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クロス×ドミナンス《旧版》  作者: 白銀シュウ
第6章 坂の上の墓
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【6‐4】  懐古録

【前回までのあらすじ】

アリエルと共に書斎を荒らしまわっていた啓介は間抜けな偶然によって地下室を発見することに成功したのでした。

「ほらっ、大丈夫か?」

「ああ……」


 伸ばされた手を啓介は右手で掴む。

 啓介の手を握った水晶は力を込めて引っ張り挙げる。


「ふぃーっ……なんとか生きて太陽の下に出られたぜ」

「今は月だけどね」


 寂が突っ込むが誰も気にしなかった。

 啓介は後ろを向くと感嘆する。


「それにしてもすげぇな……。脱出方法が地面破壊って」


 6人は1階のリビングに集まっていた。

 リビングの北の方に巨大な穴が開いており、そこから啓介は脱出してきたのだ。


「私に感謝しなさいよね」

「はいはい、ありがとうございます」


 寂はテーブルの上に座ると啓介を見て笑った。


「それにしてもお手柄ですよ、栂村さん」

「あー、ありがと」

「どうやって見つけたんですか?」

「…………ヒミツで」


 暖炉を興味で進んだら間抜けにも落ちて見つけましたなんて言いたくない。

 しかも出会ってから数時間にしか満たない女性には。


(見栄を張らせてください……お願いします)


 蕨にとって啓介は頼れる年上の人のように見えるらしいので幻滅されることは避けたい。

 話を逸らした啓介は左手に持っていた本を長門に渡す。

 長門は啓介から受け取った2冊の古びた本を受け取ると興味深そうに本を観察する。


「とにかく疲れた。……とっととソレ読んで戻ろうぜ」

「他には何も無かったのかい?」

「ねーよ。……ほんとに」


 囚人の部屋と見間違えるくらいに質素な部屋だったと啓介は思った。

 木製のテーブルに置かれたランタンと2冊の本。

 それ以外は何も無い石で作られた広い部屋だった。


「……まぁ、いいけど」


 水晶は赤い色の本と青色の本の内、赤色の本から読み始める。

 本といってもファイルのような形式のものであり、小説や雑誌のような無線綴じではない。


「……それじゃ、行くよ」

「あぁ」

「待ってください!」


 水晶が周りに確認を撮った瞬間に蕨が静止した。

 何事かと全員が蕨の方をむく。

 蕨だけはテーブルにノートパソコンを置いて座っていた。


「通信が来ています……」

「……相変わらず何処で見ているんだか」


 水晶が少しだけ忌々しさを含めた声で呟いた。


「出てくれ」

「はい」


 蕨がヘッドセットを装着してノートパソコンを操作する。

 すると真っ黒な画面へと切り替わる。

 画面の真ん中に『SOUND ONLY』と表示されていた。


「……どうかしましたか?」

『五十嵐蕨さんですか。……全員にこの通信は行き届いていますね?』

「は、はい」

『では、本題に入りましょう』


 寂が息を呑み、依林は息を吐く。

 2人の行動の意図が理解できた啓介も舌打ちをする。

 せめてもの抵抗だ。


『任務が終了したのならすぐにジオフロントへと戻っていただきたいのですが、一体何をしていらっしゃるのですか?』

「……」


 啓介はこの声を聞いて思い出す。

 過去にどこかで聴いたことがある声……。


「テメェ、まさか5月4日の時の!?」

『おやおや、上司にテメェ呼ばわりとは。アナタの幼馴染と同じくして口が粗暴ですね。まぁ、いいんですけど』

「チッ……!」


 啓介にとって自分を暗部に引きずり込んだ全ての始まりの声である。

 思い出しただけで頭に血が登る。


『とにかく機密文書を確保したのならば、すぐに帰還していただきたいのですよ』

「私達にも知る権利はあると思うんだけど?」


 寂は抵抗を諦めないようだ。

 声の主に噛み付く。


『確かに知る権利はありますとも。ですから説明させていただきたいのです』

「どういうことですか?」

『貴方達だけでその文書を解読したところで、超能力に関する記述しか得ることは出来ないでしょう。そこにいる堕天使の力を借りてもね』

「つまり、何が言いたいわけなのかしら?」


 蕨の質問に答えた声の主に寂が再び噛み付く。

 この少女にも何らかの過去があるのかもしれないと啓介は思った。

 声の主はわざとらしく息を吐くと説明した。


『その文書はギルドが数百年かけて探し続けた存在についての記述が載っています。言ってしまえば、ギルドの隠し持つ闇の最深部と言ってもよろしいでしょう』

「最も深い闇……」


 依林が呟く。


(遂に来た訳か……。一番深い闇と接触する時が)

