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5(改修版)

 5人の少女のパーティー。年齢は俺よりは上だけど、精々成人したての15歳程度。

 そんな少女たちは、マーマンを相手に危なげのない戦いをみせている。

 マーマンは所謂半魚人と言うよりも、人間代の魚に手足が付いているような魔物だ。因みに手足も胴体と同じ鱗で覆われて水掻きもついている。どちらかと言うと爬虫類みたいな手足だ。

 そんな訳で、その外見はハッキリ言ってかなりグロイ。Eランクの魔物の中でも特に人気のない魔物だ。

 人気がないと言うのは、倒してもあまり儲からないから、冒険者は余り率先して相手をしようとしないと言う意味。 

 なお、同じ様に人気のない魔物として、ファンタジーの定番のゴブリンやコボルトが上げられる。

 これらの魔物も、討伐しても素材が余り得られない上に、人形の魔物は知能も高く、その上武器を持っているし道具も使ってくる上に、群れが相手だと組織的な動きを、戦略を駆使してきたりするものだから、他の魔物よりも厄介な相手なのもあって不人気。

 日本に居た頃に読んでいた小説では、所謂豚人間のオーク肉を食べたりするのもあったけれども、この世界では基本的に、人形の魔物の肉を食用にする事はないので、彼女たちが相手をしているマーマンも食べたりしない。

 一応、肉は錬金術で肥料にされたりもするのだけども、マーマン程度の魔物じゃあ大した金額にもならないし。


 これがオークなら、まだ鎧や剣などの装備品を回収できるのだけども、マーマンの場合は手にして銛のみ。後は魔石と討伐報酬だけども、どちらも大した金額にはならない。

 と言うか、前世のファンタジーじゃあほぼザコに近い位置づけだったオークだけども、この世界では実は十分過ぎる程に脅威となる魔物だ。

 何故なら、オークはDランクの魔物だから。Dランクはこの世界では一流と呼ばれるレベルだ。ぶっちゃけアサルトライフルがあれば倒せる相手ではあるけど、知能も高く高度な集団戦闘をこなし、魔法まで使う。その攻撃範囲は500メートルを超え、しかも、5センチの装甲体を貫く威力を持つ。

 その意味では、アサルトライフルがあれば倒せると言うのはあくまでも一応でしかない。実際の所は素人がアサルトライフルを持ってオークを倒せるかと言えば、ほぼ確実に不可能。ライフルを撃ち前に魔法攻撃で瞬殺されてお終いだ。


 とオークの話はこのくらいで置いといて、マーマンの方だ。

 マーマンは人型なのもあり、Eランクの魔物の中ではかなりの強さの魔物だ。

 そんな魔物が相手なのだけども、彼女たちは30匹近い相手に対して、常に優位に戦い続けている。

 これは、単に稼ぎにだけ目が行っているのではなくて、魔物を相手に戦うのが冒険者の役割だとシッカリ考えているからだ。

 その辺の認識の違いが、明らかに実力や戦い方に出てきたりする。


「見事だな」


 思わずそんな風に漏らしてしまう。

 実力は精々がE+ランク程度だろう。もっとも、彼女たちの年齢を考えれば十分過ぎるランクだけども。

 実際、精々E+ランクと言っても、実際にはE+ランクは中堅やベテランと言われる領域だ。冒険者として活動し始めてから1年足らずであろう彼女たちが、そこまで辿り着いている時点で十分驚異的だ。

 そして、そのまま危なげもなくマーマンを殲滅してみせると、周りを警戒しながらすぐに回収して行く。

 その様子には経験に裏打ちされた安心感があり、彼女たちが冒険者として既に一端の実力者である事が良く判る。

 このままなら特に問題はない。

 だが、彼女たちはまだ気付いていないが、既に彼女たちを標的として捉えて魔物が迫ってきている。

 それも彼女たちでは太刀打ちできないDランクの魔物だ。

 Dランクは、彼女たちのEクラスからひとつランクが上がるだけだが、一流と呼ばれるランクでありその差は断絶している程にかけ離れていると言って良い。

 しかも、彼女たちに向かっているのはシーリザードマンだ。これがさっき倒したマーマンの上位種であるブル・マーマンだったなら、彼女たちにもまだやりようはあっただろう。しかし、今回は相手が悪い。

