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 さて、無事に会議も終わり。面倒な事は各国政府が責任を持って全て片付けてくれる事になった。

 そんな中で俺たちが何をするかと言えば、そんな各国の問題解決のためのサポートだ。

 元々、国内にそれなりの問題を抱えている国も少なくない。そんな中で更に大変な課題を背負い込む事になったのだから、このままでは手の回らない国もある。

 そんな国のサポートとして動くのが俺たちと言う訳だ。


「それで、これから行く国でどんな事をすればいいんですか?」


 サポートと言っても、一体何をすればいいのか?

 メリアの疑問は最もだろう。


「そう大した事じゃないよ。これから行くテムーゼでは真獄の牙と言うクラウンが幅を利かせていてね。そのクラウンの牽制をすればいいだけだからね」


 ミランダは詳しく説明を始める。

 クラウンとは冒険者の集まりで、パーティーとはまた違うのだけども、ある意味では似たようなものかもしれない。

 とりあえず、その真獄の牙とか言うクラウンは、SSランクの冒険者であるファング・レイヤーが率いるクラウンで、構成メンバーは五百人に上るそうだ。

 A・Bランクの冒険者も相当数いて、テムーゼでは並ぶもののないトップクラウンとして君臨しているらしい。


「それだけなら何の問題もないんだけどね。どうも、このバカ共、自分たちの地位に増長しちゃてね。最近では随分と無法を働いているそうなのよ」


 これもよくある話だけどねと、ミランダは呆れたように続ける。


「大した実力もないのに、トップクラウンのメンバーだからって自惚れて好き勝手に街で大きな顔をする。ホントにどこにでもあるようなありふれた話ね」

 

 本来なら、クラウンを率いるファングが止めないといけないのだけども、


「そのファング自身、己惚れて好き勝手やっているのだから、話にもならないわ」


 元々は、有望な人材として高く評価されていたのに、最近ではもう評価も評判も地に落ちているらしい。

所謂テングになって周りが見えていない状況らしい。


「それは判りましたけど、結局、私たちは何をすればいいのですか?」

「簡単よ。バカ共の長く伸びた鼻をへし折ってやればいいの」


 成程ね。大体話は判った。

 まあ、簡単に言えば、真獄の牙とやらにケンカを売りに行くのだ。


「ケンカを売りに行くとも言う」

「まあ、そんな所ね。こういうバカは私も嫌いだから、遠慮なくやらせてもらうわ」


 二人で黒い笑みを浮かべていたら引かれてしまった。

 失礼な、別にキミたちが思っているような凶悪な手を使うつもりは無いぞ。


「ケンカを売りに行くと言っても、特に何かするつもりは無いから気にしなくていい。何時も通り冒険者として活動するだけだから」

「それだけですか? その真獄の牙とか言うクラウンを牽制して、勢力を落とすのが目的なんですよね?」

「それだけで十分よ。私たちが居るだけで、奴らにとっては大ダメージだから」


 良く判らないと首を傾げるメンバーもいるが、おおよそみんな理解したようだ。

 真獄の牙が無法を許されているのは、テムーゼでトップの、並ぶもののないクラウンとして実績を示しているからだ。だからこそ、今の所は国も民も目をつむっているのだけども、そこに俺たちが現れたらどうなる?

 横暴な態度を取らず、好き勝手に暴れる事もない上に実力は真獄の牙を上回る。

 それどころか、五百人を超えるクラウンよりもはるかに大きな実績をすぐにでも発揮するのは確実だ。そうなれば、真獄の牙のメンツは丸潰れ。

 国中から白い目で見られ、大きな顔も出来なくなる。

 実に簡単なお仕事である。

 当然、それだけで済ましはしないが・・・。

 きちんとフォローと後始末までこなすのがプロの仕事である。

 真獄の牙のメンバーには、更生出来るようならきっちりと更生してもらう。俺たちはテムーゼに常駐する訳ではないのだから、問題はあっても国の為に機能しているクラウンを潰して、ハイサヨウナラでは話にならない。伸びた鼻をへし折って、ファングとその仲間たちにはこれからシッカリと真面目に働いてもらうようにするのが目的だ。


