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クロス×ドミナンス《旧版》  作者: 白銀シュウ
第5章 新月は無慈悲な夜の王
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【5‐8】  逆襲開始

この物語は、ある程度の史実を織り交ぜながらも完全にこの現実世界とは完全に別の未来を歩んでいる別の世界であり、実在もしくは歴史上の人物、団体、国家とかその他固有名称で特定される全てのものとは、何の関係もありません。何も関係ありません。

つまり、この物語はフィクションです。

【5‐8】  逆襲開始



 帝都・長崎のとある病院。


「……」


 とある病室に啓介はいた。


「……」


 ベットには理奈が眠っている。

 頭に包帯を巻かれ、腕や足など身体の至る所の傷が治療されていた。

 人工呼吸器を口につけている。


「……」


 ベットの前にあるイスに座り込む啓介の身体も治療がされていた。

 頭に包帯が巻かれ、頬にはガーゼがつけられている。

 右腕も包帯がぐるぐると巻かれている。


「……」


 啓介は黙って理奈を見つめ続ける。

 第三者から見れば「彼女を看病する彼氏」のように見えたかもしれない。


「……」

『栂村氏』

「わぁーってる」


 啓介は立ち上がると部屋の隅に置いてあった理奈の日本刀を1本だけ借りる。


「理奈、借りてくぞ」


 啓介は病室から出ようとドアへと向かう。

 スライド式のドアの取っ手に触れたところで啓介はもう一度だけ理奈の顔を見る。


「…絶対、帰ってくる。今度こそお前を一人ぼっちには…しないから」 


 啓介は扉を音も立てずに動かす。

 啓介が座っていたイスにはメアリーがいつの間にか座っており、啓介にお辞儀していた。

 啓介はメアリーを見ると部屋を出て行く。


「目星はついてんのか?」

『えぇ。最上位能力者(LEVEL7)の第17位を打ち負かせる人間など世界には多くありませんし…何よりも神仙組には1人だけ彼女に敵いそうな男がいたようですし』


 ソイツか、と啓介は心の中でつぶやく。


「誰だ」

大和 輪廻(やまと りんね)。年齢は我々と同じくらいですが、暗部に属している年月は10年以上というかなりの手練れですぞ。それでもって能力階級(LEVEL)はお二方と同じ“7”。そして序列は最強の“第1位”』


 第1位。

 世界の頂点に立つ超能力者。


「そうか」


 それでも啓介の歩みは止まらなかった。

 相手が第1位だろうが何だろうが知ったことではない。

 鶴神を、アリスを、理奈を傷つけたヤツをのうのうと生かすワケにはいかない。


「(天国にも地獄にも行けないくらいに魂を蹂躙して…ぶち殺す)」


 啓介は病院を出ると雨に打たれ始める。

 そして病院の敷地から出ると道脇においていたバイクに跨った。


『しかし、栂村氏…ヤツは相当な危険人物。ヤツに会った人間のほとんどは死ぬか精神障害を起こしてしまっているのでヤツの超能力は未知に包まれているのでござる』


 出会えば最後、肉体的な意味で死ぬか、精神的な意味で死ぬかのどちらかというわけだ。

 啓介はバイクのスピードを最大全速にすると稲佐山へと向かって爆走し始める。

 バイクは爆走する。


『曰く「炎の翼を纏っていた」だの「水の槍を操ってきた」だの「地震を起こしてきた」だの「植物を操っていた」などとかろうじて残った証言もバラバラで…』

「ホントにバラバラだな」


 どれも属性が統一されていない。

 啓介はガソリンスタンドの前を通り抜ける。


『恐らく相手は栂村氏と同じ暗黒種(ダークマター)でしょうな』

「完全に俺が不利だな」

『えぇ…。能力面でも体術面でもあらゆる点で負けている。…酷いハンデですな』


 啓介の乗ったバイクが稲佐山へと通じる道へと入る。

 坂を登り始めた。

 雨が啓介の皮膚の痛覚を刺激するが啓介は無視する。


『そこ、次は稲佐山登山道路方面へと』

「おう」


 啓介は右折する。

 雨で地面が不安定だというのにッスピードを全く落とさなかった。


『そのまま道なりに進んでくだされ』

「あぁ」


 啓介は凌のナビに従って進む。

 凌は「アリスの反応が消えた場所」まで案内しているのだ。

 どうやったらそんなことがわかるんだと聞いたら、


「ヘンゼルとグレーテルのパンくずみたいなモノでござるよ」


 と答えられたが、このまま続けてもよくわからない講釈を垂れ流されるだけなので啓介は黙ることにした。


「カーブが多いな…」

『山ですからな』


 豪雨の中、啓介は道を登っていく。


『気をつけて運転してくだされよ?』

「わぁーってる」


 バイクは橋を渡る。

 ここから見える街の景色は不気味だった。


『普段なら綺麗なんでしょうな。日本三大夜景の1つですし』

「初耳だ」


 道の真ん中に刺さっている赤い棒に気をつけて啓介はバイクを飛ばす。


『危ないでござるな』

「ムカツクんだよ」


 啓介は駐車場のある場所まで到達する。


『そこの青い道をどうぞ』

「狭いな」


 すると青い道の先はバーでふさがれていた。

 啓介はバイクを止めると理奈の日本刀を使ってバーを切り落とす。


『まさに犯罪ですな』

「殺人に、器物損壊、バイク強盗に無免許運転、銃刀法違反している時点で何言ってやがる」


 啓介は再びバイクに跨ると爆走する。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 大和は雨の中、立っていた。


