【4‐3】 かごめかごめ
この物語は、ある程度の史実を織り交ぜながらも完全にこの現実世界とは完全に別の未来を歩んでいる別の世界であり、実在もしくは歴史上の人物、団体、国家とかその他固有名称で特定される全てのものとは、何の関係もありません。何も関係ありません。
つまり、この物語はフィクションです。
【4‐3】 かごめかごめ
「はぁ…はぁ…はぁ…ひぃ…」
息を切らしながら啓介は階段を昇る。
理奈が言っていた建物─65号棟に到着した啓介は理奈のいる7階へと辿り着いた。
「遅かったわね」
「無茶言うな……はぁ……これ、下から追い詰める必要なかったんじゃね?」
息を整えながら啓介は愚痴る。
「アレはフェイクよ。大声で作戦をバラすバカがいるわけないじゃない」
「だったら、お前の能力をコピーさせてくれてもよかったじゃねぇか!」
理奈の能力を得れば啓介も身体能力をムリヤリ上昇させることが出来たのだが。
理奈は溜息をつくと刀に手を添えた。
「アレやったら次の日は筋肉痛になるわよ」
「うげ」
「…そんなことよりも、この先にお目当ての人物がいるみたいよ?」
理奈は右手の親指で奥にある板が立てかけられた部分を指差した。
扉がない玄関に板を立て掛けているだけの状態だ。
「防犯性能に欠けるな」
「いいんじゃないの?」
理奈はずかずかと進むとその板を思いっきり蹴り破る。
「うおおい!器物破損はご法度じゃなかったの!?」
「これは仕方のない事故よ」
「事故じゃねぇ!普通に除けよ!」
啓介は真っ二つに割れた板の残骸を見て「あーぁ」と呟く。
理奈は右手で刀の柄を握ると警戒しながら部屋へと入っていく。
「啓介」
「…はいよ」
啓介は黒色のジーパンのポケットから弾を取り出して右腰のホルスターからもリボルバーを取り出す。
装填しながら啓介は警戒する。
「…」
そこは一般的な日本住宅のような家だった。
昔から続く老舗旅館と少し似た造りであり、床は綺麗に掃除されている。
理奈も啓介も土足だが事態が事態なので仕方がない。
啓介は襖で遮られている隣の部屋の前に来ると息を吐く。
「(俺だってこんなことやりたくねぇけどな…)」
啓介は襖をバンッと開けるとリボルバーを構えた。
「!」
「!」
「!」
啓介は目の前の光景が信じられずに呆然とする。
理奈も目を丸くしていた。
「…はぁ?」
2人は何度も超能力者を退けた存在だと聞いていたので屈強な男か女を想像していた。
しかし、目の前の光景はその考えを否定していた。
「……」
涙目でプルプル震えて床に座りながら後ろの壁に抱きついている少女を見て啓介は呟いた。
「…子供?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
凌は耳につけていた通信機から何かが聞こえてきたのか急に真剣な顔になった。
「はぁ…はぁ…。わかったでござる。少々お待ちを」
「何か進展が?」
水晶は真剣な顔で凌に尋ねる。
凌はディスプレイだけを眺めながら答えた。
「見つかったそうでござる」
「!」
「ただ、戦闘には移行していないようで」
「…え?」
水晶がポカンとする。
「…最上位能力者の顔写真だけは全てギルドは有しておりますからな。その中から探してくれと」
「姿さえ捕捉できれば序列もわかるって寸法か」
凌は最上位能力者の移っている写真をディスプレイに全部表示する。
大抵が遠くから撮ったり念写したモノだったりするので解像度が悪いが、100枚は軽く超えている。
「それでは栂村氏、容姿の説明をお願いしたいでござる」
凌は時折相槌を打ちながら写真を選別していく。
100枚あった写真は30枚に、30枚あった写真が10枚にと選別されていく。
「ほぅ…ほぅ…。あぁ、多分この人でしょうな。1人だけ該当でござる」
水晶は写真を横から覗き込む。
そこには黒髪の少女が写っている写真があった。
「…女性か」
「…栂村氏たちの目の前にいる人物は恐らく──」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……そうか。わかった。…じゃ、ソイツについて調べてみてくれ。こっちも情報を集めてみるわ」
啓介はそういうと通信を終了し、目の前の光景を眺める。
