「来るな......お前を殺しそうだッ」
はじめましてよろしくお願いします。
超不定期ですが、それでもよろしければどうぞ。
崩れる城。
燃える街。
焼け焦げた臭い。
壊れた噴水。
綺麗な大通りは見る影もなく。
教会の鐘は地に落ちた。
獣のような咆哮。
歪な頭。
口許には汚く溢れた水。
赤い、赤い、赤い水。
魔物。
化け物。
怪物。
異形。
呼び名はなんでも、
襲うは人の形。
赤い血が出る人形達。
ふと気づく魔物。
正面には小柄な人形。
たわいもない。
一呑みでいい。
「――――っ」
人形が喋る。
真っ黒の髪の人形。
若い女の肉は美味しい。
魔物の頭にはそれしかない。
開かれる口。
丸呑みにした。
魔物は―――破裂した。
飛び散る緑色の血飛沫。
魔物は驚いて体に眼を向ける。
そして、そのまま後ろへと倒れた。
最後に見たのは、
聖なる輝きを持った剣と、星の光を吸収し続ける光の槍を持つ黒い髪の少女の姿。
その身には、返り血すらついていない。
月明かりと、炎に照らされる少女はなんと美しいことか。
憂いにある視線はある一画へ。
「先輩.....わたしは―――」
少女の呟きを聞くものはいない。
少女は悲鳴が聞こえる所へと駆け出していった。
なぜなら少女は勇者だから。
一緒に召喚された男が例え死んだとしても。
守れるモノ全てに手を伸ばす。
「必ず―――終わらせてきます......だからっ」
少女の姿は彼方に消え、崩れ落ちる瓦礫が声を遮った。
―――――――――――――――――――
暗い暗い夜。
深い闇。
場所は裏路地。
どこかで魔物が嘆く声が聞こえる。
散らばる残骸。
周りは緑色の水溜まり。
ひしゃげたゴミ箱。
いや騎士の鎧だ。
赤黒い血が通りの炎に照らされている。
「うわあああああああああ、やだぁやだぁあああ」
そんな場所で、大声で泣き叫ぶ高い高い声が響く。
泣き叫ぶ彼女は色素を抜いたような真っ白の髪を無造作に垂らし、病的に白い肌を持っていた。
頬に伝わる涙は月の涙のように綺麗で幻想的で、でも、
身体を汚す赤と緑の色が、彼女の美しさを台無しにしている。
石畳の床。
染み込んだ様々な液体。
「私を一人にするのですか?御主人様......」
空に向かって叫んでいた彼女が視線を下に向けた。
チラリと見える武骨な首輪。
刻まれた紋章。
彼女の紅い紅い両目から透明な涙が溢れる。
その涙の行き着く先は――――
彼女の真っ白のローブを真っ赤に染める要因。
片腕を半ばで失った青年。
涙は青年の額から、吹き飛んだ左目があった場所へ流れる。
しかし、青年は動かない。
青年の手からは赤い液体が流れ続け。
彼女が押さえていた腹部も次第に赤く染まっていく。
嘆く彼女。
しかし、瞳の奥には狂気染みた何かを感じさせる。
「―――絶対にダメ。そんなの許さない。」
段々と冷たくなる青年の身体。
触っている彼女はそれがよく分かる。
彼女は自らの手を、青年の腰元に転がるナイフで切り裂いた。
溢れる赤い血。
激痛に耐える彼女。
「っ!一緒に、永遠に一緒だと貴方は言った!」
涙を堪え彼女は手を握りしめる。
流れる血は青年の上に。
青年の血と彼女の血が混ざった時、混ざり合ったところから仄かな赤い光漏れる。
それは暗い裏路地であっても弱々しい光だ。
彼女は何滴も垂らしつつ何かを紡ぐ。
「―――我、ここに不死の王女として――」
彼女の声は歌声のように。
溢れる悲しみを歌うように。
愛しい人に捧げるように。
紡がれる歌声のような詠唱符歌。
それにともない彼女の血は光だし、周りの血ですら生き物のように動き出す。
彼女を中心に広がる幾何学模様。
魔方陣。
魔力を糧に行われる魔法。
大きさから大魔法。
「―――老化を許さず、廃退を許さず、天への道を閉ざし―――」
段々と赤く輝きを増す魔方陣
「―――魂の自由はない、汝は我と共に、汝と我のために、永久の時を流転せん―――」
高まる魔力。
街全体を振動させる。
魔物の警戒の叫びが聞こえる。
一際の高まりを見せた魔力は爆発した。
吹き荒れる暴風。
倒壊をしていく建物。
しかし、それだけだ。
爆心地には変化ない。
いや、周りを色付ける赤と緑が綺麗さっぱり消えていた。
降り注ぐ月明かりが、彼女の白い髪を透く。
「っ!―――ぁぁ」
ちょっとだけ子供ぽさが残る声。
青年の声だ。
でも弱々しい。
ゆっくりゆっくりと手を伸ばした青年は、彼女の銀に輝く白い髪に触れる。
彼女はそんな青年の手をやさしく握る。
「今はまだ寝るの」
青年の顔にやさしく手を翳した。
青年は安心したのか寝息をたて始める。
「ここ裏路地なんだけどね」
クスっとやさしく笑う彼女は、先程までの覇気迫る雰囲気が嘘のようだった。
なんども、なんども青年の頭を撫でていた。
魔物の声が聞こえなくなり、先程の爆発で火災は鎮火。
生きているものがいるのか不思議な静けさだ。
彼女の耳に、ガシャガシャという鎧特有の音が聞こえた。
人数は8人。
足取りから精鋭。
しかし、疲労困憊なのだろう。
優雅さがない。
彼女はその場で警戒を強める。
先程の大魔法を使ったのは彼女だ。
それほどの魔法は人間なんかに使えるものではない。
それこそこの青年と勇者くらいだろう。
もし襲ってきたら皆殺しにしてでも逃げよう。
彼女はそう考えた。
例え、青年が人を殺すことを辞めるように『お願い』されていても
足跡は彼女から15m手前で止まる。
丁度通りの境だ。
軽い足取りで一歩踏み出したのは黒い髪の童顔の少女。
彼女に劣らず美少女である。
月明かりが照らす中。
立ち止まり動きを止める彼女達に、少女の後ろにいる騎士甲冑の男達は息を呑む。
異様な雰囲気。
「......先輩は?」
少女の躊躇いがちに聞かれた声に、彼女は坦々と返す。
「何のよう?」
彼女から放たれる剣呑とした気配が一層濃くなる。
「ぁっ、生きてっ」
少女は青年の方が動き呼吸していることを知ると、嬉しさで駆け出したが.....
「来るな!......お前を殺しそうだ」
明らかな憎悪と殺意の波動を一身に受けた少女は――――――――