「…ヒマだな」


 ここは稲佐山展望台の頂上部分。

 大和はそこに立っていた。


「…本当に来るのかよ」


 大和は疑うような目で後ろを振り向く。

 そこにはロープで縛られた鶴神がいた。

 そばにはアリスが倒れている。


「来る…! あの人なら絶対に来てくれる…!」

「…わかってねぇんだな。テメェは良い様に扱われてるだけだぜ?」


 大和は哀れみを込めた目で鶴神を眺める。

 しかし、それは表面上だけで彼の本心には「哀れ」という感情は全く存在していなかった。

 鶴神は俯き、震えながらも大和に言う。


「わかってる…。私の為を思ってあの人はギルドへ勧誘したんじゃないってことくらいは…!!」

「……」

「自分の大切な人のために彼は私を良い様に扱っていたっていう事くらいわかってます…!」


 鶴神は雨に濡れながらも震えた口を動かして大和に自身の気持ちを伝える。


「でも、あの人は私を完全な道具として見てなかった…。私を勧誘した際に酷く辛そうな顔をしてました…!!」

「人を拒絶したバケモノ同士ってか。…わからねぇな」


 大和は鶴神に近づくと鶴神の顎をつま先でくいっとあげる。


「暗部の世界でそんな甘ったれたことほざいて生き残れるとでも思ってんのか?」

「思ってます!」

「わかってねぇな」


 大和はつま先で鶴神の顎をそのまま弱く蹴り飛ばす。

 鶴神は短い悲鳴を上げて濡れた地面にべしゃっと倒れこむ。


「……どちらにしろ、俺は“最強の超能力者”。俺に勝てるヤツなんていねぇ」


 序列は“力の強さ”を基準として決められたものではない。

 一介の超能力者にはわからないような謎の基準で決められている。

 それでも、序列にある程度“強さ”が絡んでいるのは事実。


「……どれだけ力を手にしても、どれだけ人間を殺そうとも─」


 大和は雨雲を見据えながら呟いた。


「俺は満たされないんだよ」

「……」

「知ってるか? 世界には“神にも悪魔にも背いた大罪人”ってのが存在するんだ」

「……」


 鶴神は大和の後姿を見つめる。


「9人。…世界に9人存在するその大罪人ってのはどいつもこいつもクズばかり。…人間でもなけりゃ化け物でもない。どのカテゴリーにも収まることの出来ない元・人間だらけだ」


 ゴロゴロと雷の音がする。

 雨は一層強くなる。


【傲慢】(Superbia)【暴食】(Gula)【怠惰】(Acedia)


 大和は背中に装備している大剣の柄を握る。


【憤怒】(Ira)【色欲】(luxuria)【憂鬱】(cavum)


 大和の耳についている赤色のピアスが揺れる。


【強欲】(Avaritia)【虚飾】(Irritum)。そして…」


 鶴神のほうを振り返る。

 大和の瞳が妖しく輝いていた。


【嫉妬】(Invidia)


 鶴神は大和の双眸の光に魅了される。

 夜でもライトのように輝いている。

 それは、彼が人間でも超能力者でもないことを示していた。


「俺は世界中に生きる全ての人間と超能力者が妬ましいんだよ」

「……」


 鶴神は表情を強張らせる。


「まぁ、呪いに身体を占領されてるから嫉妬に取り付かれている…っていうよりは、素質があったからとでも言うべきなんだろうがな」


 大和は大剣を片手で持つと先端を鶴神に向ける。


「俺は政争にも暗部にも興味がねぇ。自身の嫉妬心が収束を迎えるまで妬ましい奴らを殺し続ける。それだけだ」


 それはつまり、鶴神に対して興味がないということと同じであり─


「まぁ、テメェの能力じゃ簡単には死なないだろうが…いつかは死ぬだろ」

「!!」


 鶴神は身体を後ろへと後退る。


「まぁ、苦しんで死んでくれたほうが俺としても楽しいから─」


 大和は大剣を振り上げる。



「とっとと死ね」



 大剣は勢い良く振り下ろされた。

 鶴神は目を瞑る。


「!!」


 しかし、大剣は鶴神に当たる前でピタッと停止する。

 鶴神は目元に涙を溜めたままゆっくりと目を開ける。

 そして目の前の現実を理解できずに固まる。


「……まぁ、いいか。前哨戦には持って来いだ」


 大和は遠くを眺めながらポツリと呟くと大剣を地面に突き刺す。


「?」


 鶴神があっけにとられていると遠くの方から何やら騒音が聞こえてきた。

 その騒音は徐々に大きくなってくる。


「どうやら、テメェの言ってたことはアタリだったらしいな。ムカツクぜ」

「バイク…の音?」


 鶴神が音の正体に気づいた時だった。

 螺旋状の階段からバイクが飛び出してきた。


「……」


 バイクは濡れた地面に着地するとドリフトの様に車体を傾け、停止した。


「……噂には聞いてるぜ? 新入りさんよぉ」

「テメェが、大和輪廻か?」


 バイクに乗っていた青年はバイクを左手で撫でて何かを聞こえないくらいの声量で呟く。

 そして降りると大和の正面に立つ。


「栂村さん…!!」


 青年─啓介はチラリと鶴神を見ると再び大和を見据える。


「何の用件だ?」


 大和は邪魔が入って気分を害したのか少し苛苛しながら尋ねる。

 答えはわかりきっているにもかかわらず。



「お礼参りだよ」




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