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「実際に見てみるとこうもつまらないモノなのか、正直、何で人気があるのか判らないんだが」

「そこは本当に謎よ。まあ、ショーとしての出来はそれなりだと思うから、楽しいと思う人がいてもおかしくはないんじゃない?」


 そうなんだろうか?

 目の前で繰り広げられている試合という名のアクション劇の本質を知っているからか、俺には本気で何が面白いのかまるで判らないんだがな。

 どうしてこんなモノが、年間数千億リーゼ以上の収益をもたらす、一大エンターテイメントになっているのか謎で仕方がない。


「一応は楽しんでいらっしゃる方もおられるのですし、そこは問題ないのではありませんか?」


 そう言いながらも、サナの方もカケラも楽しめていないのは明らかだ。

 三流以下のショボい魔法と演出で成り立っているアクション劇は、俺たちの目には突っ込みどころ満載で、実戦をそもそも知らないのがまる判りの矛盾だらけの展開ばかりだ。


「確かにここまでヒドイと、残しても意味がないと思うけどな」

「同感」

「どうして今まで続いてこれたのかが、逆に不思議で、調べてみたい気すらしてくるけどね」


 どうやら、全員がこのコロシアムにご不満の様だ。

 

「こうして見ているだけで、時間の無駄にしか思えません」


 中でもノインが一番辛辣だけど、彼女がここまでストレートに不満を言うのも珍しい。それ程、さっきからの試合がつまらないのだろうけど。

 うん。俺も本気でつまらん。

 一応。これも掃討作戦の一環だと判ってはいるんだけど、こうして俺たちが試合を見ている裏で行われている作戦の方をチャッカリ観察したりている方が面白そうだ。

 実際に派手な捕り物やなにかが裏で展開している、なんて事はないのは判ってるんだけどね。それでもこのくだらない見世物よりはマシだと思う。


「まあ、もうすぐザッシュの出番だ。そうなれば、少しはオモシロくなるさ」


 問題は、アイツがどう戦うかだけどな。

 因みに、運営側から事前打ち合わせの申し込みは来なかった。

 どうやら、いくら俺のもとで叩き直しているといっても、愚王子が二週間と少し程度で戦えるようになるとは夢にも思っていないらしい。

 要するに、適当に叩きのめしてやればいいと思っているみたいだ。

 それでも一様、相手はコロシアムでもトップの実力者を用意したみたいだが、トップと言ってもD-の端にかかる程度の実力でしかない。

 余程の大ボケをかまさない限り、ザッシュの圧勝は確定だ。


「そうですね。何か仕出かしてしまわないと良いのですが」

「それは大丈夫だと思うよ、ここでポカをやらかしたりしたら、後でどうなるか身を持って教え込んでおいたからな」


 それこそ本当に心の底から後悔する余裕すらない事になると教え込んでおいた。俺がそう言うと、何故かみんなザッシュを憐れむ様に顔を伏せる。

 そんなにおかしなことを言ったつもりは無いんだが、何だろう、この反応は?


「まあ、少なくても一対一で後れを取るような事はないさ」

「そうね。問題があるとすれば、最後のバトルロワイヤルかしら」


 ミランダの言う通り、何か問題があるとしたら、複数人が入り混じって戦うバトルロワイヤルだろう。

 

「一日で何試合以上掛け持ちするのは大変な気もしますが」

「実戦と比べればはるかに生温いでしょ。この程度も切り抜けられないようじゃ、これから先やっていけないよ」


 当然ながら、ザッシュは一回戦って終わりではない。これから結構連続して戦い抜く事になるのだけど、それもあくまで勝ち抜ければの話。

 勿論、コロシアムの試合程度に勝ち抜けないなんてありえないのだけど、勝ち抜いて行けば、当然ながら運営側の工作が始まるだろう。

 毒を盛るくらいの妨害は普通にやって来るだろうから、それに対してキチンと対抗できるかどうかが問題だ。


「因みに、当然だけどザッシュの賭けの倍率は凄い事になってたよ。嫌がらせの意味も含めて、ザッシュの完勝に賭けてきて置いたけど」

「私も同じく」

 

 ユリィにケイ、お二人ともなかなか厳しい。

 いくら賭けて来たのか知らないけど、ひょっととするのコロシアムの運営を破綻させるつもりかな?


「まあ、そちらの方は程々にな」

「アベルは賭けていないのか? 私たちは全員賭けているが?」

「この退屈を紛らわせるためには、これくらいしないと」

「このコロシアムがどうなったとしても、私たちには関係ないしね」


 シャクティ、ヒルデ、クリスの三人もか・・・。

 これは本当にこのコロシアム終わったかも知れない。て言うか、全員てメリアたちやミランダまで賭けているのか?

 みんなを見るとどうやらそうみたいだ。

 

「賭け事ははじめてですが、必ず当たると判っていて賭けるのは、イカサマかもしれませんね」


 サナが一転とても楽しそうなんだが。

 今回のはイカサマか?

 いや、そもそもこのコロシアムでの賭け自体が初めからイカサマだろ。正面からイカサマを叩き壊しているだけだからセーフ?


「その辺りは気にしなくていいでしょ。どのみち、コロシアムを存続させたいてのは、向こうの勝手な都合でしかないんだし。私たちは好きに楽しめばいいのよ」


 与えられた役割はキチンと果たしているんだし、どうなろうが文句をつけられる筋合いはないと非常に楽しそうなミランダさん・・・。

 どうも、この国が気に入らなくて叩き潰す気が満々に思えるのは気のせいですか?


