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クロス×ドミナンス《旧版》  作者: 白銀シュウ
第2章 私の愛した幼馴染
19/60

【2‐7】  上には上がいる

この物語は、ある程度の史実を織り交ぜながらも完全にこの現実世界とは完全に別の未来を歩んでいる別の世界であり、実在もしくは歴史上の人物、団体、国家とかその他固有名称で特定される全てのものとは、何の関係もありません。何も関係ありません。

つまり、この物語はフィクションです。



【2‐7】  上には上がいる



 栂村啓介はブツブツ呟く。


「剣道なんですよねコレ?」

「いや、ウチは道場じゃないし、俺は剣道なんてできんぞ?」

「…道理で防具が無いわけか」


 啓介は剣道着を着ていた。

 しかし、その格好には小手や垂といった防具は全く装着されていない。

 単に着物剣道着と袴を着けているだけである。


「床には何も無いし…」


 床にマットとかひいてくれないの?と啓介は思った。


「俺はただのならず者だぞ?剣道の師範でも何でもないからなー」

「…不安になってきた」

「大丈夫だってば。頑張りなさい」


 理奈は啓介の背中を叩く。

 アニメとかマンガとかでよく見られる剣道場のような部屋で四人はいた。

 壁際にアリエルがちょこんと座っており、理奈はアリエルの隣で腕を組んで壁にもたれている。

 信綱は先程と変わらない格好で啓介の対面に立っていた。


「とりあえず、お前の能力は聞いたとおり“触れた相手をコピーする能力”で良い訳だな?」

「は、はい。でも…なんでそれがこういう稽古に?」

「このスットコドッコイ。頭を使えー。お前の弱点は何だ?」


 信綱は怒る気の無い声で啓介を罵る。


「えー…左手でしか能力を使えない?」

「他は?」

「えー…持ち合わせている能力がないと一般人レベルの強さになってしまう?」

「そこだー」


 信綱は右手に持った竹刀をブンと振って右肩に乗せる。


「お前の弱点はズバリ“能力を持たない相手に弱い”ことだ」


 全員が信綱を見ながら話を聞く。


「お前は能力を何一つコピーしていない状態だと一般人に毛が生えたレベルの強さだということだ。言ってしまえば、特殊部隊の隊員や軍隊の精鋭軍人とかが相手だと負けるレベルだ」

「確かに…」


 ヤンキーやDQN程度ならば啓介でも簡単に打ちのめせるだろう。

 弾丸に反応する反射神経なら不良の集団なんか敵ではない。

 だが、戦闘のプロに集団で襲われると一溜まりも無いだろう。


「精鋭軍人と一対一なら勝てる。だけど集団で襲われたらあっという間にお前は死ぬ。…刺客が一人や二人組、超能力者だとは限らんぞ?」

「……」

「つまり、お前は能力に頼りきりなんだよ」

「確かにそうだよね…」


 アリエルは信綱の話に感心したのかボソリと呟く。


「だから今から武器の使い方を教える」

「…え、でも武器って法律で──」

「いきなり素人に真剣を持たせるわけ無いだろー?最初は竹刀だよ竹刀」


 信綱は啓介の持つ竹刀を指差す。


「能力の力が弱い能力者でもそうやって武器を持ったり鍛えたりして裏世界を生き残っている。お前もそうしないと刺客は討てないぞ?」

「でも…」

「別に殺すわけじゃない…。っていうか、お前も殺人に加担した罪がある。…今更人殺しなんて出来ませんなんていうなよ?」

「……」

「心配ないさ。たとえ、お前が超能力者を殺しても色んな組織が裏で手を回して公表はされない。組織側も困るからな。……だからお前が人を殺そうと罪は組織によってもみ消される」

