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 活動報告にも書きましたが、一番最初に登場人物紹介を上げました。

「さて、ここなら他の誰かに聞かれる心配も無い。まずは同じ転生者同士。色々と話をしようか」


 あの後、騒動の集結すると何事もなかったかのようにパーティーは進められ、そのまま無事終了した。

 そこで、俺は王宮の一室を借りて二人と話す場所を設けてもらったのだ。話を聞かれる心配をするのなら、ヒュペリオンの俺の部屋で話すのが一番なのだけども、この後、話が終わったらそのまま王たちに報告もしなければいけないし、まだ正式に処分も決まっていないザッシュを連れ出す訳にもいかないので、王経の一室を借りる形で話す場所をつくってもらった。

 登頂の心配は、遮音結界を張るので全くないし、腹を割って話す事にしよう。


「話って何を・・・」

「まさか、名高いアベル・ユーリア・レイベストまでも転生者だったとは思いませんでした」


 戸惑ったままのザッシュを遮って、サルディナが俺を見据えてくる。

 無能と呼ばれるザッシュと違い、彼女は才女として知られている。

 ザッシュよりも年下の十八歳だけど、既にAランクの実力を持っている。その上、社交界でも完璧な対応を見せていて、ツバイトナッハの新しき薔薇と呼ばれているそうだ。転生チートの分を差し引いても、ここまでの実力と名声を得るために、彼女がこれまでひたすら努力を続けて来たのは間違いない。


「それは俺も同じたよ。サルディナ嬢。ザッシュ元王子が転生者だろう事は判っていたけど、まさかキミまでとは思いもしなかった」


 本気でこれは予想外だった。

 彼女の事はあのバカの事を調べる過程で、ある程度調べていたのに、転生者だと一切気付けなかった。


「私は、彼と違って自分が転生者だとばれるような行動はしないように気をつけていましたから。それは貴方も同じでしょう? アベル様」


 アベル様か、なんともくすぐったい感じだな。

 別に様付で呼ばれ慣れていない訳でもないが、同じ転生者が相手だとどうも気になってしまう。


「俺は転生したこの世界を存分に楽しむ事を目的にしているから、一々気にしていないけどな。キミと違って、すぐ傍に転生者だと判る相手もいなかったし」


 彼女が転生者だと気付かれないように行動していたのは、間違いなくこのバカが原因だ。

 要するに、バカ王子に同じ転生者だとばれたら、面倒どころではすまない厄介事に巻き込まれると警戒していたのだろう。そして、その判断は正しいと思う。


「そうですか、確かなアベル様はご自由に生きられておりますものね。羨ましい限りですわ」

「その反応だと、やっぱり貴族のお嬢様としての生活は窮屈かな?」

 

 完璧なお嬢様に見えるけれども、前世の記憶があるならば、前世もお嬢様育ちでもない限り、貴族社会は相当堅苦しいものだろう。


「正直に申しまして、前世の記憶があるものですから、中々貴族令嬢の習慣に馴染めなくて、苦労したものですわ。それでも、公爵家に生まれた責務は理解しておりますから、しっかり果たさせていただいております」

「成程。早く役目を果たして自由になってしまおうと」

「そうですわ」

「何を言っているんだ? と言うか、どうして俺が同じ転生者だと気付いていたなら、教えなかったんだよ?」


 いきなりサルディナ嬢との会話に入って来るけれども、会話の内容を全く理解できていないのがまる判りのザッシュ。

 どうやら、素で頭が悪いのは確定のようだ。


「教えなくて当然だろう。自分の評価を考えてモノを言っているのか?」

「貴方に知られたら、せっかく順調に自由に向かっている私の計画がどうなるか判らないではないですか。そんな危険な真似をするとお思いですか?」


 俺も、多分サルディナ嬢も、愚王子と呼ばれたザッシュの行いが演技だった事は気付いている。

 だけどそれもほんの少し前に気が付いた事だ。正直言って、素で頭が悪いのもあってだろうけれども、バカで救い様のない愚王子の演技をしているなんて、欠片も思わなかった。


「どうやら、堅苦しい王族の楔から解放されるために、ワザと愚王子の演技をしていたみたいだけど、縁起でも周りからもう駄目だと見放される様なバカをしているような奴に、迂闊に秘密を漏らすとでも?」

「わたくしはこの堅苦しい貴族社会から早く抜け出して、自由に生きる為これまでに努力して来たのです。その努力の全てが無駄になってしまうかも知れないような、危険は冒せませんわ」

「なんだよ。サルディナの目的も俺と同じじゃないか。それならどうして、俺と協力して・・・」


 協力なんか出来る訳がないだろうが。本当に、コイツは状況の把握できないバカだな。

 て言うか、転生して二十年以上も経つクセに、まだこの世界の状況を把握していないのか?

