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ザッシュ視点です。

「・・・いっそ一思いに殺してくれ」

「何を言っているのやら、人間、本当に辛かったら自分から命を絶つものだ。そうして減らず口を叩けるくらいなら何の問題もないよ」


 日本でイジメ問題に取り組んでいた人たちが効いたら大激怒するだろう発言で、俺の弱音はアッサリと切って捨てられた。

 だけど、実際に俺も死ぬほど辛いけれども、辛すぎて耐えられずに死を選ぼうとはまだ思わない。

 要するに、確かに俺にはまだ余裕があるのだろう。

 本当に死ぬ一歩手前。いっそ死んでないのが不思議で仕方がない有様だけど・・・。

 本当に地獄を見ているが、これが俺の自業自得なのくらいは判っている。

 子供の頃からキチンと訓練をしていれば、こんな基礎トレーニングで死にそうになる事はなかった。全部サボっていた俺の責任だ。

 その事を本当に痛感したのは、地獄の特訓が始まって一週間が過ぎた後、サナたちの訓練風景を目撃した後だ。

 実際の所、俺が一週間死ぬ思いで続けて来たのが単なる基礎の基礎、本格的な修行の前のウォーミングアップ程度のものだと聞かされても、すぐには信じられなかった。当然だろう。こんな過酷特訓がタダの準備運動にしかすぎないなんて誰が信じられる?

 だけど、実際にサナたちは俺がほとんど一日がかりでこなす量を簡単に済ませて、さらに激しいトレーニングに移って行った。

 その姿を見た時、これが戦車大隊を容易く屠るAクラスの実力の源化と心の底から戦慄した。


 そう、この世界の超一流と呼ばれるA・Bクラス以上の実力者の力は、本当に俺が思っていたよりもはるかに高い。想像を絶するとか、論理的にあり得ないレベルと言っても良い。

 その事実に、俺はもっと早くに気が付いているべきだったんだ。

 なのに、俺はこの世界の事をまるで理解しようとしなかった。その理由は・・・。ここが前世で俺がプレイしていたゲームの世界だと思い込んでいたから。

 ブレイブ・ストリーム。それが俺が前世にやっていたゲームの名で、ゲームの舞台となる世界の名前がネーゼリアで、ツバイトナッハ王国も登場していた。だから、俺は自分が転生したこの世界がそのゲームの世界だと思い込んでいた。

 だけど同じ地球からの、それも日本からの転生者のアベルとサナの二人と話して、それがまったくの見当違いなのが分かった。

 それどころか、もっと驚く事が解った。


「それにしても、王籍から抜け出して冒険者として世界を旅するつもりなのに、キミがこれまでシッカリと訓練を積んで実力をつけていなかったのが謎なんだけど? 今のキミの実力じゃ、冒険者として活動し始めると同時に死んでもおかしくないけど」

「確かに、貴方の行いはどれもこれも理解不能でしたが、今のあなたの実力で冒険者として世界を旅しようなどと自殺行為以外の何物でもありませんよ?」


 例の婚約破棄騒動の後、、王宮の一室でアベルとサナが転生者だと知った後、二人に本気で不思議そうに聞かれて、俺の方が戸惑った。


「自殺行為って、ここはブレイブ・ストリームの世界だろ? それなら俺の今の実力で十分だろ」

「ブレイブ・ストリーム? なんだそれは?」

「何って、MMORPGのブレイブ・ストリームだよ。プレイヤー総数一億越えのメガヒットタイトルを知らないのかよ?」

 

 世界中で一億を超えるプレイヤーを誇る社会現象にもなったタイトルだ。ゲーマーでなくても名前くらいは聞いた事があるはずで、知らない方がおかしいのだけど、二人は本当に知らないみたいだ。

 剣と魔法の世界を舞台にしていながら、実際には剣や魔法はオマケに近くて、魔法技術から発展した魔工学によって生み出された、現代の兵器よりも強力な兵器の数々を駆使して強力な魔物と戦っていくスタイルで、特に装機人や装機竜、装機竜人などの巨大ロボットを駆使して挑む大型レイド戦は圧巻で、その様子は公開されて、ゲームユーザ以外にも高い評価を受けていた。

 小学生の頃、兄に進められて始めたゲームだけど、十四歳の時、中二の夏に事故に遭って死ぬまでどっぷりハマって、ヘビーユーザーの一人として、俺も何度か大規模レイドに参加した事があった。

 そんなヘビーユーザーとしてゲームを楽しんでいた俺だからこそ、死んだ後にそのゲームの中に転生したとしてもおかしくはないと思えたし、実際に世界観は正しくゲームの中と同じだった。それなのに。


