チャプター4.新たなる決意
「あーっ、もう再生されなーーい!!!
トツ国の襲来まで飛ばすしかないのかしらね。
ぐぎぎぎぎ…!」
「その映画、なんていうタイトルなのデース?」
「あー?
〈Samurai wonder〉
江戸時代の日本を舞台にした
アクションと人情ドラマが売りの伝奇時代劇よ。」
「wats?デンキ…?」
「史実とは違う要素の入ってる、ってこと。
例えばこの作品なら、ワンダーっていう超能力を
主人公が使えるのよ。
そのせいで、幼少期に迫害されるけどね。」
「成程…その力でHEROになって
周りと打ち解けていくワケデスネ!?」
「ならない。」
「wats!?」
「大人になって、故郷の村に
トツ国が攻めてくるのを追い返したりするけど
それでも主人公は迫害される続けるの。」
「せ、世知辛いデスネ…。」
「そりゃもう、ドロドロよ。
唯一の味方は育ての親のおじいさんだけ。」
「それって観てて楽しいのデスカ?」
「終盤のカタルシスがいいの。」
─────────────
「…山だ、山に居るかもしれねぇ。」
行方不明になった村の子は
おらに石を投げた面々だった。
『山だと!?』
それなら可能性が大きいのは
最後にみかけた遊び場のはずだ。
毎日、日が暮れるまであの子たちは
彼処を離れることは殆どない。
あのまま帰ってきていないとすれば…。
おらの頭に、嫌な考えが浮かぶ。
『彼処は危ねえから
遊び場にするなって言い聞かせてたんだ!
なんで…。』
怒られるのは承知の上で
いつもの遊び場への場所を説明した。
おらもいつもそこに足を運んでいたことも含めて。
『もしかしておめえがうちの子をたぶらかして
あんな危ないとこで遊ばせたんじゃ!!』
「違う!…元々だ。
みんなが大人たちには秘密にして遊ぶ場所だって
話してたから…おら黙ってたんだ。」
『そんなん信じられるわけ…』
子供たちを心配する焦った気持ち。
行き場が何処にもなかったそれは
おらに敵意として向けられた。
(…まぁ、そうなるよな
あの場に、おらもいたんだから。)
じっちゃんもさっきまでこの状態だった。
だからこそはっきり違うと冷静に返した。
こんなとこで揉めてる場合じゃない。
「嘘をつくような子じゃない。
それに、そんな事を言うとる時間があるのか?
親として、今すべき事を考えろ。」
『………。』
『そ、そうだ、こんなことしてる場合じゃない。』
おらへの刺さる視線を
じっちゃんが遮り、ひと睨みする。
隠している包丁を握った手が震えていて
すこしひやりとした。
騒いでいた親たちは
はっとしたような表情して
山を探しにいく準備をはじめていく。
「……じっちゃん、その、秘密にしてて。」
「山で遊んでいた事は、後で少し説教だべ。
だが、教えてくれてありがとうな。」
謝ろうとすると頭をわしゃわしゃと撫でられる
だけど、いつもの優しさだけじゃない
その顔は厳しく山の方を見据えている。
「ワシは村の者たちと共に、子供たちを探してくる。
美桜は先に家に帰ってるんだ。」
「!…いやだっ!おらも一緒にっ!」
「駄目だ。」
「でもよっ!」
「子供を守るのが、親の役目だ。
おめえを危険な目にはあわせられん。
ワシも行く、灯りをくれ!」
山道はおらのほうが詳しい、
と訴えても危険だと行かせてはくれない。
言葉を残すと、じっちゃんは村の大人たちを先導して
山の方へ駆けていってしまった。
「………。」
真っ暗な道に一人残され、辺りは静かになる。
すぐ振り返れば、おらたちの家がもう見えていた。
言われた通りにすぐ帰れば安全だ。
今日起きたことを思い出す。
これが絶対に正しいなんて言えない。
……けれども。
「ごめん、じっちゃん。我儘させてもらう。」
