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チャプター3.美桜の暗愁

ぽとり、と血の雫が地面に落ちる。


おらの物ではない。

それはじっちゃんの口元から滴っていた。



「誰に、やられた?」


今日あったことは全部

言えないし、言いたくない。


どんな顔をさせてしまうのか。


ほんの少しでもそれを想像すると、

胸がきゅっと締め付けられた。



美桜(みお)や。」


けれど、じっちゃんは良い親すぎたんだ。


いつもより早い帰宅。

口数の少ないおら。


僅かな違和感の積み重ね



「…頼む、美桜(みお)、教えてくれ。」


傷も綺麗さっぱり消えていたが。


血の跡が残っていたおらの着物を、

じっちゃんが見逃すことはなかった。


真っ直ぐ懇願してくるその瞳から

おらは、目を背けることが出来なかった。



嘘を、返せなかったんだ…。


──────────────


「じっちゃん!

止まってくれっ!おらは平気だから!」


「……。」


明かりもない寒空の下。

じっちゃんは包丁を携え、村の方へと向かっていた。



「おらがこんな姿なのが悪いんだべっ!

気味が悪いって言われてもしかたねえんだ!!」


「………。」


見たことのない表情だ。


息をするのも重くなる程の気迫が漂っていた。

このままでは本当に…。


止まれ、止まってくれ。



「妙な力だってっ、あってっ…!」


どんなに力と祈りを込めても、体格差は覆らない。

ずるずると引きずられ、一歩を止めることすら出来ない。


力を使う…?


駄目だ、人には使ったことがない

加減を間違えて怪我でもさせてしまったら…。



「本当に化け物みてえなのに、

混ざりてぇって…みんなを困らせてっ…!!」


「……そんな事ッ…。」


ちがう、望んだのはこんなことじゃない。


こんな顔させたくない。

誰にも傷ついてほしくない。


なのにどうして。

おらはみんなみたいに、遊びたかっただけなんだ。



…遊びたかっただけ。

…それを願ってしまったからなのか?



……おらが。



「そうだ…。」



原因はここにいた

じっちゃんに全てを話してしまった。


奇妙な存在だから

子供たちにあんなことをさせてしまった。



「 おらが みんなを こまらしたから 」



ぐにゃり、と視界が、心が

黒く澱んだ”何か”に押し潰されていく。



おらが、存在なんかしてしまったから


居なければ。

居なければ。


生きてるだけで迷惑をかける。



「おらなんか、いなけ───」



こんなのが きえてしまえば



「──それは違うッッ!!!!!!!!!!」



あたまを埋め尽くすその言葉が

口から溢れ出ようとした所で


力強い叫びが、それを掻き消した。



いつのまにかじっちゃんの足は止まっていて

おらのほうを見つめていた。



「美桜、おめえは一度でも

悪さにその力を使ったことがあるかっ!?

