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クロス×ドミナンス《旧版》  作者: 白銀シュウ
第5章 新月は無慈悲な夜の王
51/60

【5‐15】 夜明け

この物語は、ある程度の史実を織り交ぜながらも完全にこの現実世界とは完全に別の未来を歩んでいる別の世界であり、実在もしくは歴史上の人物、団体、国家とかその他固有名称で特定される全てのものとは、何の関係もありません。何も関係ありません。

つまり、この物語はフィクションです。


【5‐15】 夜明け



 6月2日。

 午前5時21分。

 帝都・長崎に朝日が訪れた。


「いってぇ!!」

「ほらっ、じっとしなさい!」


 啓介の頬に消毒液が塗られる。

 理奈は呆れながら啓介の怪我の手当てに勤しんでいた。

 鶴神はそんな光景を隣で見守っている。


「ほら、これでお終い」

「次はもうちょっと優しくお願いします…」


 啓介はガーゼの貼り付けられた頬を擦りながら呟く。

 

「…それにしても、終わったんだな」

「そうね…」

「そうですね…」


 3人は朝日を眺める。

 1時間前に現地入りしたギルドの処理部隊によって証拠隠滅が都市では始まっていた。

 3人は稲佐山の日の出が見られる場所で座りながら休憩していた。


「人生で一番長い夜だった…」


 啓介が身体のあちこちに巻かれた包帯を見る。

 先程来たギルドの医療班によって治療されたものだ。

 同じような処置が理奈にも施されている。


「大激闘だったわね」

「そうですね」

「そう思うと眠気がすげぇ」


 啓介は欠伸をして寝転がる。

 鶴神は笑う。


「……まぁ、しばらくは休暇だし存分に寝れるわよ。今は任務中なんだからおきてなさい」

「へいへい。…それにしてもお前も無茶するよな」

「え?」

「だってさ、土砂崩れ止める方法が山の下にあるビル全部なぎ倒すだもん」

「高層ビルを潰してあそこで食い止めればあれ以上の侵食は防げるじゃない」


 啓介は理奈の言い訳を聞くと笑う。


「な、なによ。何がおかしいの?」

「いや、お前が無事でよかったなぁって実感しただけ」

「!」


 理奈の顔が真っ赤に染まる。


「人を照れさせてんじゃないわよ!」

「ぐえっ!」




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「─というわけで、栂村氏には急遽行ってもらいたい場所があるのでござる」

