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クロス×ドミナンス《旧版》  作者: 白銀シュウ
第4章 命短し歩けよ乙女
33/60

【4‐4】  ひとりかくれんぼ

この物語は、ある程度の史実を織り交ぜながらも完全にこの現実世界とは完全に別の未来を歩んでいる別の世界であり、実在もしくは歴史上の人物、団体、国家とかその他固有名称で特定される全てのものとは、何の関係もありません。何も関係ありません。

つまり、この物語はフィクションです。

【4‐4】  ひとりかくれんぼ



「私は人間から嫌われた存在なんです」



 鶴神は苦しさと悔しさが入り混じったような表情で呟いた。

 啓介はその言葉を聞いて呆然とする。


「(…なんで?)」


 目の前の少女は普通の少女ではないか、と啓介は思った。

 超能力という異質な力を秘めていようとも害になるものではない筈─


最上位能力者(LEVEL7)だからといってこんな辺境の地で隔離されている存在なんて滅多にいないわよ? …第18位のアナタでこんなに隔離されるというのなら私も隔離されてるに決まってるでしょうが」


 理奈は目の前で俯いている鶴神を眺めながら疑問を晴らすべく尋ねる。


「…私は、アナタ達と同じ生物(LEVEL7)であったとしても…違うんです」

「?」


 啓介は頭の上にハテナマークを浮かべた。

 理奈は冷めた目で鶴神を見据える。


「私の能力は【陰影踏み】(ストロ・カーテン)。…“自分の受けた傷を触れたことのある誰かに肩代わりさせる能力”なんです」

「肩代わり…」

「私の身体に対する“怪我”や“病気”…果てには“飢え”や“老い”まで他人に肩代わりさせてしまうとても恐ろしい能力なんです…」


 理奈と啓介は目を見開いて驚愕する。

 自分から攻撃をすることは一切出来ないが、代わりにありとあらゆる害から解放された最強の“防御能力”。

 それが、鶴神の力なのだ。


「確かに、“最強候補”に挙げられるだけはあるわね。そんな防御能力があるのなら」

「唯一の弱点はといえば、“触れたことのある人間が誰一人としていなければ無効化する”って点か」


 啓介はそこまで言って気がつく。


「…そうか。それで、キミは俺の手を取らなかった訳か」

「ごめんなさい…」

「い、いや…別にそっちが悪いってことは…」


 何か喋りづらい相手だと啓介は思ってしまった。


「…まぁ、アナタの能力はわかったわ。この島にいる理由もね」

「……」

「でも、肝心なことを聞いてないわ。…アナタは私達の仲間になってくれるのかしら?」

「なれません」


 鶴神はキッパリと理奈に答えた。

 理奈は冷めた目で鶴神を見つめる。


「私はこの能力で何十人と人を殺してしまいました…。だから、今更人殺しや命を奪うことについて言う権利なんてないと思っています。だけど、私はもうこれ以上人を殺したくないんです」