「ブレイブ・ストリームと言うゲームは知らないが、残念だけどこの世界はそのゲームの世界じゃない。ここはインフィニット・フリーダム・ストリームの世界だよ。十万年前の転生者曰くだけど」


 インフィニット・フリーダム・ストリーム? そんなゲームを俺は知らない。

 それに十万年前の転生者曰く? 一体どういう事なのかまるで分らないのだけど・・・。


「この世界には俺たち以外にもこれまでに何人も、地球からの転生者が生まれているんだよ。その中で、記録として確認できる最古の転生者が十万年前の、世界を救った、カグヤを生み出した転生者たちだ。その超絶チート転生者たち曰く、この世界、ネーゼリアは彼らが地球でプレイしていたVRMMOインフィニット・フリーダム・ストリームに酷似した世界だそうだよ」


 別のゲームの世界? VRMMOインフィニット・フリーダム・ストリーム?

 そんな名前のゲーなんて聞いた事がない、それに、VRMMOが本格的に配信されたなんて話は聞いた事がないぞ。

 確か、VRの技術は2020年より以前から研究されてはいたものの、視覚と聴覚以外の五感を再現する所謂フルドライブ型の完成には至らず、しかも、可能になったとしても、サーバーの容量が通常のMMOの一万倍を超えるだろう事が確定な事から、実用化は今の所ほぼ不可能とされていたハズだけど?

 

「ああそれは同じ日本でも、別の世界の日本か、或いは未来の話だからだよ」


 俺がそう尋ねると更に爆弾発言が来た。

 別の世界の日本?

 さもなければ未来?

 何を言っているのか全然わからない。サナの方もそれは同じみたいで、いきなりの話に珍しく目を白黒させている。

 何時もシッカリとした彼女がそんな様子を見せるのははじめてで、今更ながら、やや幼い意印象すら感じられて可愛いと思う。

 いや、そうじゃなくて・・・。


「因みに、俺は西暦2040年の日本から転生したけど、ブレイブ・ストリームなんてMMORPGも、インヒィニット・フリーダム・ストリームなんてVRMMOも知らない」

「私は2025年に、18歳の時に死んでこちらに転生しましたが、お二人の仰るゲームの名前も聞いた覚えがありません」


 2040年に2025年?

 結構離れているな、そうじゃなくて俺が死んだのは・・・。


「俺は2038年に、中学生の時に死んでこっちに来た」


 一大コンテンツのブレイブ・ストリームが、ほんの二年で終わるとも思えないし、もし、二年の間に下火になったとしても、2040年から転生して来たのなら、アベルの日本での年齢がよっぽど低かったりしない限り、ブレイブ・ストリームを知らないはずがない。

 そうすると、本当に別の世界の日本から転生して来たとか?


「ああ、俺は二十歳の時に死んでこっちに来た。それと、十万年前の転生者たちは、大体2050年位から転生して来たらしいよ」


 同じ世界から来たのなら、二十歳のアベルの前世がブレイブ・ストリームを知らないのはおかしい。

 と言うか、2050年から、俺たちよりもかなり後から転生したはずなのに、十万年も前に生まれていた奴らがいるのかよ・・・。

 どういう基準で転生するタイミングが決められてるんだ?

 と言うか、サナの場合は2025年で単にブレイブ・ストリームの配信前だから、知らなくても当然だけど、アベルの場合は本気で並行世界の別の日本の可能性もあるのか? ついでに十万年前の転生者とやらもそうか?


「そして、彼らが転生前にプレイしていたゲームがインヒィニット・フリーダム・ストリーム。IFSで、この世界はそのゲームの設定に酷似しているそうだ」


 強力な、それこそ常軌を逸したレベルの魔物に対抗するために、地球よりもはるかに高い軍事技術による防衛体制が取られているが、個人でそれを遥かに上回る力を有する人外の実力を有する、例えばアベルのような怪物の存在が、魔物の侵攻から世界を守る要になっている世界。

 ぶっちゃけ、ある意味で実力主義の権化に等しい社会体制で、パワードスーツも装機竜人も相応の実力がなければ動かすことも出来ない。

 どこまでも個人の実力がものをいう世界。

 それがIFSの設定であり、この世界の現実だと・・・。


 確かに、それなら今の俺なんてほとんど無力に等しい。

 レールガンの直撃を受けてダメージなしの化け物クラスの魔物が闊歩する中で、パワードスーツも装機竜人も使えないんじゃ、どうやって戦えと?