 王族として生まれた自分の立場も理解してないみたいだし・・・。


「本当に何も理解して無いようだな。愚王子は演技でも、バカなのは事実の様だ」


 何かザッシュは絶句しているけれども、それしか言いようがあるまい。サルディナ嬢も同意してるし。


「なんだとっ!! ふざけるな。バカにするな」

「そもそもキミ、この世界についてちゃんと理解してないだろ。理解してたらバカのふりして廃嫡を狙うなんて真似はしないからな」

「わたくしとザッシュ様は目的は同じでも、それに至る手段が全く違います。その理由を考えましたか?」


 本気でバカとしか言いようがないのだけども、なんでこんなに怒るかね?

 俺たちが呆れてるのに気付こうよ。


「そもそも窮屈な王族、それも義務と政務で雁字搦めでまるで自由の無い王になるのが嫌だからと、無能でバカのふりをして廃嫡を狙うのが間違っている。現実を知っていればそんな選択なんて絶対にしないはずだし」

「そもそもザッシュ様は、廃嫡された後に本当に自由にできるとお思いだったのですか?」

「なに・・・?」


 どうやら本気で判ってなかったらしい。廃嫡された元王子が、好き勝手自由に世界中を旅して周るなんて本当に出来ると思っていたのだろうか?


「まさか本当に判らないのですか? 貴方は過去に廃嫡された王族がどんな結末を迎えたかも知らずに、あんなマネをしていたのですか?」


 どうやら本当に判っていなかったようだ。ここまでバカだと呆れて脱力してしまう。 

 脱力兵器としては優秀かも知れないなんてくだらない事を考えてしまう。

 まあ、このままじゃ話が進まないから説明する。

 

 このバカは何を考えて安易に廃嫡なんて選んだのか知らないが、当然ながら廃嫡された王族に自由などあるはずもない。 

 普通はそのまま一生を幽閉されるか、監視付きで防衛都市へと送られ、死ぬまで最前線で戦い続ける事になるか、或いはそのまま病死や事故死に見せかけて殺されるかのどれかだ。

 少なくても、放逐されるだけで終わりなんてのはありえない。

 ツバイトナッハの王が俺に泣き付いて来たのも同じだ。要するに監視付きで最前線に放り込んでくれと言う訳だ。

 思いっきり鍛え直して、性根と根性を叩き直してくれとの依頼だけど、その途中で死んでしまっても問題ないとの判断でもある。

 まあ、廃嫡と共に始末してしまう決定がされなかっただけでもかなりの温情だ。

 各国が総力を挙げて殲滅する事が決まっているヒューマン至上主義者と繋がっていたのだ、国の体面を保つ手目に処刑されたとしてもおかしくない。


「処刑だって・・・」

「当然ですわ。それでなくても、貴方は国の重要な式典を穢したとして、既に反逆罪にかけられているのです。そんな重罪人を放逐するほどこの国は愚かではありませんわ」


 説明を聞いて絶句しているザッシュに、サルディナ嬢がとどめを刺す。

 それにしても、自分の行動がどんな意味を持つかくらい考えなかったのだろうか?


「そのくらいの事、少し調べればすぐに判るはずなんだが?」


 何故にその程度の下調べもしていない?


「それに、もし、仮に自由になったとしてもどうするつもりだったんだ?」

「どうするって、それは世界中を旅して思いっきり楽しむ。お前と同じだよ」

「どうやって?」

「どうやってって・・・」


 本気で、どうやって自由気ままに世界中を旅して周るつもりだったんだ?

 ここは剣と魔法の世界ネーゼリア。魔域から魔物の侵攻に晒され続ける戦いの果てない世界だ。

 当然だけど、日本国内を旅して周るような気楽な旅が出来るほど甘くはない。

 て言うか、地球でだって日本はともかく、気楽に旅をするには危険な、それこそ命を落としかねない国だって少なくなかった。

 魔物の脅威に晒されているこの世界の危険度は、そんな地球の比ではない。

 飛空艇などの交通網が発展しているので、魔物の脅威が高い魔域を避ける様にして移動すれば、安全に旅をすることも出来るけれども。


「それに、キミはいったいどうやって旅の資金を得るつもりだったのかな?」


 旅をするには当然ながら相応の資金が必要となる。

 廃嫡されたこのバカにはそもそも現状自由に使えるお金が全くない。その上、王族として一般の生活なんて何一つ知らずに生きて来たのに、いきなり働いてお金を稼ぐなんて出来るハズもない。

 そもそも、旅をするための金自体が始めから無いのだけど、一体どうするつもりなのか?


