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ミランダ視点、二回目です。
特に波乱も無く、順当にザッシュがバトルロワイヤルを制してコロシアムの試合は全て終わり。ある意味でこれ以上ないくらいに面白い展開となったイカサマコロシアムの最後を迎えて、次はこの国の皇帝との対談。
向こうは皇帝に宰相、それに外務長官と内務長官による布陣で臨む積もりらしく、対して私たちは、全員でと言う訳にもいかない。
気が付けば十六人の大所帯。その内、アベルと私は当然として、ユリィたち五人の各種族の王族に、ある意味当事者のザッシュとお目付け役のサナ。計九人で臨む事にする。
メリアたちは悪いけれどお留守番。まあ、そろそろ慣れてきたにしても、彼女たちも進んで国のトップとの対談に何て参加したくないだろうし、ちょうど良いとも思うけどね。
「さてと、向こうはどう出るかな?」
それよりも、アベルが何かこれまでにないくらいにやる気なのがどうしようもなく気になる。
気持ちは判るんだけどね。お願いだから少し抑えて欲しいんだけど・・・。
正直、いくら私でも彼のストッパーはそろそろ荷が重くなってきている。
実質レジェンドクラスになったからだけでなくて、色々と慣れてきたのもあるんだろうけれども、本当に危険な事はしないけれども、大丈夫な範囲で無茶をするようになって来ているのが困る。
多分、間違いなく周りから見たら私も一緒になって無茶苦茶をしていると思われているだろうし、実際、それで間違いないのだけど、止めなきゃいけない時には止めてるのは確か。
まあ、今回はどうなってももう問題ない状況になってるし、アベルが何をやらかしても大丈夫だと思うけどね。
それに、こうしてある意味、感情を剥き出しにするのも、他人の心の機微に疎いどころか、むしろ興味も関心も無かったアベルが、他人に、仲間に気を許して、心を開くようになった証拠でもあるから、好ましい変化とも言えるしね。
「とりあえず、私たちを待たしている時点で論外ね」
だから、アベルがこの会談をどんな風に臨むか、むしろ楽しみでもあるのだけど、本当に、この国は何を考えているのだろう?
私たちとの話し合いをどう進めるかとか、色々と打ち合わせや事前協議をしておかないといけない問題も多いだろうけれども、それにしても、まず、私たちをこうして待たせている時点で論外にも程がある。
判っているのだろうか?
こちらにはヒューマンとして最高峰のSクラスが二人(実際には一人はレジェンドクラス)に、他種族の王族が五人もいる。つまり、私たちの方が、相手よりも格上に当たるという事。
格上の相手を待たせる不作法自体がそもそも論外。
既にありえない失態を犯しているのに気が付いていないのがアウト。
「申し訳ありません。どうかお気を悪くしないでください」
彼女が悪い訳ではないのに、サナがユリィたちに謝っているほどなのだけど、チャッカリとこの部屋の事を覗いてる暗部は皇帝たちには約報告した方が良いと思うけど?
このままじゃあ対談が始まる前に、すでに手遅れなくらい状況が悪化していると思うけど、いや、もう問答無用でこれ以上ないレベルまで悪化しているね。
正直、ここで私たちがこれ以上の屈辱を受ける謂れはないと席を立っても、何ら問題の無いレベルになってるしね。
「これも何か考えがあってワザとやっているのだとしたら、ここからどう巻き返すつもりなのか見てみたい気もするけれども、流石にそれはないだろうな」
うん。ここまでワザと状況を、自分たちの立場を悪くしてから、盛り返そうとしているのならば是非とも見てみたいと思うけれども、単に状況が見えてないだけで、そんな駆け引きなされているとは到底思えない。
て言うか、流石に私たちの世話役としてこの部屋にいる給仕たちの顔色が、そろそろ本気で可哀想なくらい悪くなっているんだけど・・・。
今にも心労とストレスで倒れそうな様子で、お茶のお代わりを進められても困るんだけどね。
「お待たせいたしました。皇帝陛下が参られました」
ようやく来たね。さてと、本来ならここで席を立って出迎える所なんだけども、ここまでの仕打ちを受けて礼を持って出迎えるのもどうかな?
流石にザッシュとサナの二人は立って礼を持って出迎えるみたいだけど、私たちはこのままでいいでしょう。
むしろ、それ以外の出迎え方がない。まずは、自分たちがどれだけの無礼を働いたのかを理解してもらわないといけないし、そもそも、私たちの方が上位者である事をしっかり理解してもらわないと、対談どころじゃなくなってしまう。
「待たせてすまなかった。コロシアムの運営をしていた者たちの聴取をせねばならなかったのでな」
とりあえず詫びてはいるけれども、全然ダメダメだね。
それと、入って来た瞬間、私たちが座ったままなのに顔をしかめて思いっきり不快そうにしていたのがバレバレだよ。
どうやら、私たちが礼節を持って出迎えなかったのが、皇帝である自分を敬う態度を取らないのがお気に召さないみたいだけど、敬うに値しない相手にはらう敬意なんて持ち合わせていないよ。
「ではまず、今回の件の経緯を聞きたいのだが?」
うんうん。アベルもいきなり挑発するね。敬語すら使わずに、ぞんざいに説明を促すだけ。
このアベルの態度に、皇帝や宰相、内務長官が目に見えていきり立って、こちらに詰め寄ろうとするのを外務長官がなだめている。流石に、外交を引き受ける立場にあるからか、自分たちの立場がどれだけ不味い事になってるか判っているらしい。
でも、一人だけ判っていてもどうしようもないよ?
