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俺の奴隷の奴隷の俺!?  作者: 流水一
第1話『勇者から冒険者へ』
8/9

「あ、ゆう......おにいさん!!」

「......納得行かないのよ」

「しかたねーだろ、出来ないって言われれば、なぁ」


奴隷商会『アハト』の扉を潜り、大通りに戻ってきた二人は、再び街の喧騒に飛び込んでいく。

カオルの隣を歩くリューネスの落ち込み具合は凄まじく、日の光が余りないここ裏通りでさらにどんよりとしていた。


ため息を付き足取りが重いリューネスは、自分の手の甲とカオルの首に視線を送る。

白く綺麗な手には、傷すらなく、なにかがあった後もない。

カオルの首にあった隷属の首輪もない。

リューネスの首にはしっかりと嵌まったままだった。

リューネスは再びため息を吐く。


そんなリューネスに苦笑いのカオルは、歩いていた足を止め、リューネスに振り返った。


「いや、これってそもそも隠せただけで、本質はかわんねーよ? 」


カオルは眼帯を掻きつつ、困ったような表情だった。


「そうかもしれないけど、私の術が人間が産み出した術に負けるのが気にくわないのよ」

「そっちかよ、俺はてっきり......」

「それ以外になにがあるのよ? 」


リューネスが納得いかなかったのは、奴隷商のアハトに、『こっちの紋章は移せるが、これは時間がたって定着しちまってるから無理だ』と言われたことが一つ。

確かに、リューネスが奴隷になってから一体何年の時を過ごしたのか忘れる程であるため、時間がたってと言われれば仕方ないと思うしかない。

この世界の奴隷は一度奴隷に落ちたら、一生奴隷だ。

しかも、その大元には神の存在がある。

世界の理の外にいる神。

管理者の一人。

そう言われる彼らを簡単に欺くことは出来ないようだ。


「あのちび店主も言ってたが、数年レベルの奴隷紋なら移せるけど、これは誤魔化しが出来るレベルじゃない、ってなぁ.......」


手の甲に(しる)された奴隷紋を太陽を翳すようにして見るカオル。


「一体リューネスって何歳な―――ぶへらっ」

「なにか言ったかしら?」

「......いいボディ、だったぜ」

「ふんっ」


お腹をさするカオルに、踵を返して元来た道を戻るリューネス。

途中、二人のすぐ側を、小さな子供がローブで全体を隠す人物に手引かれていたが、気付かずにすれ違った。


「おい、バカ先にいくなよ、俺平衡感覚が―――」

「泣き言なんて聞きたくないのよ」

「なに怒ってんだよ? あ、あれか、自信満々に『なら、私の(私が掛けた)奴隷契約も移すことは出来ないのよ』って胸張ってたら、『はいよ』って一瞬で腕輪に移されたことか? あのときの自分の手と俺の首輪が外れる様を見ていたリューネスの顔ときた、ら.......」


身ぶり手振りで、さっきの出来事を再現するカオルに、リューネスはニッコリと微笑む。


「きたら?」


普段は無表情のリューネスが笑顔のまま問い返す。

星明かりのような銀髪に整った美しい彼女に微笑まれたら、同性すらも魅了しそうだが、カオルが感じたのは『冷たい怒気』だった。


「た、大変珍しいものが見れたと思う」

「そう......」


ずっとニッコリ微笑んでくるリューネスに、内心ビビりながらカオルは思った。


(もう、リューネスをからかうのはやめよう.....)



―――――――――――――


結局、奴隷商会での代金は払わなくて良いことになった。

ここでも、昨日の夜に行われた一騒動で『朝食屋』の店主の娘を助けたことで、無料となった。

はじめは剣呑としていた店主の少女は、それを聞いて一変したのだ。


「まさか、無料になるとはな......」

「思うんだけど、あの子相当愛されてるのかしら? 」


裏通りを抜け、ジグワールの城下町、冒険者ギルド前まで二人は来ていた。


「ここにいるんだから、聞けばわかるだろ?」

「誘拐された次の日に、出勤するほどの精神力を持っているようには見えなかったのよ」

「それもそうか.....」


両開きの扉を開ける。


すると、ガヤガヤした空気が一瞬で凍った。

彼らの目線のすべては、カオルの後ろにいるリューネスに釘付けだ。

カオルに視線を送るものは、大抵が妬みと嫉妬と、あと奴隷となったリューネスを連れているカオルに対する殺意だけだったりする。


「どこいってもこの反応だもんなぁ......」

「カオルが目立つのよ」

「鏡見てこい」


頭をがしがしと掻き、鬱陶しそうな顔をするカオル。

数多の視線を受けつつも、完全に受け流すリューネスは流石だった。


流石に入り口で足を止めるわけにも行かず、カオル達は受付まで歩いていく。

そんな彼らの挙動を一瞬でも見逃すまいと、ギルド内は静寂だった。

そこに、周りをほんわかさせる可愛らしい声が届いた。


「あ、ゆう......おにいさん!!」


そう、朝食屋の娘がいた。



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