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 さて、コロシアムの運営や大半の観客にとっては想定外の、大どんでん返しのザッシュの初戦が終わり、そのまま第二試合、第三試合と順調に勝ち残り、試合を重ねるごとに、当然だけど周りのザッシュを見る目は変わってくる。

 ツバイトナッハの愚王子。王族の使命も果たせぬ最弱の臆病者。そんなこれまでのイメージとまるで合わない、凛とした姿と堂々とした戦いぶり。

 元々、長身に均整の取れた体付き、アイドル顔負けの端正な顔立ちと、外見はこれでもかという程いいのだ。これで試合で相手を圧倒する力を見せつければ、当然ながら評価も鰻登りに上がっていく。


「流石に極端だと思わなくもないけど、おおよそ予想通りの展開だな」

「あのザッシュ様が黄色い声援を受けていらっしゃる。何か不思議な感じがします」


 想定通りの展開でも、昔からザッシュの事を知っているサナには、会場中から大声援を受けているのはどうしても奇妙な感覚になるようだ。

 まあ、気持ちは判らなくもない。それだけ今迄迷惑をかけられて来たのだろう。


「個人戦は次で終わり。後はバトルロワイヤルですね」

「とりあえず、個人戦の方は波乱も無く無事に終わりそうね」

 シャリアにエイシャよ、いや、他のみんなもだけど、もう少しくらいは褒めてやってもいいんじゃないかな?

 格下相手の勝って当たり前の戦いなのは確かだけどね。

 初戦を鑑賞して以降、次の試合からは確実に運営側の妨害工作が始まっているハズだ。毒を盛られるくらいは可愛い方で、試合でザッシュの力を上手く使えなくする魔法式の展開など、既にやりたい放題の、隠蔽する気もないだろと突っ込みたくなるレベルの妨害を受けながら、全て跳ね除けて勝利を収めているのだ。


「それにしてもこのコロシアム、随分とイカサマの仕掛けが揃っているのね。ここまで徹底してるとは流石に思わなかったわ」

「確かにな、その意味でもザッシュは良くやってるよ」


 ミランダですら呆れるほどの妨害の嵐を全て跳ね除けて勝利を収めているのだ。

 いくら相手が格下でも、実際にはそれほど容易い戦いではない。それこそ、自分の攻撃が跳ね返ってくる様な仕掛けすらあるのだから、慎重に戦わないとかなり危険だったりする。


「それにしても、ここまでの事をやって、コロシアムの運営は大丈夫なのですかね?」

「それは確かに、捨て鉢になっているんじゃないとしたら、ここまでハッキリしたイカサマの証拠が公になっても問題ないっていう事なんでしょうか?」


 アレッサは運営側の意図が不思議なようだ。

 確かに、ここまであからさまな妨害工作をやらかしているんだ、見る者が見ればすぐにでも気付く。今回の試合は周辺諸国にも放映されているし、イカサマが問題にならないと高を括るには厳しいはずなんだが?

 リリアも試合内容より、運営側の思惑の方が気になってきてしまっているようだけど、まだ試合は全部終わった訳じゃないんだし、ちゃんとザッシュのこと応援してやろうね。


 そうこういっている内に個人戦最終試合の始まりだ。

 当然ながらザッシュの相手はコロシアムのスター選手。

 これまでの試合、全てが不自然なまでに強豪選手が相手になっているのについては、もう何も言うまでもないだろう。

 この程度のイカサマはもう驚くにも値しない。


「そう来たかと言うべきか? 流石にバカらしくて呆れ果てるしかないというべきか・・・」


 しないのだけど、流石に選手紹介のアナウンスを聞くと、本気で俺を敵に回すつもりなのだろうかと頭痛がしてくる。


「自分たちが何をしてるか、もう判らなくなって来てるんじゃないかしら」

「そんな問題で済むレベルですか?」

 

 流石のミランダも、運営側がイカサマの数々をザッシュに被せて来るとは予測してなかったらしく、これまでザッシュにして来た妨害工作を、さもザッシュがやったかのように非難するアナウンスに呆れ果てている。

