【5‐11】 覇王烈昂
この物語は、ある程度の史実を織り交ぜながらも完全にこの現実世界とは完全に別の未来を歩んでいる別の世界であり、実在もしくは歴史上の人物、団体、国家とかその他固有名称で特定される全てのものとは、何の関係もありません。何も関係ありません。
つまり、この物語はフィクションです。
【5‐11】 覇王烈昂
「ぐあああああああああああっ!!」
啓介は耳を塞いで車の陰で爆風を凌いでいた。
耳を塞いでいてもこの爆音は啓介の鼓膜を刺激する。
啓介は隠れていた車と共に遠くへ吹き飛ばされる。
展望台の周囲にあったものはすべて遠くへ、遠くへと吹き飛ばされていく。
啓介はかなり遠くまで吹き飛ばされた。
「いっつぁ…」
啓介は地面から起き上がる。
擦り傷が全身に出来ていてかなり痛々しい。
「……」
啓介は何も言わずに黙って爆発を眺める。
『栂村氏、大丈夫でござるか?』
「あ、あぁ…一瞬死を覚悟したけどな」
至近距離で爆弾を爆発させてしまったのだ。
生きている方が奇跡だ。
「…結局、アイツの能力って何だったんだ?」
『わかりませんな。日本政府のあらゆるデータベースを探ってみましたが…』
「ギルドのデータベースにもねぇんだろ? かなり厄介だったってのは間違いな─」
啓介が言葉を言い終えることはなかった。
爆発による煙が一瞬でなぎ払われたからだ。
「!」
啓介は両手で強風から身を守るが、余りの強風に吹き飛ばされてしまう。
そして後ろにあったオブジェに背中を強く打ち付ける。
「ぐあっ!!」
痛そうな声をあげて啓介は地面に座り込む。
そして半開きの目で展望台を見つめる。
「マジかよ…」
啓介は呟いてしまった。
あれだけやってまだ死なないその生命力に畏怖を抱いてしまったのだ。
『…フラグ立てました?』
「んな考え思いつきもしなかった」
炎の中、立ち上がった人影はこちらへと向かって歩いてきていた。
啓介は息を飲み込む。
いつの間にか雨はやんでいた。
いや、さきほどの強風で雨雲が掃われてしまったのかもしれない。
「……」
啓介は自身の足が震えていることに気がついた。
「(怖いに決まってんだろ。あんだけやっても死なないとか…)」
啓介は両膝を拳で叩いて黙らせると立ち上がる。
その人影は爆炎の中から出てきた。
「お前、外道だな」
大和の姿は様変わりしていた。
服がボロボロになっていたが、そういう意味での変化ではなかった。
「…なんだよ、あの翼」
啓介は大和の背中から生えている翼を見て呟いた。
人間1人は包み込めるくらいの大きさがある鴉のような色をした翼が大和の背中から生えていた。
「…なんだったか? 俺の能力? いいぜ、教えてやるよ」
大和は口から血をたらしながら近づいてくる。
上半身はほぼ裸に等しいくらいに服が燃え落ちていた。
「俺の能力は【七天八討】。説明すっと長ぇから簡潔に説明すると“七曜を操る能力”ってとこだな」
聞きなれない単語だと啓介は思った。
「“火・水・木・金・土・闇・光を操る能力”って言っても理解できると思うがな」
「はぁ…!?」
「『炎』『水』『植物』『雷』『土』『闇』『光』を操る能力だって言ってんだ」
大和はその眼光で啓介を捉える。
『あ、ありえませんぞ…。そんなに複数の属性を有するなんて』
「7種類の属性攻撃を司る力…」
確かに最強と呼ばれるだけの力はあるかもしれない。
「それくらいの力はねぇと神々の超越者を殺すことなんざできねぇよ」
「は!?」
さらっと衝撃の事実を吐いた大和の台詞に驚愕する啓介。
「そこの通信機の向こうのヤツに聞いてみればわかるんじゃねぇか?」
『……』
「おい、真鍋…。どういう意味だ」
啓介はクックックと笑う大和から視線を外さずに尋ねる。
『…詳しい説明は後でします。ただ1つだけ言うならば、ヤツは“堕天使を殺せるだけの実力者”だということです』
「…………」
啓介の思考を恐怖が覆う。
あの数億もの力を行使するバケモンを殺した人間。
それが目の前の男。
「…まぁ、10年前の話をしても仕方がねぇ。本気でテメェを殺す」
「ッ!」
啓介は刀を抜刀し、構える。
しかし、その瞬間に大和は啓介の目の前から姿を消していた。
「!?」
啓介は辺りを見回す。
「うらぁああああああああああああっ!!」
啓介はほぼ反射的によけた。
本能が彼の身体を動かした。
啓介は頭上から降ってきた大和の蹴りを回避する。
大和の蹴りは地面に突き刺さると地割れを引き起こした。
「ッ!」
啓介は地割れを回避する。
「うおおおおおおおおおっ!!」
大和が叫ぶと彼の黒い翼がいきなり伸びて啓介の元へと向かう。
刃の様に尖った翼は啓介の首をかき切らんとする。
「ッ!!」
啓介は走り出す。
黒い翼は地面に突き刺さる。
「(なんだよあの攻撃!?)」
七曜をどう扱えばあんな力が出てくるのだ、と啓介は戦慄した。
「うらあああああああああああっ!!」
