとしないでいるだけ・・・。


「アベルもミランダもそんな風に悩んだりとかしているんだよ。あの二人も本当は私たちと変わらないよ。だから判ろうとすれば判るよ」


 それこそ当たり前の答えに辿り着くのに、随分と時間がかかったと思う。

 今まで、当たり前の事をよく見もしないで、遠回りばかり続けて来た気がする。

 そして、こうやって答えに辿り着長けのもニーナたち、私の大切な家族のおかげ。


「そんな風に言い切れるなんて、ノインは本当に成長したね」

「ありがとう。これもニーナたちのおかげだよ。ありがとう。みんな大好きだよ」


 本当に、心の底からそう思う。

 これで私は、また一歩前進できる。

 そう思うと、本当に嬉しい気持ちが溢れてくる。



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