踵を翻し、おらも山の方へと駆け出した。
────────────
『ハァッ…ハァッ…!』
朝とは違う顔を見せる夜の山。
『うわぁっ!』
『な、なにやってんだよっ!大丈夫か…?』
『っ…!あ、足くじいたかも…。』
朝は自由に走りまわれていたのに
暗いせいか、何があるのかよくわからない。
動き回るのすら大変だ。
寒さが体力をどんどん奪っていくのがわかる。
『よりによってこんな時に…
ほら、つかまれ。はやくしないと……ヒッ!?』
遠巻きにガサッ、っと音が聞こえる。
『あ、あぁ…なんで、俺たちがこんな目に…。』
ヴゥゥ…と低く唸る獣の声も。
『ああぁ…
やだ、もういやだああああああーーーッ!!!!』
そして、あの子たちの叫び声も。
「あっちか!!」
全力で草木を掻き分け、音のなる方へ飛び出した。
崖の上から崖下の景色を見下ろした。
怯えてる子供たち。
それに距離を詰める、
黒く大きなけむくじゃら。
重い身体が土を踏み砕く音。
刃物のような爪が、月光にぎらりと照らされる。
今にも腕を振り下ろそうとしていた。
「── みーつけたっ!!」
それから数秒も経たず
腕は振り下ろされる、が。
その腕は空を切り
地面に叩きつけられた。
『ああぁ……ぁえ?…は?』
人に使ったのは初めてだ。
どうやら、上手くいったようだ…。
ふわりと宙に浮かぶ子供たちが
目を丸くしているのが、おなじ高さでよく見える
「おめえたち、
動くんじゃねえぞ!加減がわからん!」
木の枝浮かすより、遥かにきついなっ…!!
身体は淡く光り、
風はおらの手足のように動いている。
加減を間違えるわけにはいかない。
限界まで神経を集中させて
子供たちをおらの方へと引き寄せていった。
『お、おまえ…耳長…?』
「耳長じゃねえ、美桜だべ…!…ふぅ…!」
崖上に無事に運べたとこで、力が抜けた。
ふっと風が止み、子供たちは落ちるように
地面へと尻餅をついた。
『うわっ!?』
物を浮かして一人で遊んだりもよくしたりしたが
重いものを浮かしたのはこれがはじめてだ。
「に、人間浮かすのはさすがにっ…
めちゃくちゃしんどいなぁ…!!」
全力でここまで走ってきたのもあるが
疲れとはまた違う、力の抜けていく感覚に襲われて
おらは思わずぺたんと尻餅をつくと息を整えた。
『な、なんで、お前、こんなとこに…。』
「んだぁ?なんでって、
おめえたちが中々帰ってこねえからだろうよ。
もう村中大騒ぎだぞ!」
『いや、そういうことじゃなくて…。』
「まあ、見つかったから
とりあえず一安心だがなぁ。」
『……石を、お前に。』
子供も見つけたし、熊は崖の下。
ひとまずもう慌てることはない、
あとは安全第一で村に帰るだけだな。
などと考えながらふと崖下に目をやる。
『お、俺たちっ…。』
「あれ、おらん?」
おかしい。
さっきまでいたはずの熊がどこにもいない、
あんな大きな体が隠れそうな物も周りにはない。
逃げたのか…?
『お、お前に、あんなことをしたのに…。』
「なんだ、変な音が?」
ガツンガツン、と、
岩が削れるような音が聞こえる。
崖下じゃない…。
ちらりと、断崖絶壁になっているはずの
真下に目を向けてみる。
…"いた"。
『なんでっ…!!』
「なんでぇ…?」
暗闇に赤く揺らめく、熊の瞳があった。
おまけにこちらにどんどんと近づいて来ている。
顔が引き攣っていくも、今日がはじめて。
「へ、へへっ…こんばんわぁ…?」
木登りや川を泳ぐのは得意って聞いてたけど
まさか、崖を登るのも得意だったとはなぁ。
なぜか妙に感心のほうが勝っている。
こりゃすぐにでも登り切りそうだ。
──── ヴァアアアアーーーーッ!!!!!
おらの挨拶に対して、
耳をつんざくような雄叫びが返ってきた。




