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クロス×ドミナンス《旧版》  作者: 白銀シュウ
第2章 私の愛した幼馴染
16/60

【2‐4】  遠い昔の記憶

この物語は、ある程度の史実を織り交ぜながらも完全にこの現実世界とは完全に別の未来を歩んでいる別の世界であり、実在もしくは歴史上の人物、団体、国家とかその他固有名称で特定される全てのものとは、何の関係もありません。何も関係ありません。

つまり、この物語はフィクションです。



【2‐4】  遠い昔の記憶



 啓介は目の前の美少女の再会を意味する言葉を聞いて唖然としていた。

 目の前にいるのは彼の幼馴染であった栫理奈。

 理奈は右手を啓介に差し出す。


「あ、あぁ………」


 啓介は理奈の手をとって立ち上がる。

 立ち上がった啓介は自身の服をパンパンと叩く。

 埃や砂といったゴミは落ちたものの、最初のバスから叩き出されてローリングした際の服の傷ばかりはどうしようもなかった。

 皮膚のように再生するわけではないので啓介は自身のみすぼらしい格好を見て溜息をはく。


「大丈夫?」

「あぁー…何とかな」


 啓介は自身の右腕を見る。

 ぐしゃぐしゃに裂けた皮膚の再生が始まっていた。

 理奈はそれを見ると顔を強張らせて啓介の右手をガッと掴む。


「お、おい!?」

「…………啓介、なんで皮膚が再生してるの?」


 理奈は啓介の皮膚の再生を見ながら尋ねる。


「え、い、いや…」


 どう答えたらいいのか迷う啓介に理奈は核心をつくような言葉を出す。


「まさか……契約した?」

「…………あぁ」


 理奈の顔が恐ろしいような気がして見れない。

 啓介は変わった幼馴染に少しだけ恐怖を覚える。


「……とにかく、ここはまずいわ」


 啓介は辺りを見回す。

 炎上する車やひび割れた地面。

 人は逃げてしまったのか放置された車だけが残っている。


「何が?」

「こんな異変を警察が放っておくわけが無い。私達も直ぐに離脱しましょう」

「…そうだな」

「私の能力で一時的に地面を復活させているだけで私が能力を解除したら直ぐにこの場所は崩落するわ」


 理奈は啓介から手を離すと歩き出す。

 そして捨てられた赤色のスポーツカーに乗り込み、啓介に手招きをする。


「(奪うのかよ!?)」


 啓介の驚きを含めた視線に理奈は平然と言い返す。


「非常時よ。津波や地震の際に運転手がキーをつけたまま逃げるのと同じこと。非常時だから使えるものは何でも使わせてもらう。ほら、乗って」


 理奈はキーを回して車のハンドルを握る。

 啓介は隣の座席に座る。


「…もう兵庫警察が既に動き出しているはずよ」

「どうするんだよ、逃げ道ねーぞ!?」

「とにかく警察が到着するまでの時間を考えると淡路へと向かうべきね」


 理奈は車をUターンさせる。


「ちょ、ちょちょちょちょっと待ってくれ!」


 啓介は慌てて理奈の提案に不満を告げようとする。


「分かってる。啓介の堕天使のことでしょう?あの子は無事に神戸に入ってる。だから少し遠回りになるかもしれないけど、一旦淡路に戻って連絡船で神戸へ向かうか、四国まで戻って徳島~和歌山の近畿経由ルートなり瀬戸大橋を渡る中国地方経由ルートなりで神戸へと向かったほうがいいの」


 理奈はアクセルを思い切り踏み込んで発進させる。

 それと同時に理奈の能力が解除されたのか崩落が再開する。

 完全に規定の速度を超えたスピードでスポーツカーは崩落する橋を逆走かつ爆走する。


「…ところで、理奈」

「やっと名前呼んでくれたね。…で、何?」

「ダメ元で聞くけど免許持ってるの?」

「忘れたの?私の誕生日と年齢」

「……デスヨネー」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 同日。

 午後五時二十二分。

 栂村啓介と栫理奈の二人は帝都・神戸へと到着していた。


「計算外だったわ。…橋の崩落によって淡路からの連絡船は休航。徳島から和歌山への連絡船も日本政府の命令により休航。大鳴門橋だって通行禁止にされるギリギリのところで通行成功。瀬戸大橋も封鎖される寸前に無理矢理強行突破。警察に追われながら岡山に入ってどうにか警察を巻いて戻ってきたのね」

