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魔神オークの願い  作者: 馬神大久
第一章 魔神オークの願い
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第二話   頑張れアイナ!(2)


「ジジ君と離れてそろそろ三年かしら?」


「はい、ジジも成長してると思うし、合うのが楽しみです」


 えへへっとはにかむアイナにカエデが余計な突込みを入れる。


「思春期の男を三年もほっとくなんて、アイナは勇気がありますね。ジジさんでしたっけ? 待っててくれてると、いいですね」


 又もやカエデの余計な突っ込みで話しが明後日の方向へ向かいそうである。

 受けて立つ気満々のアイナは、分かってないなーっと言いながら語り始める。


「あたし達ね、ジジが産まれた時から一緒にいたのよ。ジジの事はよく分かってるし、ずっと一緒にいるって約束したものっ――たかが三年、大丈夫に決まってるわよ」


「アイナの相手って事は希少な男の高霊格者なんですよね? 普通、周りの女性がほっとかないですよ? 可愛い娘達が選り取り見取りなんですよ? 鬼の居ぬ間に何とかって言うじゃないですか」


「鬼って誰よ! それにジジの霊格はあたしと並ぶ高さなの。だから女王の呪いもかなり強くて……子供の頃なんて街を歩いてると目が合っただけで切り付けられた事がある程なんだから! あたしだけはずっとジジを支えてあげるの……誰にも邪魔されずに一緒に生きてく為に頑張って修行してるんだから!」


 この世界は兎に角、男に厳しい。努力しても魔力を稼ぎ霊格が上がるにつれて精霊女王の呪いは強くなる。普通に生活している程度の男なら何の問題もないのだが、レベルの高い霊格者の男になってくると世間から汚物を見るような目を向けられて、店や宿の入店拒否など酷い仕打ちを受ける。

 ジジくらいの霊格になってくると、街の一人歩きは自殺行為であり、人と視線を交わすだけで死闘が始まってしまう。子供の頃から霊格の高かったジジは何度も切り付けられ、殺されかけた。その都度、常に側にいたアイナがジジを守り抜き、手加減なく派手に返り討ちにしてきた。故郷のペト村でジジとアイナに付けられた二つ名は『ヒモの魔王』と『切り裂きアイナ』、知らぬは本人達ばかりであった。

 これだけの問題を引き起こす程にジジの呪いは強いのだが、アイナには全く影響がなかった。愛の成せる技――と言っているのはアイナだけであり、実際には霊格の高さに起因している。女王の呪いは霊的な存在感を放つ霊格の差を呪いに変えて他者に拒絶反応を起こさせるものであり、ある程度の霊格を持つ者であれば呪いへの耐性が備わっており、さらに霊格が近い者同士であれば呪いの効果が全く出ないのであった。


 またアイナは気付いていないがジジの様な高霊格者の男にはもっとやっかいな側面があった。それは男の高霊格者が極端に少ない事に起因していた。

 カエデが言うように高い霊格を持つ女性達が釣り合う男を欲している事は事実であり、その最たる存在が王族であった。長い歴史の中で血は薄まりつつあるが王侯貴族の霊格は比較的高く、高霊格者が生まれる確立も高い。

 血筋を残す事に固執する家柄も多く、子が出来る確立が飛躍的に上がる男の高霊格者の需要は非常に高い。はっきりと言ってしまえば種馬扱いである。

 お互いの霊格が近くなければあまり意味がない為、ジジくらいまで霊格が高い者の需要は逆に下がってしまう。男の霊格が高すぎれば子を成す以前に殺生沙汰がおこってしまう。しかしジジが必要となる程の高霊格者の女性がお家の事情で追い詰められて、そこでジジの存在を知ってしまえば間違いなく誘拐事件が起こるだろう。

 結局のところ、ジジの存在は殆ど全ての人間から徹底的に忌み嫌われるが、極々一部の高霊格者からは病的に切望される可能性があった。

 実際に二人は知らないが、数件の引渡し交渉と誘拐未遂が発生している。全てジゼル達が暗躍して揉み潰してきただけであった。進行中の交渉案件もあるのだが、ジゼルとしては今後の事はそろそろ成長してきた二人に考えさせるつもりであった。主にアイナ次第であろうが…… 

 どう転んでもジジの存在は色々な意味で傍迷惑でしかなく、二人の人生は前途多難であった。


 ジジとの事をあれこれ思い出して自分の世界に入り込んで酔いしれているアイナに、エマが突っ込みを入れる。


「加護持ちの娘なら平気じゃないかしらね、あの村の近隣にも数人いたはずよ?」


「ジジが相手にする訳ないじゃないですかっ。 それにジジと釣り合う高霊格者で可愛い娘がいない事は確認済みです!」


「やっぱり心配だったんじゃない。でもフリーの娘が依頼絡みで来てるかもよ? 最近の女の子は積極的だし、ジジ君押しに弱そうだしっ」


「ジジは大丈夫です! それにカリーヌさんが守ってくれます!」


「カリーヌ自身はジジ君ぐらいの子供には興味ないでしょうけど――でもカリーヌって合理的に必要に応じて利を取るタイプよ? 有望な娘がいたらジジ君を餌にして一家に引き摺り込むわよ!」


 目を白黒させて口を半開きで放心するアイナに、満足そうに満面の笑みを浮かべたエマがさらに追い込みをかける。


「私もジジ君に会った時は全然平気だったわよ? あなた達もかなり育って来たし、私もそろそろ引退してゆっくりしてもいいわよね。そう言えば、ジジ君って笑うと可愛いわよねぇ」


「ななな、なによっ、エマさんまで! ジジはあたしのなんだから!」


 少し涙目になってきた本音の漏れるアイナとは対照的に、エマはニタニタ笑って、一人目は女の子がいいわ~などと言ってのける。下を向いたカエデは笑いを我慢してぷるぷる震えていている。何気にアイナの扱いが酷く見えるが、彼女達に非はないのである。男のいない年頃?の女を前にして昨日からずっと浮かれて遠慮なく惚気ているアイナの自業自得であった。


「そう言えばジジ君と前に会った時、ずっと私の胸に目が釘付けになってたわよ~」


「あたしの胸だって、ジジはいつも見てくれます! ジジの背中とか腕に押し付けると、いつもうれしそうにするんだから!」


「ジジ君も男の子だしね~ 私の方が大きいから喜ぶんじゃない? 誘ってみよっかな~」


「あ、ああたしだってまだ大きくなってます! ジジは夜一緒に寝てるといつも嬉しそうにあたしのを触ってくるんだから、エマさんのなんて必要ありません!」


「フ、フケツです! そいつ、ただのヘンタイじゃないですか!」


「「ちっぱいは黙ってなさい!」」


「なっ、○×△※□……」


 心無い二人のハモりに一発ノックアウトされたカエデであった。完全に話しが脱線してしまった三人は、本来の目的を完全に忘れているようだった。


『遊んでないで、そろそろ仕事しましょうね』


 窘める様な声が各々の心の中に直に響いてきた。カエデの側で伏せていた大きな狼が、彼女の顔を下から覗き込んでいる。カエデと同化した白狼の霊獣シロであった。体長二メートルはありそうな体躯が真っ白な毛皮で覆われている。

 シロの声帯では人の言葉を話す事が難しい為、お互いの亜空間を用いた魔力感応によって意思の疎通を行っている。

 シロはカエデにだけ聞こえる様にしてまだ成長する可能性を示して慰めた後、首だけをアイナの方に向けて優しく諭すように語り掛けた。


『独り占めは良くないわ、ファミリーなんだから皆で仲良く共有しないさいね』



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