理奈は啓介の隣で佇んでいる。
「それで、何かわかったの?」
「あぁ…。俺たちの目の前にいるこの子は…」
啓介は涙目の少女を見つめる。
「第18位だ」
理奈が少女を驚き半分興味半分の瞳で見つめる。
少女は短い悲鳴を上げると後ずさった。
「理奈の1つ後ろか…。結構強いんだな」
「見かけによらないのね」
「…だな」
啓介はリボルバーを仕舞うと少女の下へと歩み寄る。
少女は涙目で啓介を警戒していた。
啓介は少女の前でしゃがんで同じ目線になる。
「あぁ…えっと、だな…さっきは驚かせてごめん。俺は栂村啓介って言うんだ。後ろの女性は栫理奈っていう。…できれば君の名前を教えて欲しいんだが」
少女は涙目で啓介を見つめる。
ちょっとかわいいな、なんて啓介は考えてしまう。
「……」
「…あー…そうだな」
啓介は右腰のホルスターからリボルバーを取り出すと後ろへ放り捨てた。
左腰の刀も外して後ろに投げる。
「俺は君を殺そうとか思ってないから。うん、絶対に」
「…」
「おい、理奈」
「わかったわよ」
理奈も刀2本を取り外すと後ろの壁に立て掛ける。
どこかしら不機嫌に見えたのは啓介の気のせいであろうか。
「…さっきのは不手際だったんだ。…と、とにかく名前教えてくれないと話が進まないから…教えてくれるとうれしいんだけど」
少女の瞳からは少しだけ警戒の色が消えていた。
少女は震える声で啓介達に話しかけた。
「こ、樹神 鶴神」
「樹神鶴神…?」
「樹海の『樹』に、神様の『神』、『鶴』ともう一度神様の『神』で樹神鶴神…っていう」
やけに難しいなぁ、と啓介は心の中で呟いた。
「樹神さんか。…よろしく」
啓介は握手しようと手を差し出すが鶴神は手に触れなかった。
「(アレ、汚いから?…それとも男の手はいやだとか?)」
「あ、あの……ごめんなさい。…わ、私は…人に触れなくて」
「あー…人間恐怖症とかそういうやつ?ゴメン」
啓介は立ち上がると理奈の方をチラリと見る。
鶴神は恐る恐る立ち上がった。
「あの…ア、アナタたちはど、どうしてここに?」
「あー…単刀直入に言うと、君を迎えに来た」
鶴神はその言葉を聞くとしょんぼりとした表情になる。
「へ!? あ!? え、えっと…ゴ、ゴメン!」
「い、いや…やっぱり、と思っただけです」
汚れのない白いロングワンピースを着た自分より年下の少女を前に啓介はどう接していいのかわからなくなっているようだ。
自分の妹─葵のような溌剌とした性格と違うので扱いづらいらしい。
「(どうすりゃいいんだか…)」
目の前でモジモジとしている内気な少女─鶴神を啓介は観察してみる。
この廃墟群の中で生きてきたとは思えないほどに健康的で汚れが見当たらない。
胸は小さい方だと思うが、足はスラリと伸びている。
腰まで届いているとても長い黒髪が彼女に異様なほどにまで似合っていた。
「(…何の超能力者なんだかな)」
「…やっぱり、ってことは前にも他の人間が来たのね?」
「あ、はい。…全員、私を回収しに来た人達でした」
悲しそうな表情で告げる鶴神に理奈は交渉を開始する。
「じゃ話が早いわ。…私達と共に行動してくれないかしら?」
「…ごめんなさい。ダメなんです。私にはダメなんです」
鶴神はひたすら謝り続ける。
理奈はどうしていいかわからずに戸惑ってしまう。
「…どうしよう」
「このままムリでした、テヘッなんて結果になったら俺たちも命がヤバイ」
理奈の呟きに啓介は要らぬ返事をした。
「私には力があるからダメなんです。忌まわしい力が…」
「力? もしかして超能力のこと?」
「あ、はい…」
遠慮がちに喋る目の前の少女を見て啓介は頭を掻いた。
それは疲れたという意思と面倒くさいという意思が混じったモノだった。
「…俺たちも超能力者なんだ。しかもキミと同じ最上位能力者っていう国家…いや、世界レベルで危険視されてるバケモノさ」
「…私が最上位能力者というものだというのは聞いたことがあります」
恐らくかつて来た暗部の奴らから聞いた話なのだろう。
「……そもそも、どうしてこんな島にいるんだか」
「…隔離しているんです」
「はぁ?」
予想外の回答に間抜けな声をあげて聞き返す啓介。
鶴神は下を向きながら答えた。
「私は、人間から嫌われた存在なんです」