 リザードマン系のモンスターは、オークの様な遠距離攻撃用の手段を持っていないため、攻撃範囲は精々数メートル程度なので、ある意味では戦いやすい魔物ではあるのだけども、代わりにその皮と鱗がとてつもなく固く、生半可な攻撃では傷付ける事すら出来ないのだ。

 しかも、数がかなり多い。おそらくは50匹は居るだろう。数匹程度ならば牽制しながら撤退する事も可能だったろうけれども、あの数が相手では逃げる事も出来ないだろう。


 そんなこちらの考えなんて知るハズもなく、少女たちは倒したマーマンを回収し終えると周りを警戒しながら街に戻り始める。

 ここで戦っていたと言う事は、彼女たちはマリーレイラを拠点にしている冒険者だろう。

 ここからマリーレイラまでは、直線距離で3キロ程。何事もなければ20分もかからずに戻れる距離だが、間に合わないな。

 既に、シーリザードマンと彼女たちの距離は500メートルを切っている。

 ここが海岸線だった事が悪い方向に働いている。シーリザードマンたちがまだ海中に居るため、彼女たちはまだその接近に気付けていない。

 そして、気付いた時にはもう手遅れだ。

 シーリザードマンが海中から躍り出た事で、少女たちもすぐに気付いて戦闘態勢に入る。しかも何時でも戦える様にしながら全速力で逃げ出す。うん。その選択は正しい。

 周りにいた他の冒険者たちの中にはまだ何が起こったのか理解してない者や、実力差を理解できずに攻撃を仕掛けようとする者までいるのに、彼女たちは即座に状況を理解して真っ先に逃げ出した。


「みんな逃げて、アレはDランクのシーリザードマンよ」

「私たちが倒せる相手じゃないよ。こんな所に居るハズのない魔物だよ」


 しかも、周りの冒険者たちに大声で事態を説明して逃げるように促している。

 少女たちの言葉を聞いた他の冒険者たちは、信じられないとばかりに呆然としてシーリザードマンを見て、次の瞬間には悲鳴を上げて一目散に逃げだしていく。

 周りの警戒も何もあったモノじゃない、ただ脅威から逃げ出すためだけに全力で走るだけ。それじゃあダメだと理解も出来ていないらしい。

 実際、何人の冒険者はついさっきまで戦っていた魔物に後ろから攻撃されたり、近くにいた魔物に無防備な所を攻撃されたりして倒れている。

 自業自得だ。非常事態に我を忘れて逃げ出したりしたらそうなるに決まっている。此処は魔物の脅威に常に晒され続ける街の外なのだから。

 そんな魔物にやられてしまった冒険者たちだけども、助けようと思えば助けられる。

 だけど俺は今のところ助ける気はない。

 冒険者は自分の身は自分で守るのが基本だ。何があっても全て自己責任。この程度の事でいちいち助ける理由はない。


「何をしているの。落ち着きなさい。まずは近くの魔物を相当しないと、逃げられるモノも逃げられないわよ」

「全力でやればそう時間はかからないハズです。非常時なのですから手段は択ばず、ますは生き延びる事を優先しましょう」


 そう言いながら、腰のマジックバックから銃を取り出す。

 アレはVF7型アサルトライフル。イザーレット。45口径アチンマテリアルレベルⅠの弾丸をフルオートで毎秒30発発射し、最大射程は2キロに及ぶ。500メートルの射程なら、5センチの複合装甲体も貫く、更にマガジンはマジックバックと同様の仕組みが組み込まれていて、アレは確かひとつのマガジンに2000の弾丸が込められていたハズだ。

