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NO MORE映画崩壊 -観客が消えた世界で、作り物の少女は本物の心を探す-  作者: 幸いぶん
シアター2.アメコミリブート『マーベラスグラスホッパー』
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チャプター4.通り過ぎたら掴めない


「ど、どうなってんだこりゃ!?」

「動きが……止まっているのデスカ?」


 おらたちの目の前で、景色を埋め尽くす昆虫たちはピクリとも動かない、羽音すらも聞こえない。

 なのに、浮かんだままだ。


 まるで、空中に貼り付けてられたように。


『想定外が余りにも多すぎる、地方都市に大物が出張って来るとは』


『見るに堪えない醜い姿だね、コレ、全部キミが作ったのかい?』


 ゲソマミレを見下ろしながら、呆れたように少年は首を横に振る。

 金髪碧眼、束ねられていない長髪が揺れる。

 服は白い羽衣のような物を着ていて、背中には白い翼が生えていた。


『これは人類を完成させる為の研究だ、進化だ、見るに堪えないのは、自分より優れたモノを見てしまった劣等感からだろう』


『フッ、面白いコトをいうね』


 …… あいつが、これをやったのか?

 虫を止めてくれてるなら、悪い奴じゃないのか。

 ゲソマミレと少年を警戒して構える。


「カロースだわっ!」

「か、過労?」

「この映画のもう一人の主人公よっ!」


 おらとフーディが混乱している中で、シアウの喜んでいるような声が聞こえてきた。


『不完全な存在は完成させるべき、なるほど、一理ある、この地上には不出来な物が溢れているからね』


「モデルは〈チャンスの神様 カイロス〉

チャンスの神様には前髪しかないってのを、人間とのハーフ設定に改変した別アメコミの主役!コラボでこの作品に出てるのっ!」


 シアウがふんふん、と鼻息を鳴らしているのが、離れた位置からでもちょっとわかる。

 おらは苦笑いをしながらも、気を張って様子を伺っていた。


『ただ、訂正させてほしい』


 パチン、とカロースが指を鳴らす。


『不完全な存在に、完成なんて言うチャンスは巡って来ない』


『……髪の子カロース、噂には聞いていたが、此処までとはな』


 見逃したわけではない、一挙一頭を見るつもりでいたんだ。

 それなのに、次の瞬間、街を埋め尽くすように溢れていた虫たちは。


『完璧な存在はね、生まれた時から"完成"しているのさ』



 ─── 跡形もなく、一斉に弾け飛んだ。



「……アメイジング、あの数を、一瞬でッ!?」


「時間すら意のまま操る、神話系ヒーローよ!」


 時間と言うものを思い出したかのように。

 血も、断末魔すらも、遅れてやってきた。


 ごくり、と息を呑む、Samurai wonderのトーツ・サマーですら有り得ないぐらいに強かった。

 だが、こいつは。


『って、話している最中に逃げたか、随分引き際がいいことだ』


 ……次元が、まるで違う……!


『まあいいか、あの程度のヴィラン、放っておいてもいつでも捕まれられる』


「── ッ!!」


 街の破損を気にしていた様子のフーディ。

 カロースのその言葉を聞いて、苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「ぐらすほっぱー……」


「流石、アメコミの中でも最強格ね、まあこのシーンはあるからわかってたのだけど」


 それとは反対にシアウはほっとしたような顔で、カロースの方を見上げていた。


「えーっと、たしか、この次のシーンは」


「hey!!自分のするべき仕事を途中で放棄するなんて、それはビジネスマン(ヒーロー)としてどうなのデスカッ!?」


『ん?』


 おらの横にいたフーディはカロースを見上げながら、珍しく怒鳴り声をあげた。

 突然、いや当然だった。


 追い返すので精一杯ならわかる。

 血を流したくないなら、それもわかる。

 けれども、余裕をこいて見逃す、ではまるで意味が違う事は、おらにもわかった。


「……なにしてんだ、あのカロースってやつは」


「フーディ隠れて!」


「シアウさん……!でも……!!」


「ここからコッチの貴方が来るシーンなのっ!いいからとりあえずどっかにいってっ!!」


 怒鳴り声に気づいたカロースが、空中からこちらにゆっくりと降りてくる。

 だがその視線はフーディを捉えてはいなかった。

 …… おらを見ている?


