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クロス×ドミナンス《旧版》  作者: 白銀シュウ
第6章 坂の上の墓
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【6‐2】  運命の輪

【前回までのあらすじ】

6月2日、栂村啓介はギルド上層部の命令によって山口県下関市へと向かう。

そこにはかつて共闘した長門水晶と自身の契約主であるアリエルが待っていた。

そして、2人と共に今回の任務の舞台へと向かうのだった。

【6‐2】  運命の輪



 4人は木製のドアを開けて別荘へと入る。

 ドアについていた小さなベルが音を辺りに響かせる。

 邸内はログハウスという表現がピッタリな空間だった。

 温かみが感じられる良いデザインと建築センスだなと啓介は感想を心の中で呟いた。


「随分と余裕染みてるじゃないか。…あれから進展はあったかな?」


 水晶はリビングの巨大な樹のテーブルの上で寝転がっている女性に話しかける。

 女性は漫画本を読んでいた。


「んぁー…冷蔵庫の中に入ってた饅頭が旨かったことくらい?」

「はぁ…」


 水晶は溜息をわざとらしく吐いてみせる。

 しかし女性は口の中で饅頭をかみながらその溜息を無視した。


「そもそもさぁ、アタシにこういった案件を任せることが間違いだと思うわけヨー」


 女性は漫画本から目を放して水晶の顔を見る。

 そして隣にいる啓介に目をつけた。


「おおっ、ソイツが噂の新人?」

「そうだね」


 女性は目を輝かせると腕の力だけでテーブルから啓介の元まで一回転して起き上がって飛んできた。

 啓介が驚いて後ずさる。


「アハハー、アタシは曽 依林(ソウ イーリン)っていうの。ヨロシクネー」


 明るそうな印象を啓介に見せつける目の前の女性は啓介の右手を勝手に握るとぶんぶんと振って握手する。


「あ、あぁ…」

「名前からわかると思うけど、彼女は台湾人だ」

「ちなみに18歳! 身長は171cm! 体重はヒミツ! スリーサイズは─」

「はいはい。ところでもう1人は?」


 スリーサイズを暴露しようとした瞬間に水晶が依林の頭をチョップして黙らせた。

 ちょっと落ち込む啓介。

 あと、アリエルにわき腹を抓られて悲鳴を上げる。


「寂ならキッチンにいるヨー」


 キッチンをビシッと指差す依林。

 それだけで局部が揺れるのだからかなり─


「あだだだだだ!」

「啓介、しばらく見ない間に変態になっちゃった?」


 水晶は後ろでやっている夫婦漫才に溜息をついて頭を掻いた。

 隣では蕨が啓介とアリエルを見てオロオロとしていたが無視を決め込む。


「依林…彼女を呼んできてくれ」

「アイアイサー」


 水晶は後ろでわき腹を押さえてしゃがんでいる啓介を見る。


「とにかく、報告会兼作戦会議だ」

「ア、アイアイサー……」


 啓介は半泣きで相槌を力無く打った。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 午後3時。

 6人は依林が寝転がっていたテーブルの前のイスに座っていた。

 年輪が凄いことになっているテーブルの上にはお菓子が置かれていた。


「さて、啓介。君の向かい側に座っている女性が最後の1人、天野 寂(あまの じゃく)だ」

「よろしくー」


 寂はヒラヒラと手を振る。

 それを見た水晶はメンバーの顔を見回すと席に座った。


「それでは、報告会を始めたいと思う」

「イェーイ! ドンドンパフパフー」


 依林が口笛を吹く。

 なんか今までのメンバーと違うのでやりづらい、と啓介は思った。


「(考えたら女性の方が多いんだよな…)」


 元キモオタの啓介としては非常にやりづらい。

 ギャルではないものの、女性と会話する経験が絶対的に不足しているので少し嫌な気分だ。


「(理奈は幼馴染。アリエルや葵、鶴神は妹的ポジション。不知火は…男勝りだからそういう感じに見れない。おぉー、俺の周りってすげーな)」

