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クロス×ドミナンス《旧版》  作者: 白銀シュウ
第2章 私の愛した幼馴染
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【2‐3】  天罰を携えし少女

この物語は、ある程度の史実を織り交ぜながらも完全にこの現実世界とは完全に別の未来を歩んでいる別の世界であり、実在もしくは歴史上の人物、団体、国家とかその他固有名称で特定される全てのものとは、何の関係もありません。何も関係ありません。

つまり、この物語はフィクションです。

【2‐3】 天罰を携えし少女



「“身体が刃になる能力”って知ってるか?」



 今度の啓介の対応は早かった。

 炎の能力を使って自分のいた場所から慌てて緊急回避をする。

 その瞬間、啓介が先程まで立っていた地面が斬られた豆腐のように崩れ落ちていった。


「ッ───!!」

「油断してやがるなぁ…。俺の死を確認するまで油断するんじゃねぇよ…!」


 不知火が崩落した地面の部分から這い上がってくる。

 口から血を吐いていたが、不知火本人はまだピンピンとしていた。


「オマエが表の世界の住人だってことはわかってる。だから人殺しも出来ない。する勇気がない」


 不知火は自身の左手の指全てを刃に変形させながら啓介に近づく。


「だがな、俺達裏世界じゃそんな甘ったれたルールが通じねぇんだよ!!」

「……」

「オマエはもう表世界の住人じゃねぇ!!」

「……」

「俺に勝とうが負けようが、オマエはどのみち裏世界に落ちていく!」

「……」

「超能力者の世界ってのはそういうものなんだよ!!」


 不知火はニヤリと口角をあげると啓介を見つめる。


「かかってこいよ。本気で俺を殺してみろ。じゃなきゃ、死ぬぜ?」


 不知火は奇声をあげながら啓介へと走り出す。

 啓介は不知火の左手振り回しを身体を捻ってかわすとバックステップで距離をとる。

 不知火はそれでも直ぐに距離を詰めて啓介に対して腕を振り回す。

 啓介は必死に全ての攻撃をかわしていく。


「オラオラオラオラァ!!どうすんだオマエ!?死ぬぞォ!」

「(ヤバッ…!!)」


 近接戦は喧嘩慣れしていないこともあってか啓介はかなり苦手だ。

 だからこうやって敵の攻撃をかわすだけでもかなり精神力と体力と集中力を浪費させる。

 相手に触れるなんて不可能過ぎる。


「ハッ!」


 不知火は啓介の首目掛けて右手を伸ばす。

 啓介は首を刃にして攻撃を受け止めた。


「成程成程ォ…。コピー能力かぁ?」

「(使っちまった…。でも仕方ねぇ!)」


 これで使える能力は後一回。

 啓介は迫ってきた車をよけるためにもバックステップで再び距離をとる。


「(とにかくここじゃ不利だ!場所を変えないと…)」

「逃がすか!」


 不知火は自身の左足を刃に変形させるとサッカーボールを蹴るように地面を斬った。

 不知火から放たれた斬撃は啓介へと向かって突き進む。


「やべっ!」


 啓介は全力で身体を動かして斬撃を回避した。


「まだまだァ!」


 不知火は左手で地面に突っ込んで五本の指で斬撃を放つ。

 しかし五つの斬撃は啓介を狙ったものではなく、地面を抉り取っていく。


「(あの野郎!まさか…)」


 不知火が下で唇を舐め回した。

 次の瞬間、コンクリートの地面がガラガラと音を立てて崩れていく。


「うおおお!!」


 啓介は全速力で走って崩れていくポイントから離れようとする。

 しかし、崩落のスピードは早い。

 急ブレーキで停車していた車や反対車線の道路まで巻き込んで海へと沈んでいく。

 そして啓介も──


「うわああああああああああああああああ!!」


 大概の人間が不安を覚えるであろう浮遊感に啓介の背筋が凍りつき、恐怖を覚える。

 足が何にもついていない感覚というのは気味が悪い。

 啓介が手を慌てて伸ばすが橋には届かない。

 下は海。

 学校の授業で水泳を取っていたくらいの水泳経験しかない啓介では泳ぐことは出来ても岸にたどり着くのは不可能に近い。

 それに橋の下の潮の流れは非常に複雑であり、人間が泳げるような場所ではない。


「(死ん、だ────!?)」


 啓介の心に絶望が浮かび上がる。

 やはり神の加護を捨てた存在に奇跡は起こらないのだろうか。

 しかし、新たな運命は啓介を見捨てなかった。

 ドサリッと啓介の身体が何か堅い物の上に落ちる。


「いっ……たぁっ…!」


 いきなりの予想だにしなかった苦痛に耐える啓介はひっくり返って背中を摩る。

 そこで啓介はあることに気付く。


「(…水じゃない?)」