 その強力な火力を持って、逃げながら周囲の魔物を殲滅して行く少女たち。

その様子にほかの冒険者たちも正気を取り戻したらしく、それぞれ銃を取り出し或いは魔法を使い周囲の魔物を仕留めて行く。

 ほどなくして、このエリアに元々いた魔物は殲滅されるが、問題の脅威であるシーリザードマンはもうすぐ近くにまで来ている。

 一番近い冒険者との距離はもう100メートルもない、このままでは後数秒で距離を詰められてしまう


「このっ」


 少女がシーリザードマンへとイザーレットを放つ。放たれた弾丸がすべて命中しているのに、少女たちの確かな実力が見て取れる。

 しかし、残念だけどもその程度の攻撃では牽制にしかならない。

 さっきも言ったが魔法も使えないシーリザードマンがDランクの魔物に認定されているのは、その強靭な力と鉄壁の守りのためだ。そしてその皮と鱗は、イザーレット程度の火力では傷一つ付けられない。

 実際、シーリザードマンの防御力はDランクにありながらBランクのオーガに匹敵するのだ。

 つまり、倒すためにはオーガを倒せる程の火力が必要となる。未だEランクに過ぎない彼女たちに、はるか格上のBランクのオーガを倒せる火力を用意しろと言うのはムリな話だ。

 それに、見た所ほかの冒険者たちが持っている銃は、明らかに少女たちの持つアサルトライフルよりも威力が劣るものばかりだ。何人かは牽制に銃を撃っていたけど、まるで効果が出ない事を知るとそれも止めて我先に逃げ出していく。

 それだけならいざ知らず、何人かは明らかにシーリザードマンが少女たちを標的にするように誘導までしている。

 明らかに、彼女たちを囮にして自分たちは助かろうとしている。

 ある意味ではそれも正しい判断だ。少女たちはこのエリアにいる冒険者たちの中で一番強い。一番強い者が殿を務めれば、それだけ全体の犠牲を減らす事が出来る。 

 だけども、自分が助かるために他人を犠牲にしようとするやり方は好きに離れない。

 いくら、本来このエリアにいるハズもない格上の魔物が突然襲ってきて、混乱しているとしてもだ。

 そう、本来ならこのエリアにはE+ランク以上の魔物はいないハズなのだ。

 ここはギルドによって管理されている初心者用の狩場のひとつで、Dランク以上の魔物はこのエリアの手前で討伐されて、このエリアには来ない様になっている。

 初心者も初心者用の最弱ランクのIランクの魔物だけのエリアや、HランクやGランクの魔物だけのエリア、FランクとEランクの魔物だけのエリアと、実力にあった狩場で戦える様にエリアが設置されていて、Eランクまでの冒険者はそこで実力をつけて行く。

 因みに、Dランク以降は決められた狩場はなく、自分の実力のあった魔物を見付け出して狩っていく事が求められる。Dランクが一流と呼ばれる所以だ。

 つまり、エリアにいる冒険者たちは全員がまだ半人前なのだけども、それにしたってヒドイ。 

 

 そんな中で、少女たちは明らかに自分たちが囮に使われていると気付いているようだけども、文句を言うだけムダだと判断したのか、多少の足止めにはなるのでイザーレットで牽制しながら逃げている。

 しかし、このままでは後10秒たらずで追いつかれる。そして、一度追いつかれてしまえば彼女たちに成す術はない。

 さてどうするか?

 このまま見殺しにするのか?

 なんて考えていると、シーリザードマンの1匹が手にした銛を振りがぶるのが見える。

 そう来たか。槍投げと同じだ。そしてシーリザードマンの力で投じられた銛は、500メートル先のフルプレートアーマーを貫通する威力があるだろう。そんな一撃を、彼女たちには防ぐ手立てはない。避けるのもムリだ。

 銛が投じられ、少女たちも自分たちに襲い来る脅威に気付くが、弾丸の様なスピードの銛を避けられはしない。 

 このままでは少女たちの中で一番小さいあの子が貫かれる。

 そう思ったら、自分でも理解しない内に、少女たちを護る防御障壁の魔法を展開していた。

 銛は防御障壁に阻まれて少女たちの手前で弾かれる。

 思いもしない事態に思わず少女たちの動きが止まってしまい、その隙にシーリザードマンたちが距離を詰めてしまう。

 自分たちを包囲するシーリザードマンたちに、少女たちは覚悟を決めた様に構える。

  

 その様子を見ながら、もう一度どうするかと考える。

 考えるまでもなく、答えは決まっている。


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