チャプター8.最後のサムライ
『その日ノ本全土を脅かす奇怪な力!
身を守る為であらば知識は必要だ!
それがたった四文!命を買うと思えばまぁ安い!!』
町人たちのがやがやとする声に飲み込まれない。
売り子の大きな声が聞こえてくる。
「あれ、たまに村に流れてきてたやつか!」
町人たちは声の主から木板を買っている。
辺境の村では滅多に見ないが、
土産でたまに見たことはあった。
流行りや事件
色々な話が彫られていたのを覚えている。
「トツ国いうてたよなぁ。」
気になる言葉を耳にしたが銭が心許ない。
飯と宿のことあるしなぁ。
どうしたもんかと腕を組み、ううむと唸る。
まあ、宿と飯を決めてからでいいかな。
『さぁ数に限りがあるから、早いもん勝ちだよぉ!!』
「買うっ!!!!にいちゃんそれくれぇ!!!!」
───────────────
おませさんだねぇ。
と言われたのに眉間を寄せる一幕があったり
財布が軽くなったりしたのは、まあいい。
「ニ里って、また随分とちけぇな、
襲われた村っていうんは。」
気を取りなおして瓦版をみてみる。
襲われた村は一刻あれば
行ける場所にあったみたいだ。
トツ国は白ずくめの奇妙な身なりと
摩訶不思議な妖力を持ちいる、か。
村が襲われた以外の情報には
…特に目新しいものはないなぁ。
「昨日に襲われたってのなら、
ほんとに何時江戸に来てもおかしくねぇなぁ。」
『嬢ちゃん凄いねぇ、
まだ小さいのに本当に文字読めるんだな。』
「へ、へへっ、まぁな。
じっちゃんが教えてくれたんだべ。」
売り子の兄ちゃんがひょっこりと顔を覗いてくる。
悪気がないのはわかる、
だが、ひくひくと頬が引き攣ってる気がする。
『ほう、そいつはいい家族だ!
将来苦労しねえようにしっかりと勉強させるとは。』
「!! だろーーっ!!
じっちゃん優しくて頭良くてかっけえんだべっ!!」
『ははっ、そうかいそうかい。自慢だねぇ。』
この兄ちゃん、いいやつだな。
『遅くなる前にきちんと帰るんだよ。
トツ国の事で色々と物騒だからねぇ。
べっぴんさんは余計に狙われてるかもだしな!』
「んだ!にいちゃんはもう帰り支度かぁ?」
じっちゃんを褒められたのもあるが
おらの耳や髪をまったく気にする様子がない。
『おうとも!瓦版を売ってると
お役人に目をつけられちまうもんでね。
完売御礼なのに捕まったら一文無しになっちまう!』
「んだぁ?わりいことなんか、瓦版?」
『さあねぇ、観る人によるんじゃねえか!
ま、どちらにせよ、
俺は家族を養うために働くだけさ。』
「…そっかぁ。」
気持ちのいい気風に
愛想笑いも忘れておらは自然と笑っていた。
「気をつけて帰るんだぞ!」
『へっ、あんがとよ!