「旅の資金? そんなもの、廃嫡になってから自由に旅をしようと決めた時から貯めてあるに決まっているだろう」

「残念だけど、それは使えないよ。キミが旅の資金として貯めていたのは全て国の資産だからな。廃嫡された時点でキミに使う事が出来ない」


 当然だが、働いても居ないこのバカが自分で金を稼いで資金を貯めていく事は出来ない。これまで貯めて来たのは、全て国の予算から王子にあてがわれていたものからだろう。

 当然、それは国の予算なのだから、廃嫡した今ザッシュには使う権利がない。


「はあっ? そんなバカな・・・?」


 いや、当然だろう。どうして王子でもなくなったのに、王子の時と同じ金が使えると思ったんだ?


「それに、もしその資金が使えたとしても、旅の途中で必ず使い切ってしまう。その後どうするつもりだったんだ?」


 仮に、一億リーゼ以上貯め込んでいたとしても、自由気ままに、好き勝手旅を続けていけば、下手をすると一年もしないで使い切る可能性すらある。

 その後、無一文になってどうするつもりだったんだ?

 まあ、普通に考えれば、適当に働いて金を稼ぐんだけども・・・。


「どうするって、冒険者になっって稼ぐに決まっているだろ。せっかく剣と魔法の世界に転生したのに、一番の楽しみを満喫しないでどうすんだよ」


 予想通りの答えが返って来たよ。

 これについては、俺も人の事は言えないが、いくら何でも考えが甘すぎる。

 サルディナ嬢が途方に暮れたような顔をしているけど、その気持ちは良く判る。


「サルディナ嬢ならともかく。キミがどうやって?」

「どうやってだ。そんなもの、俺の自慢の剣と魔法で・・・」

「貴方に自慢できる程の、剣と魔法の腕があるのですか?」


 真剣に、本気で不思議そうに尋ねられて思わず絶句しているようだが、どうしてそこで絶句出来るのかの方が謎だ。

 ザッシュの魔力量と闘気量は、どう見てもGランク程度しかない。初めて会った時のメリアたちよりもはるかに下。多少は戦えるが、王族であった事を考えるとあまりにも低すぎる実力だ。それこそ冒険者学校の学生レベルとすら言っても良い。

 普通、この年齢の王族ならば、最低でもEランク以上の実力が求められる。

 王族や上位貴族に生まれた者は、物心ついた頃から魔力と闘気の扱いについてを学ばされ、鍛えられていく事になる。

 これは王族に生まれた者の義務であり、戦う才能が無く、実力が付かない者でも逃げる事は許されない。国と民を守るために強くなる努力をしなければいけないのだ。

 だが、ザッシュはその王族の責務を果たさなかった。強くなる努力すらせず。この歳になっても魔物の討伐に、魔物との戦線に参加すらしていない。

 愚王子と呼ばれる所以である。


「そもそも貴方は、これまで強くなる努力すらして来なかったではありませんか。それに、魔物の討伐すら一度たりとも行ていない。そんなあなたの一体どこに、自慢できる剣と魔法の腕があると言うのですか?」


 サルディナ嬢のザッシュへの評価が、愚王子と演技をしていた頃よりも更に急激に悪化している気がする。

 まあ気持ちは判るけどな、コイツ、愚王子の演技を止めた後の方が更にバカかも知れない。

 多分、これまで退屈な王子の座をさっさと捨てて、自由に生きる事しか考えていなかったんだろうけど、その癖、肝心なその為に必要な情報やら何やらをまるで揃えてないし、準備すら何もしてないのと同じだ。

 

 サルディナ嬢は異世界を自由に旅して周るために、念入りに必要な情報を集め、周到な下準備を進めているのと対照的にも程がある。

 彼女は、まず貴族として生まれた義務を果たし、何者にも文句を言われる隙も作らずに自由を手にしようとしている。

 まだ十八歳に過ぎないのに、既にAランクの実力を持っているのも同じだ。貴族として生まれたせく人を果たすため、そして、自由に旅をするには必要不可欠だと判っているからこそ、血の滲むような努力を続けて、それだけの実力を手に入れた。


