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クロス×ドミナンス《旧版》  作者: 白銀シュウ
第3章 これから暗部の話をしよう
28/60

【3‐6】  爆炎の少女

この物語は、ある程度の史実を織り交ぜながらも完全にこの現実世界とは完全に別の未来を歩んでいる別の世界であり、実在もしくは歴史上の人物、団体、国家とかその他固有名称で特定される全てのものとは、何の関係もありません。何も関係ありません。

つまり、この物語はフィクションです。

【3‐6】 爆炎の少女



「(やっぱりコイツら…おかしいだろ)」


 啓介は弾の切れたリボルバーをポケットに仕舞うと紗音瑠の後を追った。

 上からは兵士達の断末魔が聞こえてくる。


『流石は“炎を操る”能力の中でもトップクラスの性能を持つ【法界嫉妬】(エンヴィディア)ですな』


 聞き覚えのない能力名だったが啓介は紗音瑠の物だろうと勝手に結論付けた。

 2人はエスカレーターを登っていく。

 しかし敵はまだ現れる。


「ちっ!」


 紗音瑠は舌打ちをすると棒で剣を受け止める。


「新人!何か能力使え!」


 紗音瑠は後ろにいる啓介に檄を飛ばす。

 慌てて啓介は左手の指を兵士達に向ける。


「不知火!よけろ!」

「はぁ!?…うおっ!?」


 啓介の指から強烈な電撃が放たれる。

 慌てて回避した紗音瑠を通り過ぎた電撃は兵士達の肉を焼く。


「悪いけどこれが最初で最後だ。後は頼む!」


 啓介にはもう使える力が残っていない。

 今、放った電撃も理奈の能力であり、啓介が暗部に落ちることとなった日にコピーした力だ。

 叫んだ啓介はリボルバーに弾を装填する。


「使えねぇな!」


 紗音瑠は悪態をつくと兵士達の死体を飛び越えて次の階へと上がるためのエスカレーターへと向かって走り出す。

 しかし、上の階からロープを使って兵士達が降りてくる。


「ウジャウジャと…!」


 紗音瑠は兵士の攻撃を頭を屈めて回避すると棒を兵士の腹に突き刺す。

 啓介も兵士の攻撃をかわして懐に飛び込んで顎にリボルバーを突きつける。


「悪いな」


 啓介は迷わず引き金を引いた。


「ふぅん。…順調に腐ってるじゃん」

「うっさい」


 啓介は顔についた血を袖で拭いながら紗音瑠に悪態をつく。

 すると紗音瑠がいきなり啓介の元へと走ってきた。


「へ?」

「口閉じてろ!」


 紗音瑠は啓介のわき腹を思い切り横から蹴り飛ばす。


「ぐふへ!」


 いきなり何をしやがると思った啓介だったが、真相はすぐに理解できた。

 紗音瑠が棒を啓介の後ろにいた兵士の腹に刺していた。

 どうやら紗音瑠は啓介を守ったようだ。


「後ろにも気配を配れ!」

「す、すんません!」


 紗音瑠は崩れた目の前の巨体の背中を踏みつけると息を整える。


「クッソ…タバコの吸い過ぎで体力がヤバイ」

「禁煙しろよ」

「ムリ」


 啓介は横から来た斧を持った武装兵士の攻撃をかわすとリボルバーの引き金を引く。

 紗音瑠は息を整えながら啓介にアドバイスする。


「銃に頼らないで剣使え!」

「無茶言うな!」


 啓介は叫んで攻撃を回避する。


「臨機応変に戦わねぇと死ぬぞ!」


 紗音瑠は後ろを見ずに後ろからの攻撃をかわす。

 そしてすかさず首に肘を打ち込んで黙らせる。

 啓介は兵士の顔面を蹴り飛ばして黙らせた。


「…このフロアのザコは全滅したみたいだな」


 紗音瑠はそう呟くと次の階へと向かおうとする。

 しかし建物全体を揺らすような轟音が響き渡った。


「ギャアアアアア!」


 轟音…というか爆音と共に上の階から武装兵士達が落下していく光景を紗音瑠と啓介は見てしまう。


「うっわぁ…」

「急ぐぞ」


 顔を青くして呆然と立ち尽くす啓介の右手を掴んで紗音瑠は引っ張る。

 2人は停止したエスカレータを登る。

 上ではまだ断末魔や雷の音が響いている。


「こりゃ終わったか…?」


 悔しそうに紗音瑠は呟く。

 そして2人は4階へとたどり着く。


「うぷっ…」


 啓介は口を押さえて目の前の光景を拒絶した。

 紗音瑠は溜息をつくと頭を掻いた。


「遅かったわね」


 2人のほうに振り向いた理奈は刀を振って血を払うと鞘に仕舞った。

 

