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 テムーゼでの後始末も一週間ほどで無事に全て終え、遂に次の目的地となる、転生者がいる国ツバイトナッハに向けて出発した訳だけども、最新の情報を聞いて更に気が重くなった。

 本当に何をやらかしているんだ!! このアホ転生者がっ!!

 思わず怒鳴り散らしそうになった程だ。

 本気で勘弁してくれと心の底から思う。

 問題の転生者は、前からデキの悪い問題児とされていたのだけども、ここのところの暴走は目に余るどころじゃない。本気で何を考えているのだこのバカ王子は・・・。

 そう、転生者は王道と言うべきかこれから行くツバイトナッハ王国の第一王子。  

 ただし、出来の悪い問題児の為、既に二十歳を超えているけれども王太子には指名されていない。と言うか指名されるハズもない。


「ツバイトナッハの愚王子ですか、噂には聞いてましたけど、これ程とは・・・」


 因みに、どうにかしてくれと最新の情報と共に泣き付かれて、頭を抱えているのは俺だけじゃない、アレッサは顔を引き攣らせているし、流石のミランダもどうしようもないだろと投げやり気味。ユリィたちは同じ王族として、余りのバカさ加減に呆れかえっている。


「まあ、実際の所、このバカは廃嫡で問題ないし、後はこのバカの裏にいる至上主義者どもをどうするかの話だよ」


 万が一にも、このバカを王族として一人前に鍛えてくれなんて無理難題を押し付けられたのなら、本当にどうしようもないが、ツバイトナッハとしても、流石にこれ以上は見逃せないと廃嫡を決定しているので、その辺は問題ない。

 それにしても、王族に転生しながら、何一つ責務を果たさずに好き勝手した挙句に、家族からも見放されて廃嫡とは、これもなんともテンプレと言うべきか、本当に何を考えているのやら・・・。


「それに、実質俺たちのやる事は特にないしね」


 そう、今回は実は俺たちには特にやる事がない。

 それじゃあ、何のために行くのだと言えば、その場に俺たちが居ることに意味があるのだ。

 要するに、救い様のないバカ王子をぶちのめして、至上主義者共も一緒に殲滅する現場に、俺たちも同席すればいいだけ。

 何かもの凄く簡単な事のように思えるけれども、まあ、実際にその通りには行かないのも決定事項。


「まあ、三流の茶番劇でもゆっくりと見物すればいいさ」


 とは言え、実際にどうなるかは判らないので、とりあえず、何か起きるまでは茶番劇の見物を決め込んでいるしかない。


「それはそうですけど、そもそも、婚約してもいない相手に婚約破棄を叩き付けるって、いくらなんでもあり得なくない?」

「まあ、それについては同感だけどね」


 けどねユリィ。そんな救いようのないバカのやらかす茶番劇も、前世のフィクションでは割とテンプレだったんだよ。

 そもそも、この転生バカ王子、ザッシュと言うらしいが、王族の、それも第一王子でありながら婚約者すらいないのだ。

 何故か? 決まっている。余りにもバカ過ぎて、早々に王位継承候補から外されたため、婚約者を宛がう事すらされなかったのだ。

 と言うか、どうしてツバイトナッハはこのバカをさっさと廃嫡にしなかったのだろう?

 現実問題として、今まで王族に一員として名を連ねさせておく意味がないと思うんだが・・・。

 万が一にも何かしらの役に立つかもしれないとても思っていたのか、それとも、余りにもバカ過ぎるので、下手に廃嫡にして王家から追放でもしたら、何を仕出かすか判らないと思ったのだろうか。


「しかも、その場で至上主義者たちが送り込んだ相手との婚約を発表するなんて」


 うん。これも良くあるパターンだったな。

 王族としての地位だけを目当てに近付いてきた相手に骨抜きにされて、真実の愛に目覚めたとかのたまう。どの辺が真実の愛なんだと突っ込みどころ満載なのがミソだったよな。

 それにしても至上主義者のバカ共も、王位を継ぐ可能性皆無のバカ王子を傀儡にしてどうするつもりだと思ったけど、どうやらこの国は捨て石予定で、混乱を起こさせて、他の国での活動をしやすくする為の布石だったらしい。

 なんともやるせない話だけども、その分、上手く事を運べば簡単に、一気に事を済ませられる。

 そんな訳で、俺としては何事もなく速やかに全て終わってくれることを願っているのだが、それと、終わった後で愚王子と話が出来ればとも思っている。

 正直、日本でそれなりの生活を送ってきた記憶があるのなら、いくらなんでもここまで状況を理解しないでバカな事をやらかさないと思うのだが・・・?

 あまりにも理解不能過ぎて、逆にバカ王子に興味が出てきてしまった。


 それにしても、本当にバカ王子は国の重要な式典でもあるパーティーの席上で、婚約破棄と新たな婚約を宣言するつもりなのだろうか?

