【3‐2】 仲間
この物語は、ある程度の史実を織り交ぜながらも完全にこの現実世界とは完全に別の未来を歩んでいる別の世界であり、実在もしくは歴史上の人物、団体、国家とかその他固有名称で特定される全てのものとは、何の関係もありません。何も関係ありません。
つまり、この物語はフィクションです。
【3‐2】 仲間
それは巨大な白い宮殿のような建物だった。
中世の強大な帝国が建築したような印象を啓介は感じた。
入り口は東洋的な雰囲気を感じさせる門。
そこを抜けた先には数百年前の侍や忍者とかが実在していた時代の日本やアジアの覇者として君臨していたくらいの時代の中国を髣髴とさせるような見事な庭園が周りに建物を囲むように配置されており、巨大な迷路として機能しそうなくらいに広い。
「すげぇな。この門から続くデカい廊下…まさに中国って感じだな」
啓介はポツリと呟きながら理奈の後を着いて行く。
「勝手にはぐれないでよね。一直線に進めば受注所だけど、分岐している別の橋を渡ったりしたら全く別の場所に着くわよ?」
「こぇー……」
二人が一キロメートルはあったであろう巨大な中国的な回廊を一直線に進むと、今度はイギリス辺りにありそうな感じの門が二人を迎える。
「え、今度は西洋風?」
「迷子にならないでよ」
啓介は橋を歩いている人間や酔って騒いでいる人間を見て、観光地に来たかのような錯覚に襲われた。
「(観光地かよ…。全然、暗部って感じがしないんだけど)」
すると今度は二人の目の前に巨大な階段が現われた。
「え…これ何段あるの?」
「さぁ?数えたことないわ」
緩やかな階段だが、段数がどう考えても異常だとしか思えないくらいに多い。
古代ローマの神殿の階段のような色や装飾だ。
「うげぇ……」
「超能力者になった啓介なら大丈夫よ」
ブツブツと文句を言う啓介を励ましながら理奈も階段を昇る。
そして二分くらい上り続けると例の白い建物の玄関口に辿りついた。
「……ここかよ?」
「そう。…ここがジオフロントの中心地のクエスト受注所にしてギルド本部と呼ばれている場所」
「本部…」
啓介はファンタジーに出てくる王宮を連想した。
ファンタジーチックな神殿と中東の宮殿を合体させたような幻想的な建物だった。
啓介の第一印象は『RPG要素ムンムンな王宮』だった。
「…これが酒場?」
「大丈夫よ。豪華なのは外だけで中は凄いから」
「どういう意味で?」
「庶民的な意味で」
理奈は木製の扉を左手で押して開く。
そして啓介は中を見た。
理奈の言うとおりだった。
「…海賊映画とかに出てきそうな酒場だな」
啓介は酒や食事を摂っている騒がしい集団を眺めながら呟く。
西部劇のバーとかでよく見られる風景をもっと広く、治安を悪くした感じの印象を啓介は受けた。
「…上層部から啓介に一つの命令が届いてるのよ」
理奈が啓介に話しかける。
「全然知らないぞ。自室を与えられて以来、上層部のクソ共の顔なんか見てないし」
「そりゃね。…私が仲介役だから」
理奈は啓介の右手を掴むと引っ張って奥へと進み出す。
騒ぎながら食事したり酒盛りしている集団をよけながら二人は奥へと進んでいく。
「啓介は最強の超能力者候補の一人だけど、実戦経験はほぼゼロの素人。使うに使えない。…そんな啓介を使える人材にするために私が相棒として選ばれたのよ」
「…よく上層部に従い続けれるな」
「そうしないと生きていけない。…でも私は何時までもこんな生活を続ける気は無いわ。何時かは絶対に反逆してみせる。…その時が来るまでは命令を聞き続けておくわ」
勝てるはずのないゲームに勝つ。
理奈はそう言っているのだ。
「…それで、オレを理奈が育てると」
「相手を殺さないと生きていけないわ。…私は啓介に死んでほしくないから、相手を殺すための方法を教えることにしたの」
