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アレッサ視点、二回目です。

 ベルゼリア王城会議室。そこにはかっっ国の王族や重鎮が集まっている。

 ヒューマンのこれからを決める重要な会議。大陸の存亡に係わる重要な会議に、どうして私も出席しているのだろうと思ってしまう。

 アベルさんとミランダさんは当然だし、各種族の王族であるユリィさんたちが出る事でこの会議の重要性が更にますのでこれも当然。だけど、私たちには出席する意味がないと思うのだけど・・・。


 なんて現実逃避をしている場合じゃない。シッカリと議題の進行を把握しておかないといけない。


「アベル殿の仰る事も判りますが。現実には難しいでしょう。何分、二万年にも及ぶ齟齬があったのです。これによる不満や反発も民の間にはありましょう」


 他種族との関係改善へ向けての会議。その中でその発言は、そもそも議題を理解していないも同然なのを本人は理解しているのだろうか?

 この会議は、関係改善に向けてこれから各国で動き出そうと提案する場所ではなくて、既に種としてヒューマン全体で、他種族との関係を改善出来るように動くのが決定したので、その上でこれからどのように連携して、如何に滞りなく進めていけるかを話し合うための場所なのに。


 そんな訳だから、今の発言をした人に会議に出席している全員から冷ややかな視線が向けられています。

 これで、彼のキャリアは終わったも同然です。

 それ程大きな失敗を彼はしてしまったのだから、仕方がないでしょう。


「ムーガ殿。貴殿は此度の議題を理解していないらしい。難しかろうが何だろうが、既に他種族との関係改善のために各国が一丸となって取り組む事は決まっているのだ。今は、その為に如何に効率良く連携して事に当たれるかを話し合う場であるのだが?」


 バカにしたり見下したりするのではなく、むしろ憐れむ様に言われて、ようやく自分の失態に気が付いたみようです。顔を青くしていますが、多分既に自分のキャリアが潰えたのを理解しているのでしょう。

 それも当然です。この場は、確かにアベルが持ち掛けた議題を話し合う場ではありますが、同時に、各国が水面下で争い合い。互いに探り合う、各国の勢力争いの場所でもあります。

 サミット。国際会議での失態。失言がどれ程の影響を、ダメージを国に与えかねないかを思えば、むしろ彼のキャリアなど些細な問題です。

 まあ、その辺りの国の思惑や駆け引きも、行き過ぎないようにアベルさんやミランダさんが調整するでしょうから、問題には成らないでしょうけど。


「しっ・・・しかし、確かにこのままではいけないにしても、二万年も解消されることの無かった他種族との関係改善が困難である事は事実では?」


 困難と言うよりも、実現不可能と思われる事を既に確定事項として取り組むのに意味があるのか?

 どうやら彼はそう言いたいらしい。

 さり気なく探ってみると、同じ思いの出席者もそれなりに居るみたいです。

 どうやら、この会議に出席するにあたって、根本的な事実を理解していない人たちもいるようですね。


 そもそも彼らは、ヒューマンと言う種族が現状置かれている状況を理解しているのでしょうか?


 今、ヒューマンは存亡の危機に瀕していると言って等しい状況にあります。

 その事実を知ったからこそ、アベルさんとミランダさんは持ちうる限りの伝手を使ってこの場を整えたのですし、既に事情を伝えているからこそ、各国の王族も真剣にこの場で議論を交わしているのです。

 その大前提を知らずにこの場に居ること自体が問題なのですけど、アベルさんたちはどうするつもりでしょう?


「どうやらまず、状況の説明をして、現状の社会情勢について共通認識を持たなければならないようですね。仕方ありません。アレッサ。皆さんに説明していただけますか」


 ハイ?

 聞き違いでしょうか。今私に説明役が指名されたような?