「それは判りましたけど、どうして私たちが?」


 俺の説明に納得してくれたところで、そもそもの疑問を訪ねてくる。

 まあ、その疑問ももっともだろう。俺たちは他種族との関係改善の為の細々とした厄介事の排除を目的に動くはずなのだから。


「疑問はもっもだけど、理由は簡単。このバカ共が至上主義者共と繋がっているからよ」


 別にこいつらがヒューマン至上主義な訳ではないのだけど、実力と扱い易さに目を付けた主義者共の傀儡になりつつあるらしいのだ。

 テングになって増長している奴らなんて、ちょっとおだててやれば簡単に言う事を聞く良い手ごまだろう。

 そんな訳で、真に救い様のないバカ共にいいように使われている哀れなバカ共の目を覚ましてやる必要がある訳だ。

 勿論、後呂から色々とやらかしてくれている至上主義者共の方はシッカリ殲滅してやるつもりだ。


「テングになった挙句にバカ共に利用されていいように踊っているアホウに、現実をシッカリ教えてあげないといけないからね」


 教育は少し厳しくいかせてもらうつもりだ。まあ、自業自得と諦めてもらおう。

 それに、既に国を挙げて殲滅させられる事が決定している奴らと関わっているよりははるかにマシだ。場合によっては一緒に壊滅させられる可能性もあるのだからな。



「討伐報告に来た」

「はい。それではギルドカードのご提示をお願いします」


 そんな訳で、テムーゼで魔物の討伐を始めて早一週間。

 何時もの様に魔物の討伐を終えてギルドに報告に来た俺たちを、苦々しく睨み付けてくる奴らがいる。言うまでもなく、真獄の牙のメンバーだ。

 この一週間で、彼らの立場は極めて悪くなっている。

 それこそ奈落の底に転がり落ちる勢いだ。

 当然ながら、その原因の一端は俺たちにあるのだから、苦々しく思うのむしろ当たり前だが、そもそも自分たちの悪行のツケが回ってきているだけなのだから、そこで俺たちを睨み付けたところで何にもならない事くらい判らないのか?

 まあ、それが解る頭があったなら、始めからテングになって好き勝手したりしていないだろう。


「はい。討伐確認が終わりました。報酬は何時も通り、ギルドカードに入金でよろしいですか?」

「ああ、それで頼む」

「それにしても本当に凄いですね。毎日討伐に出られて、これ程の魔物を倒されるなんて」

「まあ、それが仕事だから」

 

 受付嬢の驚きも判る。

 実質問題として、俺たちみたいな勢いで魔物の討伐をしている冒険者はまずいない。冒険者は基本的に安全第一で、確実に倒せるだけの魔物を討伐して行くのが基本だ。勿論、それで生活が成り立つのならと言う条件も付くけれども。

 要するに、自分が満足できる生活を送れる金額を稼げるレベルで魔物を討伐するのが、多くの冒険者のスタンスなのだ。

 勿論ながら例外もいるが、それでも、わずか一週間で人一人一生遊んでらしても使い切るのが不可能な金額を荒稼ぎするのも珍しいだろう。

 もっとも、Sクラスとしては珍しい事でもないのだけどね。


「それに、皆さんの持ってきてくださる素材はどれも状態が良いものばかりで、私たちとしても助かっています」

「それは良かった。まあ、俺たちもSクラスだからな。それくらいは当然さ」


 テムーゼの防衛都市であるこのモーリスには、当然ながら多くの魔物の素材が集まる。その中でも、俺たちが持ってくる素材はどれも状態が良く、高い評価を受けているそうだ。

 まあ、最高位のES+ランクを含む、七人のSクラスがいるのだ。しかも残りのメンバーもA+ランクで、数年後にはSクラス入りするのが確実とされている。

 実際には俺は既にレジェンドクラスなのだけども、自分で言い触らすつもりも無いので、勘違いしてくれているなら都合がいい。

 そんな俺たちのクラウンは、思惑通りこの街で大歓迎を受けている。


 ・・・そうクラウンだ。

 これは完全に想定外なのだけども、何時の間にか俺たちはクラウンとして認識されているらしい。クラウンとして登録した覚えもないし、名乗った覚えもないのだけど、“戦女神”と何時の間にか呼ばれるクラウンとして認識されている。

 これが本当に謎だ。

 そもそも、何故に戦女神?

 確かに、うちのメンバーは俺以外は全員女性だけど、リーダーは俺だと認識されているハズなので、その呼び名は納得できないのだが、その事を伝えると、ミランダなどから呆れたように。


「なに? 私たちが戦女神ってクラウン名で呼ばれてるの知らなかったの? 呆れたわね。と言うか、そんなに嫌なら早く自分の好きな名前でクラウン登録してしまいなさいよ。そうしないと、本当に戦女神が私たちのクラウン名になっちゃうわよ」


 とのありがたいご指摘を受ける羽目になった。

 とは言っても、良いクラウン名なんて中々思いつかないし、とりあえず今の所は保留として、戦女神のながクラウン名として確定しないようにギルドにクギを刺しておくだけにしている。