『……詳しい事は私達の上司である十三人衆の方々が話す予定だそうです。とにかく一度、ジオフロントへと戻ってきてもらいたいのですよ』


 言いたい事は伝えましたからね、と声の主は最後に付け加えると通信を遮断した。

 パソコンの画面が元に戻ると、蕨は緊張の糸が切れたかのように溜息を吐いた。

 水晶と啓介はしばらくパソコンを眺め続けていた。


「……どうするの?」


 アリエルが啓介に尋ねる。

 啓介は服の袖を掴んでいるアリエルを見て妙に父性がくすぐられた。

 水晶は頭を掻いてしばらく悩んでいたが、やがて考えが纏まったのか息を吐いて心を落ち着けた。


「一端帰るしかないな」

「それでいいのかしら?」

「今はそうするしかない。少なくとも十三人衆に会えるだけ何らかの価値はあるだろうね」

「私達を騙しているという可能性は?」

「低いはず。……だったら僕達に回収させる必要性が無いからね」


 寂と水晶の談話を聞いて啓介は1つの考えにたどり着く。

 それは余りにも馬鹿馬鹿しく、普段ならば一蹴するような考えであったがこのときばかりは間違いないと啓介は確信し、口に出した。



「もしかして、ギルドは俺達に回収させなければならなかったんじゃないのか?」



 蕨が啓介の方へと振り返る。

 意味が分からない、といった顔をしている。


「どういうことですか?」

「憶測だけど、ギルドにとって“俺達が機密文書を回収する”ということは必要なモノだったんじゃないかと」

「つまり、通過イベントってことかい? 何かを達成させるための過程として使われたと?」

「多分な。……いや、素人意見だから馬鹿馬鹿しいかもしれねぇけど」


 ギルドは“何か”を起こそうとしているという啓介の意見に全員が深く頷く。

 あの胡散臭い組織の頂点が“表の世界の平和維持”のためだけに活動しているとは思えないのだ。


「僕らにギルドは何かをさせたいわけだ。……戦争を起こさせるとかそういった類の」

「私達は生贄ってこと? でも矛盾するわよ。確かに栂村みたいに最上位能力者(LEVEL7)なんていう存在ならギルドが重要視して当然になる。……だけど、それ以外の私達はそんなに強い存在じゃないわ」

「それも含めて何か隠しているんだろうね」


 依林と蕨は黙って水晶と寂の考察を聞いている。

 啓介としても水晶相手に口を挟めるほど聡明ではないので寂に任せている。

 水晶は啓介の後ろにいるアリエルを見つめると顎を撫でながらポツリと呟いた。


「まさか、“堕天使が関わる事態”に関連しているのかも」

「それって一大事じゃないの?」

「だね。……まぁここで溜まっていても仕方が無い。戻るしか選択肢が用意されていないのなら戻るしかないだろう」


 水晶は玄関の方を向くと歩き出す。

 それに続く形で依林とノートパソコンを閉じた蕨もついていく。


「……栂村」

「なんだ、天野」


 残されたのは3人だけになった。

 啓介は玄関の方を眺めながら後ろにいる寂の声に応対する。


「私の直感だけどいい?」

「どーぞ」

「……多分、ギルドはアンタに何かさせたいんだと思う。それは間違いない」

「だろうな」


 啓介はギルドの命令でこの地へと来たのだ。

 それはどう考えても、この地で啓介に何かをさせる必要があったというわけで――


「実は今回のクエスト、指名された人間は私と栂村の2人だけ。両者と面識がある長門が選ばれ、依林と五十嵐は長門の推薦で選ばれたの」

「……俺たち2人か?」


 啓介は歩き出す。

 それに続くようにして寂も歩き出す。


「命を取られるような事はないかもしれない。けど、また厄介なことに巻き込まれるのは目に見えている」

「厄介事か。……俺は今朝まで厄介事に巻き込まれていたんだが……」


 そこまで呟いて啓介は考えた。

 まさか、あの戦いも仕組まれていたものなのではないのかと。


(あのクエストは鶴神を回収するためのクエスト。だったら俺や理奈以外でも良かった……。まさか、ギルドは朝鮮政府が暴走することも神仙組がクーデターを起こすことも……予測して俺達を派遣していたのか?)


 啓介は別荘から下の道路まで続く木製の階段を下りながら考える。

 下では黒いボックスカーの前で水晶と蕨と依林が待っていてくれている。


「……どこまで予測していたかは分からないけど、神仙組が謀反を起こす可能性があるくらいには思ってたんじゃない?」


 後ろから掛けられた声で啓介は現実へと戻される。

 心でも読んだのかと疑うくらいに正確なタイミングだった。


「お前、心を読む能力でも持ってんの?」

「まさか。私は戦闘員だよ」


 3人はボックスカーの前に到達する。

 既に助手席に水晶が、最後部席に蕨と依林が乗っていた。


「早く乗りなよ。……時間はあまりないからね」

「わかってる」


 啓介はドアを開けると後部座席へと乗り込む。

 次にアリエル、最後に寂の順番に車へ乗り込み、ドアが閉められる。

 水晶は運転手である黒服に目配せをする。


「それじゃ……帰ろうか」


 車が発進する。

 それと同時に別荘が紅く染まる。


「マジかよ」

「消防車が来る前にトンズラしないとね」


 紅く燃える別荘を背にボックスカーは駅へと向けて出発するのだった。



そろそろネタを出したい…

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