 それとメリアよ。当然だけどこれはもうそんなレベルで済む話じゃない。何故なら、俺と敵対宣言するのと同じだからだ。

 運営の一存だか何だか知らないが、これでこの国は俺の敵になったのは間違いない。

 その事に気付いたのだろう、一部の観客や、国のトップが観戦するビック・ルーム辺りが騒がしくなってきているけれども、時すでに遅い。


「アベル師匠。落ち着いて」


 知らず笑みを浮かべていたらしく、ノインが必死の様子でなだめてくる。どうやら彼女をして、このままじゃあ大惨事になると確信したらしい。

 そう言えば、試合場のザッシュも何時の間にかこちらを振り向いて、顔を引き攣らせている。


「心配しなくても、別に俺は何もしないさ、これでもうコロシアムの終わりは確定したようなものだし」

「まあ、キミを敵に回したくない国のトップは、問答無用でコロシアムの運営を切り捨てるでしょうね」


 つまりはそう言う事。何をトチ狂ったか知らないが、イカサマを全てザッシュに押し付けるような真似をすれば、少なくてもツバイトナッハを敵に回すのは確定。それに、今は俺の監視下に居るザッシュは自分から下手な真似を出来る立場ではないので、もしも仮に本当に、イカサマをするとしたら、それは俺の指示によってなされた事になる。つまり、この運営のバカ共は、俺が指示してイカサマをやらせたと言っているのだ。


「確かに、敵に回してはいけない相手を敵に回してしまったね」

「多分、ザッシュの快進撃が想定外過ぎて、テンパってしまっているんだろうけど、それにしてもヒドイ。哀れ」


 ユリィとケイが運営に哀悼の意を表しているみたいな感じになってる。

 とりあえず、ビック・ルームとか色々と騒がしくなっているけれども、選手紹介が終わればそのまま試合開始。ゴングが鳴り響くと同時に、これまた相手の選手が見せ掛けだけは派手な魔法で仕掛けてくる。

 ザッシュの方は慌てずに謀議障壁で防ぐけれども、どうも様子がおかしい。展開にムラがあるように見える。


「防御障壁の転移意を阻害する魔法陣ね。よくもあんなモノを用意したものだわ」


 完全に禁呪の類よとミランダが呆れてみせる。

 それはそうだろう、防御障壁は魔物との戦いにおいて、生死を分ける重要なファクター。それを妨害する実式なんてそれこそ対人戦用としてしか意味を持たない。魔物の防御障壁だけを指定して無効化するのは事実上不可能だからだ。研究されて実用化された実式の全てが、一定範囲内の防御障壁を全てを妨害する無差別型の魔法でしかない。つまり、範囲内に居る人の防御障壁にまで干渉してしまう、使い様の無い魔法なのだ。 

 こんな魔法式なんて、それこそ魔物との戦いには全く使い様がないし、後は対人戦において防御障壁を無効化して一気に大火力を叩き込む、先手必勝の先制攻撃でくらいしか使い様がないけれども、そもそも、戦争がないこの世界では使い様の無い魔法でもある。


「この魔法式も、ヒューマン至上主義者から手に入れたのでしょうか?」

「そうとしか考えられないと思うよ。戦争をするつもりでもない限り、使い様の無い魔法だから」


 ヒルデの言葉にシャクティが頷く。この魔法陣には、単にイカサマで済まない底知れない狂気が感じられる。


「本気で戦争をするつもりで準備を続けて来た訳ね・・・」


 それはクリスの言う通り、ヒューマン至上主義者が本気で他種族との全面戦争を目的として準備を続けてきた証拠でもある。 

 実際、この魔法はある意味で勝敗を決するの一手に成り得るだろう。初戦で、一気に敵軍を殲滅する事も可能になるからだ。

 現実に戦争になった時、この魔法の存在を知らずに通常通り防御障壁で攻撃を防ごうとすれば、当然だけど甚大な被害を受ける事になる。下手をすれば全軍壊滅もあり得る。

 つまりは、戦争を始めると同時に一気に大勢を決してしまうつもりで、この魔法を集めていたのだ。

 ここまで来ると、狂気すら超えた妄執が感じられる。

 何が彼らを、いや、キールをそこまで駆り立てるのだろうか?