「完全に俺達犯罪者だよね。乗っている車は盗難車。しかも警察の静止振り切って規定以上のスピードで爆走。あと無免許」


 顔を見られなかったのは奇跡としか言いようが無い。

 理奈はスポーツカーを道路の脇に停車させるとキーを差したまま降りる。


「いいのかよ…カギ」

「乗り捨てるのが車強盗の基本よ」


 数年も見ない間にすっかりと変わってしまった幼馴染にショックを受ける啓介だった。

 そして数分ほど理奈に案内されて啓介は中華街へと到着する。


「ホントにここなの?」

「多分、アイツのことだ。テレビに映ってた中華料理専門店の前で待ってるだろ」


 明石海峡大橋の前で待ってくれている可能性もあったが聡明なアリエルのことだ、恐らくここで待っていてくれているはずだと啓介は信じたかった。


「(姿は目立つからオフにしている可能性が高い…。だから名前を叫べない。ってか人多いなオイ!)」


 啓介は二分ほど人ごみを押し分けて進み、目的の場所へ到着する。

 そこに、彼女はいた。

 アリエルはポツンと片隅で体育座りをして寂しそうに待っていたが、啓介を見るとぱぁっと表情を明るくして走ってくる。


「良かった!啓介ホントに良かったよぉ…」


 アリエルが涙声で啓介に抱きつきながら喋る。

 ちなみに姿はオンに切り替わっている。


「悪いな。…ボロボロになっちまったし、こんなナリじゃ店には入れないな」

「いいよ…。啓介が無事ならそれでいい…」


 啓介は少し恥ずかしそうにアリエルの抱擁を受け続けていた。


「(相手が人間じゃないと分かっていてもこの容姿だし…相当ヤバイなぁ。いや、恋愛感情とか性的対象って言う目で見てないから!)」


 誰に言い訳をしているのか分からない啓介だったがとりあえず心の中で叫んでおく。


「啓介、一緒に帰ろう?」

「あ、あぁ…」


 涙目のアリエルの上目遣いに啓介がドキッとする。

 頭では必死に人外の怪物だと否定していてもやはり限界はあるらしい。


「(ヤバイ。この雰囲気はなんか非常にむずむずする!誰かHelp me!)」


 SOSを発進する啓介に救いの手は舞い降りた。


「啓介!置いていくってどういうこと!?」


 理奈が人ごみから少し怒りながら現われた。

 アリエルは理奈の姿を見て呆然とする。

 理奈はアリエルを見ても何も思わなかった。


「…ソイツが、啓介の堕天使?」

「あ、あぁ…アリエルっていう名前だ。本名か偽名かは知らないけど」

「ふーん」


 理奈は興味なさそうにアリエルをチラッと見るが、すぐに視線を啓介に戻す。

 啓介はその反応に意外性を感じた。


「…珍しいな。普通、アリエルの姿見たら綺麗とか言いそうな気はするんだが」

「別に。神々の超越者(ゴッド・イーター)って人外レベルの美男美女ばっかりだから見飽きた」


 少し機嫌が悪そうに理奈は答える。


「(成程)」


 啓介は納得し、アリエルの方に視線を向けた。


「……アレ?」



「啓介、誰あの女」



「あの…どうしたの?」

「まさか、女をナンパしてイチャついてたの?」

「な、何言ってるんですかね?ちゃんと刺客とランデヴーしてましたよ?」


 何だろうこのキャバクラのカードが妻に見つかって問い詰められている時のような背筋の寒さは。


「それは信じてあげる。だけど、どうしてこんなに時間かかったの?」

「橋が崩落して神戸に行けなくなっちゃったから迂回してたんだよ」

「ウソだ」


 なんか怖い。

 助けて記憶に残っていないお父さんお母さん。


「あんな美人、啓介の知り合いにいる訳が無い。同級生でも近所の人でもないじゃん」

「俺の幼馴染」

「そんなエロゲーチックな設定があってたまるかって話だよ」

「何処でそんな言葉覚えた!?」

「啓介のパソコン」

「畜生!」


 色々とやばいものを見られたかもしれない、と啓介はショックを受ける。

 アリエルは無表情で啓介に問い詰める。


「真実話してよ」

「いやマジで幼馴染」

「啓介みたいな冴えない普通の男子高校生に二次元みたいな美少女幼馴染がいるわけないよ。現実見ようよ」


 なんかスゴく酷いことを言われている気がする、と啓介は思った。


「そんなに女に飢えてたの?」

「はぁ!?い、いや…確かに飢えているといえば飢えていましたけど…別にそこまで飢えていたわけでも」

「私、言ったよね。彼女になってあげてもいいって」