「…だからこんな辺境の地で寂しく生きているわけ? 解決にはならないわよ。アナタが生きている限り、老いや飢えであなたが触れたことのある人間を苦しめ続けるんだから」

「わかってます! …わかってます!」


 鶴神は大声で拒絶するように叫んだ。

 辛さが混じった悲痛な叫びだった。


「でも、私は両親や友達を殺してしまったんです! そんな私に居場所があるんですか!?」

「……理奈、そろそろ─」

「あるわよ。家族を見殺しにして何百人もの人間を殺してきた私にすら居場所があるのよ? アナタに居場所がないとでも言うつもり!?」


 理奈は苛立った声を出すと鶴神の首元を掴んで持ち上げる。


「理奈!」

「黙ってて! 私はムカツいてんのよ! こんな所で1人寂しく孤独に生涯を過ごす事がアンタが殺した家族や友人への償いになるとでも思ってんの!?」

「私に言わないでくださいよ!!」

「理奈!!」


 我慢できなかった啓介は理奈と鶴神を無理矢理引き剥がす。

 鶴神は床に落ちると涙を溢しながら理奈の顔を睨みつける。

 そして理奈は涙を拭きながら走って部屋から出て行った。


「啓介!」

「落ち着け!」


 苛立ってマトモに思考が働いていない理奈を啓介は一喝するが、効き目はなかった。


「ムカツクのよ! なんであんなウジウジしたのが─」



 パチン、と弾けるようないい音が響いた。



「……落ち着け」

「……」


 理奈は真っ赤になった左頬を抑えながら呆然と佇んでいた。


「手を出したことは謝る。すまん。…けどな、落ち着けよ」

「……」

「お前の個人的な感情以前の問題だろ? 今は」

「……ごめん」


 理奈はポツリと呟くように謝った。

 啓介はふぅと息を吐くと鶴神が出て行った扉のない玄関の方を見る。


「…俺はあの子を探してくるからさ、お前は真鍋と通信して色々と頼むわ」

「……わかったわ」


 啓介は小走りで部屋を出て行こうとする。

 しかし啓介の左肩を理奈は掴んで引き止めた。


「どした?」

「……謝っといてくれる? 私からだって」

「……あぁ、はいはい」


 啓介はヒラヒラと手を振ると部屋から去っていった。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 啓介は65号棟から南東にある小学校で鶴神を発見した。

 ここの廃校は土台の部分が半壊しており、下から湧いてきている海水に支柱が浸かってしまっている。

 鶴神はその崩れた土台部分に体育座りでぼうっとしていた。


「ここにいたのか」


 鶴神は啓介の声に振り返る。

 しかし、弱々しい振り向き方だった。

 啓介の顔を見た鶴神はすぐに正面を向き直す。

 啓介はしばらく後ろから鶴神の姿を眺めていたが、頭をポリポリと掻くと鶴神へと近寄った。


「…悪かったな。俺のパートナーが当たっちまってさ」

「いえ……大丈夫です。…あの人の言ってること、正解ですから…」


 啓介は鶴神の隣に座る。

 もう日が傾き始めていた。


「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……あの」

「どした?」


 長い沈黙を経て鶴神はポツリと呟く。


「…私を連れ戻さないんですか?」

「まぁ、連れ戻したい…というか連れて行きたいって気持ちはあるけどさ…。キミが落ち着いてもいないのに連れて行くのはどうかと思って」

「…意外です。今まで来た人は皆実力行使で私を連行しようとしましたから」

「残念だけどそういうことする気はない。…俺自身、それでイヤな思いしたし」


 啓介は遠くを眺めながら呟く。

 瞼の裏に焼きついたあのクソ忌まわしい記憶は何時になれば取れるのだろうか。


「栂村さんは、どうして超能力者になったんですか?」

「んー、長いから端折るとだな、契約しなかったら他の超能力者に殺されかけて死ぬのがイヤだからって言う理由で契約してその超能力者をボコった」

「……どうして、最初に契約しなかったんですか?」

「癪だったんだよ。自分の努力が実を結ばないって断言されてさ」


 努力で全てがどうにかなるって考えてたわけじゃないけど、と啓介は笑いながら話す。


「まぁ結局さ、次に来た超能力者に敗れて暗部にぶち込まれて人殺しなんてさせられてるワケだけどな」

「……」

「まだ、今年の4月に超能力者になったばっかりだからキミの方が先輩といえば先輩だな」

「……私は、7歳の時に超能力者になったんです」


 啓介は鶴神の話を聞くために黙る。


「(7歳? 確か、アリエルが契約する際の適正年齢を昔言ってた気がするが…アレは中高校生~30台の間だったはず。…それを超えて生き残ってるって)」

「私は生まれてすぐの頃に“多発性硬化症”という病気を患ったんです」


 啓介はその病気を聞いたことがあった。

 学校の保健体育の授業で“日本政府が認定した特定疾患”というモノの中にその病気があったハズだ。


「それって、“原因不明の病気”だよね?」

「はい。…私は視覚障害・運動麻痺・病的反射などにかかりました。両親は私のことを必死に大切に育ててくれたんです。治癒してはすぐに再発するというペースだったので人生のほとんど病院で寝たきりの生活でしたけど、私はそれでも幸せでした」