『流石は電撃を操る能力を持っているだけはありますな』

「……」

『能力抜きの体術戦においても圧倒的。まさに戦神に等しい働きですな』

「……」


 凌の評価を啓介は聞き流した。

 やはり、幾ら理解しても目の前で幼馴染が人を殺している場面を見ることには抵抗があるのかもしれない。


『外には逃がしていないかな?』

「4階のザコは全員始末したわ。超能力者が二人ほど混じってたけど特に問題はなかった」

『そうか。それじゃ、後始末は真鍋に頼むとしよう』

『了解でござる』

「…真鍋に何が出来んの?」


 啓介は水晶に尋ねる。


『彼の能力は“情報という概念を操る能力”。情報とは世界中に溢れたモノ。…わかるかい?』

「すまん、単刀直入に頼む」

『つまり、“概念を質量にすること”ができるのならその逆も可能というわけだよ』


 世界中に満ちる全ての物は“情報”から構成されているモノだと水晶は言った。

 そして、凌は“質量を情報へと戻すこと”も可能であるという。

 つまり…


「…死体を情報に分解するってことか?」

『ご名答!床に残った血痕や死体は全て情報へと分解してしまえば、後始末の必要もなくなるのです』

「便利な能力ね」

『いえいえ。拙者がまだ未熟な故に“有機物”に関する情報は弄れないのです』

「死体は無機物ってこと?」

『そういうことになりますな』


 凌の荒い息が通信機の向こうから聞こえる。

 少しは運動しろと啓介は思った。


『死体処理は拙者の情報生命体達に任せるとしまして…拙者は今からそちらへと向かいます』

「どうしてだ?」

『ご自分の身体を見てくだされ』

「…あぁ」


 啓介は自分の服を見て納得した。

 青色の服は血でべっとりと変色してしまっている。

 理奈や紗音瑠も同じように血が身体中に付着していた。


『栂村氏達に付着した血の分解はかなり精密ですので拙者が実際に行わねば』

「あー…頼むわ」


 啓介の代わりに理奈が口を開く。

 紗音瑠はタバコを口に咥えていた。


「…禁煙しろ」

「やなこった」

「死ぬぞ」

「新人に言われたくないんだよ」


 啓介は溜息をつく。

 せっかく心配してやったというのになんという言い方だ。


『…休憩のところ悪いけど、不知火さんは僕と合流してもらえないかな?』

「どうしたんだ?」

『ホテル内はまだ制圧完了していないんだ。人手が欲しい』

「新人を向かわせりゃいいだろうが」

『使えないよ』


 紗音瑠は舌打ちするとタバコを握り潰して床に捨てる。

 携帯灰皿を使わずに火のついたタバコを素手で消すのは本来おかしいのだが、啓介には何故か普通に見えてしまった。


「…りょーかい」

『頼む。…栫さんたちはその場でしばらく待機していてくれ』


 紗音瑠は柵を飛び越えて1階へと一気に飛び降りた。

 理奈と啓介だけがその場に残される。


「……」

「……」


 二人とも黙り込んだので空気が重くなる。

 凌もこちらへ向かうために現在は通信不可能であり、長門も作業へ戻ったのか通信に介入しない。


「(誰か空気をもどしてくれ)」

「…啓介」

「お、おぉ。…なんだ?」


 啓介は天井から理奈へと視線を移す。


「…どうだった。初めての任務は」

「すごく大変でした」

「…感想文?」


 理奈がくすりと笑う。

 しかし啓介は理奈から可愛らしさを全く感じられなかった。


「(血がついてなきゃ悪くなかった…)」

「…今日、啓介は何人殺したの?」

「さぁ?多分、10人は」


 命を守ることに必死で撃墜数など数えていなかったので啓介は適当に言う。

 理奈は自身の後ろにある死体の山をチラリと見る。


「…暗部は、人を殺さないと生き残れない。それはわかってくれた?」

「よーくわかった」

「人を殺すことは大罪で…罪の意識に悩むかもしれない」


 啓介は理奈を見る。

 何でもなさそうに見えて彼女は罪の意識を抱えていた。

 やはりどれだけ歴戦の戦士になっても人を殺すことに違和感を感じ続けるのかもしれない。


「…でも、ここは暗部。表の世界とは全く別の秩序やルールが蔓延る世界。人を殺すことが大罪である表世界の真逆で“人を殺すことが当たり前”なんていうルールに縛られた世界」


 理奈は死体の山の方に振り向く。

 そこではアリスなどの情報生命体が数名ほどで分解作業を行っていた。

 健康に悪そうな青白い光が死体から発せられ、死体は分解されて光の粒になって消えていく。


「私は家族を失った。友達も失った。…だから、私に残っているものはもう啓介だけしかいない」

「……」

「…私はアナタに死んで欲しくないの。…だから強くなって」


 それは、『力』という意味なのか。

 それとも『心』という意味なのか。


「……わかってる」


 啓介はそれだけしか言えなかった。

 心の奥にあった言いたかったであろう何かを言うことができなかった。


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