「…パートナーの話だろ?」


 アリエルが黙る。

 理奈は困っている啓介を助けるためにアリエルに声をかけることにした。


「ねぇ、そこの堕天使。私は別に啓介とはアンタが考えているような関係じゃないから。なるつもりなんてないし」

「(酷い言い様ですね!幼稚園児のときは結婚の約束までしていたってのに!)」


 やはりアニメによくある幼稚園児や小学生の時に結婚を約束してずっと覚えていてくれるような幼馴染はいないらしい。


「キミ、超能力者だね?誰の奴隷?」

「(奴隷って言いやがった。俺には散々パートナーだとか対等だとか言ってた割には奴隷とか言いやがった)」

「奴隷じゃない。あと、契約相手はラミエルっていうヤツ」

「…………あのイヤな男か」


 アリエルは苦虫を噛み潰したような表情をする。

 どうやら知り合いらしい。


「ま、ラミエル如きの奴隷が私のパートナーである啓介と仲良くするなんてお・こ・が・ま・し・いんですけど」

「(何この修羅場。いや、アリエルが勝手に修羅場やってるだけか?)」

「アラ、掟はいいの?神々の超越者(ゴッド・イーター)って人間と結ばれることは重大な掟違反だと聞いたけど?」

「子供が出来たら掟違反なだけですぅー。あと、私は啓介とそういう関係じゃないです。何よりも固い信頼で結ばれた生涯のパートナーなだけでだから」

「ふーん。でも、啓介を信じてあげられないんでしょ?ソレ程度の信頼で生涯だなんて笑わせてくれるわね。あと私達って子供の頃に結婚の誓いまでしたから」

「(覚えていたーッ!我が世の春が来たッー!!)」

「まぁ、そんな気は毛頭無いんだけどね」

「(我が世の冬が来たッー…!!)」


 理奈は溜息をつく。


「……………」

「ま、本音は隠しておくのが私のスタンスなんだけどね」

「どっちなの!?」

「(売り言葉に買い言葉だな)」


 啓介としても人混みの中から野次馬が形成されてこの修羅場を見物されているのは居心地が悪い。

 なので啓介はまだ文句を言いそうなアリエルの口を両手で塞ぐ。


「どっちでもいいから修羅場はこれで終わりにしてほしいんですけど」

「修羅場じゃない。私の一方的勝利よ。…ま、啓介がイヤなら別に良いけどね」


 アリエルは啓介の両手をバシバシと叩いて不満を表現する。


「…何がそんなに不満なんだよ」


 啓介は両手を離す。

 アリエルは怒った。


「だってぇ!啓介が私を捨てると思ったんだもん!」

「……は?」

「身長は私より高いし!」


 理奈の身長は百七十センチ。

 日本人の女子高校生の平均身長より高い。

 アリエルの身長は百五十五センチ。

 ちなみに啓介は百七十四センチである。


「脚が私より長い!」

「(そりゃ…身長の時点でどうにもならねぇよ)」

「服のセンスが良い!」

「(俺からしたらゴスロリ+パンクってセンスは好きじゃないな。まぁ似合ってるから問題はないんですけど)」

「私より実用的そうだし!」

「(実用的?どういう意味?アレか?家事とかそういう感じのか?)」


 徐々に褒め言葉になってきている気がする。

 言ってるうちに悲しくなったのかアリエルは再び涙目になり、次の一言を叫んだ。



「あ、あと私より胸が大きい!」



「(…公共施設のど真ん中で“胸が大きい”なんて叫ぶなーぁぁぁ……)」


 啓介は心の中で頭を抱え込んで大いに凹む。


「………」


 理奈も唖然としていた。

 アリエルは気付いていないようだ。

 ちなみにこれは啓介の目測なのでホントかどうかは疑わしいが、両者の胸囲部分の差はデカい。

 アリエルの効果音が“ちょーん”なら理奈の効果音は“ボイーン!”というくらいの差である。

 普通に女子高生の平均を超えている気がする、というのが啓介の感想だ。


「(……どうしよう)」


 野次馬がザワザワと騒ぐ中、啓介は涙目でこの状況を打開する方法についてずっと考えていた。

 野次馬からは「二股かよ」とか「男サイテー」なんて言葉が聞こえてくる。

 アリエルはともかく理奈は元より他人の目を気にしない性格なので他人事のようにしていた。


「(……今日は厄日だったな)」


 理奈との再会がプラスだったとしても刺客との戦闘・この修羅場だけで普通にマイナスだった。


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