「そうだな、気にしなくても良いと思うよ」


 具体的には、俺も何をするつもりなのかとか深く気にしない事にしました。

 本気で何かやらかそうとするミランダを止めるのは俺には不可能です。少なくても国を亡ぼすような真似はしないと思うので、死人が出ない事を祈りながらスルーの方向で。

 それにしても、ここまでミランダの逆鱗に触れるとは、一体この国は何をやらかしたんだ?

 敵に回してはいけない相手なのは、誰もが知るこの世界の絶対の常識だろうに・・・。


「と、そろそろザッシュの出番ですね」


 そんな事を話している内に、ザッシュの番が来たようだ。コロシアムの試合場にザッシュが入場してくる。

 それにしても、黙っていれば本当に男前なのに、どうして中身はあんなに残念なのだろう?

 180センチを超える長身にアイドル顔負けの端正に顔立ち、黙っていれば誰もが羨む美男子なのに、中身は愚王子と称されるほどの残念具合。転生チートを全てが意見につぎ込んだ結果とかそんな事はないと思うが、やはり、末期の中二病を患う恐ろしさなのだろうか?

 今は、中二病もようやく関知して、いや、まだ完治はしてないかも知れないけど、とりあえずは収まって、大分マシになってきているけど、残念ながら、まだ年相応とは言えないレベルだ。

 精神年齢は前世を合わせれば俺と同じアラサーどころか、アラフォーのハズなんだけどな。


「それにしても、選手紹介が散々こけ落とすモノになってますけど、ツバイトナッハにケンカを売っているんでしょうか?」

「ただの煽りのつもりなんだろ。ザッシュは既に王籍から抹消されて追放された身だから、どんなにコケにしても問題ないと思ってるんだろ」


 実際はそんな訳ないのくらい、少し考えれば判ると思うんだかな。

 本当にこのコロシアムの運営は、目先の利益にしか興味がないらしい。結果、身の破滅が待ち受けているのも判らないのだから、どうしようもない。


「当たらの方が、ザッシュ様の対戦相手ですか」


 一方。思いっきり称賛の渦の中にいるのが対戦相手。このコロシアムのスター選手。

 一応はD-の実力を持っているし、所謂見せる戦いは確かに上手いので、人気があるのも当然かも知れないけれども、見ただけで相手としては不足だと判る。


「本当に負ける要素がないですね」

「むしろ、これで負ける方が奇跡ですね」

「そうなると、逆に負けるのを見たくなるね」


 それはどうかと思うぞアリア。

 確かにここまで負ける要素がない状況から、逆に負けるさまを見てみたいとも思わなくもないけれども、実際に負けてしまったりしたらそれこそお話にならない。

 負けるハズがないと確信しているからの冗談なのも判っているけどね。


「それでは試合、はじめ!!」


 ようやく試合が始まったようだ。

 始まりのゴングが鳴ると同時に、相手は見た目だけは派手な攻撃をザッシュに浴びせる。

 眩い閃光を放つ二十を超す魔弾。成程、アクション劇の見せ技としては良く出来ていると思うが、威力の程はタカが知れている。それこそ、一発につきアサルト・ライフルの銃弾程度の威力しかないだろう。

 当然だけど、そんな豆鉄砲は効くはずがない。ザッシュの展開した防御障壁に尽く弾かれて、消滅する。


「なっっっっ!!!!」


 一撃必殺を狙っていたのか、それとも、威力を抑えた攻撃で派手に吹き飛ばす展開を狙っていたのか、どちらにしろ、完全に想定外の展開に、対戦相手と実況の驚愕の声が重なる。

 ついでに、完全に棒立ちになって無防備な相手に、ザッシュがお返しに魔弾を一発放つ。

 様子見のつもりなのか、相手の攻撃とさほど変わらない威力の魔弾は、しかし、桁違いのスピードで相手に直撃する。

 ふむ。威力ではなくスピードを上げて来たか。

 どうやらちゃんと防御障壁を展開していなかったらしく、反撃の直撃を受けて吹き飛ぶのを見ながら満足げに頷く。

 魔弾の方も、バスケットボールくらいの大きさにしてあったので、相手を貫通するような事にはなってない。様子見の一撃で終わりになってしまったが、キチンと戦えている。

 内容的には満足していいだろう。


「それにしても、いい加減ザッシュの勝利宣言をしたらどうなんだ?」


 相手は場外にまで吹き飛んで、起き上がる気配すらないのに、審判も実況も想定外の事態に完全に機能停止して、固まったままでいる。

 流石に何時まで経っても勝利宣言も無ければ、試合再開の様子も見せないままなのに痺れを切らした観客が騒ぎ出し。決着がついてから三分近く経ってようやく、ザッシュの勝利宣言がされた。


 それにしても舐められたものだ。

 ザッシュが愚王子だったのは二週間以上前の話。今は俺の正式な弟子だ。

 俺のもとで二週間以上もみっちり鍛え上げられていながら、あの程度の雑魚にすら勝てないとでも本気で思ったのかね?

 そんな訳がないだろうに、コロシアムの選手をやっているようなザコが相手なら、例え一人で全員を相手にしても勝てるだけの実力をキッチリ身に付けさせている。

 当然だろう。ヒューマン至上主義者どもと繋がっておきながら、今回の掃討作戦の対象外としてのうのうと生き延びようとしている運営の諸君?

 ついでに俺間で金儲けに利用しようとして無事に済むと本気で思っていた訳じゃないだろう?

 これでコロシアムのシナリオは完全に崩れた。

 ザッシュを、想定外の異物を招き入れたのは自分たちなのだから、自分たちで何とかする事だな。

 そうしないと、シナリオだけじゃなくて、今まで築き上げて来たコロシアムの全てが崩壊する事になりかねないぞ。

 俺は、順調に進む掃討作戦とは裏腹に、想定外の事態に慌てふためく運用の様子をこっそり確認しながら、これからの展開を考えて頷いた。



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