 

「これも全てキールの妄執のなせる業か・・・」


 ヒューマン至上主義者は結局は全てキールに操られた、哀れな囚われ人に過ぎない。

 自分たちの意思で行動している気でいても、結局はキールの洗脳に支配されているに過ぎない。

 だからこそ、キールの妄執が空恐ろしくすらある。彼は本当にこの世界を亡ぼしてしまいたいのだろうか?


「自分の思うどおりにならない世界なんて滅んでしまえば良い・・・」

「そんな身勝手な人間がどうしてそれ程の力を得られたのか不思議で仕方がないよ」


 二万年前に実際にキールの暴挙と相対したのはエルフとドワーフ。ユグドラシルとレイザラムだ。仮にもし今回、再び戦果が開かれる事になっていたとしたら、同じく彼女たちの母国が戦う事になっていただろう。だからこそ、その狂気にユリィとケイの表情は厳しくなる。

 当然だろう、もしも防御障壁阻害の魔法が実戦で使われる事になれば、どれだけの被害が出る事になるか、少し考えれば判ってしまう。

 そして、全てが終わった後にはヒューマンによる統一国家など成り立つハズもなく、戦争の代償として全ての人類が滅亡の危機に晒されるる危険性すらも高い。

 むしろ、それがキールの目的だろう。自分が馳せなかったヒューマンによる世界征服が目的ではなく、それを目的として戦争を仕掛ける愚か者の暴挙の結果としての世界の混乱と破滅。

 はじめから解っていた事ではあるけれども、こうもあからさまに見せ付けられると気が滅入る。

 なにせ、キールは地球からの転生者、それも間違いなく元日本人なのだ。こんな奴と一緒かと思うと本気で嫌になる。

 チラリと見ると、サナも同じ思いの要で頭を抱えて唸っている。

 ザッシュの方は、どうやら防御障壁阻害魔法の出所についてまで考える余裕は無いようだ。当然だろう。一体どれだけのハンデを背負って戦わされているか、攻撃を受けるのすらままならない上に、下手に攻撃すると自分の攻撃が跳ね返ってくる可能性すらあるのだ。迂闊に手は出せない。

 これまでになく苦戦を強いられるザッシュの様子に、実況も過熱し、イカサマで手が出せないザッシュに相手は一気に距離を詰めて勝負を終わらせに来る。

 だけどこれは好機だ。ゼロ距離では攻撃を跳ね返す魔法陣は使えない。

 遠距離から弄るように攻撃を仕掛けられるだけではザッシュには厳しかったが、距離を詰めて派手に仕留めるつもりで来るのならば、逆にいくらでも対抗できる。

 問題はザッシュがそれに気付いているかだが、問題無いようだ。

 重心を低くして迎え撃つ構え、相手の攻撃に合わせたカウンターで終わらせるつもりだ。

 相手は右腕に魔力を集中。閃光と爆音を響かせた、見た目だけなら一撃必殺のストレートで仕留めに来る。それに対してザッシュは同じく右腕に似た魔法を展開して、相手を挑発してみせる。

 上手い。正面から受けて立つという目に見えた挑発に、相手は激高して視界が明らかに狭くなっている。

 ザッシュは相手の攻撃をあえて防御障壁で受けてから、カウンターの攻撃を繰り出す。

 相手も攻撃をしている途中では、攻撃を跳ね返す魔法は使えない。ザッシュの一撃は攻撃に意識が集中して無防備な腹に見事に入る。


「グハアッッッッ!!!」


 声にならない悲鳴と共に試合場の外まで吹き飛ぶ。

 うん。イカサマの連続でかなり頭にきていても、ちゃんと死なない様に手加減はしているな。


「しょ・・・勝者、ザッシュ選手・・・」


 絞り出すような勝利宣言が響く。

 さて、これで個人戦は終わり。後はコロシアムのメインとなるバトルロワイヤルを残すまでとなったけど、そちらが始まるまで運営の命運は持つかな?

 俺はこの後に起こるだろう粛清劇に、どうなる事やらと思いを馳せた。

 ・・・満足できない内容だったら、俺が直接動かないといけないしな。



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