【2‐9】 怪物VS怪物
この物語は、ある程度の史実を織り交ぜながらも完全にこの現実世界とは完全に別の未来を歩んでいる別の世界であり、実在もしくは歴史上の人物、団体、国家とかその他固有名称で特定される全てのものとは、何の関係もありません。何も関係ありません。
つまり、この物語はフィクションです。
【2‐9】 怪物VS怪物
『勿論、覚えていますよ』
啓介は辺りを見回す。
女性…同年代くらいの女性の声が何処からか聞こえる。
理奈は武装兵士の集団を睨み続ける。
『栫理奈。我々「スレイヤーズギルド」に所属する世界で二十四人しか存在しない最上位能力者にして、電撃系能力の中で最強と呼ばれる【電光刹華】を宿す者』
「……誰?私はアンタの声なんて聞いたこないんだけど」
少女の声は武装兵士の中から聞こえる。
すると武装兵士が道を開けるようにして奥から来る何者かを三人の前に通す。
その者は普通の武装兵士に見えた。
バイクのヘルメットのように強固な頭部防具を装着し、肩にはマシンガンをかけた国連軍のような武装をした男だった。
その男は両手に収まる程度の小さなスピーカーを持っていた。
この声は、ここから聞こえているようだった。
『初めまして、栫理奈。私が声を他者に聞かせるということ自体、滅多に無いことですので…アナタが私を知らないのも無理はないでしょう』
「引きこもりか。…誰?」
『名前など言わなくてもすぐに理解すると思いますよ』
「はぁ?」
『…栂村啓介さん』
「ちょっと私の話を聞きなさいよ!」
スピーカーからの声は理奈から啓介に話し相手を変える。
『アナタは野放しにするには非常に危険な存在なのです。確かにアナタの大切な人をも守りたいという意志は非常に素晴らしいものだと思います。しかし、世界は子供の我侭を容認するほど甘くもないのですよ』
「…同じ年齢くらいのガキに言われてもな」
啓介は警戒心を露にして声の相手と会話を繰り広げる。
『そうですね。私もアナタ達と同い年です。…しかし、私とアナタでは知っている世界の闇が違います。アナタがのほほんと平和に暮らしている間、私は世界の裏で数多くの闇を見てきました。生きた時間は同じでも密度は違う。…精神年齢が違うのですよ』
「うるせぇ、ババア」
『…全くですわ。…まぁ、話はここまでにしましょう。我々としてもこれ以上駒が減るのは見過ごせませんので、私が直接お相手しようと思います』
理奈は左手で電撃を溜める。
『それでは栂村啓介さん、アリエルさん、生きていたらまた後で会いましょう。武装兵士達には栂村啓介さんの相手をしていただきますね』
スピーカーから音がプツッといって消える。
それと同時だった。
刀が地面にカシャンと音を立てて落ちた。
「理奈!!」
啓介の叫び声と同時に武装兵士達は動き出す。
「ッ!!」
全員が武器を構え、啓介に向かって突撃してくる。
「啓介ぇ!!」
「畜生ォォォォオオオオオオ!!!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「…は?」
理奈は目の前の光景が突然切り替わったことに反応できなかった。
「え?あ?…えぇ?」
理奈は目を大きく見開いて混乱する。
先程まで自分は啓介やアリエルと共にいたハズだったのに──
「どこ?…ここ」
「お気に召しましたか?」
「!」
理奈は後ろから聞こえた声に反応して大きく声のした方向とは逆の方向に飛び跳ねる。
ここは山の中の森に囲まれた月の良く見える何処か。
声は暗い森の中から聞こえてきた。
「…さっきの声の」
「言ったでしょう?私が直々にお相手すると」
草を踏む音が聞こえる。
理奈は自分の右手を見る。
先程まで持っていた日本刀が無くなっていた。
代わりにもう1本の日本刀を抜く。
「綺麗な場所でしょう?私のお気に入りの場所なんです」
「…」
「まぁ、美的センスの無いアナタには理解できないでしょうが」
「チッ!」
理奈は声の方向に向かって電撃で形成した槍を打ち込む。
電撃が青白い光を伴ってバチバチィッ!と音を立てて森に吸い込まれる。
「全く…森が火事になったらどうするんですか?」
「!?」
理奈の後ろから声が聞こえた。
理奈は慌てて後ろを振り向く。
「アナタは確かに強いです。圧倒的火力と驚異的な応用性を持ち合わせた存在。…私よりは十分に強いです。市内での戦闘といった人工物に囲まれたエリアでの戦闘ならば一国の軍隊相手でも余裕で勝利を収めることが出来るでしょうね。しかし…」
少女の声はそこで溜めた。
「アナタに最適の場所があるように、私にも最適の場所があるのです」
理奈の左頬に誰かの手が触れる。
「ッ!!??」
