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「バトルロワイヤルの開始の前に、観客の諸君には謝らなければならない事がある」


 さて、ようやくコロシアムの運営をどう処分するか決まったようだ。

 明らかに俺を見ながら、沈痛な面持ちで宣言する王の様子に、深い疲労と諦めが窺える。


「まず、先程の実況で示されたザッシュ選手の不正についてだが、事実無根である事が確認された。また、逆にコロシアムの運営によって彼に対して幾重にもの妨害工作が成されていた事が判明した」


 ふむ。ザッシュへの妨害は認めても、コロシアムの内容自体が全てイカサマだったことは隠すつもりか?

 虫が良い話ではあるが、流石にそれだけで済ますつもりは無いだろう。


「また、ザッシュ選手に対して、防御障壁の阻害魔法などの禁呪が使われていた事も判明した。これらの行為は全てコロシアムの運営によってなされた犯罪であり。我はこの国を統治する者として、コロシアムを監督する者として厳正に処分せねばならない」


 イカサマのコロシアムの総元締めが自分だと自白したのと同じだと思うんだが、どうするつもりやら。


「実際の所、防御障壁阻害の魔法は、コロシアムの試合の中で、選手同士が使うのであれば何の問題もない魔法なんだけどな」

 

 それとは別に、俺は防御障壁妨害の魔法の事が気になるんだが・・・。

 確かに使い方を誤れば大惨事を引き起こしかねない魔法だが、コロシアムでならば話は別だろう。


「確かにそうですね。試合の駆け引きの道具になりますし、実力が下の選手が格上の相手を倒す、ジャイアント・キリングも生まれてくるかも知れない」

「確かにそうだね。今回の使い方が悪かっただけで、コロシアムには合った魔法なんだね」

 

 ユリィとケイも俺の意見に賛同して、険しかった表情を和らげる。

 戦争に使うのを考えるからおかしくなるだけで、格上の相手でも防御障壁を突破できれば倒せる可能性もあるのだから、コロシアムの駆け引きの道具としては、これ以上ないファクターになるだろう。

 それと、この魔法はあくまでも防御障壁の阻害だ。つまり、無効化は出来ない。

 過去に完全に無効化する魔法の研究もされた事があるらしいが、流石に危険すぎると完全に抹消されて禁呪指定すらされなかったらしい。


「せっかくコロシアムの試合をおもしろくする最高の魔法を手に入れたのに、使い方を間違ったのが勿体なかったな」

「イカサマが習慣になってしまっていたから、せっかくのチャンスも気付けなかったんですね」


 アレッサの言う通り、せっかくイカサマ試合よりも充実した、おもしろい試合が出来るチャンスだったのに、これまでイカサマで稼いできたものだから、それに目が眩んで見逃してしまっていたのだ。


「時すでに遅しだけどね」


 それは確かにその通りだ。

 事ここまで至って、現運営の退陣だけで済ませられるかはかなり怪しい。コロシアム自体の封鎖。解散も当然あり得るし、むしろそちらの方が可能性は高い。


「よって、ブラットブレイグ帝国皇帝ゼルベルクの名のもとに、コロシアムの運営に係わる全ての者を此処に緊急逮捕する」


 宣言と共に完全武装の兵が現れて実況や信販などまで残らずひっ捕らえていく。

 しかし、運営が全員いなくなってしまったら、もうこれ以上の試合は出来なくなるけれども、バトルロワイヤルは中止か?


「その上で、これより我のもとで直々に御前試合として、バトルロワイヤルを開催する」


 と思ったら、どうやら皇帝自身が取り仕切るつもりらしい。


「この試合は、一切の不正なしの純粋な力と力のぶつかり合い。真に強い者のみが勝ち残る強者を決める純粋なぶつかりあいとなる」


 いや、それってごく当たり前の事だから、ここでワザワザ宣言する程の事じゃないからね。

 それに、流石にこれまでの試合はそうじゃなかったのかと気付く人も出て来るからね。せっかくイカサマについては誤魔化していたのに、ヤブヘビになっちゃうよ?