 啓介は目を見開いて起き上がる。

 そこには妙な光景が広がっていた。

 啓介と共に落ちた車や瓦礫が宙に浮いていた。

 否、橋へと向かって上昇していた。


「(一体…何が…!?)」


 啓介の乗っていた瓦礫も橋へと引き寄せられ、瓦礫が橋の地面にくっつく。

 まるで最初から何も無かったかのように元通りになっていった。

 啓介は遠くにいる不知火の姿を見る。

 彼の顔は驚愕に溢れており、それは彼の仕業ではないということを示すと同時に彼の計算外の事態でもあるようだった。

 啓介は呆然と目の前の光景を見ていた。


「な、何が起こったってんだよ!?」


 不知火が狼狽しながら吼えた。


「誰の仕業だァアアアッ!?」



「私よ」



 啓介の頭上から声が聞こえた。

 啓介は上を向くが太陽の光でよく見えない。

 ただ、啓介の記憶を刺激させるような声だった。


「誰だテメェッ!あのクソガキに仲間がいるなんて聞いてねぇぞ!」

「仲間じゃない。私は上からの命令を遂行するためにやって来ただけ」


 橋の命ともいえるケーブルが少し揺れる。

 そして啓介の前に何者かが降り立つ。


「大体、任務以前に困るのよ。四国と近畿を結ぶ重要なラインを断絶させるなんて日本政府どころか超能力の存在の漏洩を嫌う組織から総スカン喰らっても文句言えないわよ」


 少女だ。

 年齢は十六・七くらいで啓介と同世代に見える。


「それにアンタ見てるとすっごくイライラする。あのムカツク女を思い出させるツラね」

「あァ!?」


 ハイヒールのレディースブーツに似たゴスロリとパンクが入り混じった底の厚さ五センチ位のレザーブーツが啓介の目に映る。

 最低限の肉がついたスラリと伸びている美脚、黒を基調としたゴスロリ的な装飾がつけられたとても長いベルトと短いスカート、銃のホルスターのようなものに差されている二本の物騒な得物。


「ま、アンタの事情なんて知ったこっちゃないし、それ以前に私は上からの任務もアンタの所のボスの思惑にも興味は無い。私は私を守る為にここに来た」

「訳のわからねぇことをべちゃくちゃ喋ってんじゃねぇぞ!」


 茶色のおさげに両手に装着された銀装飾の黒色の指なしの手袋、鎖骨が見えるくらいにボタンが外されたカッターシャツ。

 少女の格好はどう見ても一般人ではなかった。


 異様な雰囲気を纏った少女は溜息をつくと鋭い目つきで不知火を見つめる。


「……ま、いいわ。私も済ませたいことが沢山あるのよ。だからとっととここで──」


 そして少女は左腰のホルスターに差されている日本刀に左肘を乗せて宣言する。



「消えろ」



 不知火が何かを言い返す前の行動だった。

 少女は超能力者でも簡単には再現できないようなスピードで不知火の懐へ飛び込む。

 そして、左手で得物を抜いて全てを終わらせるための動作を行う。

 少女が抜いた惚れ惚れするような美しさを持った日本刀は不知火の胸に赤い線を作る。

 そして、少女は右手で不知火の首を掴みあげ、左足を地面に固定して右手を思い切り振る。

 不知火は悲鳴を上げることもなく橋から落ち、海へと消えていった。

 僅か十秒。

 たったの十秒で啓介が苦戦した相手は瞬殺されてしまった。

 啓介が驚愕で声を出せずにいると少女は啓介のほうを振り返り、啓介の元へと歩いてくる。

 姿が近づくに連れて啓介の昔の記憶が強く刺激される。

 こんな服装の知り合いなどいないと啓介は思ったが、脳は強く思い出せと命令する。

 後姿ばかりで見えなかった顔が見える。

 とても美人だ。

 アリエルとはまた別の美しさを感じさせる。

 というよりはアリエルとは真逆のベクトルを進んでいると言えるような美しさだ。

 何もかもがアリエルとは違う。

 アリエルを竹取物語のかぐや姫のような儚さと美しさを持った美人と表現するのなら、こちらはキリッとして芯の強い大和撫子のような美人だ。

 守られるというより守る──そのような表現が良く似合う。

 それと同時に啓介は思い出した。


「(………マジかよ)」


 その記憶は啓介がまだ子供だった時の記憶。

 自分が小学生になり始めたころの記憶。

 自分の手を引っ張って常に遊んでいた存在。


「まさか……」


 背は大きく伸びた。

 顔つきもあの頃と比べてとても変わった。 

 雰囲気も服装も全てが変わった。

 声も変わった。

 だが、何かが啓介を確信させたのだった。


「理奈…か?」



「久しぶり……啓介」



 十年前に別れた栂村啓介の幼馴染、栫理奈(かこいりな)は突然の再会に戸惑いながらも歓迎するような微笑を見せた。


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