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第一話:残念少女

何気に思いついて書いてみた。

駄文ですが、皆様のお暇潰しなれたら幸いです。



鬱蒼と茂った森。

見るからに危険そうな森の中で、一人の少年が熊型の魔物に追いかけられていた。


「うわああああっ!!」


「グオオッ!!」


少年は涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら必死で走っている。

対する熊型の魔物は目をつけた獲物が走り疲れたところを喰ってやろうとでも言うかのように少年に付かず離れずの距離を保って追いかけていた。


「た……助け……」


やがて少年は体力の限界が近いのか、そのスピードを落としていく。


熊型の魔物は涎を撒き散らしながら、少年に迫っていく。


少年の顔が絶望に染まろうとしたその時、数十メートル先に小柄な少女が剣を構えて、立っているのが少年の目に入った。


途端、少年の顔が希望に満ち溢れていく。


「ライアッ!!」


ライアと呼ばれた少女は少年よりも少し背が低く、小柄でとても剣が振るえるような体格には見えなかった。


しかしそれでも少女の構えはどこか達人が身に纏うような貫禄を持っていた。


少年が少女のところまでたどり着き、その背後に回る。


熊型の魔物は少女も一緒に喰らってしまおうと思ったのか、そのまま突進してきた。


熊型の魔物がついに少女に喰らいつこうとした刹那――――。


熊型の魔物の首から先が消えた。


頭を失った魔物は直前で足をもつれさせて、地面に倒れ伏した。

その死体の傍らにはさっき消えたはずの頭が転がっていた。


少女は一点の曇りもない(・・・・・・・・)剣を鞘に収めた。


「助かったよ、ライアー!!」


少年は思わず少女に抱きついた。

そして、


「くっさあああああっ!!」


と、鼻をつまみながら叫んだ。










「まずはありがとう、ライア。薬草を採りに行った帰りにあの魔物に襲われたんだ。助かったよ」


「ふうん」


「それはそうとまた臭いよ、ライア! 今度は何日、風呂にはいってないのさ!?」


「……五日」


「五日も!?」


「アルト、うるさい」


少年、アルトと少女、ライアは自分達の村を目指して、森の中を歩いていた。


アルトは鼻をつまみながら、文句をいい続け、それを鬱陶しそうにライアは聞いている。


アルトが文句を言う通り、ライアは臭い。

とてつもなく臭い。


それは何故か。

単に風呂嫌いで何日も体を洗っていないからである。

いや、嫌いというよりもめんどくさいと言った方が正しいが。

そんな風呂嫌いでめんどくさがりなライアは当然と言うべきか、身だしなみにも無頓着である。

本来ならこの地方では珍しい綺麗な長い黒髪である髪の毛も、色もくすんで無造作に一本の紐で纏められて、グシャグシャなポニーテールとなっている。


顔も十人に十人が美少女と答えるような可愛らしい顔をしているはずなのに、今は土や汗などで汚れてしまい、その可愛らしさが激減している。


服も村娘が着るような服ではなく、男衆が着るような動きやすい作業着らしきものを着ている。


もう今年で16才になる彼女はスタイルもかなりよく、出るとこは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいる。


でも悲しいかな。

さっき上げた身だしなみの悪さでその魅力も半減している。


「本当に何で身だしなみだけ(・・)、こんなに酷いんだろうなあ……」


アルトは溜め息をつく。


アルトの言う通り、ライアは身だしなみを除けば、非常に魅力的な少女である。


彼女は身だしなみには無頓着なくせに料理にはうるさいのだ。

料理に対して、彼女は一切、妥協しない。

味にうるさいライアの料理はそれ故に絶品で村人たちには人気である。


さらに彼女は剣の腕もピカイチで、それに嫉妬した腕に覚えのある村の男衆が一斉にライアにかかったことがあったが、全員、ライアの体に触れるどころか、かすることすらできずに叩きのめされた。

魔物と戦う時も怖じ気づくことなく、いとも簡単に斬り伏せている。

以前、ゴブリンの大群に村が襲われた時、彼女はその剣技を持って、一人でほとんどのゴブリンを葬り、村を滅亡から救ったのだ。


しかし、なぜまだうら若い十代の少女がそんな剣の腕を、度胸を持っているのか。


実はライアは転生者なのだ。

かつて前世で剣の道に生きて、幾多の修羅場を越え、世界有数の剣士になり、そして死んだ彼女。


異世界に転生し、初めは魔術や魔物が存在することに戸惑ったが、今は己が前世で磨いた剣の腕を駆使して、平和に村で自警団の一員として暮らしている。


無論、身だしなみの悪さも風呂嫌いも料理の腕も前世で培ったものである。


村人たちはそれを知る由もないが。


しかし、ただ村人たちは口を揃えてこう言うだろう。


『強くて、綺麗で、料理もできる。しかし身だしなみが最悪で全部台無し。本当に残念な女性だ』



「ライア、ちゃんと家に帰ったら体洗うんだよ」


「やだ」


「いやいや、やだじゃないでしょ」


「やだ、めんどくさい」


「ライア!」


彼らはぎゃあぎゃあ言いながら村への帰途を辿っていった。



ご意見、ご感想、お待ちしております。


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