「……」

「それに、大切な存在を守るためなら血でも何でも被ってみせろ」

「…………はい」


 啓介は両手で竹刀を握り締める。



「そんじゃまぁー……最初は…“俺を動かしてみろ”」



「?」


 啓介は頭にはてなを浮かばせる。

 信綱はニヤリと笑いながら説明を始める。


「俺をこの場から一ミリでも動かしてみろ。超能力を使わないのならどんな方法でもいいぞ?」


 信綱はそういうと右肩から竹刀を降ろす。

 啓介は深呼吸をすると真剣な目つきで信綱を見据える。


「(あの理奈を鍛え上げた人だ。絶対に強い。っていうか滅茶苦茶強いハズ)」


 あの橋での理奈の剣術を見ていれば啓介にだってそれくらいは理解できる。

 啓介は剣道のやり方を知らない。

 だから竹刀を正しく振る方法を知らない。

 完全にアニメやマンガの見様見真似だ。


「…ッ!」


 啓介は脚に力を入れて全力で信綱に接近する。

 そして最短の動きで両手の力を使って信綱の左脇に竹刀を叩き込もうとした。


「はい失敗ー」


 信綱の暢気な声が聞こえてきた時には遅かった。

 啓介の左頬に信綱の竹刀が叩き込まれていた。

 啓介は竹刀の威力で大きく吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。

 というか壁を突き破って吹き飛ばされた。


「啓介!?」


 アリエルの驚きが含まれた叫び声が聞こえる。

 信綱はぶんやりと啓介が突き抜けた壁を眺める。


「(流石は師匠…)」


 理奈は信綱の足元を見る。

 全く足を使わずに右手の力だけで啓介をあそこまで吹き飛ばすという芸当に理奈は恐れと尊敬を抱いた。


「ぐっ……」


 啓介が苦痛に顔を歪めながら壁から現われる。

 頭から血が流れ、左手は変な方向に曲がっていた。

 左頬は青くなっている。


「痛ってぇ……」

「手加減したぞ?」

「スンマセン。せめて普通の剣道レベルに手加減してほしいんですけど…」

「殺し合いの練習だぞ?…これくらいせんとお前も本気出せないだろ?」

「ッ…」


 啓介は右手だけで竹刀を構える。


「やる気をもっと出せー」

「ッツ!!」


 啓介は再び信綱の元へ接近する。


「うおおお!」


 右手を使って竹刀で信綱を突こうとする。


「はい残念」


 今度は顎を打ち上げられ、天井に叩きつけられて床に落ちる。


「ぐっ…うああああああああああああ!!」


 啓介が痛さのあまりにのた打ち回る。


「あーもー…ギャーギャーギャーギャー騒ぐな。五月蝿い」

「ッ…ゥゥ!…………痛ッ」

「今のは顎だったから流石に手加減したんだがな」

「(これで手加減とかマジかよ…!?)」


 啓介は立ち上がろうとしてある違和感に気がつく。


「(左手が…)」


 先程折れた左手の骨が再生を始めているのだ。


「普通の攻撃だからな。ある程度の怪我や痛みは事故修復しちまうだろうさ。だから骨が折れても安心だぞ?」

「痛みが消えるなら良かったんですけどね……」


 啓介は右手を使って立ち上がる。


「ほらほら、もっと来い」

「ッ…うおおおおおお!」


 啓介は再び信綱の元へ接近する。


「はいはい頑張れー」


 啓介は右手で竹刀を使って信綱の脚を狙う。


「考えたなー」


 左から信綱の竹刀が飛んでくる。

 しかし、啓介は修復中の左手を使って竹刀の攻撃を受け止める。


「(ぐッ……!!)」


 間違いなく繋がりかけていた骨が折れた。

 しかも今度は半分くらい粉々に砕けたに違いない。

 しかし啓介は痛みに耐えて右手に全力を込めて信綱の脚を狙った。


「惜しかったぞー」


 次の瞬間、啓介は右の壁に吹き飛んでいた。

 壁を突き破っている。

 アリエルと理奈に当たらなかったのは信綱の配慮か。


「(マジ…かよ…)」


 ──何時の間に竹刀を左手に持ち替えた?

 啓介はボンヤリと痛みに耐えながら考えた。

 頭を強く打ち付けてしまったのか首が上手く動かない。

 首の骨が折れたかもしれないというのに神経は正常に動いている。


「(本当に人間じゃなくなったんだな…)」

「ほらほらー、早くしろよ?」

「ぐっ…!」


 啓介は再び立ち上がる。

 そして信綱を睨む。


「…いい目してるじゃないか」

「うおおおおおお!!」




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 窓が開いているにも関わらず何故か暗い部屋にその少女はいた。

 時計の針は間違いなく午前を指しているにも関わらず、外は暗かった。


「……それで、私に頼みたいこととは?」


 薄いテレビの前に少女はいた。

 イスに座ったまま、目の前のテレビに向かって話しかけているようだ。


『暗部の一員、栫理奈の反旗の阻止をアナタ様にお願いしたいのです』

「…“天罰を司る少女”のこと?」

『その通りです。“世界を統べる者”のアナタならご存知ですよね?』

「まぁ…噂くらいなら」


 少女は天井を見上げる。

 テレビの白い光だけで照らされている部屋はホラー映画のような不気味さを感じさせる。


『…24番目である“形を持たない少年”と共に行動しているようなのです。…24番目は能力を持たない者たちを使って回収させますが、栫理奈がどうしても邪魔になってしまうのです』

「まぁ、雷を司る相手に通常兵器で立ち向かうこと事態が馬鹿馬鹿しいものね」

『………やっていただけますか?』


 それは、絶対の言葉。

 少女は溜息をつくと、面倒だという感情を感じさせない声色で返事した。


「やりますわ」 


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