チャプター6.ボクの身近なヒーロー
「どうやら、完全にエスケープしたみたいデスネ、慎重なビジネススタンスは相変わらずの様だ」
リブートのボクが来るらしいので美桜さん達と別れて、逃走したゲソマミレを探しまわるボク。
ビルを建物を足場に街を跳ね回る。
高速で流れていく景色が、どれも懐かしい。
「Dr.の性格からして、また出てくるとしたら、入念に準備を済ませてからデショウカ」
オフィス街から移動をし続けて、辿り着いたのは閑静とはとても言えない住宅街。
だけど、物騒なわけじゃない。
『パパー!ママー!』
『ハハッ、今日も元気だなぁ、あんまり走って道路に飛び出すんじゃないぞー!』
響いているのは家族団欒を庭で楽しむ声だ。
ここは僕の生まれ育った街だった。
平凡な家庭、平凡な生活。
特別な物を持っていた訳じゃなかったボク。
いつも優しい時間が溢れてるこの街には。
「……この街も相変わらずデスネ」
そんなボクがヒーローになりたいと思ったワケが、あちこちに散りばめられていた。
奴の性格はわかっていた。
ここまで何もないなら完全に引いただろうと、飛び跳ねるのをやめ、物陰に隠れる。
そこでグラスホッパーへの変装であるサングラスを外して、ただのフーディへと戻る。
「もう一人のヤングなボク、見たことのないヒーロー、そして …… "生きている父さん"」
シアウさんに解説を貰うのを忘れていたな、ボクなりにまとめておこう。
合流を考えながら、物陰から出るとボクはゆっくりと歩き出す。
「ココは並行世界ってトコデスカネ」
見たことのある景色や人々だけど、どこか"少しずつズレている"。
他の世界のヒーローが来たり、別の世界へとで向いたり、そういうのは何度も経験したことがあった。
ボクの世界では日常茶飯事だ。
だから、ボクはすぐに事態を飲み込めた。
この予想は大きく間違ってはいない筈だ。
「まだ……生きてる」
《貴様のちっぽけな正義感で人類の進化は遅れたんだ!!》
《倫理に外れた行いを見逃すわけには行かない……私は、間違った仕事をしたとは思っていない!!》
《 ── 父さん!父さんッ!!》
「……」
頭の中でフラッシュバックした、ボクの過去の記憶。
父さんが生きている。
ゲソマミレがまだ捕まっていない。
つまり、この世界はまだ、あの事件の前だ。
…… なら、この世界では、これからアレが……?
『おっと、すまない』
どんっと肩がぶつかり、遅れて声をかけられて、ボクは道を歩いていた事を思い出す。
「oh!こちらこそソーリー!少し考え事をしていたモノでして……」
『いやいや私のほうも注意散漫になっていた、って』
「ワッツ?如何しま ── 」
考え事にのめり込みすぎていたなと、振り返って謝ろうとしたボクの目に飛び込んできたのは。
『フーディ!!』
「── と、父さんッ!?」
ボクの映画ではもう会えないはずの、父さんの姿だった。
『全く何処へ行ってたんだ!ニュースを見るや否や血相を変えて飛び出してくから、心配したんだぞ!!』
「hahaha……!ち、ちょっと予定を思い出してマシテ……」
会いたかったけど、会ってはいけないであろう人。
この映画のストーリーに余計な事をしてしまう前に離れなければ。
そう、わかってはいる筈なのに。
……足が、動かなかった。
『なら一言言いなさい、母さんも心配していたよ、放っておかれた朝食もすっかり冷めてしまっている』
「 …… sorry」
父さんの顔から目が離せない。
目頭に熱が溜まっていく。
『まあ無事なら良かった、不審者がどうたらの後にヴィランのニュースだったからな、心配したぞ、追っかけてったのかと』
白髪混じりの髪に、よく手入れされたスーツ。
皺も所々あるけど表情は若々しい。
まるで記憶から切り出したような、父さんの姿。
『昔から正義感の強い子だったからな、お前は』
「ソウデシタッケ?」
『まだ小さかった頃に親友のケビンが虐められていた時、歳上にすぐ掴みかかって、コテンパンにされたのは?』
「…… ボク、デスネ」
この人の背中を見て、ボクは育って来たんだ。
この世界にはヒーローは沢山いるけれど。
『そうだ!お前は昔っからそうやって人の為に身体を張るやつだった!全く誰に似たんだろうな、親の顔が見てみたい!』
「それは決まってマスヨ、父さん」
だけど、ボクが最初に憧れたヒーローは一番身近にいた。
そのヒーローは世界を救うなんて、大きなことは出来なかった。
『hahaha!!なら早く帰って鏡を見ないとなぁ?お前も、今日は大事な初出社日なんだろう、予定は済んだのか?』
