チャプター7.白いものにシミは目立つ
ある程度の舞台旅行……。
ではなくて情報収集を終えて、私は美桜達と合流するとホテルへと足を運んだ。
「また随分と買い込みマシタネ……」
「ぽっぷこーんだぁっ!」
山盛りになった手土産と食料をフーディが苦笑いしながら地面へと下ろす。
「さて作戦会議ね」
「おー!この寝るとこすげえふかふかだぞ!」
「はいガキンチョ、騒がない」
「がっ…!?」
ベッドを触ったり、テレビに驚いたり。
相変わらず時代劇ムーヴが抜けない美桜を他所に、私はソファへと腰を落ち着けた。
「シアウさんもはしゃいでたんだからブーメランになってマスヨ?」
「まあ今回はそんなに慌てるケースじゃなさそうだしね、情報共有した通り、今回は過剰戦力なのよ」
「この世界のボクとあの若いボクの導き役カロースさん、デスネ?」
この世界の本来の主人公たち。
どんなヴィランをも屠ってきた圧倒的な力をもっているヒーローだ。
加えて私達からもフーディと美桜がいつでも援軍に出せる。
「……ちびじゃ、ねえもん……えるふだから、しかたねえんだ……」
「そうアメコミでもトップクラスの戦闘能力、大抵のことは片付けられる」
「フム、彼はボクの映画には居ませんからよく知りマセンケド、そんなに頼りになるのデース?」
「当然、カロースの能力は"選んだ対象の時を止める"こと」
「そんなんありかよ」
先程まで膝をついていた美桜がひょっこりと顔を覗かせる。
よくそんなに思考をガラリと変えられるわね、とジト目で見る。
「…… 元ネタが"チャンスの神様"だからね、それを設定として落とし込んだ能力よ」
「弱点も無いのデース?」
「対象を広げると効力は薄まる、例えば"世界の時間を止めよう"とすれば、全部止まるけど数秒しかもたない」
「逆に広げねえと強いってことか?」
「対象を1人に絞れば"無制限"よ」
つまりビネガーすらも問題ではない。
どんなに強くても止めて終えば、そこで対処は終わりになる。
どう考えてもイージーゲームだ。
「チートデース!!!あんまりにもズルじゃないデスカ!?」
「そそ、でそれが今回味方にいるのよ?誰がビネガーにかかろうと余裕ってワケ」
「作戦会議する必要あるんかぁ?」
「あるわよ、方向性は決めておかないと」
後の問題は、筋書きが書きかわらないように気をつけるだけ。
「まずこの世界のフーディが……ややこしいわね、リブート版のフーディだから、リディって呼んでおくわね」
その不安要素があるとすれば、それは身内だ。
横目で私はフーディを見る。
「彼がカロースの弟子になるのを見守る、あとはビネガーに誰がかかるかを見張る、一番の候補は……Dr.ゲソマミレ辺りかしら」
「……ゲソマミレ」
試しにこの映画のヴィランの名前を出すと、フーディの表情は険しいものに変わっていく。
……そりゃそんな顔にもなるわよね
自分の父親を
── 殺した、ヴィランだものね。
この作品は初代のリブート。
フーディは気にしているはず、父親が殺されるあの事件、あのシーンを。
……なら、不確定要素は潰しておくべきね。
「先に言っておくわフーディ、このリブート版ではあの事件は起こらない」
「んだぁ、あの事件?」
「!? シアウさんそれは本当デスカッ!!」
希望の言葉を口にする。
耳障りのいいフーディが求めるであろう未来を。
これで余計な事をしないように制御出来る。
「えぇ、未熟なリディが一人前のヒーローになるまでの成長は、この映画ではカロースとの師弟関係で構成されるからね、あの事件は必要ないのよ」
「なあなあ、あの事件って……」
美桜は疑問を感じて聞こうとするが、フーディの顔を見ると詮索をやめて口を閉じる。
「なら、この世界なら父さんは生きて……」