 冗談ですよね? 冗談と言ってください・・・。

 どうやら冗談ではないみたいで、助けを求めてミランダさんを見るのですが、頑張れと笑顔で応援されてしまいます。

 今更ながら、どうやら私たちも、こうして役割を与えられてこの会議に出席しているようです。

 それならそうと、始めから説明しておいて欲しかったのですけど・・・。


「そうですね。ではまず、現状を正確に把握するために、そもそもの原因となった二万年前の出来事からお話しさせてもらいます」


 多分、この様子だと、会議に出席している方たちの中にすら、二万年前に、一体どんな経緯で関係を断絶されるまでになったのかを知らない方がいるのは確実です。

 ならばまずは、そもそもの根本から説明するべきでしょう。


 今、この事態を生み出したそもそもの始まりは、二万年前に一つの国が誕生した事。

 国の名前はグランレイザー。建国王にして最後の王である男の名前はキール・グレン・グランレイザー。彼がそもそもの始まりであり、全ての元凶。

 若くしてSクラスの最高峰。ES+ランクにまで上り詰めた彼は、三十歳にして生まれた国の王家を追放し、自ら王して新たな国の建国を宣言。そして建国と共に、際限ない欲望のままに周辺諸国への侵攻を開始して、瞬く間に領土を広げていきました。

 戦線の布告すらなされずに一方的に始められた侵略に、まさか人間同士で戦争などと愚かな事になるとは予想もしていなかった各国は、瞬く間に撃ち滅ぼされて行く事になり。グランレイザー帝国はわずか十年程でヒューマンの大陸の統一を果たしました。

 勿論、その行いは無法と謀略の限りであり、決して許されるものではありません。ですが、それでもまだこれまでは、彼の行いも問題ないレベルの話でした。

 ですが、どこまでも貪欲でねそして、何一つ現実を知らない愚か者であった彼は、超えてはならない一線を越えてしまいます。

 ヒューマンによる世界統一。完全な統一国家を生み出す。そんな無謀な野心に取付かれ。ついには世界中に戦果を拡大し始めたのです。

 ですが、当然ながらそんな夢物語は一瞬の内に潰えます。

 残されている記録では、ユグドラシルにレイザラムに向けて侵攻したグランレイザーの侵略軍は、当然ながら反撃にあい壊滅します。

 この時、記憶ではヒューマンの人口は今の三倍以上に上り、グランレイザーの騎士団・軍隊を合わせた総戦力は四十億を超えていたそうですが。派兵した侵略軍の壊滅によって一気に全軍の半数を失う事になります。

 それは大敗などという言葉で表せる次元のものではありません。

 勿論、全滅と言っても、派兵した部隊の全てが殺された訳ではありません。相当数の犠牲が出たのは確かですが、多くは捕虜になったり、或いは壊滅的な状況の戦場から脱走してして、そのまま逃げ延びたそうです。

 ですが、グランレイザーの世界統一の野望が一気に破綻したのは事実です。

 攻略部隊として送り込んだのは全軍の半数に及ぶ二十億を超える軍勢。皇帝キールは、圧倒的な物量によって一気に征服できると考えていたのでしょうが、現実には全軍の壊滅を招く大敗。

 そして、当然ながらこの敗北は国内に大きな混乱と恐怖、何よりも嗚呼来な失望を生みますし、何よりも大きな問題として、侵攻部隊の壊滅によってグランレイザーの兵力は著しく低下し、魔域からの侵攻に対抗する事も難しくなり。

 防衛都市による戦線が維持できなくなり、魔物に襲われて壊滅する都市が相次ぎ。ほんの数ヶ月で十億人近い死者を出したとすら言われています。

 魔域の活性が起きた訳ですらない中での被害では、過去に類を見ない惨事である事は言うまでもありません。

 こうして、グランレイザー帝国は世界統一を掲げて戦争を始めると、一年も経たずして存亡の危機に立たされる事になります。

 それは同時に、ヒューマンの種の存続の危機でもあったのですけれども、この時、大人しくグランレイザー帝国が滅びていれば、これから先の惨事は避けられたはずでした。


 ですが、堅実には事態は最悪の道を進みます。

 追い詰められた皇帝キールは、起死回生の一手として最悪の行動に出ます。

 それは魔域の中心部。エリアマスターへの殲滅戦略級兵器による攻撃という暴挙でした。

 それは三万年前の悪夢。魔域の開放によって引き起こされた、魔域の活性化の数百倍にも及ぶ数え切れない程の魔物の大軍による蹂躙を再び引き起こしかねない最悪の、決して許されない暴挙です。

