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クロス×ドミナンス《旧版》  作者: 白銀シュウ
第6章 坂の上の墓
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【6‐3】  祖父の日記

 啓介とアリエルは水晶と別れて2階の書斎へと入り込んでいた。

 暖炉が設置され、ボトルシップやらロッキングチェアやらが置かれた富豪の書斎というイメージがバリバリのこの書斎を2人は手分けして捜索していたのだ。


「第一、機密文書ってどんなモンなんだか……」


 啓介は脚立を使って本棚の一番上にある本を漁る。

 英語で書かれているものばかりで日本語表記の本はほとんどない。


「アリエル、そっちは何かあったか?」

「全然。……言っておくけど、私は超能力に詳しいだけであってギルドに関しては知らないからね」

「知ってる」


 啓介はペラペラと捲っていた英語の小説を閉じると地面に置いてあるゴミ袋に放り込む。

 この別荘は啓介たちが撤退次第、証拠隠滅も含めて放火する予定となっているのでギルドから機密文書以外で欲しいものがあったら持ち帰っても構わないと言われているのだ。

 啓介は欲しいと思った本をゴミ袋に放り込んでいく。


「それにしても機密文書くさいものなんて全くないな……」


 啓介は英文に目を通しながら呟く。

 現在の日本は教育のレベルが上昇していることもあって中学生までに英語を大半の人間が取得するのだ。

 むしろ、それが一般的であり現在の日本で英語を操れない若者はあまりいない。


「こんなことするヒマがあるのなら帰って眠りたい……って」


 欠伸をかみ殺しながら啓介は適当に引っ張り出した本のタイトルを見る。

 そこには『Diary』と書かれていた。


「日記……?」


 人の日記をのぞくのは余り良いことではないないのだが事態が事態なので有益な情報が載っていないか啓介はペ-ジを捲る。


「……コレは」


 日付が1900年代の前半だ。

 確か、殺された会長は70歳だと水晶から聞いていたのでこれは恐らく――


「会長の親父の親父辺りか?」


 啓介はページを捲って情報を探していく。

 筆記体でスラスラと家族の事や仕事のことが記されていたが、達筆すぎることと古過ぎることも合わせてかかなり読みにくい。

 キチンと保存していれば歴史物になったかもしれないな、と啓介は呟く。


「1900年から1915年までのことが不定期にかかれた日記か……」


 パラパラとページを捲りながら啓介は脚立の上に座る。

 そして右手で右耳の通信機を起動させる。


「長門」

『どうしたんだい? 何か発見でも?』

「いや……この別荘ってさ、何時位に作られたものなんだ?」

『?』


 啓介は日記を見つけたことを水晶に説明する。

 日記にならばこの別荘のことが載っているかもしれないと睨んだのだ。


『成程ねぇ……。確かに敵も時間は無かったから日記までは見つけることが出来なかったのかもしれないね』

「それで、この別荘はいつごろなんだ?」

『えーっと、1912年ですね』

「うおわっ!?」


 いきなり別の声が会話に入ってきたので啓介は驚いた。

 この透き通るような声は……蕨の声だ。


『あ、ごめんなさい。で、でも……このチームのサポーターは私なので』

「い、いや別にいいけど。……で、1912年なのか?」

『はい』


 その言葉を聞いた啓介はページを再び捲り出す。

 そして1912年のことについて書かれたページを見つける。


「あったぞ」

『よし、読んでくれ』

「はいはい。……Today,Menber of SlayersGuild came――」

『啓介ー、私英語が分からないから和訳お願いネー』


 依林が啓介の音読を邪魔する。

 啓介は軽く舌打ちをすると和訳して読み直す。


「えーっと、『1912年5月5日、ギルドの人間に連れられて私はインドにて十三人衆との会合に呼ばれた』。……長門、十三人衆って何?」

『非常に珍しい単語が出てきたね。……えっと、十三人衆って言うのはね簡単に言うと“ギルドで一番偉い13人”のことだね』


 初耳だ。

 ギルドで働いておいて今まで上司の名前も顔も知らない啓介にとって13人の人間が世界を股に掛ける組織を運営しているなんていう真実が驚きだ。


『僕達も顔を見たことはないんだけど、ギルドの方針を決めたりする13人だって言われているね。まぁ、一介の超能力者である僕らじゃ一生顔を拝むことは出来なさそうだけど』