 まあそれはさて置き、経過は順調だ。

 このままいけば、そう遠からず真獄の牙の方から接触があるだろう。

 そうなれば、まあお馴染みのパターンでボコボコニして差し上げる所存だ。


「それじゃ、これで失礼するよ」


 ミランダたちも報酬を受け取り終わったので、今度は素材の買取カウンターに向かう。

 魔物の素材は量も多ければ巨大なものもあるので、買取カウンターは当然ながら巨大な倉庫のようなスぺースになっている。

 まあ、普通に五メートルを超える巨体のオーガとかかそのまま運び込まれたりもするのだ。むしろそれくらい小さい方で、数十メートルㇹ超える魔物も珍しくはない。

 そんな訳で買取カウンターは冒険者ギルドの中でも最大規模の施設で、ある意味では花形の場所でもある。 

 様々な魔物の素材が取引される一大マーケットなのだから当然でもある。


「いらっしゃいませアベル様。今日は何をお持ちでしょうか?」

「とりあえず、これの買取を頼む」


 この一週間で最大の上客になった俺たちを極上の笑顔で出迎える。そんな買取担当に早速アイテム・ボックスから今日の獲物を取り出す。


「ランドザウルスですね。状態を確認しますので、少々お待ちください」


 俺が取り出したのはAランクの魔物ランドザウルス。その名の通り、肉食の巨大な恐竜のような魔物で、Sクラスのドラグニルの様にブレスは吐かないが、Aランクとしては強靭な防御障壁と固い装甲の様な皮による高い防御力と時速五百キロを超える速度、更に十トンをゆうに超える重量を武器にしてくる危険な魔物だ。

 ぶっちゃけ、十トントラックがF1カーも真っ青な超スピードで突っ込んでくる様なものなのだから、どれだけの脅威か、破壊力になるか判るだろう。


「状態を確認させていただきました。これならば一千万リーゼで引き取らせていただきます」


 当然、そんな危険な魔物であるから、と言うよりも、素材の使い道も実に豊富なため、買取価格も相当に高い。日本円で一億円。実にいい値段だ。

 

「それで頼む」

「ちょっと待て、一千万リーゼだっ、ふざけるなっ!! 俺たちのは半額以下で買い叩こうとしやがったくせに」


 無事に売買成立と思った矢先に、隣からイチャモンを付けてくる輩がいる。

 確認するまでもなく、真獄の牙のメンバーだ。

 食い付いた。食い付いた。

 言うまでもないけれども、ここでランドザウルスを出したのはワザとだ。

 買取カウンターに来た時に、ランドザウルスの巨体と、その買取で揉めている真獄の牙のメンバーが見えたからこそワザと出した。

 それにワザワザかかってくれるのだから実にありがたい。バカは釣り易くて助かる。


「そうは言われましても、買取価格に差が出るのは当然です。アベル様のモノは外傷も無く状態も極めて良好です。それに比べて皆さんが持ち込んだものは傷だらけで商品としての価値は低いと言うしかありません」


 そう、こいつらが売ろうとしているランドザウルスは見るからにボコボコだ。それこそ戦車の砲弾でも浴びせたかのような有様で、これでは商品価値も下がって当然だ。


「確かにな。さっき見た所じゃあ、皮もボコボコで加工して使える箇所も限られてるだろうし、中の肉も食えない所が多そうだ。それでは買取価格が低くなって当然だな」

「魔物を如何に傷付けないで上手く討伐するか、それが冒険者の腕の見せ所であり、基本でしょう。それが出来ていない時点で、あんた達に文句を言う資格はないわね」 


 俺に続いてミランダも辛らつだ。

 だけど、言っている事はこれ以上なく正論だ。こんなボロボロで持ち込んで、買取価格に文句をつける方が間違っている。

 多分、今まではそれがまかり通っていたのだろう。

 この国で最大のクラウンである事を良い事に、状態の悪い素材を持ち込んでおきながら高値で買い取らせる。そんな事を平然と行っていたに違いない。 

 だけど、その状況も俺たちが来て一変した。

 別に俺たちは安く売るような真似はしていないが、素材の情たちに合わせた最適な値段で取引している。

 そうなると、真獄の牙が持ち込む余り良くない素材をワザワザ買い取らなくてもよくなるのだ。その為、ギルド側もこれまでとは違い強気で対応できる様になって、今まで質の悪い素材を売りつけてギルドから金を巻き上げていた真獄の牙は一気に財政的に追い詰められる事になった。


「その通りです。それに、真獄の牙の皆さんは、これまでに質の悪い素材をギルドに無理やり買い取らせてきたのですから、その分の返還も考えれば、むしろこの値段でも高すぎるくらいです」


 買取担当のお嬢さんも随分ご立腹の様子だ。

 それにしても、こいつらは本気で救いようのないバカだな。まさか、ギルドに無理やり高値で買い取らせるような真似までしていたとは・・・。

 呆れ果てて開いた口が塞がらない。

 

「本当にそんな事をしていたのかキミたちは? そんなのは犯罪と同じだぞ。犯罪奴隷に墜とされても文句は言えないな」


 俺が呆れた様に言うと、事の重大さにようやく気が付いたのか、青い顔をしてそそくさと、ギルドの言い値でランドザウルスを売り払って出て行った。

 これで追い込むだけ追い込んだな。これ以上は後がないとそろそろ動くだろう。

 さて、一体どんな風に動いて来るかな?

 真獄の牙の相手も大詰に入って、この国での役目もあと一歩だとこれからの事を考えながら、俺たちは魔物の換金を進めて行った。



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