「そりゃどうも…」
二人は一番奥にあるバーにつく。
騒がしい後ろと違ってここは静かに食事や酒をとっている人ばかりだ。
理奈はキョロキョロと辺りを見回すと目的の物を見つけたのか近寄って静かに飲んでいる人物の肩を叩いた。
「アンタ…よね?上層部が言っていたサポートしてくれるヤツっていうのは」
理奈の台詞に肩を叩かれた人物は振り返る。
男性だ。
「あぁ。確かにボクは君たちと組むように命令された者だよ」
藍色の髪色に上着を脱いだ執事服姿。
啓介に並ぶ身長の細い青年は二人の顔を見て喋る。
「噂は聞いているよ。初めまして。ボクは長門 水晶。年齢は君たちと同じだ。以後、よしなに頼むよ」
青年──長門水晶は啓介に手を伸ばす。
啓介は右手で握手する。
「いやはや…滅多に姿を見せない最上位能力者の栫理奈をお目にかかれるとはね。僕はラッキーだよ」
「そうかしら?…私達なんて人見知りの激しいコミュ障ばかりよ」
「(その人見知りの激しいコミュ障には俺も含まれているのか?)」
水晶は自身の左隣の二つの席に二人を座らせる。
啓介が水晶の隣で理奈が啓介の隣だ。
「最近、この裏社会に堕ちてきたそうだね。…まぁ胸糞悪い気分かもしれないが、友人として接してくれると嬉しいよ」
「あ、は、はぁ…」
啓介には目の前の青年が暗部の一員とは全く思えなかった。
啓介が外見と職業の差に戸惑っていると理奈が水晶に声をかける。
「仲良くなるのも良いけど、残りの二人は一体何処にいるの?」
「二人?」
理奈の台詞に啓介が尋ねる。
「ギルドから参り込んでくる任務を僕達、暗部は“クエスト”と呼んでいるんだ。クエストには詳細な分類があるんだが…今は置いておこう。とにかくクエストを受注する際は、一人~五人で行うこととなるんだ」
理奈ではなく水晶が啓介の問いに答えてくれた。
「何故、5人かというとだね…それくらいの人数が一番破壊工作や隠密行動に向いているからなんだよ。それより多すぎると見つかりやすいし、それより少ないと不利になる」
「成程な…」
全員が破壊工作や戦闘の技術を備えているわけではないと水晶は啓介に説明する。
「お互いに能力を補い合ってパーティを形成するんだ。そうすれば成功率は高くなるし死亡率も下がる」
「成程」
「ちなみに、4人が実地に赴いて破壊工作や戦闘をして、1人がバックでサポートするっていうのがセオリーだね」
水晶は自分を指差す。
「今回のクエストだが、僕と栂村啓介と栫理奈に後から来る一人が現場で作業。もう一人が僕達をサポートしてくれる手筈になっている」
「はぁ…」
啓介は理奈がいつの間にか頼んでいた炭酸飲料を口につける。
水晶はワインを、理奈は炭酸飲料を飲んでいる。
啓介は理奈、自分の炭酸飲料の順に見て疑問を呟く。
「…って流されて飲んだけど、いいの?」
「問題ないわ。ここは暗部限定で安いから」
理奈はメニューを見ながら啓介に説明する。
「ちなみに何が食べたい?」
「…おまかせで」
「じゃ…すいませーん。シェフのおすすめを三つ下さい」
理奈が水晶の分も注文する。
その姿を見ながら水晶は言う。
「基本的にクエスト内容は全員が揃ってから説明するけど…栫さんともう一人の子は前線でボクとキミで彼女達の逃した敵を始末したり、彼女達を囮にして破壊工作を行う役割になると思う」
「…理奈たちを?」
「大丈夫。彼女に並ぶ高火力な能力は中々存在しないし、彼女は都市部での戦闘なら無敵クラスだ。もう一人の子も…まぁ小上位能力者だけど、十分に強いし役に立ってくれると思うよ?」
「…心配だなぁ」
不安そうな顔を見せる啓介に水晶は笑って啓介の右肩を叩く。
「大丈夫だって。…まぁ、今回集まる全員がソロの経験しかない個性的な面子だって言う点については心配だけどもね」
「もっと心配だよ!」
ますます不安そうになる啓介であった。