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チャプター6.農村への帰還

─── 夢を見た。



豊かな森にぽつんとある小さな小屋。

そこに不思議な格好をした面々が集まっている。


楽しげに全員で談笑をしているようだ。

けれども


全員が出かけようとする際に

一人の少女は、ゆっくりと皆から距離をとり


旅立つ友人らしき面々を笑って見送っている。



「気をつけてね。」



見覚えのない景色。

見覚えのない人々。


そして…どこかで覚えのある、少女の寂しげな瞳に。



おらは、ひどく懐かしさを覚えたんだ。


──────────────


ぼうっとしていた意識が、輪郭を取り戻していく。

最初に見たのは、馴染みのある天井だった。


炭の香りを感じるぐらいに感覚がはっきりとすると

山での出来事を一気に思い出す。


子供たちは無事だ。

じっちゃんや大人たちも来てくれたから。


おらも家にいる。

ってことはあの後、皆で帰れたんだろうな。


だとすれば、気になることは…。



「───熊は無事かっ!?」


「……お、おめえ、第一声がそれかい?」


勢いよく起き上がるおらを

じっちゃんが苦笑いで見つめていた。



「お、思いっきり力を使っちまったんだ!!

治さねえとっ!!」


「わかってるべ、

お前たちを見つけられたのもそれのお陰さ。

ありえないぐらいに空に木の葉が舞ってたからなあ。」


「だったらっ!!」


布団から飛び出そうとするおらの頭を

じっちゃんが掴みぐいっと布団に引き戻す。



「熊は無事だべ。

しばらくすると自分で起き上がって、

そのまま大人しく森へ帰っていったよ。」


「…ほ、ほんとけぇ?」


「本当だ。

人を襲ったにしちゃあ妙に大人しかったが、

まあ暴れて気分も落ち着いたのだろう。」


「えかったぁ。」


ふにゃり、と安堵から力が抜けていく。

これでもう憂いは無い。



「よくねぇ。」


憂いはあった。

じっちゃんが物凄い顔でこちらをみている。



「どうして言いつけを破った?

あれほど、家に帰るようにと言っただろう。」


気のせいかいつもよりも大きく見えてくる。

正直、今は熊よりも怖いかも知れない。



「それは、えっと。

おらのほうがその…あそこの道わかるから…

すぐ見つけられるかな、って…へへっ。」


美桜(みお)〜?」


愛想笑いも通用せず

じっちゃんから逃げるようにおらは布団を被った。



「ごめんよぉ、じっちゃんんん。」


「無事だったからいいものを、

“もしも”何かあったとしたらなぁ!」


「んだ、だから、動かずにはいられんくてぇ…。」


「“だから”?」


村の大人たちが

子供を探していた時の顔を思い出す。


「…あんとき村の人たち、

じっちゃんがおらを心配してる時と

おんなじ顔をしてたからよぉ…。」


「……。」


「あの子らに

”もしも”が起きたら、どう思うんかなって。」



胸がきゅっとした。


じっちゃんと重なる、その姿を放っておけなかった。

その泣き顔(さき)を知っていたから。


だから。



「そう考えたら…

そのまま帰るなんて、出来んくなっちまって…。

でも、心配かけて、本当に。」


「いい、謝らないおくれ。」


ごめんなさいを言おうとするのを止めるように



「色々考えてるのに、責めたりして悪かったな。

おめえは、本当に自慢の娘だべ。」


「……!!」


布団越しにじっちゃんの手のひらがおらを撫でる



「きちんと言うてくれて、ありがとうな。」


「んだーーっ!!」


布団からちらりと顔を覗かせると

見たかった笑顔かおが、そこにはあった。


──────────────


「して、飯も終わったところで美桜(みお)や。」


「んだ?」


あれからおらは

だいぶ眠ってしまっていたらしい。


外の日をみると、いつもよりもかなり高い。



「そろそろおめえにお客さんが来るころだぞ。」


「お客?おらに?」


遅めの朝食を終えたところで

がさごそと扉をあける音が鳴る。


この家に来客が来たことなどない、誰だ…?



『お、おじゃましまーすっ!』


「お、おめえたち、なんで、ここに?」


入ってきたものたちを見て動きが止まる。



『!! 起きたんか、美桜(みお)!』


山で熊に襲われていた、あの子たちだ。

手には果物を握りしめている。


おらの姿を見るやいなや

一目散にどたどたとかけてくる。



「ああ、いまさっきなぁ。」


『は、腹減ってねぇか!?

ほらこれ、甘くて美味いぞ!』


「んだぁ?わりぃ、いま飯くったばかりでなぁ。」


『そ、そうか…。』


目の前に差し出される

果物をきょとんとしながら見つめる。


様子もなんだか、いつもとなんか違うな。



「あとでちょっとくれるか?」


『!! やる!! 全部やる!!』


「いや、ち、ちょっとでええんだが…。

まあ元気そうでえかったべ。

もしかして、見舞いに来てくれたんか?」


『それは、その……。』


しばらくの沈黙が続いたあとに、

ごほん、とじっちゃんが咳払いをした。


なんかまたじっちゃん怒ってないか?



