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「さて、戻ろうかな」
二人の回収をしっかり見届けた私は、誰に気取られることもなく村唯一の宿場へと戻った。誰も私がいつから部屋にいたのかわからないだろう。
村人たちはいつティタとフェローの不在に気がつくのだろうか。自然と口角が上がり、次の配置のことも色々とアイディアが浮かんでくる。
(敵国同士に置いてこようかな。ラディとグラフカも近くに配置しよう。私は預言者とでも名乗って両国に接触できれば近場で観察もできる)
すごく素敵なことに思えた。グラフカはアステーリ帝国の騎士にしておくのが一番安定するから、ラディはその隣国の魔導士にしよう。ティタとフェローはそれぞれの部下にでもしたら、二人はどうやって出会い恋に落ちるんだろうか。
私はイスキオス鉱山での観察結果から、お気に入りたちを近くに配置することでおもしろいことが起こる可能性があると思っている。なにせあのグラフカが魂の記憶を自力で思い出したのだ。
「ああ、おもしろい!マレンガ村での大事件を見届けたら、さっそく配置し直さなくちゃ」
そのためにはまた、ラディの回収をしなくては。今回はどこぞの国の貧困街に置いてきた。何もしなくても、近いうちに宝石をどこぞの貴族の屋敷から盗み出すことだろう。そこに虹の雫があるはずだから、私の介入は必要ない。
硬いベッドに横になり、まずはお気に入りを回収したその後、村の行く末を楽しみに目を閉じた。
翌朝目を覚まし、いつも通り宿で朝食をとり、そのまま村の散策へ出かける。すれ違う人と挨拶をして、広場で行き交う人々を眺める。時々空を見上げ飛んでいる鳥を観察し、声をかけられればいくつか会話を交わす。
そうしてお昼の時間が過ぎた頃、村人の一人が騒ぎ始めた。
「フェローがいつもの時間になっても姿を現さないんだ。風邪でも引いたかと家に行ってみたらティタもいない!誰か二人を見かけたか?」
「フェローとティタ?そういえば今日はまだ見てないね」
「いつもの草原は確認したか?」
「一番に確認したさ!誰もいなかったんだよ」
どんどん村人が集まってきて、ティタとフェローの所在を確認している。私も人々に近寄って「どうしたんですか?」と何も知らないふりをして尋ねる。
「ティタとフェローがいないんだってよ」
「村の外に出たんじゃないだろうね?」
「村はずれの崖から転落したりしてないか?」
私の質問に答えたと思えば、次から次への様々な憶測が飛び交う。そこから「みんなで探そう」と一人が言い出すまで大した時間はかからなかった。
私も村人たちと一緒にもうこの世界にはいない二人を「ティタさーん!フェローさーん!」と声を張り上げ村中をまわる。なんとも滑稽だと思うが、旅人アイリスとしては自然な行動のはずだ。
あたりが真っ暗になるまで村付近の捜索を続けたが、手がかりは一切見つからなかった。
「こう暗くちゃ何も見えんな。また明日にしよう」
そう一人が言うと、足取り重く家へと戻る者、「最後にもう一度だけ」とどこかへ向かう者、さめざめ泣いている者と様々だった。
(こんなに小さな村、もう探すところなんてないだろうに……)
一体明日はどれだけの人が二人の捜索を続けるのだろう。もう見つかりっこないと分かりそうなものなのに、何を探すつもりなのか。明日も捜索について行ったら面白い反応が見られるだろうか。
数日ほど経つと、一日中ティタとフェローを探し回る人はほとんどいなくなった。それはそうだろう。もう探す場所なんてない。なのに、毎日二人の家を覗き、草原を見に行くのをやめない人も残っていた。曰く「ひょっこり戻ってきているかもしれないから」とのことだ。そんなわけないのに。
ほとんどの人々がティタとフェローのいない日常を受け入れ、変わりのない生活を送っている。子ども二人がいなくなって生活に支障があるはずもない。なのに村人の中には喪失感を拭いきれず、いつまでも涙している者もいた。
(あの二人はこの村にとっては身寄りもなく突然現れた子どものはずなのに)
突然現れたのだから、突然消えたって不思議ではない。私はそう思うけれど、人の心とはわからないものだ。
そろそろここでの観察を続けていても、これ以上面白いことが起こることもなさそうだ。
「ティタさんとフェローさんは心配ですけど、そろそろ私も次の旅に出ます。旅先で二人を見かけたらこの村に知らせますね」
そう伝えれば、とっくに捜索を諦めた人も泣いていた人もほっとしたように「よろしくね、アイリスちゃん」と私に何かを期待したように送り出してくれた。
本当に、人間とは不思議なものだ。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
マレンガ村編はこれで完結です。




