ユキちゃんと雪だるま
あるところに、ユキちゃんという女の子がいました。
ふわふわの雪のように、やさしくてかわいい女の子です。
ユキちゃんは、バスで近くの幼稚園に通っています。
ある冬の日、ユキちゃんの住む町に、雪がたくさん降りました。
雪がやんだあと、町は積もった雪で真っ白に包まれていました。
ユキちゃんのおうちのお庭にも、雪がたくさん積もりました。
お庭においてある石も植木も、雪をかぶって一面真っ白です。
ユキちゃんは大よろこび。
ユキちゃんはお庭に出て、雪だるまを作ることにしました。
手袋をした両手で雪をすくって、ぎゅっぎゅっとにぎりしめ、雪玉をつくります。
そうしてできた小さな雪玉を、雪の上で転がします。
ころころころころ転がしていると、積もった雪がひっついて、雪玉が大きくなってきました。
そうして、大きな雪玉を二つ作ります。
ユキちゃんは、片方の雪玉をよっこらしょと持ち上げて、もう片方の雪玉の上にのっけました。
長い木の枝を二本ひろってきて、お手手にします。
それから、まあるい石を二つひろってきて、お目目にします。
最後に、短い木の枝を二本ひろってきて、鼻とお口にします。
まんまるで真っ白い、かわいい雪だるまが完成しました。
なかなかのできあがりに、ユキちゃんはばんざいです。
ベランダの窓があいて、ママがおうちの中から言いました。
「ユキちゃん、そろそろおうちに入りなさい」
お庭には、まだまだきれいな雪がたくさん残っています。
ユキちゃんは、ちょっともったいないなあと思いました。
ユキちゃんは、お外にいられる雪だるまがちょっと羨ましくなりました。
その夜のことです。
ユキちゃんの夢のなかに、ユキちゃんが作った雪だるまがあらわれました。
雪だるまはユキちゃんに言いました。
「ユキちゃん、雪だるまは一日中お外にいられてとっても楽しいですよ」
ユキちゃんも雪だるまに言いました。
「雪だるまさん、にんげんは幼稚園に行ってお友達と楽しく遊べますよ」
二人は顔をあわせ、にっこりと笑います。
そして、声をあわせて言いました。
「交代しましょ。そうしましょ」
ユキちゃんと雪だるまは、手袋の指と木の枝の指で、指切りをして約束しました。
朝、目が覚めてみるとびっくり。
ユキちゃんはお庭の真ん中で、雪だるまになっていました。
まんまるな頭にまんまるな体。
お目目は石ころで、鼻と口は木の枝です。手もやっぱり木の枝です。
ベランダの窓からおうちの中が見えました。
もう一人のユキちゃんが、パパとママとこたつに入って、朝ご飯を食べています。
おうちの中のユキちゃんの正体は、ユキちゃんが作った雪だるまに違いありません。
交代はうまくいったようです。
ユキちゃんになった雪だるまが、お庭にいるユキちゃんの方を見て、そっと手を振りました。
ユキちゃんも手を振ろうとしましたが、今は雪だるまなので、手が動かせません。
ユキちゃんはちょっと残念です。
やがて幼稚園のバスが来て、ユキちゃんになった雪だるまは幼稚園に出かけて行きました。
その後、パパとママも仕事に出かけて行きました。
今、おうちに残っているのはユキちゃん一人です。
ユキちゃんは雪遊びをしようと思いましたが、雪だるまなので、やっぱり動くことができません。
雪だるまは、ユキちゃんが思っていたよりちょっと不便です。
昨日はやんでいた雪が、また少しずつ降り出しました。
雪はユキちゃんの肩や頭の上にもつもりはじめます。
でも、今のユキちゃんは雪だるまなので、ちっとも寒くありません。
ユキちゃんは、雪だるまはちょっと得だと思いました。
雪は、木の枝でできたユキちゃんの鼻の上にも、少しずつ積もってきます。
ちょっとくすぐったくて、不思議な気持ちです。
どこからかスズメが飛んできて、ユキちゃんの頭の上にとまりました。
スズメはチュンチュンとあいさつすると、また飛び立って行きました。
ユキちゃんは、石ころの目でスズメの飛んで行った空を見上げてみました。
灰色の空から、数えきれないほどの雪のかけらが、次から次へと降ってきます。
まるで、雪の妖精たちが、ユキちゃんと遊ぼうと大勢で舞い降りてきているようです。
雪はしんしんと降り積もり、ひとりきりのおうちはとっても静かです。
まるで夢の世界に迷い込んだみたいです。
ユキちゃんは、雪だるまの生活はとってもすてきだと思いました。
降りしきる雪に包まれて、ユキちゃんはいつの間にか眠ってしまいました。
その夜のことです。
ユキちゃんの夢の中に、ユキちゃんになった雪だるまがあらわれました。
ユキちゃんになった雪だるまは、ユキちゃんに聞きました。
「雪だるまの一日はどうでしたか」
ユキちゃんはにっこり笑って答えます。
「雪だるまはとってもすてきでした。雪がとってもきれいでした」
そして今度は、雪だるまになったユキちゃんが聞きます。
「にんげんの一日はどうでしたか」
雪だるまもにっこり笑って答えます。
「幼稚園ではお友達がたくさんいて、とっても楽しく遊べました」
二人は顔をあわせ、もう一度にっこり笑いました。
それから、声をあわせて言いました。
「元にもどりましょ。そうしましょ」
ユキちゃんと雪だるまは、手袋の指と木の枝の指で、指切りをして約束しました。
次の朝、ユキちゃんはお布団の中で目を覚ましました。
もぞもぞしてみると、体はちゃんと動くようです。
お目目をぱちくりさせて確かめてみると、お手手もにんげんにもどっていました。
お布団を出て居間に行くと、ママがカップにココアをついで持ってきてくれました。
「ユキちゃん、おはようございます。ココアをどうぞ」
ユキちゃんもきちんとあいさつして、カップを受け取ります。
「ママもおはようございます。ココアをいただきます」
ユキちゃんは、ココアに口をつけながらベランダの窓から外を眺めました。
お庭の真ん中では、まんまるの雪だるまが、石ころの目でこちらを見ていました。
雪はもう少ししたらやみそうです。
スズメがどこからか飛んできて、雪だるまの頭にとまりました。
雪だるまは、動かずにじっとしています。
だって、雪だるまは雪だるまですから、動くはずがありません。
でもそのとき、ユキちゃんの目には、雪だるまがにこっと笑って手を振ったように見えたのです。
だからユキちゃんもにっこり笑って、雪だるまにそっと手を振りました。
おしまい。
せっかくのお祭りなので、ぎりぎりですが参加してみました。
普段は、2ちゃんねる創作発表板「『小説家になろう』で企画競作するスレ」での、ゆる~い競作企画の作品を書いています。
興味を持たれた方、どうぞお気軽にのぞいてみてください(´∀`)