 前世の創作で何度も見た展開過ぎて、しかも本来なら現実にはありえないはずの展開過ぎて、むしろ、王子に転生したのでやってみたくなってやったなんて、可能性すらあるんじゃないかと思えてくる。

 流石に、その後の一生棒に振ると判っているハズだからそれはないとも思うけど・・・。


「まあ、本当に踊らされているだけのただのバカなのか、何か理由があってバカのふりをしているのか、実際に会って見極めればいいさ」


 後者の可能性は、限りなく低いけどな。そう思いながらも、俺は初めて会う他の転生者がいるツバイトナッハ王国へと向かった。



「サルディナ・フロム・オクタナティブ公爵令嬢、今この場を持って貴様との婚約を破棄する」


 宴もたけなわの席上に突然響き渡った宣言に、一気に場の空気がしらける。

 成程、実際に遭遇すると想像を絶する程の寒気に襲われるものなのだな。至上主義者の送り込んだのであろう少女を抱き寄せながら、目の前の令嬢に指を突き付けているザッシュ王子をその場にいる全員がしらけた、侮蔑する様子で眺めている。


「婚約を破棄すると言われましても、そもそもわたくしと殿下は婚約していませんので、破棄など出来ません。それと、そちらのお嬢様はいったいどちら様ですか? このパーティーの席には限られた者しか出席を許されておりませんが」


 本当にもういい加減にして欲しいと、心底疲れた様子で返すサルディナ公爵令嬢。

 国の重要な式典でもあるこのパーティーには、国から正式に招かれた者しか出席できない。例え王子でも、それどころか王であっても、正式に招かれていない者を個人の駆ってて連れ込む事など許されない。


「レベリアは俺がこの場に招いた。俺の新しい婚約者だ」


 人の話を聞いていないのだろうか?

 だから、正式に国から招かれていない者を連れて来るのは、太刀男王であっても許されないのだが・・・。

 それと、さっきサルディナ嬢がそもそも自分たちの間に婚約は成り立っていないと言っただろう。

 しかし、単に茶番劇を見物しているだけのハズなのに、身も心も凍り付いてしまいそうな程に、寒くなってしまうのはどうしてだろう?

 救い様のない道化による茶番劇は、文字で読んでいる分には突っ込みどころ満載の喜劇で済むが、実際にその目にすると見てられない。


「婚約者ですか。それはおめでとうございます。ザッシュ様と婚約してくださる方がいらっしゃったとは、喜ばしい限りですわ」


 単に使い捨ての動議にするために、この少女はザッシュ王子に近付いているだけだと知りながら、深く頷いて同意している人の姿が見えるのだけど、茶番とは言え、一時でもザッシュ王子に婚約者が出来るとはと思っている気がする。

 どこまで無能だと思われていたんだ? この王子は・・・。


「喜ばしいだと? 白々しい。貴様がレベリアに悪質な嫌がらせの数々を繰り返しているのは、既に判っているのだぞ?」

「嫌がらせですか? わたくし、そちらの方とは初めてお会いしたのですが。見も知らない方に一体どのような嫌がらせをしたと仰るのですか?」


 なんともテンプレなやり取りだが、この後どうするのだろう?

 捏造した証拠を突き付けて断罪するか、本人の証言があるのだから間違いないとか、証拠もなく人を罰しようとするか、どちらかの暴挙に出るのがパターンだけど、実際の所そんな事が出来るハズがない。


「何を言う。レベリアから貴様の悪事は全て聞いておるのだ。言い逃れなど出来ると思うなよ」

「レベリア。そちらのお嬢様ですか。つまり其方のお嬢様が、わたくしが悪質な嫌がらせをしたと仰ったと、それで、勿論証拠はございますわよね? まさか、そちらのお嬢様の証言だけで、わたくしが悪事を働いていたと断言なさるおつもりではありませんわよね?」

「無論あるとも、レベリアが貴様に虐められているのを見た目撃者がいる」


 成程、目撃者と来たか。一体どんな目撃者なんだか?

 ヒューマン至上主義者のメンバーとかいうオチじゃなきゃいいんだけど・・・。


「彼らの証言によれば、貴様はレベリアに危害まで加えていたそうだな。無辜の民に一方的に危害を加えるなど貴族の風上にも置けん。第一王子たるこのザッシュの名のもとに、貴様の貴族籍の剥奪と国外追放を言い渡す」


 テンプレの宣言が響き渡った瞬間。会場中に失望の深い溜息が漏れ、憐みの視線がザッシュ王子に注がれる。


『愚かとは思っておったが、我が息子ながらこれ程とはな・・・』


 そんな空気の中、満を持して国王が登場。なんだけども、物語として読んでいた時も思ったけれども、いくらなんでも出て来るのが遅すぎだろう。

 今回はこれで台本通りなのだろうけれども、本当なら、国の重要な式典の中で騒ぎが起きれば、すぐに駆け付けて、騒動を沈める立場にあるはずなのだ。

 そうしないと、物語が成り立たないのは判るけれども、終盤の取り返しのつかない状況まで陥ってから登場するのはどうなんだろう?