その言葉の続きを聞かないように、私はゆっくりとフーディから顔を背けた。
「さっ寝ましょうかぁ〜〜っ!!ほら、解散解散っ」
ベッドの方まで歩いて行くとその上に飛び乗り、顔を枕に埋めて隠した。
「こんなに安心して寝れる状況なんて中々ないわよ、しっかり寝ておきなさいね?はぁ〜このベッドすごいふかふかね〜」
これでいい。
仕方のないことだ、そう思うことにした。
「……し〜あ〜う〜っ」
美桜の唸るような声が聞こえる。
ちらりと顔を見てみる。
「何よ、美桜?」
「人の気持ちもっと考えたほうがええぞっ!!」
ちびっこ言われたの、まだ気にしてる様子の美桜を放っておいて。
私はそのまま毛布を被った。
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次の日、街を守るリディの様子を陰ながらに眺めていた。
「くれぐれも良いわね?くれぐれもっ!手を出さない様に!!」
「そ、そんなに念押しせんくてもわかってるべぇ」
「わかってても動きそうなのよ、アンタらお人好しは」
住宅街の公園で襲われていた市民を逃すと、一人で無数の昆虫兵器を相手に暴れ回るリーディ。
助太刀をしたいけれど、これは本来の筋書き通りなのだとシアウは言う。
…… もどかしいなぁ
『sit!数が多いデスネ!このままでは午後の商談に間に合うかどうか……!』
泥に塗れ、傷を負っても人々の為にと一歩も引くことはしないリディの姿。
おらは手が震えて、鉄扇を引き抜きそうになる。
「ヒーローがどう動くかを見る為の牽制……Dr.ゲソマミレのやるコトはこの世界でも変わらないデスネ」
「えぇ、ここから毎日続くわ、それを」
「ボクが追い返し続ける」
「そう、この映画にはそれに追加があるのよ、カロースとの交流がね」
フーディも気持ちはおなじだろう
ちらりと目にはいった拳が、ぎゅっと握られ震えていた。
『だとしても目の前の顧客を見捨てるなんて── できるワケがないッ!!』
「本当に来るんかっ!あの羽っ子!!」
リディが大量の虫たちに囲まれて身動きを蜘蛛の糸で封じられてしまう。
何をしてんだカロースってやつは……!
はやくこねえとリディがっ……!!
「来るわ、ここでリーディの覚悟を見て、少しずつ心を開いていくのよ、それがこの物語の本当の始まり」
シアウは眉ひとつ動かない。
何度も見た光景を眺める様に、落ち着いていた。
次の瞬間。
「hey!来マシタ!!」
『wats!?……虫たちの動きが止まって、コレは!!』
フーディが最初に声をあげ、それに続いてリディが声をあげる。
虫達の動きがぴたりと止まっていた。
やっときたのか、余裕こきすぎだろ。
そう思いながらおらを冷や汗を拭っていた。
『この程度もすぐに片付けられないなんてね』
前の登場のように、空からカロースの声が聞こえてくる。
おらたち三人は上空をゆっくりと見上げ。
「……そんなこと」
「ホワイ?アレはどういうジョークデース……?」
……目の前の光景に絶句した。
『haha、カロースさん来て下さったんデスネ!』
「ちょっと待ってくれ、あの羽っ子は"ひーろー"なんだろ!?なんでっ!!」
遠くで目を輝かせるリディの顔とは違って、おらたちの顔は険しいものに変わっていた。
『しかも地を這いつくばって泥だらけ、まるでこの虫たちと変わらないじゃないか』
どうしてだ、この世界のヒーローなんだろ!?
姿は変わらない。
透き通る金色の髪、白い布切れを纏う少年だ。
……だが。
「なんでビネガーに感染してんだよっ!!」
純白の翼だった羽を汚すかのように、あの"黒いモヤが絡みついていた"。
『── それでも、キミはヒーローなのかい?』
この映画のヒーローだったはずの何かが、そこにいた。