 建物の影に隠れていたシアウが出てきて、おら達の方に駆けてくると、いつもの調子でフーディの背中をぐいぐいと押した。


「おい、しあう」

「……thank you、ミオさん……そういうことなら、ボクはDr.ゲソマミレを探しておきマース」

「フーディ、わかってるだろうけど、くれぐれも!筋書きを変えるようなコトしないでね」

「わかってマスヨ、壊さないように守りマス…… ストーリーラインも、街の皆も」


「本当にわかってるのかしら」


 笑いをひとつも見せぬまま、フーディは街の方へと飛び去っていく。

 ……あとでシアウとも少し話さねえとな。


 そう思うと、おら達は目の前に降りてきたカロースの方に向き直った。


『やぁ、先に暴れていた彼を止めていたのはキミ達かい?』


「んだ、そうだな」


『キミは、いえ、貴女は』


 カロースはおらを見るなり、目を丸くしてじろじろと見ている。


「なんだべ」


『まさかこんな場所で、貴女のような高貴な方に出会えるとは』


 耳のカタチや髪の色が珍しいのか?

 変な目で見られるのは慣れてるはずだが、なんだか毛色がちがうような。

 突然、カロースがおらの腕を掴む、こいつ、何をするつも、り……?


 唇がおらの手に押し付けられる。

 ……手の甲に、接吻をされた。


「んだあああああっ!?なな、なにすんだよっ!?」

「血統主義なのよ」


 暫く固まった後に、腕を振り払って飛び退いた。

 な、なんなんだこいつ!?

 

『失礼致しました、舞い上がってしまい、突然の無礼をお許しください』


 さっきまでゲソマミレに見せていた不遜な態度は何処へやら。

 別人のように腰を低くして語りかけて来る様子に、おらは少し後ずさりをしてしまう。

 そのおらの服をシアウがぐいっと掴んで止めた。


『私の名前はカロースと申します、お名前をお伺いしても?』


「み、美桜だべ」

「私はシアウって言います」


『美桜様ですか、美しいお名前だ、貴女は純血のエルフですね?』


 シアウも自己紹介してるのに、エルフなのに。

 なんでおらの方に集中してきやがるんだ、こいつ……!!


「たぶん?そう、らしいな?」


 実感はまだふわりとしているが、そういうもんだったよな、と返事をする。


『貴女みたいなお方が、こんな野蛮な事を必要はありません、何故こんなことを?』


「助けてって聞こえたからだろ、そんなもん」


 ヒーローというものは、フーディから話を聞いていたんだ。


『ふむ、聡明なお考えをお持ちのようですが、それで貴女のような存在に害が及んだら、其方のほうが世界の損失です』


「…… なぁ、ひとつ聞いてもいいか?」


 弱きを助け、強きを挫く、正義の味方。

 納得していた、フーディは確かにそれだった。



『なんなりと』


「なんでさっきのやつを逃したんだ、捕まえられたろ、おめえなら」


『あの程度なら放っておいても、いつでも捕えるチャンスはありますので』


 なのに、おんなじヒーローを名乗ってるはずなのに、目の前にいるコイツは……。


「おめえ、それでひーろーなんか?」


『? 仰っておられる意図がわかりかねます』


『oh!?全部倒されてる!?』


 聞き慣れた声が後ろから聞こえる、フーディだ。

 事態がよくわかってないみたいに、きょろきょろと周りを見回していた。

 シアウが来ると言っていた、リブート版のほうらしい。


『アレはさっきボクの家に侵入していた不審者さん達と……』


『野次馬が集まってきましたね、まだまだお話を伺いたい所ですが、ここら辺で失礼させて頂きますね』


『トップヒーローの、カロースさんッ!?』


 リブートフーディや一般人の野次馬が集まり出すとカロースは翼を羽ばたかせて、空へ飛び上がる。

 リブートフーディはそれを追いかけようと此方へと走り出す。


『それでは美桜様、良い一日を』


『待ってクダサーイ!!』


 カロースはそれを一瞥する。

 他のみんなに向けられた瞳は、おらに向けられたものとは違っていた。


『ボクもッ、アナタのようなヒーローになりたいのデース!!どうかっ、どうか弟子に……!!』


『冗談にしても笑えないな、キミみたいな下賤の者が、私と同じになれるとでも?』


 リブートフーディの足が、ピタリと止まる。

 身の程を弁えろと吐き捨て飛んでいく声は、瞳とおんなじで。

 ── まるで氷のように、冷たかった。


「まぁ、おおむね予定通りね」


「おらあいつ、あんま好きじゃねえ」


 安心しているシアウをよそに、おらは眉間に皺をよせて、小さく呟いた。

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