肝心の皇帝がそれじゃあね・・・。
小さく耳打ちして、説明しているみたいだけども、どうも納得していないみたい。
そもそも、彼らの方が私たちよりも早く部屋に居て、シッカリと最高の礼儀を持って迎え入れないといけない立場なのに、逆に私たちを待たせた時点でアウトなのに、当の本人がその事に気付いていないなんてありえない。
まあ、皇帝やらなにやらは、面会する相手をワザと待たせて優位を示すとかの駆け引きも必要になるのは確かだけども、それも相手によりけりなのも常識の範囲。
現に私たちがこれまであって来た王族や皇族は全てが先に部屋で待っていた。
それが礼儀だから。
どれだけ火急の面会要請で、仕事や他の面会者が立て込んでいても、私たちとの面会、対談をすると決まったならばまず先に部屋に居て、出迎えるのが当然の礼儀。
それが出来ないようなら、国としての恥をさらすのと同じな事くらい、長年皇帝の座に居ながら知らなかったとでも?
まあとりあえず、この皇帝の退位は決定。宰相と内務長官の失脚も確定と。
本格的に対談が始まる前からこれじゃ、もう、これ以上続けても意味がない気もするけど、アベルはもう少し様子を見るつもりみたい。
「うむ。事前に知らせておった様に、我が国のコロシアムが至上主義者の資金源となっていての、その線から国内の至上主義者たちの特定を進め掃討する事としたのだが、コロシアムは我が国だけでなく、周辺諸国との繋がりも深い。その為、周辺諸国の至上主義者との関係も視野に入れなくてはならなくての」
「それで、元運営職員たちの聴取で、その辺りの確認も取れたのか?」
その作り話は判ってるから。話を先に進めなさいよ。
そう、ぶっちゃけ、今の話はまるまる作り話。そもそも、国の直営で成り立っていたコロシアムが勝手に他国との関係を深めるような真似をするハズがないし、出来るハズもない。
「うむ。どうやら至上主義者にとってコロシアムはあくまでも資金源の一つ、そこまで深い繋がりは持っておらなかったようでな、周辺諸国との繋がりは結局確認できなかった」
確認できなくて当然。始めから無かっただけでしょと突っ込みを入れたい。
この国は、ベルゼリアでの対策会議にも参加していなかった国の一つで、事態の深刻さが増す中でどんどん立場を悪くしているので、私たちを呼び込んで、一緒にヒューマン至上主義者の掃討作戦を実行したという事実をつくって、なんとか国際的な立場を保とうとした意図があるのだけど。
正直、見え見え過ぎてあえてくる必要もなかったのだけど、会議に出席していた隣国からの要請もあってワザワザ来た経緯があったりする。
要するに、周辺諸国が逆にこの国はコロシアムの利益を守るために至上主義者の掃討作戦に手を抜く可能性があると、私たちに監視を依頼して来たんだけど、知らぬはこの国ばかり。
周辺国からの信頼も地に落ちてるのにも気づいていないのだから、もう呆れるとかそんなレベルでも無くて、本気で国の存続について真剣に考えるべきレベル。
早ければ今日にも皇帝の座を追われる人には関係ないけど、普通にこの国が地図から消える日も近いかも知れない。
「ただ、かわりに運営の不正の証拠は呆れるほど見付かっての。我が国の象徴とも言えるコロシアムがあそこまで腐敗していたとは、嘆かわしい限りじゃ」
不正も何も、コロシアムの試合が出来レースやイカサマで成り立ってるのは周知の事実。むしろ一部では常識に類でしょうに、一部では、どんなシナリオを描いているか予想しながら試合を見るのが流行しているらしいし、アレはあくまでもエンターテイメントでしかないのだから。
至上主義者の掃討作戦の一環としてと言うのが、私たちをこの国に招くためのただの方便どころか、嘘だったのくらいは初めから解っているし、私たちも判った上で来ているんだから、それよりも、私たちに対する釈明。
ザッシュを公然と侮辱して、冤罪を仕立て上げようとして事について、コロシアムの運営の暴走で済ませられない事くらいは理解しているでしょ?