人様を傷付けるような真似をしたか…!?」


聞いたことのない、弱々しい声色。

その顔にはさっきまでの気迫は消えて。


…させたくなかった顔を、させていた。



「村の小僧共が遊びたくない。

って言うのならそれは美桜(みお)の言う通り、

仕方ねえさ。」


ゆっくりと引き寄せられる。



「だけどな、誰かを尊重しても

自分が傷付けられることを受け入れるな…!」


身体も、押しつぶされかけていた心も。



「… 嫌なことには、嫌と言っても良いんだ。」


暖かい、慣れ親しんだ香りに

寒夜から守られるように包まれていた。



「おめえは、もっと我儘になってもいいんだ。」


ぽとり、とおらの頬に小さな雨がふる。

抱きしめてくれている腕は、震えていた。



「…なんで、毎日必死こいて、頑張ってるおめえが…

悪い事をしてねえ、こんなちいさな子が……

自分を責めにゃならんのだ………何故だ……何故…。」



「…じっちゃん。」



…なんでこんなこともわからなかったんだ。


大切な人に傷ついてほしくない。


おらがそれを持っているのなら

それは、大好きな人も…。


申し訳なさを握りしめるように

おらは、ゆっくりとじっちゃんを抱きしめ返した。


────────────


あれから少し時は過ぎ。


じっちゃんとおらは家路へついた。



「星がよう見えるなぁ、綺麗だ。」


「んだなぁ。」


静寂があたりに敷かれた夜闇の中。


はぐれないようにとじっちゃんが

おらの手をぎゅっと握ってくれている。


月明かりだけが道を照らし

見上げると満点の星空がみえた。



「なぁ、じっちゃん。」


「んだ?なした美桜(みお)?」


暗闇にも負けず

きらきらと輝いて、とても綺麗だった。


それは手をいくら伸ばしたところで、届かない。



…だとしても。



「妖怪って言われるのは嫌だった、

石を投げつけられるんも痛くて辛かったべ。」


「……。」


「それでもさ、怒っちゃいねえんだ。

なんかやっぱり、皆と違ってるのかもしれん。

もしかしたら本当に妖怪なんかも。」



“おめえは、もっと我儘になっていいんだ。”


そうだ、もっと。

今は届かなかったとしても。



美桜(みお)、おめえは妖怪なんかじゃ…。」


「でえじょうぶ、また暗くなって、

自分を責めてるわけじゃねえからっ!

ただなぁ。」


「ただ?」


じっちゃんがしてくれたみたいに、

全てをきちんと相手に伝えないと。



「… 皆と違ったとしても

やっぱおら、皆と遊んでみたいんだ。」


困らせたくない、を言い訳にはもう使わない。


明日こそはと

希望だけを頼りにするのは、もう辞めよう。



「だからもっときちんと伝える。

嫌な事も、良い事も!」


晴れやかな心持ちで笑うと

安心したようにじっちゃんも笑顔を見せてくれた。



「…そうか、おめえはやっぱり、

誰よりも優しい子だ。」


「へへっ、だろーっ!」


やっぱ、この顔が好きだ。



「あっ、じっちゃんが人殺しになんのもやだぞ!!」


「今それを言うかい…!?

だ、大事な娘の事だし、仕方ないだろう…?」


「言う!仕方ねえけど、やなもんはやだ!!」


「前言撤回、意地悪だなぁ、はっはっは!」


「へっへ、似たもん親子だろ?」


冗談混じりに笑いあう中で



『おーい!返事をしてくれー!!』


『どこにいるんだーーっ!おーい!!』


どこからともなく声が聞こえてくる。



「んだぁ?」


あたりをぐるりと見回すと

こんな時間だと言うのに、村の人が列をなしている。



「あれは、村のものか?」


「んだね、こんな真夜中に何してんだろうな?」


何があったのだろうか?と考えていると

村人たちはおらたちを見つけて駆け寄ってくる。


いつもは警戒をして近づいてくるなど

絶対しないのに。



『!!…おーいアンタたち!!

うちの子たちをみなかったか!!』


「じ、じっちゃん、包丁っ!」


「おっと!!!」


「う、うちの子?な、なんかあったんか?」


じっちゃんもおらも予想外のことに固まる、が。


包丁を持っていたことを思い出して、

我に返るとじっちゃんの足を肘で小突いた。


慌ててじっちゃんは包丁を隠す。



『うちの子たちの行方がわからねえんだ!!

こんな時間になっても帰ってこなくて!!!』


「何ッ!?」

「んだぁ!?」


今日おらは早めに帰ってきていた。

子供たちを、最後までみていなかった。


季節は神奈月。

山の熊が、冬眠を前に腹を満たそうとする時期だ。


─────────────



【…相変わらずだな、この世界は。】



物語の傀儡、運命に従うだけの人形共を

山頂から見下ろしていた。


何もかもが懐かしくて


何もかもが偽物で…愚かしい。



【物語を壊すのに手っ取り早いのは

主要人物を退場させること。】


傍に気絶した熊に、そそいでいく

手のひらから停めどなく溢れた、それを


黒い何かが、熊へと染み込んでいった。



【…さあ、ここからは

筋書きにはない、物語だ。】


ずしり、と起き上がった熊の視線の先には



『お、お前もしかして怖がってんの〜?

度胸試しとか言った癖にさぁ。』


『お前のほうこそ、

こ、怖かったら帰ってもいいんだぜぇ?』


余闇に入り込んだ、子供の姿があった。

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