 彼は、魔物に他種族を襲わせ、力を落としてから再び侵略しようと考えていたのです。ですから、殲滅戦略級兵器が落撃たれれたのも、当然、ユグドラシルなどの国が接する魔域です。

 この時、皇帝キールを除く世界中の全ての人間が、その愚劣さに戦慄したといいます。それも当然です。

 結果として、最悪の事態は免れました。

 エリアマスターは殲滅戦略兵器程度で滅ぼせる程容易い存在ではなかったのが幸いしました。

 ですが、この空前絶後の暴挙は世界中を混乱の底に叩き落し、ようやく事態の収拾の目途が付いた時には、ヒューマンの人口は四分の一にまで激減していたそうです。


 そして混乱が収束した後に、事態の深刻さを顧みて下された決断が、ヒューマンとの関係の断絶でした。

 これは、当時の社会情勢からすれば仕方のない決断でした。

 最も被害が大きかったのは当然ながらヒューマンでしたが、グランレイザー帝国の侵攻から始まった混乱によって、エルフ、ドワーフ、獣人などの全ての種が、人類が少なからず被害を受けていたのです。

 当然、全ての元凶であるヒューマンへの不満、反発は目に見えて高まっていました。

 それこそ、もう二度とこのような惨劇が起きない様に、ヒューマンを一人残らず殲滅するべきだ。あんな種族は滅ぼすべきだと真剣に議論が交わされる程に、事態は深刻だったのです。

 

 だからこそ、国交の断絶。ヒューマンは自分たちの大陸に閉じ込めて一切係わりを持たないという決定がされたのです。

 これは、言うまでも無くヒューマンを守るためになされた決定です。

 勿論、ただヒューマンを守るためにこんな判断をした訳ではありません。一つの種を絶滅させようとすれば、当然ながら相応の時間と労力が必要になりますし、なによりもヒューマンもただ黙って絶滅されるのを待つハズもありません、必死に抵抗し、結果、大きな混乱と激しい戦果ば引き起こされるのは確実でした。だからこそ、これ以上の混乱を避けるためにあえてヒューマンを守った一面もあります。

 それでも、三万年前の惨劇に加えて、再び世界に破滅を齎しかねない暴挙を犯したヒューマンが生き残る事を許されたのは事実です。

 そして、関係を断つことを決めた各種族にしても、幾度となく愚行を犯したヒューマンを野放しにし続けるつもりは無く、しばらく距離を置いて、感情的になっている国民を沈めてから再び関係の改善の為に動けばいい。

 冷静にそう判断した上で実行された国交の断絶は、しかし、ヒューマンの側の愚かさと無能さの為にこれまで、二万年にも及び続く事になってしまいました。


「これが、私たちヒューマンが他種族の国々との国交を断たれた経緯であり、同時に私たちが置かれた現状でもあります」


 そう締めくくると、会議室に沈黙が訪れます。

 中には、愕然とされてバカななどと小さく洩らしている方もいます。


「ご存じではない方も要られて当然です。この事実は、ヒューマンの国々ではほとんど忘れ去られているのですから、単に、世界統一を掲げて他種族に戦争を仕掛けた結果、関係を断絶されたと歴史を改ざんして残された結果です」


 しかも、これには全ての元凶である皇帝キールが関わっていたとすら言われます。

 そう、これ程の大惨事を引き起こし、当然、グランレイザー帝国が滅びても尚、キール自身は生き残り。歴史の裏で暗躍を続けたのです。

 そして、このキールの存在こそが、私たちヒューマンと他種族の関係を修復するのを阻む最大の害悪であり、同時に関係を修復すべき理由でもあります。

 

 本当に、彼は何処まで愚かなのでしょう。同じ人として恥ずかしくなります。

 いえ、それどころではありませんね。

 私は静かに息を整えて、今のこの社会の現実へと話を続けていきます。



肝心な所ですけどここで区切ります。

続きはアベル視点に戻ってです。

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