『栂村さんは何時か顔を合わせそうですけどね』

「……まぁ、偉い人間だって覚えておく。で、続きだ。『私はそこで十三人衆からいくつかの頼みを受けた。なんでも世界は世界大戦へと向かっているそうで、ギルドもイギリス側に立って戦う必要があるのだと聞かされた』」

『第一次世界大戦か』


 啓介は汚れで読めない部分を指で擦る。

 それでも文字がわからないので前後の文で予測しながら読み進めることにした。


「『その間、ギルドの間でも多国籍の人間が動くと考えられるので機密文書を保管しておいて欲しいそうだ。恐らく、組織内にいるドイツ人やオーストリア人を警戒したものだと私は考えた』」

「続けてくれ」

「『そこで私は戦火から最も遠い場所であろう日本でこれらの機密文書を保管することにした。ギルドもその提案に乗ってくれ、別荘まで建ててくれた。私はそこで別荘の至る場所に機密文書を隠すことにしたのだ』」


 啓介が英文を指でなぞりながら読む。

 隣ではアリエルが覗き込むようにしてみている。


「『敵の襲来も想定して私は最も重要な機密文書を地下に隠すことにした。これならば地上にある機密文書で満足して本当の機密文書に敵は気がつかないだろう』。……以上かね。後は別荘の素晴らしさについて延々と書かれているだけだ」


 啓介は本を閉じるとゴミ袋に放り込む。


『地下室か……。どこに入り口があるのやら』

『っていうかー、地下室の存在を日記に書く時点でアタシはおかしいと思うんだケドー』

「だよな。俺も思った」


 案外、うっかりさんだったのかもなと啓介は一瞬だけ考えたがすぐに次の案件へと頭を移した。


『地上部の機密文書は全部持って行かれたと見て間違いは無いだろう』

『でしょうね。……地下室は無事だといいんですが』

「無事だと思うけどな。この日記大分埃が溜まっていたし」


 恐らく何十年と触られていないのだろうと考えての意見だ。

 それに依林やアリエルも同調したので水晶はしばらく考えてから声を出す。


『とにかく今は地下室を探すことにしよう。何かスイッチ的なものを探してくれ』

「っていうか、能力で地面突き破った方が早いと思うんだが」

『どんな状態で保管されているのかも分からないのに危険ですよ』

「……成程」


 大人しく探すしかないようだ。

 啓介は嘆息すると了解と短く呟いて通信を切る。


「とにかくもう一度だけこの部屋を探し回るぞ」

「うん!」

「……なんでそんなに嬉しそうなんだよ」

「啓介と一緒だと楽しいからね」


 啓介はアリエルの言葉を聞かなかったことにした。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 午後6時47分。