理奈はその手を掴もうとするが手はすぐに消える。
「…!?」
理奈は辺りを見回して警戒する。
「私は臆病なものでして。…姿を見せたくないのですよ」
「幽霊…?」
「まさか。…私はちゃんと生きていますよ?」
「……」
「まぁ、話はここまでです。これもクエストですからね。全力でいかせてもらいますよ」
「!」
理奈は刀を構える。
そして風の音しか聞こえなくなった辺りを警戒する。
「…………………」
「残念」
理奈は急に左手がガクンと下がったことに驚き、左手を見る。
「鉄球…!?」
鉄球のつけられた拘束具が理奈の左手に装着されていた。
理奈が左手を挙げようとするが、鉄球はびくともしない。
「(私の力で持ち上げられないってコトは…数百キロぐらいはあるってこと?)」
超能力者である理奈と言えども、このクラスの重さは持ち上げられないらしい。
「フフフ…気に入ってもらえましたか?」
「私はマゾヒストじゃないからこんなことされても喜ばないわよ?」
「残念です」
次の瞬間、右手が重たくなる。
「チィッ!!」
理奈は舌打ちをする。
右手にも同じ拘束具が装着されていた。
「…アンタ、テレポーターね?」
薄々感づいていたのか、理奈は呟く。
「ご名答。私はテレポート能力を持った臆病な超能力者です」
「嘘つけ。…これだけデカイ質量のモノを目視外からテレポートさせるなんて強大な能力じゃないとムリに決まってるでしょーが…」
理奈は動こうともがく。
「(早く啓介の元に向かわないと…!!)」
「そうですね。確かに私も世間では“世界最強の空間移動能力者”とは呼ばれています」
「世界最強の空間移動……」
理奈には心当たりがあった。
理奈はハッと気がつくと声のする方向を赤子なら視線だけで射殺せそうなくらいの殺気を込めて睨む。
「アナタの考えるとおりですよ」
理奈は自分の運命を激しく呪った。
「私の名前は双風 瑞希。アナタと同じ最上位能力者の化け物です」
理奈は歯噛みして悔しがった。
「(上層部!私と同クラスのヤツを莫大な金額で動員させてまで…啓介が欲しい訳!?)」
最上位能力者を緊急クエストで動員させる際、前払いとして数千万、後払いで数億という莫大な金が動く。
それを知っている理奈からすれば目の前の状況はあり得ないとしか思えなかった。
「(たかが最上位能力者一人を回収するだけに数億もの金を動かすの!?あり得ない…。過去の記録でもそんな莫大な金が動いたことは無いのに…)」
理奈の両足に拘束具が装着される。
「残念ですが、アナタがいくら拘束具に電気を送っても意味はありませんよ」
ギルドの用意したものが、理奈の対策をしていないはずが無いのだ。
「畜生……!!」
理奈は涙を流して絶望する。
「(啓介…!!)」
「大丈夫です。ギルドはまだアナタに使用価値が残っていると思っていますし、ギルドは彼も手懐けたいのですよ。…アナタはこのまま回収させてもらいますが、自殺してはいけませんよ?」
「……」
「アナタという防波堤がなくなれば、彼は裏の世界で誰にも守ってもらえずにすぐに死んでしまいます。…アナタの最後の希望を見捨てるのですか?」
「ッ!」
何も知らないくせに、と理奈は叫びたかった。
「アナタがギルドの言うとおりに動かない限り、彼は死んでしまうでしょう。その逆もです。…彼も賢いですから、自分が従わなければ、アナタが死ぬと理解するでしょう」
「ッ!!」
瑞希は理奈の背中の上に現われ、理奈の背中に腰掛ける。
理奈の頭は地面に擦り付けられる。
「ここで、電撃を使って私を殺しても…ムダですよ。私を殺せば、アナタと彼の命の保障はありませんよ?」
──言うことを聞かない兵器は壊すに限る。
理奈はその言葉を思い出した。
「アナタと彼を組織から放り出して別組織に奪われるくらいなら…殺して解体してしまったほうが楽でしょうし」
理奈は抵抗をやめる。
屈辱的な敗北だった。
いますぐにでもこの女の命を奪ってやりたかったが、啓介のことを考えると理奈は出来なかった。
瑞希は満月を見上げる。
「…そろそろ、あちらも回収が完了した頃でしょう。…武装兵士の死者数に応じて私の報酬が減ってしまうのであまり殺してもらいたくは無かったんですけど…」
「…………」
理奈は音を殺して泣き続ける。
「アナタは第17位。私は第12位。……序列が全てとはいいませんが、力の差は歴然です」
「…………」
「さぁ、絶望しなさい。そして、自分の運命を呪いなさい」
5月6日。
平和な世界に生きる一般人からすれば、いつもと代わりの無い一日だった。
しかし、今日は1人の少女が絶望した日であり、1人の少年が光の当たらない世界へと堕ちた日であった。