 或いは、そもそも、国の重鎮が留守の時を狙って動く場合もあるけれども、その場合も、たたがまだ学生に過ぎなかったりして国の要職にすらついていない王子などが、一方的に令嬢を断罪して処刑してしまったりもするのも、そもそもありえない、いくら封建制の国であっても、いや、むしろ封建制の国であればこそ、王の許可を得ずに貴族を勝手に断罪する権利など例え王太子にもないのは当たり前、そのような事をすれば、王位権剥奪の上に反逆罪で処刑確実なので、連帯責任を恐れる周りの役人などが相手が王子であっても必ず止めるはずである。

 それなのに、誰も止めないような腐敗した状況に国があったのだとしたら、逆にそもそも、王が国を開けるような真似事態を絶対にしはしないだろう。

 いやまあ、本気でどうでも良いんだけどね。余りにも寒すぎる展開に、思わず突っ込みを入れずにはいられなかったよ。


「父上。良い所に」

「軽々しく父などと呼ぶ出ないわ。この愚か者が、もうよい。ザッシュよ、今この場を持って其方の王位継承権を剥奪。王家からも追放とする」


 うん。この展開もテンプレだな。

 しかし、絵に描いたような三文芝居のシナリオで、世界の生末を決める大事な問題に取り組む事になるとは夢にも思わなかった。

 まあ、ザッシュ王子の廃嫡は流石にはじめから決まっていたらしい。流石にこの情勢下で、ヒューマン至上主義者たちと繋がっていた王子を残す訳にはいかないと判断したようだ。


「父上、廃嫡とは一体どういう事です?」

 

 おや、慌てて問い詰めているハズのザッシュが若干笑っているように見えるのは気の所為かな?

 もしそうだとしたら、ひょっとして・・・。

 何やら言い合っているけれども、見る限りその裏で確実に事態は進んでいるみたいだ。探知魔法で確認してみれば、ハーティー会場の外で何人も拘束されているのが解る。間違いなく至上主義者たちだろう。

 ふむ。どうやら今回は本当に見ているだけで終わったみたいだ。

 俺がここに居ることに一体何の意味があったのか本気で謎だけども、まあ、何かしら政治的な駆け引きの為にでも利用していたのだろう。その辺りは、関知しない方向でいるのでどうでも良い。

 それよりも問題は、このバカの方なのだけども、どうしようか?

 あれ、そう言えば気が付けばもう一方主役のハズのレベリアとやらの姿が見えない。

 多分、もう既に国に身を拘束されているのだろうけれども、肝心のザッシュは彼女の姿が見えない事にすら気付いていない。

 或いは、先程の様子からすると、彼女の事なんてどうでも良い可能性もあるけれども、そうなると、完全に空気のまま強制退場のヒロインとは、ある意味、気の毒に事だ。

 とりあえず、後はこのバカの追放先なのだけども、実はそれでこの国に泣き付かれているんだよな・・・。

 ひとまず全てが片付くまで引き取って面倒を見て欲しいとの事だ。それと、噂の修行地獄で性根と根性を叩き直してほしいとも乞われたけ。

 まあ、流石に引き取るかどうかはともかくとして、一度話さないといけないのだけとも、どうしたらいいのだこの空気は。

 何か気の抜けたようなしょうもない空気が漂っているのだけどどうしろと?


『茶番はいい加減これくらいにしたらどうだと本気で思うな・・・』

『えっ!!!?』


 どうしようもない場の空気に思わず漏れた俺の言葉に、ザッシュ王子とサルディス上の二人が反応する。 それに対して、隣に居たアリアは不思議そうな顔をしているのに、思わず日本語で呟いていたのに気付く。だけど、その日本語の呟きに反応すると言う事は、ザッシュ王子が転生者なのは確定だし、しかもこれは、サルディナ嬢の方も・・・。 


『どうやら、同じ地球の、それも日本からの転生者のようだけど、この茶番劇は見ているだけで苦痛な程で、同じ転生種として恥ずかしいんだけど』


 気楽に声をかける様にしながら、転生者の二人を射竦めて、何も言えない様にしておく。

 正直、ここで何か言われると結構面倒な事になる。特に、同じ日本語などで話しかけられたりしたらかなり面倒だろう。


「まあ、そちらも言いたい事があるだろうし、俺も聞きたい事があるから、ゆっくり話をするとしようか」


 とりあえず、何かグダグタになった茶番の終わりを宣言して、俺は転生者二人と話を聞く事にした。




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