「戻る気だったの? 」
日の光を遮る裏路地をどんどん進むリューネスとカオル。
ランタンが欲しいほど光源は乏しく。
未だ朝と昼との中間なのに、深い夜を感じさせる。
右折左折と繰り返すこと15分。
擬似的な夜が終わりを迎えた。
「出れるのか? ああ、太陽が眩しいな」
「ええ、忌々しいわね」
「......そ、そうか」
裏路地の境目は、日の光が闇を浄化するような錯覚。
裏路地の埃が日の光を浴びてキラキラと舞っていた。
その場をすっと抜ける。
カオルは裏路地を抜けた瞬間、張り詰めていた緊張が解けたのか、脱力していた。
不意にいままで通った裏路地を見つめ、眼帯を掻いた。
「ん? どうしたのよ」
カオルが足と止めたことをリューネスは問う。
「い、いや、俺帰り道覚えてないんだけど、帰れるのか? これ」
リューネスはバカを見る目をカオルに寄越した。
「......なんで分かんないのよ? 」
「辛辣だな! おい! いやお前さ、地図とか見てなかったよな、帰るとき道を間違ったら大変じゃねーか」
弁解するカオルだが次第に怒りをぶつけていた。
カオルはリューネスの両手を指差す。
「そもそも、なんでたどり着いたわけよ? 俺てっきり自信満々に行くから地図でも持っているのかと思ったんだけど、その手元には何も持っていなかったことに、裏路地出るとき気がついたわ! 」
声をあらげるカオルにリューネスは先程と同じく冷たい視線を送る。
カオル曰く、若干の憐れみも籠っていたそうだ。
「道順、書いてあったじゃない.....」
「は? 真っ暗で何も見えなかったし、壁にはそういう痕跡も無かった筈....」
カオルは眼帯を弄りつつ思いだそうとしていた。
「ええ、壁にはなにもなかったのよ」
「じゃあ、どこに? 」
「大気中の魔力粒子結晶体に『道順←』って」
「......見えなかったんだけど」
「結構薄めだったからかもしれないのよ 」
リューネスは自らの魔力で再現させてた。
目の前にぽわんと浮かび上がる。魔力の集まりで出来た標識。
そして、リューネスは『順序←』の魔力濃度を裏路地と同じ濃度にした。
だんだんと濃度が下がっていく。
「みえない....くそっ、俺は一人じゃ戻れないってことかよ」
「戻る気だったの? 」
「......否定はしない」
顔を背けるカオルの横腹に裏拳を放ったリューネスは、悶えるカオルを無視して裏通りを進む。
ジグワールの裏路地や、裏通りは複雑になっている。
そこを常に通る住人は、魔力で出来た方向指示に従い迷うことなく大通りと裏通りを行き来するのだ。
この世界に住まう子供ですら、目に見ることが出来る常識的な物なのだ。
しかし、現在のカオルは子供ですら見える魔力がみえないのだ。
(こっちを使えば見えるんだけどな.....)
一通り悶えた後、眼帯をいじるカオルは、ちょっと先で待っていてくれる相棒をおう。
目的地はすぐそこだ。