「コカトリスは強いだろ!」
『朝食屋』の店主に教えられた通り、ジグワールの大通りを進むカオルとリューネスは、先程から街が活気づいてきていたことに気がついていた。
時間で言えば、朝の8時くらいだろう。
通りに面した店が開店の準備をしている。
準備を終わって回転しているところもチラホラと見えた。
カオルは今まで山に籠っていたため、久々の人混みに辟易していたが、まだ、朝の時間であり昼くらいがピークに達することを考えると、まだマシかもしれないと思っていた。
リューネスは、カオルと違いキョロキョロせずに目的地に向かって歩き出している。
その後ろをカオルがついていく。
カオルは、人にぶつからないようにして避けて歩くが、前を進むリューネスは相手に避けさせていた。
リューネスを避ける男も女も、白髪赤目の美少女に視線を送っている。
そうなると、後ろを歩くカオルはリューネスを見とれていた人たちを、さらに避けてかなければならないのだが、
「おっと.....で、目的の奴隷商ってどこにあんのよ?」
「ん?あそこにある『クリウス』っていう店の裏側みたいなの」
リューネスが歩きつつ左側にある看板を指差す。
店の内部は乱雑して統一性が皆無。
つまり『クリウス』は質屋のようだった。
その店の隣に小道がある。
薄暗く不気味な雰囲気だ。
「......まじでここに行くのか?」
「なにビビってんの、カオルは『闇に潜む黒龍』を倒してるじゃない」
「いや、あれは俺にとってファンタジーというか勇者の血が騒いだけど、これは物騒な予感しかしない.....てか、バットエンド直通の予感て言うの?」
「何言ってるかわかんない、大丈夫よ、殺られたらやり返せばいいの」
「殺られるの!?ってっちょっとリュー!?」
カオルは、暗闇の中にどんどん進むリューネスにため息をはきつつ覚悟を決めるしかない。
(はぁ~.......あの不死の王女、俺の気持ちも分かってほしい)
嘆きつつも後をついてくことにした。
「おそい!チキンなの?コカトリスなの?」
「コカトリスは強いだろ!」
完全に闇に染まった裏路地から赤く光る目がカオルをとらえている。
次第にカオルの姿も大通りから消えていった。