「天野、僕達がいない間に何か進展はあったかな?」


 水晶は寂に尋ねる。

 赤と色というおめでたい感じの紅白ファッションをした寂は答える。


「特になし。会長の書斎とか漁ってみたけど、それっぽい資料はナシ。持っていかれたかも」

「そうか…」


 特に期待していなかったようで水晶は普通に返事をする。


「…ところでさ、俺たちは何を探しているわけ?」

「あぁ、そうだった。そこまで話して無かったね」


 水晶が苦笑いしながら啓介に説明する。


「どこまで話したかな?」

「会長が殺されたことまでしか聞いてないぜ」

「あーそうだった。…結論を言うと、機密文書を探している」

「は?」


 会長殺しの犯人に報復措置をとるためではないのか?


「ギルドからも“機密文書”を探してくるように言われているんだよ」

「報復は?」

「しないよ」

「え?」


 変な声を出した啓介に右隣にいた依林が突っ込む。


「ギルドは別に報復を取るために私達を派遣したワケじゃないんだヨ」

「そうだね。…第一、犯人もわかっていないんだ。報復も出来やしない」

「はぁ…」


 それで機密文書の捜索だけをしているのかと啓介はムリヤリ納得した。

 何か腑に落ちなかったが無視してしまうことにする。


「家中捜索して見つからないのか?」

「そうなりますね。粗方探しつくしたので…もう全部持っていかれたのかもしれません」


 蕨が眼鏡を拭きながら啓介に言う。

 というか先程は眼鏡をかけていなかったのに何処から出したんだと啓介は思った。


「(場面に応じて使い分けるタイプかねぇ…)」

「一階はどうだった? 怪しいところとか」

「キッチンに怪しいものはなかったヨ。強いて言うなら冷蔵庫の中で賞味期限が切れた食材が─」

「天野は?」

「バスルームは特に異常なし。強いて言うならシャンプーの量が少なかったことくらいしか」

「入ってたのか…。五十嵐さんは?」

「あ、応接間を探しました。あと絶版の本があったので拝借しました」

「おいッ!!」


 啓介が全員に突っ込む。

 こいつらマジメにやってねぇ、と。


「全員すげぇくらいに不真面目だな!」

「え、あ、ごめんなさい…」

「まぁまぁ、怒ると皺が増えるヨー」

「生理中でやる気でないのよ」

「いや、五十嵐。そんなに謝んないでこっちが悪いみたいじゃん! あと依林、それは女性に言え! それから天野、お前だけ生々しい!」


 啓介が息継ぎナシに全員に突っ込み終える。

 水晶が拍手をしていた。


「いやー…一皮剥けたね」

「俺で遊んでんの!?」

「いや、彼女達には期待してなかったからねぇ」


 啓介が力なくテーブルに伏せる。

 左隣でアリエルが啓介の頭を撫でていた。


「まぁ、もう一度彼女達に一階を探してもらうとして僕達は二階の調査でもしようじゃないか」

「すげぇアバウトだな。まぁ異論はないけど」


 水晶は立ち上がると各自に命令する。


「天野、君は別荘の周辺の調査を頼む。地下室とか倉庫とかあるかもしれないし」

「了解ー」

「五十嵐さんは邸内の残留思念を洗って欲しい」

「わかりました」

「依林は…邪魔にならないところで遊ぶ!」

「アイアイサー!」

「おいっ!」


 突っ込まずに入れなかった。


「いや、滅茶苦茶にされるよりは遊ばせておいた方が楽なんだよ」

「いや…その理論はおかしい」


 しかし水晶は無視する。


「では啓介。僕達は2階へと調査に赴こうじゃないか」

「聞いてる?」

「では解散。何か情報を掴んだ時は五十嵐さんに連絡してね」


 依林は席から立つと寂と共に外へと出て行く。

 蕨は席を立つと他の部屋へと消えていった。


「2階には部屋が2つしかないから…右の部屋は啓介達に任せるよ」

「あー…わかったよ。しゃーねーな…」


 早く帰りたいと思いながら啓介は螺旋状の階段へと向かっていった。


顔合わせも済んだので次回からは「調査回」となります。

ギルドや超能力関係のネタばらし回の予定。

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