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クルツ

作者: 白い秋

 欠伸を噛み殺す。

 眠気と格闘しながらなんとかこの時間を耐え抜こうと奮闘する。

 そんな俺の頑張りをあざ笑うかのように、季節はずれの風鈴が聞こえる。

 何処の家からだろうか?風鈴にはヒーリング効果があり、実際に体温も下がるらしい。……ま、ソースは確かではないが。

 付け忘っぱなしのまま忘れていたのだろうかわざとだろうか。後者ならば嫌な奴という烙印を脳内で押さねばなるまい。

 ……他人の家などどうでも良いか。

 そう思うことにすると脚を進ませる。秋特有の微風が吹き、微かに風鈴の音がまだ聞こえる。

 公園に差し掛かる。子供達の声が少しする。幼児がはしゃいでエネルギーの発散をしている。

 ほほえましい光景に口角が少し緩むと、楽しい時間の邪魔をしては悪いと、遊び場から距離を置いてベンチに座った。

 太陽は水平線で半身浴中であり、赤蜻蛉が飛ぶくらいには夕焼け小焼けだった。

 綺麗だな、と何故かそう思った。

 俺の意思では無くどこからかシグナルが送られてきたかのように、不意にそんな言葉が頭に浮かんだ。

 文字通り、振って湧いた。

 それと同時に、日常生活を過ごしていて何故この感情が表れなかったのか不思議に思った。

 何故、今この夕焼けのみを綺麗と思ったのか。

 日没というのは、何度も飽きるほどに見ている。

 子供の頃は特にそうだった。

 少し離れた幼児たちを見やる。

 公園で一日中遊んで砂塗れになり……友達と遊んで時間が吹き飛んで、最終的には親に怒られる。

「こんな時間まで何やってたの?!」

 大体な口上はこんな具合だったのだろう。

 そして、その後大体楽しかった?と問われ、大きく頷くと笑いかけてくれる。

 親である以上は必要な一幕なのであろうな、と、今になると感じる。

 遊び呆けて時を忘れ、気づいたときにはもう遅い。

 その気づく時のメタファーが夕焼けであった。

 母親の怒る顔が夕焼けに重なって見えたものだ。だが、不思議と嫌な気持ちは無かった。

 一日一日が、妙に充実していたからだ。今日が終わっても、明日があるさ。そう心から思えた。

 ……今の俺はこの光景をどう見ているのだろうか。

 半分の太陽が、少し滲んだ。

 欠伸をして涙でも出たのだろう。

 そういうことにした。

 ……綺麗だな

 その感想しか浮かぶ物はなかった。それに俺が縋っているかのように。

 手のひらに、ぽたりと水滴が一粒落ちる。

 ……ああ、大きな欠伸をしてしまった。

 嗚咽が漏れた。

 少し俯いてみると、働き蟻がえっちらおっちらと、生物の原型も無いものの運搬をしていた。

 群れを成して、黒い塊が餌の神輿を担いでいく。

 ……この光景はどうなのだろう。

 人によっては、食べられるなんて可愛そう。見るのもつらい、と思うのだろう。

 人によっては、食べて食べられるのは自然の摂理。実に美しき光景よきかなよきかな。と思うのだろう。

 当の俺は無感動でしかなかった。

 ああ……蟻も頑張ってるんだな、それくらいだった。

 子供のことはチャイムでしかなかった夕焼けが今は綺麗に思えるように、この弱肉強食も綺麗に思えるのだろうか。

 ……いや、もしかしたら全てのことを綺麗に思うことはできる……かもしれない。

 その環境、その状況、その精神状況。

 それによって人が何を美しいのかが決まるのだろう。

 下手をしたら俺でさえ綺麗だと思う人もいるのかもしれない。

 いたら即刻病院行きを進めておこう。もれなく。

 それならば、心持ち一つで美しくも、醜くも世界は見えるのだろうか。

 美しくも醜い世界とは、成程。面白い言葉を先人は残してくれる物だ。

 少し、立ち上がってみる。丁度良い風が体を撫でていく。

 この風は?……まあ、綺麗なものだな。少なくとも、気持ちの悪い物ではない。

 横目で幼児を見る。問答無用で綺麗。と、いうより純粋で微笑ましいものだ。

 

 世界は短縮されている。

 人は少しの物しか認識できず、認識した物の中でも感情と気分によって細分化がなされる。

 プラスのフィルターをかけるもマイナスのフィルターをかけるも、自分次第ということなのだろうか。


 ああ、風鈴の音色が綺麗だな。

お目通し、有難うございました

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