「ああいえ、もうチョットだけ」
それでも、小さな努力を積み重ね。
…… ずっと"家族を守っていた"。
だからボクは憧れていたんだ。
平凡な家庭でも特別なモノなんて何も無くても。
愛する者を、小さな歩幅で守り続けてくれた。
ビジネスマンに。
『なら早く終わらせて帰って来るんだぞ、私は先に家に帰っているからな』
「ハイ、スグに」
『朝食も温め直す手間があるんだ、くれぐれも』
「母さんの方がカンカンになる前に帰ってこいよ」
『母さんの方がカンカンになる前に帰ってこいよ』
声が重なる。
父さんのジョークを聞いたのはいつぶりだろうか。
「デスネ!hahaha!」
『そうだ!怒った母さんはこの世のどんなことよりおっかないからな?hahaha!!』
心の底から、愛おしいものだったんだと、夢の様な時間の中で改めて思ったんだ。
手を伸ばせば、届く位置に居る。
でもコレは、ボクの時間では無い。
『じゃ、また後で』
「……えぇ、また後で」
…… この世界の彼のモノだ。
伸ばすべきではない。
笑顔で手を振る父の姿が遠くに消えていくまで
ボクはずっと、見つめていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
あれからリブフーディと別れて、おらは街の中を探し回っていた。
「いたいた、おーいぐらすほっぱぁ!」
「Hello、美桜さん!さっきのビジネスはとてもいいモノデシタ!」
「ああ、おめえもな!」
緊張してガチガチとしている感じがない。
間違いない、おらたちの方のフーディだ。
「アレ?シアウさんは何処にいるんデース?」
「ああ、しあうならちょっと考え事したいから、先にふーで…ぐらすほっぱー探しててくれって」
「おっと、今は変装を解いているので本名の方で大丈夫デスヨ!お気遣いthank youデース!」
「んだぁ?」
フーディの姿をじっと確認する、別に服装は変わっていなさそうで、おらは首を傾げた。
よくみるといつも掛けているサングラスとかいう眼鏡をかけていない。
…… もしかしてあれが変装のつもり……?
この世界だとはいるのかもしれん、触れんでおこう。
「そうデスカ!まあいつもみたいに映画の世界でテンションアップ!して我慢できずに観光でもしてるのデショウ」
「あれだけ筋書きがどうの言うとるんに、能天気なのか気難しいのかよくわかんねえなぁ、しあうも」
「世界を救う、ボクも何度もしてきマシタケド、そのプレッシャーは相当の物デスカラネ」
おらにはわからなかったがフーディの物語には身近にあったのだろう。
それを語るフーディの顔は笑っていたが。
「あれは彼女なりの気の紛らわせ方なんだと思いマース」
ただ軽いんじゃない。
その顔を見ていると、なんだか安心したんだ。
「……そっかぁ」
やっぱり、こいつは立派だな。
おらにはまだヒーローってものは馴染みがねえ。
それでも思ったんだ。
「おらもちっと考えが足らんかったな、不用意な発言だったべ」
「足りてマスヨ、十分に、そう思えるミオさんはね」
きっとこんな気持ちにさせてくれるやつを、"ヒーロー"って言うんだろうな、って。
そのままおらたちはシアウに指定された宿屋へと向かって歩き出した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ビルの上から街を見下ろして考える。
……何故だ。
敵は圧倒した、被害も食い止めた。
「役目は果たしていた筈だ、それなのに彼女は何故」
《 ── おめえ、それでひーろーなんか?》
純潔のエルフ、"混ざり者の僕"とは違う。
神聖な存在が投げかけて来た、あの言葉。
「どうして誰も認めてくれない、救っているはずだ、言われたとおりに人間共を」
お前は未熟だ、学ぶべきことがある。
そう言って僕を地上へと送り込んだ神々や、僕の父上。
あの時の彼女が僕を見つめる瞳は、それらと全くおなじだった。
【全能神の息子、圧倒的な力を持つヒーローが悩む事などあるのだな……いや、半端者なら当然か】
「…… 何者だ」
背後にいきなり声がする。
まるで何も無い空間に、突然現れたかの様に。
僕が気付かなかった……?
この距離まで近づかれていたのに。
【真実を知る者だ、世界の、そして】
警戒して振り返ると、黒いフードで全身を隠した男がそこに居た。
身体の周りには、黒いモヤの様な物が絡みついている。
【── 貴様のな】
目の前で僕を、嗤っていた。