 家族がいてくれるなら─

 そんな思いが彼女を強くさせたのだろう。


「でも、私は思ってしまったんです。…同世代の友達を見て思ってしまったんです。自分も外の世界で遊んでみたい…と」

「……」


 小学校に登校出来ても外では遊べない。

 友達は誘ってくれるが、外で十分に遊べない。

 部屋の中でずっと外を、友達を見つめ続ける毎日。


「……」

「私は満足に動かない自分の足を恨みました。弱視になった自分を恨みました。…こんな運命を私に与えた神を恨みました」

「……なるほどな」


 そこで堕天使アイツらが出てくるのだ。


「…願っちまったわけか」


 啓介は自分の境遇を思い出す。

 2ヶ月前の出来事を。


「…私は家族が私という重荷から開放されるのならば、と契約を受けました。…地獄を越える苦しみでしたが耐えました」

「まぁ、俺も2ヶ月前にアレを体験したばっかだが…アレは二度と体験したくないな」

「え?」

「あぁ、こっちの話。続けて?」


 啓介に先を促され、鶴神は話を続ける。


「…生き延びた私は病魔から完全に解放された状態になりました。…しかし、家族や医者は私を見て驚きました」


 ─起きるはずのない奇跡。

 神はその奇跡を受けた人間を同じ人間に排斥させようとする。


「私を担当していた医者は自分の力ですらどうにも出来なかった病気がいとも簡単に治ってしまった事に対してショックを受けてしまい…自殺したそうです」


 啓介からすれば、それは鶴神のせいではなく医者の心が弱いからだと思ったのだがここで口を挟むようなことはしない。


「そして、私は両親に拒絶されました」

「は…?」


 我が子の難病が治れば普通、両親は喜ぶものじゃないのか?と啓介は思った。

 鶴神は目元を少しだけ濡らしながら啓介に独白する。


「…母は、私が病人であってほしかったんです」

「……成程」


 「難病の娘を健気に看病している私、ステキ」みたいな心を持った両親だったのか、と啓介は納得した。

 理奈なら率直に「我が子のことを1ミリも考えてない典型的なクズ親にありがちな心理ね」なんて言い放ちそうだったが、啓介は何も言わなかった。


「(なんて言えばいいのかよくわからないし…)」

「私は親に“バケモノ”と罵られ、捨てられました。……だから、私は絶望して死のうと思ったんです。…大型トラックの前にわざと飛び出して…轢かれました」

「大型…トラック?」


 啓介は驚愕する。

 それと同時に彼女の能力を思い出して1つの結末を思いつく。


「私ははらわたを引きずり出されてグチャグチャに弾け飛びました。…でも死ねなかったんです」

「だろうな…」

「…私が車に轢かれた傷は父さんに転移したそうです」

「驚くだろうな。…いきなり人間が破裂するんだから」


 想像したくない光景だと啓介は呟く。


「…私はそれに気付かずに色んな場所で死のうとしました。マンションから飛び降りたり…ナイフで腹を刺したり…」

「それも全部…自分の知り合いに回った、ってワケか」

「はい…」


 鶴神は悲しそうな声で返事をする。

 顔は身体を丸めて腕の中に埋めてしまっているので見えない。


「(俺は、どうするべきなんだろうか)」


 効率を優先するか否か。

 鶴神の懐柔…と言えば聞こえ方が悪いが、彼女を説得することは時間をかければ不可能ではなさそうだ。

 だから強制連行はしなくても仲間にすることは可能といえば可能かもしれない。


「(彼女の心を弄んで仲間にするのか、本当の意味での仲間にするのか…)」


 啓介は日が暮れるまで鶴神の横で悩み続けるのだった。



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