大和は左手で地面を殴りつける。
その瞬間、地面の至る所から植物がアスファルトを突き抜けて生えてきた。
「全てを蹂躙して殺してやるっ!!」
「うおおおおおおおっ!」
啓介は刀を構えて再び走り出す。
植物はありえない成長スピードであり得ない形を形成して啓介を捕らえんと襲い掛かってくる。
啓介は左手で刀を持つと右手に能力を発動させる。
「(【腐食ノ手】!)」
啓介の右手は啓介に巻きつこうとする植物を腐らせていく。
しかし、それでも圧倒的に植物の方が数は多いので啓介は追い詰められる。
「だったら…」
啓介は日本刀で細い植物を斬り、右手で太い植物を潰しながら呟く。
「(【舗装練成】!)」
啓介がそう念じると地面のアスファルトがうねうねと動き出し、植物に絡みつく。
「うおおおおおおおっ!!」
右手で太い植物を潰した啓介は突っ込む。
「甘ぇんだよぉおおおおおおッ!!」
大和は空へ向かって咆哮する。
すると絡み付いていた植物が一斉に燃え始める。
その炎は形を形成して啓介へと襲い掛かる。
啓介は走りながら日本刀を仕舞うと能力を発動する。
「(【湖之女王】!!)」
両掌から水のボールが形成される。
「うおおおおおっ!!」
啓介はそれを同時に前方へ向かってレーザービームの様に投げつける。
業火に激突した水のボールは形を形成していく。
「チィッ!!」
大和が忌々しそうに舌打ちする。
炎が形成したナイトと水が形成したナイトがぶつかり合う。
啓介はその下を潜り抜けて大和の元へ突っ込む。
「うおおおおおおっ!!」
「クソがぁああああああああああ!!」
大和は左手に光を溜めて矢のように放つ。
それとほぼ同時に啓介も能力を発動する。
「(【幻影地帯】!)」
啓介の身体が2体に分身する。
「舐めてんじゃぇねええええ!!」
大和の光の矢は途中で二本に分裂し、両方に襲い掛かった。
「ぐあああっ!!」
啓介は腹を貫通した光線に思考の半分を奪われてしまう。
しかし、それでも走り続ける。
「とっとと…くたばれぇええええええ!!」
大和の両手が啓介に向けられる。
そこから紫と黒を混ぜたような禍々しい色をした光弾が放たれる。
「(【光陰ノ矢】!)」
啓介の左手に弓が発生し、右手で弦を引く。
すると光で構成された矢が生み出される。
「うおおおっ!!」
放たれた矢は闇を弾き飛ばす。
「!!」
大和の顔が驚愕に歪む。
啓介と大和の距離はついに10メートルになる。
「なんでだぁああああああああああッ!!」
大和の翼から鋭い羽根が大量に啓介に向かって飛んでくる。
「!!」
啓介は日本刀を抜く。
「うおおおおおおっ!!」
ナイフのように尖った羽根を啓介は刀で弾いていく。
しかし、ほとんどが弾ききれずに身体に突き刺さっていく。
「(【猛毒乱槍】!)」
啓介は刀を持っていないほうの手から巨大な毒の槍を生み出して正面に投擲する。
巨大な毒の槍は羽根を全て溶かしていく。
「うおおおおおおおおっ!!」
「テメェエエエエエエエエエエエエッ!!」
大和は電撃を放った。
紫色の電撃を啓介に向かって全力で放つ。
「見てやがれ!! これがホンモノの電撃だァッ!!」
啓介は右手から電撃を迸らせるとそう叫んだ。
両者の電撃は正面から激突し、空気を爆発させる。
大爆発が両者の間で発生したが両者とも気にせずに突っ込む。
「(…なんだろう、この感覚)」
啓介は爆発の中を駆け抜けているとき、不思議な気分に襲われていた。
「(いつもよりも身体が軽い。…というか、なんか力が漲ってくる)」
そこまでぼんやりと考えた啓介だったが、思考はそこで途切れた。
目の前に敵の姿が見えた。
「ここで死ねェエエエエエエエエエ!!」
大和の咆哮に啓介は日本刀を構えた。
大和は翼を剣の様に尖らして啓介に襲い掛かった。
両者が全力を込めて武器を振るう。
そしてすれ違う。
「「うおおおおおおおおおおっ!!」」
二人は立ち止まる。
啓介は刀を振り下ろしたまま動かない。
大和も翼を振るったまま動かない。
「「………………」」
両者の荒い息だけが聞こえた。
すると大和が膝を突く。
「がっ!!」
大和の身体から大量の鮮血が飛ぶ。
しかし、それ以上に啓介の身体から鮮血が飛び散った。
「!!」
啓介は胸から腹にかけて翼で斬られたのだ。
大量の血を噴出しながら啓介は地面に倒れていく。
「…クソッタレが」
啓介は日本刀から手を離し、地面に伏せる。
「…まだ生きてるんだろ? 立てよ…」
大和は振り返ると血溜りを作って倒れている啓介の元へと歩み寄る。
すると啓介の周囲から植物が生え、啓介の肢体に巻きつく。
「惜しかったな。だが…ここで終わりだ」
啓介は口から血を流しながら虚ろな瞳で大和を見る。
大和は右手から闇を、左手から光を発生させる。
「苦しんで死んでいけ」
そして大和は両手を振るう。
啓介へ向けて。
黒と白の閃光が辺りを包んだ。