「見つかんねぇぇぇ!」


 啓介は苛立ちを解消するかのために大声で叫んだ。

 そして両手に持っていた本を投げる。


「もう英語見るの疲れた! 寝るぅ!」

「啓介、頑張って」

「ムリ……」


 啓介は目の前の数千冊の本の山を見て半泣きで嘆いた。

 それをアリエルは励ます。


「こういうことは頭脳プレイが得意な人に任せてくれよぉ」

「啓介って肉体派だっけ?」

「いんや、引き篭もり派」


 啓介は視線を窓へと移す。

 外は既に暗くなっており、夕日の移る海が綺麗に感じた。

 オーシャンビューを見ているように思ったのか益々苛立ちが募る。


「畜生! 普通別荘でオーシャンビューって言ったら休暇だろ? バカンスだろ? なんでこんなことに……」


 啓介は中身を捲って全く関係ないものだと判断したのか本をゴミ袋にも入れずに適当な場所へ放り投げられ、部屋の隅へと落ちる。

 部屋の隅では投げ捨てられた本が山を築いていた。


「啓介……。疲れてるの?」

「あのね、徹夜だから。忘れてるかもしれないけど、俺は徹夜明けで激戦明けだから」


 頭を使うだけでも死にそうなくらいに疲れるとぼやくと啓介は再び本を読み始める。

 先程の日記の様に何か書かれた物がないかと必死に探しているのだが成果は一向に上がらない。


「畜生ー……、暖炉に放り込んで灰にしてやる」


 力なく啓介は本を暖炉に投げつける。

 本は見事な弧を描いて暖炉へと吸い込まれる。

 すると、本が何か固いものにぶつかるような音がした。


「?」


 暖炉の傍の本棚の本を全部床に落としていたアリエルは不審な音が気になったのか暖炉を覗き込む。

 そして暖炉の中へと頭をもぐりこませる。


「アリエル、汚いぞ。……聞いてる?」

「啓介、何かあるよ」

「あ?」


 啓介は立ち上がって暖炉の前まで歩いていく。

 するとアリエルは暖炉から出てきて暖炉の奥を指差した。


「何か風が吹いてるよう気がするの。あと、さっきの本がどこにもない」

「……ホントだな」


 頭を突っ込んだ啓介は暗い暖炉の中を見回しながら呟いた。

 真っ暗で先が何も見えないが、微かに風の音が聞こえる。

 そして煤を手で搔き分けるが、先ほどの本も見つからない。


「……まさか、な?」


 啓介は更に奥へと進む。

 アリエルが後ろで危ないと忠告しているが、啓介は進む。


「クッソ、暗いな。あと汚い」


 ハイハイで進んでいるので膝と手が真っ黒になっている。

 しかし服の汚れを気にしていては話が進まないので突き進む。

 

「啓介ーっ、危ないってば」

「大丈夫だって。危なくなったら戻るから……さ……」


 何か急に地面が無くなった……気がした。

 すっかり前があると思っていたので啓介の身体は地球の重力によって非情にも引っ張られた。



「ギャアアアアアァァ……」



「啓介!? 啓介!?」


 後ろからアリエルの慌てた声が聞こえたが啓介は返事を返せなかった。

 啓介の身体は重力に引っ張られて頭から下へと落下していく。

 このまま落ちると頭が悲惨なことになってしまうが、人一人分の隙間しかないこの穴では体勢を入れ替えることが出来ない。


「うおおおおおおおっ!?」


 啓介は両手を突き出すようにして構える。

 そして来る地面に向けて備えた。


「いでぇええ!!」


 地面についた、と思った瞬間に啓介は腕に力を込めたが自身の体重+重力による補正によって着地に失敗する。首と頭の負傷は回避できたが、とても嫌な音が両腕から聞こえた。

 啓介は間抜けな体勢で地面に転がる。


「いっ……ったぁ……」


 両腕が動かないこともあって苦痛に顔を歪める。

 目をうっすらと開けるが、辺りは真っ暗で何も見えない。


「……とにかく、腕が治癒するのを待たないと」


 啓介は寝転がると天井の穴を眺める。

 暗闇でも目が慣れたのかうっすらと見えるので穴の大きさはだいたいわかる。


(あんな狭い穴から落ちてきたのかよ)


 啓介は苦痛を感じないために頭で別のことで考え続ける。

 高速再生が進む両腕の感覚を気持ち悪いと思いつつ彼は考えた。


(ここが……日記にあった地下室なのか?)


 3分ほど経ったために左腕の感覚が戻る。

 啓介はまだ痛みが残る左手を使って立ち上がると右耳の通信機の電源を入れる。


『啓介か? どこにいるんだい? 君の堕天使が随分と慌ててこっちに来たんだが』

「暖炉から落ちたんだよ。……多分、地下室っぽい場所にいると思うぜ?」

『本当かい? 何かあったか?』

「真っ暗で何もわから……うおっ、ついた」


 手探りで壁を触っていたのだが、偶然にもスイッチをした様だ。

 天井から吊るされた大量の電球が一斉に明かりを灯す。


「……あったぜ」

『何があったんだい?』


 水晶の質問に啓介は答えた。



「2つの本がな」




思っていたより伸びてしまった。

多分、第6章自体が番外編的要素を加えた説明章になるっぽいです。

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