『謝り、たくて…。』


「んだ?」


今にも、消え入りそうな声が聞こえた。



『俺たち、お前に…酷いこと、しちゃって…。

変だっていうたり…

無視したり…石を投げつけたり…。』


「んだなぁ。」


実際にあった事だよな、と

何の気もなしに相槌をうつ。



『…っ…。

なのにおまえは…あんなになっても、

俺たちのことを…助けようとしてくれてっ…。』


気付けば葬式のような空気になっていた。

困ったように頬を掻く。


責めるつもりは毛頭ないんだがなぁ…。



『謝って許されることじゃないけど…

どうしても、謝りたくて…。』


「いや、そんな改まんなくても。」


『本当に、ごめんなさ』


泣き出しそうな顔で両膝をつき

頭を擦り付けようとするのをみて


おらは力を使った。



「んだっ。」


『…美桜(みお)?』


さがる頭を風でふわりと受け止める。

そんな顔をさせたくて、助けたわけじゃない。


「妖怪って言われるのは悲しかった。

石を投げられるのは痛かった。」


『…! 本当に、ごめ…』


「だけどさ。」


子供たちの頭にそっと手を添える。

おらは知っている。



『…?』


「あんなになってでも、

友達を見捨てなかっただろ?」


手のひらを握っていたことを



「そんなおめえたちが、おらは好きだぞ。」


頭を優しく撫でた。



「遊びたくない、はおめえたちの気分だから仕方ねえさ。

実際、おらの姿も変だしなぁ。」


気にすんなよ、とへらへら笑う。



美桜(みお)…。』


「あー…ただ、妖怪って呼ぶのや、

石を投げつけたりするのはやめてくれると、

嬉しいかねぇ。」


『……。』


「ほら、迷惑なら言うてくれれば、

もう近付かねぇからさ!」


それでも遠目から見るぐらいはしたいなぁ…。

なんて、少し思ったりするけど、贅沢だよな。



『迷惑……い…。』


「んだ?」


『め、迷惑じゃないっ!!!』


ぐいっと顔が近付いて来て、力強く叫んだ。

耳まで真っ赤っかだ。



『石も投げない!!

妖怪だって言わない!!無視もしない!!!』


「お、おぉ…?あ、ありがてぇな?」


『だ、だから。』


勢いに気押されて、おらは目を丸くする。



美桜(みお)さえ良かったら、

今度、その、一緒に、遊んでくれると。』


「───!!!!」


だが一言は、驚いていても耳は逃さなかった。

名前を呼ばれるだけでも有頂天だったと言うのに。



「───遊ぶっ!!!!!」


『ぬおっ!?』


「指切りげんまんな!!!ぜってえだからなっ!?」


先程のお返しといわんばかりに、

顔をぐいっと近づける。


感情を抑えきれずに、そのまま抱きついてしまった。



『ちょ、ち、近い近いってっ!?』


美桜(みお)

嬉しいのはわかるが、もう少し離れるんだ。」


「…? なんで?おらじっちゃんにもこうするぞ?」


「それとこれとは別だ。」


「あっわりい、もしかして…嫌か?」


『や、柔らかい…。』


「は な れ な さ い。」


じっちゃんも子供たちも、

どうしてなのか茹蛸みたいに真っ赤になっていた。


─────────────


その日は、日が暮れるまで目一杯遊んだ。


はじめての鬼ごっこ。

はじめての隠れんぼ。


花の蜜が美味しいと渡されて、一緒に吸ったり。



「んだー!!まだまだ遊びてーーっ!!!」


『いやいや、もう日が暮れてるから帰んないと、

流石に昨日の今日だし。』


「また、漏らすような目にあうまえに帰らねえとか…。」


『事実だが、掘り返すなよ!!仕方ないだろあれは!!』


「へっへっへ!わりぃわりぃ!」


他愛の無い話で、笑いあったり。



『ったくよ……美桜(みお)。』


「んだ?」


『色々、ありがとうな。』


「へへっ、こちらこそだ。」


『…また、明日な。』



「──!!」



またな、と言ってくれる友達が出来たり。



「んだっ!!」


いままでは遠くにあったその背に言葉を受けると

気のせいか。


いつもよりも足取りが

軽くなっているような気がした。



「また明日なーーっ!!!!」


目一杯に手を振り、笑顔で家へと走る。


じっちゃんに、早く話したい…!!

──────────────


幸せな時間がゆるりと流れていた。

ずっとこんな時間が続けばな、と思っていた。



「主要人物が退場すれば、“物語”は破綻する。」


だが、この時

まだおらは知らなかったんだ。



「子供が死んで、じじいが村を追い出されるか。

子供を庇って、じじいが死ぬか…。

それでこの映画(せかい)を終わらせられる。

…筈だった。」


山頂からおらを見下ろす黒い影を。



美桜(アレ)は一体なんだ?」


そして、おらが住んでいる。



「…まあいいか、どうせ、

遅かれ早かれ、結果は変わらない。」


この世界が。


「あんなイレギュラーが発生してる時点でな。」


映画(つくりもの)、だと言う事を。


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