「何が、『というわけで』だボケェッ!!」


 啓介は目の前の小太り妖怪の服を掴んで持ち上げる。

 午前8時、真鍋凌が長崎へとやってきたのだ。


「あわわわわ!! 暴力反対でござる!」

「何が次の任務だコラ、上層部呼んで来い」

「ん、栂村様、マスターを許してくれませんか?」


 アリスの頼みに啓介は嘆息して凌を降ろす。


「…で、何で俺なんだ?」


 啓介は苛立ち混じりに凌に尋ねる。


「それはわかりませぬ。しかしギルド上層部からの命令でござる。栂村啓介は現在行っている任務を真鍋凌に引き継いで単身で山口県下関市へ向かえと」

「下関だぁ?」


 啓介に縁も縁もない土地だ。

 啓介の頭の中ではフグくらいしか名産品がない場所としてインプットされていた。


「気になるわ。どうして啓介が?」

「拙者にも…。ただ、栫理奈はこのまま樹神鶴神の護送に集中しろと」

「…匂うわね」


 理奈は腕を組んで考える。


「まぁ、栂村氏。樹神氏なら拙者に任せてくだされ。フヒヒ…」

「ひぃっ!?」

「ボケェッ!!」


 啓介は気味の悪い笑みを浮かべる凌の頭に踵落としを決める。


「失礼な。拙者は紳士でござるぞ」

「テメェ、アリエルの身体ジロジロ見てたらしいじゃねぇか」

「いやいや。単に貧─」

「見てるじゃねぇか!」


 啓介が凌の顔を蹴り飛ばす。

 しかし物ともせずに凌は起き上がる。

 …瓶底眼鏡にヒビが入っている。


「ま、まぁ…そのことはおいといて」

「おい!」

「上層部からそのように命令が出ている今、従うしかありませんぞ」

「……」

「上層部を出し抜きたい気持ちは拙者とて同じ。しかし…今はまだ早計でござる」


 凌はマジメな声を出す。

 鶴神が豹変っぷりに驚いていた。


「…下関では長門氏が待っていると聞いているでござる」

「長門が?」

「えぇ。彼と共ならば大丈夫でしょう」

「…あれ、その様子だと真鍋は俺をナビしないの?」


 啓介が今気づいたように尋ねる。


「えぇ。あちらでは新しいナビがお待ちしているでしょう。五十嵐 蕨という女性でござる」

「げっ!」


 理奈が変な声をあげる。


「おい、またお前に関係ある人物じゃねぇだろうな」

「ち、違う! ソイツと私に不知火みたいな関係はないわよ!」


 理奈は両手を振って否定する。


「…まぁ、行くしかないか」

「そうでござるな。あと、栂村氏の新しい力…“聖人”でしたかな? そちらに関して拙者は調べてみるでござる」

「あぁ、頼む」




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 午前9時12分。

 長崎駅に4人は来ていた。


「啓介、私が居ない初めての任務だけど大丈夫?」

「お前は俺の保護者か」


 啓介は新幹線のドアの前で理奈にぼやく。

 凌が笑ったので啓介は日本刀の鞘で凌を叩いた。


「まぁ、長門がいるんだから大丈夫だ。…それじゃ、行ってくるな」

「後武運を!」


 凌がビシッと敬礼する。

 軍人のように精密で正確な敬礼だった。


「じゃ、いってらっしゃい」

「あぁ」


 啓介はドアをくぐると理奈に手を振る。

 そして鶴神を見る。


「…あ、あの」

「ん?」


 啓介は傍まで歩いてきた鶴神を見る。


「今回の件、ありがとうございました」

「いや…謝るべきだよ。俺は」

「いえ、いいんです。…私、ジオフロントに行っても頑張ります」

「あぁ、またジオフロントで会おうな」


 啓介はしゃがんで鶴神の頭を撫でた。

 すると鶴神はもじもじしながら尋ねる。


「あ、あの…啓介さんって恋人居るんですか?」

「あ? 別に」

「そうですか…。それじゃ、いいですよね」


 鶴神はそう呟くと顔を上げ、啓介の顔を見る。


「?」


 そして─


「「「!?」」」


 理奈と凌、啓介が停止した。


「そ、それじゃ…行ってらっしゃい。啓介さん」


 鶴神は頬を赤く染めながら離れる。

 そして啓介が完全に硬化したまま、ドアは閉まる。


「ぁ…」

「フヒヒ…これはなんという胸熱展開!」


 理奈が呆然として鶴神を指差す。

 指がふるふると震えていた。


「あ、あ、あ…」

「はい?」

「アンタ何やってんの!?」


 理奈が吼えた。


「え、だって啓介さん彼女居ないって言ってましたし」

「だ、だだだだだだからって!!」

「アレ、栫さん啓介さんにしたことないんですか?」

「バッ!? おまっ!? あ、あるわよ!」

「な、なんというハーレム展開!?」


 凌が隣で驚いている。


「こ、子供が一丁前にキ、キスなんて─!!」

「接吻キタコレー!!」

「うるせぇ!!」


 理奈が凌に八つ当たりする。


「初心ですね」

「…やっぱり私、アンタのことキライだわ!!」

「私もです」

「くっ…!! 啓介、ロリコンだったら承知しないわよーーッ!!」


 理奈は今も固まっているであろう幼馴染に向かって吼えた。

 …今日も平和である。



(第5章・新月は無慈悲な夜の王 終幕)

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