 それなのに、ザッシュの方は何もしていない。

 王族に生まれ、これまでその特権と恩恵を受けて生きていながら、付随する義務を何一つ果たさず、自由になるために本来必要な事も何一つしていない。

 それなのに、廃嫡されてもう自由なのだから、王族として貯めた金を使って気ままな旅に出ようなんて楽に考えているのだ。サルディナ嬢が怒るのも当然だ。むしろ、怒るなと言う方が無理だろう。


「なっ!! バカにするなよ。俺が本気になればお前くらい簡単に・・・」

「わたくしはAランクの力を持っています。大して貴方は精々Gランクの実力、まさかこの実力差の意味も判らない訳ではないでしょう? 貴方では天地がひっくり返ってもわたくしには勝てません」


 Gランクの実力があれば、普通に銃で武装した相手を素手で制圧する事も可能だ。前世の常識からすれば十分過ぎる程の力だが、この世界では最底辺に近い。

 まさか、野生の熊や狼を簡単に倒せるくらいの実力があれば、冒険者としてやっていけるだろうとでも思っているのか?


「そう言えば、魔物討伐すら一度もした事がないんだよな。まさか、この世界の魔物の脅威を、地球のゲームに出てくるモンスター程度だとでも勘違いしているとか?」


 可能性として一番ありそうな事を思い付いて聞いてみると、ザッシュが不思議そうな顔をしている。

 これは確定だな、戦車の大部隊が一瞬で壊滅するような凶悪な魔物がうようよしているこの世界の現実を全く知らないらしい。

 あまりのバカらしさに、サルディナ嬢が頭を抱えて座り込んじゃったよ。


「キミね。この世界の魔物はそんな生易しいものじゃないんだよ? て言うか、地球と比べても明らかに高度に兵器を見て疑問に思わなかったのか」 


 Gランクの実力じゃあ、ファンタジーの定番のゴブリンの討伐くらいなら辛うじてできるだろうが、オークを相手にしたら成す術もなく瞬殺だ。いや、ゴブリンは群れで行動する事が多いから、精々数匹を倒すのがやっとの実力ではゴブリンも無理か。

 ガトリングガンでも持ち出して一掃するなら可能だけど、ゴブリン程度にそんな事をしたら、費用対効果でマイナスになるのは確実なのでお勧めしない。

 ぶっちゃけ、学生レベルの、半人前の実力しか持たない今のままじゃ、冒険者になるなど死にに行くのと同じだ。

 本気で今更の、この世界の基本知識、一般常識をレクチャーしてやると、ザッシュは顔を引きつらせる。

 だからなんで何も知らないんだよと突っ込みたい。


「ここは地球じゃ、日本じゃないんだ。日本と同じ感覚で生きられるハズがないだろう?」


 本当に、まさか生温いゲーム程度の世界だと本気で思っていたのか?

 実際に剣や魔法で、魔物の戦った事なんてない人間が想像で造った、ご都合主義の世界と同じ訳がないだろうが。

 完全に言葉を失っているザッシュに呆れるしかない。

 駄目だコイツ、このままだと本気でアッサリ死ぬ。

 まあ、別にそれでもいいんだけど、王から頼まれているし、こんなバカでも同じ転生者だ。


「まあ、王からも頼まれているし、ザッシュ、それにサルディナ嬢もしばらくは俺が身柄を預かる」


 そう言うとザッシュは呆けた様にこちらを向き。対照的にサルディナ嬢は顔を輝かせる。

 俺の預かりの身となると言う事は、俺の仲間、弟子として世界を旅して周ると言う事だ。堅苦しい貴族社会を抜け出して、自由に旅をしたいとずっと頑張ってきた彼女にしてみれば、夢にまで見た自由が舞い込んできたのだ。これほど嬉しい事はないだろう。

 対するザッシュには、これまで何もして来なかった分を挽回するためにも、死ぬ気で努力してもらう。

 少なくても一ヶ月以内にはサルディナ嬢と同じ実力をつけてもらおう。いや、二週間で行ってみようか。

 転生チートを持っているだろうし、きっと出来るハズだ。

 まあ、サルディナ嬢も一緒に弟子として鍛えていくつもりだから、追いつくのは間違いなく不可能だと思うけどな。

 とりあえず、これで転生者との話し合いは終わり。

 弟子として一緒に旅するのが決まったんだから、何か必要な事があればいつでも話せるだろう。

 しかし、これで転生者が三人か、ひょっとしたら、まだ他にもどこかに居るのかね? 




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