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第二話:母、エルザ

さっそくお気に入り登録してくれた人に感謝です!


森を抜けた先。

なだらかな土地が広がるその場所にライアとアルトの故郷である村はあった。


そして、その村の入口。


「本当にお願いだからさ。お風呂に入ってよ!」


「無理」


「無理じゃなくて! 本気で臭いんだよ! うわっ、ハエ飛んでるし!」


村に無事帰り着いたライアとアルトは未だに口論していた。


「そんな我が儘言ってたら、おばさんに言いつけるぞ」


「アルト、卑怯……」


アルトが言ったおばさん、自分の母親なる人物を思い浮かべて、ライアはたじろぐ。

いくら転生者で前世が凄腕の剣士でも、自分を育ててくれた産みの親にはさすがにライアも頭が上がらない。


ここは逃げよう───。


自分に不利な状況で戦い続けることなど、ライアはしない。


アルトの隙を見て、駆け出した。


「あっ、こら待て! 逃げるなあ!!」


逃げるとは失敬な。

これは戦略的撤退だ。


ライアはそう自分に言い聞かせながら、さらに走るスピードを上げようとした。


しかし、それは叶わなかった。


「あうっ」


突然、誰かに首根っこを捕まえられた。


「ようやく戻ってきたと思ったら、またどこかへ行くつもりだったのかい? この不良娘が」


背後から首根っこをつかんだであろうよく知る人物の声が聞こえてきた。


「……おかあさん」


ライアの首根っこをつかんでいたのはライアの母親であるエルザだった。


「いったい五日もどこをほっつき歩いていたんだい。それに年頃の娘だって言うのにまたこんなに汚くして」


娘と同じ黒髪を持つ彼女は鼻をつまみながら、娘のライアの長い髪とは違う、そのショートカットの髪を揺らす。


「はあ…はあ…、あっ、おばさん」


「あら、アルト君」


そこへライアを追って、息も絶え絶えなアルトが現れる。


「薬草は採ってこれた?」


「あ、はい。これですよね」


何とか捕縛から抜け出そうとして、もがいているライアをがっしりと押さえているエルザにアルトは頼まれていた薬草を懐から取り出して、見せる。


「そうよ、合ってるわ。ちょうどこの種類の薬草をきらしていたからねえ」


エルザは村で唯一の薬師である。

薬師としての腕はなかなかで、村人たちは怪我や病気などをすると、必ず彼女のお世話になる。


「道中、何にもなかったかい?」


「ああ、魔物に襲われましたけど、ライアが助けてくれました」


「あら、そうなのかい。ライア」


抜け出すのを諦めたかのようにもがくのをやめたライアはこくりと頷いた。


「ふうん。ま、何にせよ無事でよかった。ご苦労様、アルト君。それとその泥とかで汚れた服、着替えておきなさいよ」


「ああ、そうですね。あのお(・・・・)が来るんですから」


二人が話している内容にライアは首を傾げる。


「何かあるの……?」


「ああ、五日もどっかに行ってたあんたは知らないだろうね」


エルザはやれやれとため息をつく。


「王国の第二皇子のディアノーグ様がこの村を視察にいらっしゃるんだよ。一応、この村も王国の領土に入ってるからね」


アルトが得意気に語る。

なぜ得意気なのかわからないが。


「しっかし、皇子様も物好きだねえ。こんな辺境の地までわざわざ視察に来るなんて」


「ディアノーグ様は民にお優しいお方だとの評判ですから」


「………まあ、来るからにはそれなりにおもてなしをしないといけないからねえ」


「…………」


ライアは嫌な予感を察知した。


「こんな姿の娘を皇子様に見せられるわけがないわよねえ。というわけだからライア、風呂に入りなさい」


「やだ」


エルザがゴチンとライアの頭に拳骨を落とす。


「入れ」


「……はい」


素直にうなずくライア。


「それでよし」


「ははっ、相変わらずおばさんには頭が上がらないんだね、ライア」


笑うアルトを横目に、言質をとったエルザは満足そうに頷いた。


しかし、それがいけなかったのだ。


諦めたように項垂れたライアを見たエルザは油断して、思わず首根っこをつかんでいた手の力を緩めてしまった。


そして、そんなチャンスを逃すライアではなく、エルザの手を振り切って、脱兎の如く逃げ出した。


「あっ」


気づいた時には後の祭り。

あっという間に村の外へと駆けていくのが見えた。


「……あんの不良娘ェ!!」


「はあ………」














「ここまで来れば……」


ライアは森ではなく、平原側の方へと出てきた。


別に理由などない。

たまたま逃げた方に平原があっただけの話である。


「……」


ごろりと地面に寝転がった。

草花の香りが鼻に広がる。

日光でほんのりと暖かい土の感触が背中に気持ち良さを伝える。


そして目の前には青い空。


「………広い」


ライアはこうして何をすることもなく、ただ空を眺めるのが好きである。


何故か昔から空を眺めると、とても心が安らぐからだ。

だからいつも定期的にこうして寝転がり、空を眺めるのだ


「ほっこり……」


よくわからない言葉を呟きながら、ライアは目を瞑った。


……………………。


突然、ガバッと起きあがる。


「今の……」


かすかだが確かに聞こえたのだ。

剣戟の音が。


耳をすます。


「…………!!」


間違いなく聞こえた。

近くで戦っている。

音が聞こえた方角へと目をこらしてみる。


いた。

馬車のようなものを何かに襲われている。


……別に助けなくても全く問題ない。

何も関係ないのだから。

めんどくさいことはお断りである。


「………」


再び寝転がる。


しばらくしてさらに剣戟の音が聞こえた。

音が耳の奥に響く。

続いたのは悲鳴。

男の悲鳴だろう。

その悲鳴の残響が耳に残る。


「………」


ライアは顔をしかめて立ち上がった。


そして、襲われている馬車がある方角を見据えると全速力で駆け出した。




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