 ぶっちゃけ、まずはパワードスーツで暴れ回って、後で本命の装機竜人でと考えていた俺のプランは、そもそも初めから成り立っていなかったらしい。

 そう言えば、前にパワードスーツを使おうとして止められたことがあったけど、王子の身で危険な事をするなと止められたんじゃなくて、俺の実力じゃ動かせないからやめろと止められたのか・・・。

 戦場に出るならパワードスーツ着用が前提と考えていた俺は、止められたのもあって下手に戦場に出るなと制止されていると勘違いして今迄前線に行った事も無かったんだけど・・・。

 これも勘違い確定か・・・。

 動かせもしないパワードスーツで戦場に出ても死ぬだけだと止められていただけと、で、それを勘違いして今迄戦いに身を置こうともしなかった。


「はは・・・、確かに今の俺じゃすぐに死んでお終いだな。少しでも周りの話を聞いていれば、気付けたはずなのに・・・」


 ブレイブ・ストリームの世界だと勘違いして思い込んでいたとはいえ、俺に少しでも周りの話を聞いたり違和感を観察したりしていれば、すぐにでも違うと気付けたはずだ。

 現に、こうしてアベルたちの話を聞けばもうこの世界はブレイブ・ストリームの世界じゃないと認めざるえない。

 言い訳させてもらえるなら、完全に中二病を拗らせて周りが見えなくなっていたのだ。


「一体何をどうやったら、今まで気付かなかったのかが謎なんだけど、とりあえず、そんな訳で今のキミじゃ冒険者になってもすぐに死ぬのは確定だから、まずは強くなるための修行をしてもらうよ。その辺りもキミの父上たちから頼まれてるし」



 とまあ、そんなやり取りがあって、俺は王位権を失って自由になった身を存分に楽しむ為にも、アベルのもとで修業をして強くなる事を決めたのだけど・・・。


「て言うか、このままじゃ確実に過労死する・・・」

「ああ、それは大丈夫。万が一にも過労で死んでもすぐに生き返らせるから」


 どこまでも続く地獄のメニューに既に心が折れている。

 それも、本当に死んでもその場で生き返らせて、更に修行を続けさせられる万全の体制なのだからシャレにならない。

 なにより、過労死すら前提の修行メニューてのはどうなんだ?


「あんたが蘇生魔法も使えるのは判ったけど、死ぬのも前提にした修行はどうかと思うぞ・・・」

「別に前提にしてる訳じゃないけどね。むしろ、この程度で死んじゃう様じゃこれから先について行けないぞ」


 平然と宣われては返す言葉もない。

 それにアベルの修行法は、彼が考えたんじゃなくて、十万年前の転生者たちが、ゲームの中でのレベリング法を基に編み出して残した物だそうだ。

 これがホントにゲーム基準のパワーアップ法かと、全力で突っ込みたくなる厳しさだけども、実際に信じられない速さで強くなっているのも事実で、文句も付けられない。

 だけど、こんな過酷に修行法の果てに、ジエンドクラスなんて想像を絶する次元の強さにまで上り詰めた十万年前の転生者たちには、正直、狂気を感じる。

 どうしてそこまでの強さを求めるのか?

 いや、アベルの話だと、十万年より前のこの世界は今とは比べ物にならないほど危険だったらしいけど、レジェンドクラス以上の、殲滅戦略級兵器の直撃でも傷一つ付けられない。直径千キロのクレーターをつくる。爆心地から半径五百キロの範囲の全てを消し飛ばす。核兵器なんて比較にならない強力とかそんなレベルのじゃ無い兵器でも手も足も出ないような魔物が、そこらじゅうをうようよしていたと言われても、完全に理解の範囲外で想像も付かない。


「まあ、最低一年は俺のもとで鍛えるのは確定だから、今から根をあげてたんじゃ持たないぞ」


 そんな事言われても一年ももつ気がしない。

 だけど、今は耐えてやる。計画とは違う形になったけれども、ようやく王籍から抜け出して自由を手に入れたんだ。

 これから先。自由気ままに異世界ライフを楽しむ為にも、今はアベルのもとで死ぬ思いをしても強くならないといけないのは判っている。

 だからこれから、俺の楽しい異世界ライフのためにも今は我慢するんだ。

 アベルもサナも、利用できるだけして、これから先、自由に生きて行くたるの下準備を、足場づくりをしないといけない。

 それに、アベルが持ってる十万年前の転生者の情報も気になる。

 このヒュペリオンも、グングニールも十万年前の転生者たちが残した物だと言う。

 だとしたら、他にも残されている遺産がこの世界に隠されているんじゃないか?

 それにを探し出し、見付け出すのも面白い。これから先、俺が異世界ライフを存分に楽しむ為に、せいぜい利用させてもらおう。

 何と言っても、俺のネーゼリアでの冒険は始まったばかりなのだから。



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