 まあどうでも良いけどね。とりあえず、ヒューマン至上主義者の掃討作戦も無事に終わったみたいだし、これから先は余興の様なものだ。

 ザッシュを出場させた目的も大体果たせているし、元々、この国に来たの事態、ほとんど気紛れに近かったんだから、余興に付き合うのも悪くはない。

 と言うか、あの王が解っているのか甚だ疑問だけども、純粋な力のぶつかり合いの試合じゃあ本気で余興にしかならない。


「ひょっとして、コロシアムのイカサマに触れなかったのは、本当の戦いの様子を見せたうえで、試合を盛り上げるためには多少の不正や見せる演出も必要だと強調する為か?」

「ああ、それもあるかもね」


 これから行われるバトルロワイヤルの結果はもう判り切っているから、考えてみるとそんな気がした。

 ザッシュが瞬殺して、間違いなく一瞬で終わるつまらない試合になるのは確定。ショービジネスとして成り立つようなものには絶対にならないだろう。


「まあ、それは終わってみれば判るか」


 既に試合場には選手が入場している。一辺100メートルのかなりの大きさの試合場に、ザッシュを含む20人の選手が並び立つ。

 この20人で戦い合い、最後に勝ち残った一人の勝利となる。ある意味で駆け引きも重要となる集団戦であり、一対十九の戦いでもある。


「普通に考えれば駆け引きや心理戦が見ものになるんだけど」

「やっぱり、一瞬で終わりますか?」


 俺やミランダは、瞬殺で確定としているけれども、他のみんなは違う展開も予測していたみたいで、アリアが不思議そうに問い掛けてくる。


「まあ、ザッシュとしてはここであえて、観客の為に派手なパフォーマンスをして見せる理由もないしな」


 もう少しその手の気配りを覚えても良いと思うが、ザッシュとしては今まで散々妨害を受けて戦って来たのだし、運営が逮捕されてイカサマもしないなんて宣言も信用できないだろう。ここは、万全を期して確実に勝利を取りに行くだろうから、派手な試合に成り得る要素がない。


「そうか、今まで散々妨害を受けて来たんだから、今更何もしないなんて言われても信用できないよね」

「大本は同じだし、結局トカゲの尻尾切りをしただけだと思うよね」


 まあそう言う事だな。

 コロシアムが今まで散々ケンカを売るような実況アナウンスだのをしてきたのも、国からの許可があってと考えるのが妥当だ。流石に一国の元王子を、あそこまで誹謗中傷するのは、コロシアムの運営の一存では不可能だ。

 少し考えれば国際問題になりかねないのは明らかだし、途中から国のトップもその最悪さに気が付いてかなり慌てていたようだけども、本気で俺にもケンカを売る実況をしてくれていた。

 今、この状況下で俺にケンカを売るのがどんな意味を持つか判らない程、この国のトップもバカじゃないだろうけれども、余りに過激に暴言は運営の暴走だとしても、許可を出したのは国だろう。

 その辺りの釈明も、この後どうして来る事やら・・・?