中継で幾つもの国に放送されているのだから、無かった事になんて出来るハズもない。
だからこそ、こうして私たちとしても出来ればしたくもない釈明と謝罪を聞くための対談の席を用意している訳だし、いい加減はやく本題に入りなさいよ。
既に廃嫡されている身だから、どんな風に紹介しても問題ないとかバカな事を運営が考えていたとかそんな言い訳は通用しないから。
ここで間違えると、本当に国際問題まで発展して、この国の立場が完全になくなるのを理解した上で、シッカリと説明する。
そして正式に謝罪して、全ての責任を皇帝自らが取ることを明言する。
そうなって泥を被ってようやく今回の一件を終わらせられる事は判っているハズなのに、どうしてその本題にはやく入ろうとしないのかな?
「それは嘆かわしい限りだな。それよりもザッシュの件についての説明を聞きたいのだが。運営の暴走では済ませられないのは理解しているハズ。ツバイトナッハにも経緯を報告しなければならないし、きちんと説明してもらわなければ困るのだが」
当然、コロシアムでの件はツバイトナッハ王国にもすぐに伝わる。そうなると、ザッシュを預かる私たちからも正確に事の経緯を説明する必要が出てくる訳で、これこれこう言う訳で、あのような暴挙へと至っり本当に申し訳ないと、説明と謝罪を正式にこの国が、皇帝がしたという証人になる必要があるのだけど・・・。
まさか、正式に謝罪しないでおいて、私たちに適当な理由をでっち上げて謝罪もしたしこれでもうお終いと、事態を終わらせてもらおうとか、都合の良い事を考えていたのするとか?
「その事については、本当に申し訳ないと思っておるが、あのような暴挙が行われたのも全て級コロシアムの運営スタッフの暴走、暴挙としか言えぬのだ。我が国に彼を陥れようなどという意図は一切なかったのだからな。混乱を望む至上主義者どもに踊らされた一部の愚か者の仕出かした事だ」
「つまりは、掃討作戦で壊滅させられた至上主義者による反撃、或いは壊滅を免れるために策略だったと」
まあ、想定通りの落としどころに持って行ったわよね。
都合の悪い事や、責任は全部至上主義者たちに押し付ける。
妥当な選択だけど、それでも皇帝が自ら謝罪して責任を取らないといけないのに変わりはないんだけど。
あ、外務大臣が一人だけ顔面蒼白で、今にも倒れそうになってる。
どうやら、この期に及んで自分たちの君主が責任すら取ろうとしないとは、夢にも思わなかったみたいね。
ご愁傷さまとしか言いようがないけど、もうこの国は終わりと思った方が良いと思う。
「その通りだ。故に、事前に防げなかったのは我らの落ち度なれど、今回の件はは我が国の与り知らぬ事。故に皇帝として正式に謝罪をする事は出来ん」
私人としてではない公人として、皇帝として正式に謝罪して責任を取る。その重さを思えば避けたいのも当然だけど、そんな事が可能かどうかくらいは理解しようよ。
「本当に皇帝として謝罪し、責任を取るつもりは無いと?」
「くどい。自らに何の落ち度もなく謝罪し、問題の責任を取るなどと軽々しく出来る程、皇帝の座は軽くはない」
あ、アベルの顔から表情が消えた。
うん。もう完全にアウトだね。
「了解した。それならば、俺が正式にこの件についての責任の所在を明確にしよう」
どうやら有無も言わさずに終われせてしまうのを決めたみたいだね。
この国のバカ皇帝たちは、唐突なアベルの態度に目を白黒させているけど、そんな余裕はないよ。
私たちは今回のヒューマン至上主義者の掃討作戦において、場合によっては国の中枢深くにまで根が蔓延っている可能性もある事から、緊急時には独自の判断で国の断罪も出来る立場にある。
言ってしまえば、ヒューマンの全ての国を裁く裁判官としての役割を担っていて、必要だと判断すれば皇帝であっても独断で断罪できる。
少し調べればすぐに判る事なのに、どうやらこのバカ皇帝は知らなかったみたい。
「ブラットブレイグ帝国、現皇室には統治能力がないと判断。国の統治権を剥奪。以降この国は周辺諸国による監察下に入り、新たな統治者の選出を行う事とする」
国のトップの差し替えくらい私たちの一存でパパッとできたりする。
「また、旧皇帝が在位中に犯した罪についても厳正な調査の上、全てを明らかとして償う事を命ずる」
この国がこれまでに裏で犯してきた罪や犯罪を全て公に公表して、その罪を償わせると・・・。
国を新しく造り替えるつもりならその方が確かに良いけれども、ずいぶん苛烈な事をする。
これは思っていたよりも怒っていたのかも知れない。
まあ、国そのものがなくならなかっただけ良かったと思って諦める事ね。
なにか、元皇帝だの宰相だの、内務長官だのが騒いでいるけど、すぐに外務長官や給仕たち、それに近衛兵に取り押さえられてるし、自分たちが既に今までの立場と地位を失っているのに気が付いたかな?
うん。まあくだらないとしか言いようのない展開だったけど、アベルが怒って最後は少しは楽しめたかな?