まあ今日は役人共もなんだか遅いけどな、
いつもならもうすっとんできてるんだけどねぇ。』
役人がくる前に瓦版を捨てとけよ、と
おらの頭を撫でながら
アイツらサボりかぁ?と軽口を叩く兄ちゃん。
『安心しろ。役人共ならば、もう居ないぞ。』
その背後から、いきなり冷たい声色が聞こえ。
ゆらりと影が見えた。
次の瞬間。
『あん?』
─── どすり、と鈍い音が鳴る。
『…は?』
『これより我らが統治する場所に、
古い秩序など必要ないからな。』
胸を突き破り顔を見せた刃
その切先をなぞるように、どろりと鮮血が溢れ出す。
『きゃああああああああぁぁぁーーーーッ!!!!』
それを皮切りに
ぞろぞろと周囲を取り囲む白服の集団。
数にして、20人余りといったところか。
楽しげな江戸の狂騒は
兄ちゃんの身体がおらの目の前に倒れ込むと
『…か、瓦版に書いてあったのと…おんなじ…
ぜ、全身…真っ白の…。
ト、トツ国だぁーーーっ!!!!』
『ど、同心を呼べーーっ!!!!』
恐怖の色に染まってしまった。
『喚くな、島国の低俗な猿共が。』
「……。」
『どいつも、動くんじゃない。騒ぐんじゃない。
さもなくば、次はこの娘の首が飛ぶぞ。』
おらが兄ちゃんに触れようとすると
兄ちゃんを刺したやつが、顎で指示をする。
白服が二人ほど近づいてきて、
おらの首に刀剣を交差して添えた。
こいつが親分か。
おらは横目で指示を出したやつを見る。
『貴様らの抵抗など、
我らトツ国の勇士にすれば些細な物だが
こう、少しは広い街のようだ。
集まられると少々手間がかかる。』
『こ、ども…だぞ…っ…!!』
親分の足首を握りしめ
兄ちゃんが血と唸り声を口から漏らす。
まだ生きてたのかと親分は冷たく笑った。
『だからだ、こうした方が
お前たち島国の猿共はすぐに降伏するのでね。
まぁ、降伏したとして、たまに手が滑るがな?』
『……下…衆…がっ…!』
「じっとしててな、にいちゃん。」
問答を他所に
おらは傷口に手をかざす。
深いが治せない傷ではなさそうだ、良かった。
『……え?』
親分がそれを見て素っ頓狂な声をあげる。
『貴様、何を勝手に動いている。
お前たちも何をして…。』
兄ちゃんの傷が治っていく横でやかましく騒ぐ声は
『…い…る…?』
おらを人質に取っていた場所に気絶する
二人の兵士を見て、小さくなっていく。
「これで、よしっ!」
『お、俺の、傷が無くなって、えっ?』
『なんで、私の部下が倒れて、貴様、何をした!?』
「んだぁ?
思いっきりぶっ叩いただけだぞ。鉄扇で。」
町の人も、トツ国の兵士も呆然としている中で
片手にもった鉄扇をひらひらと見せつける。
「見えんかったのか?なら」
数がかなり多そうだったからな
減らすのなら、今のうちがよさそうだな。
白服たちの動揺している様子をちらりと見ると。
「── 見せてやるよ。」
次の瞬間、おらは跳ねる。
勢いのままに鉄扇を親分の頬へと振り抜いた。
『ぶっ、がああああーーっ!?』
変な声をあげて親分の身体は宙を舞う
そのまま数人の白服を巻き込み。
『うわあああああっ!?』
どごぉ!と音をあげ、地面に転がった。
ひい、ふう、みい、よお…五人は巻き込めたか。
「まあ、上々だなぁ。」
『きっ、貴様ぁ!!!
我らトツ国に楯突いて、
ただで済むと思っているのかっ!?』
白服がたちがきゃいんきゃいんと吠えている。
またその台詞かよ。
旅をしている中で
聞き飽きたほどに聞いた口上。
この後に来るのも知っている。
『愚か者め!
貴様だけは許すわけにはいかぬ、
反逆者め!名を名乗れい!!』
「何処にいても毎度、
ぶちのめすとおんなじ口上を言うよなぁ、おめえら。
それ、決まりなんかぁ?」
必ず、”名乗りを促してくる”んだ。
トツ国の作法かなんかなのか?
「まあ、いいや。聴きてえなら聞かせてやる。」
鉄扇を肩に担ぎ、腰を落とす。
「人様の国に土足で入り込んでの悪逆非道。
たとえ、お天道様は許したとて、
こっから先、見送るわけにゃいかねえなぁ!!」
片手を前に突き出すと。
「無礼な客人よーく聞けぇ!!!!
我こそは日ノ本の平穏を守りし防人っ!!!」
じっちゃんの昔話で聞いた
古い時代の島国の英雄の名が、
自然と口から漏れでた。
「─── “サムライ”だぁっ!!!」
いよーーっ!!
と背後から声が聞こえた気がした。