 と始まった。

 開始のゴングとともに一斉に動き出す。そして、予め決めてあったかのように、ザッシュ以外の十九人はその標的を、ザッシュに絞る。

 これは流石にやらせじゃないだろう。これまでの試合から、選手たちが自分たちよりもザッシュの実力が飛び抜けて高いのを実感した結果だ。

 十九人から一斉に、観客に見せるのを考慮に入れない全力の一撃が放たれる。だけど、それでもまだ足りない。ザッシュの防御障壁を破るには力不足だ。

 一瞬、眩い閃光が走った後には、十九人からの一斉攻撃を受けて無傷のザッシュの姿。

 そして、手を振るい反撃をすれば、十九人全員が尽く倒れ伏す。


「しょっ・・・勝者ザッシュ選手」


 余りにも呆気なく、何の盛り上がりも無く終わった試合に、観客からのどよめきが漏れる。

 その様子に、ザッシュももう少し派手に倒すなり何かしらの工夫をするべきだったかもしれないと思い至ったようだ。


「・・・・・・」


 判ってはいたつもりでも、ここまで呆気なくて盛り上がらないとは思わ無かったのか、無言で試合場を見詰めているメリアたち。


「つまらないね」


 判っていても、実際に見せ付けられると落胆してしまうのか、本気でつまらなそうにしているユリィたち。

 サナだけは、ザッシュの成長に満足そうな様子も見せているけれども、まあ、試合内容が想像通りのつまらなさだったのは確かだ。


「結局、圧倒的な強さを見せつけるだけじゃ、試合は盛り上がらない訳だ」


 エンターテイメントとして成り立たせるには、どうしても試合を演出する。見せる技や、魅せる試合展開が必要になってくる。

 こうなる事は判っていたけれども、ザッシュによってある程度の不正や演出も仕方がない部分があるのも証明された訳だ。


「流石に次の試合は、彼も少しは気をつけるでしょ」


 後は、次の試合でザッシュがどうするか次第かな?

 バトルロワイヤルも一試合で終わりじゃない。何試合か行われて、真の最強が決められる形だけれども、

はてさて、次以降はどうなる事やら。


 なんて言っている内に始まった第二試合。今度の試合はザッシュが、飛び抜けた実力者が居ないからか、探り合いと心理戦の駆け引きが目立つ試合展開になったけれども、正直、それはそれでつまらない。

 いや、観客はそれなりに楽しめていたりするようだけど、俺たちからすると駆け引きが見え見えの上に稚拙過ぎてつまらないというよりも、ほとんど見るに堪えない。


「判ってはいたつもりですが、ここまでつまらないモノなのですか」


 確かに、運営のシナリオや干渉がない選手同士の純粋なぶつかりあいは、真剣であるが故に見世物としてはつまらないかも知れない。

 本気でどうでも良い事を再発見している内に、ようやくまたザッシュの試合だ。


「今度はどうするでしょうか?」


 何か、サナがザッシュの母親の様になってる気もするが、突っ込むのは止めておいた方が良いだろう。

 試合場には、さっきと同じようにザッシュを含む二十人が既に揃っている。


「それでは、試合開始」


 宣言と共にゴングが鳴り。同時に一斉に動き出す。

 展開は、さっきの試合と同じだ。ザッシュ以外の十九人が揃ってザッシュに挑む。見せる事を考慮に入れない全力の、それぞれの最高の一撃を放つが、全てがザッシュの防御障壁に阻まれて傷一つ付けられない。

 ここまではさっきと同じ展開だ。さて、問題はこの後、ザッシュがどうするか?

 肝心のザッシュは、試合場全体を見渡し、対戦相手全員の位置を確認すると共に、一気に動き出す。

 一般人には完全に瞬間移動したとしか見えない速度で、相手選手の一人の背後に回り込むと、そこからはむしろゆっくりと、何をするのか良く判るように攻撃して行く。

 放つ一撃は、魔法の力を帯びた右腕によるストレート。相手に触れた瞬間に場外にまで吹き飛ばすその技は、むしろ見せる為の子芝居に近いだろう。

 同じように、全ての対戦相手を、圧倒的な速度で接近した後に、ワザと速さを落として倒していく。

 そうすると、当然途中で反撃して来る相手もいるけれども、それにも問題なく対処して尽く一撃で吹き飛ばしていく。

 戦い方としては、圧倒的な実力差を見せ付けるだけなのは変わらないけれども、パフォーマンスとしては十分だろう。

 ここでワザワザそこまで気を使う必要もないだろうに、シッカリと観客の期待に応える見応えのある試合を演出して見せるんだから、中々に人が良いというか、お人好しと言うべきか。

 とりあえず、これで運営の演出がなくても選手側のやりよう次第で、いくらでも面白い試合になるのもハッキリした事だし、この後のブラットブレイグの皇帝との話し合い。どうなるか見物だな。

 



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