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NO MORE映画崩壊 -観客が消えた世界で、作り物の少女は本物の心を探す-  作者: 幸いぶん
シアター2.アメコミリブート『マーベラスグラスホッパー』
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チャプター3.正しいヴィラン


 おらとシアウは、先に飛び出したフーディを追いかけるように、街を走っていた。


「叫び声はこっちのほうからだべっ!!」


「ま、待ちなさいってぇ……ほんと、アンタたちはいっつもいつもっ……!!」


 目の前の道には車が駆け抜けているが、迂回してる暇はない。

 シアウを置いて、おらは車の上を次々に飛び移り、先へと進む。

 本当ならこの車ってのもゆっくり見てみたいが。


「それどころじゃねえなぁ!!」


『助けてえぇーーッ!!』


 ようやく騒ぎの現場が見えてきた。

 何やら大きなものが、街の人に覆い被さろうとしている。


「やらせねえッ……!!」


 おらはそれを見て、鉄扇を振り抜こうとする、が。


「── Stop rig(させ)ht there(ない)!!」



 それよりも素早く、フーディが飛び込んでくる。

 その飛び蹴りは巨大な何かの胴体をとらえて、どごん!と地面へと叩きつけた。


『助かったわ、ありがとう……!』

「haha!お褒めの言葉、恐縮デース!でも今はエスケープ優先でお願いシマース!」

『わ、わかったわ!』


「|Take care《気をつけてお帰り下さい》!!」


 制圧をして間もなく。

 慌てる通行人たちに、いつもどおりの笑顔を見せて誘導するフーディ。

 それを見た街の人の顔からは、恐怖の色は消え、感謝を残して走り去っていく。


「ふーでいっ!!── なんだこれっ!?」

「もうやっ、走りたくない……!!」


 そこに合流するおら、遅れてシアウも息を荒げながら駆けつけた。

 そしてフーディが蹴り飛ばされ、地面でピクピクしているものに目を向ける。


 鎌のついた腕、八本の足、蠅のような羽根。

 まるで色んな虫をツギハギにくっつけたような、歪なカタチだ、でも一番おかしかったのは。


「あぁ、人間サイズの巨大な昆虫、なるほどね」


 息を整えたシアウがそれを見て、納得したかのように呟く。


「oh、ミオさん、出来ればこの世界では、ボクの名前はシークレットで」

「あっ!?……す、すまねえ、秘密なんだよなっ」


 この世界の虫はこんなに大きいものなのだろうか。

 まだ把握できていない事態が、二人の口から説明される事を待っていると。



『何だお前達は?』


 背後から声が聞こえ、おらたちは振り返る。


 長くて所々ほつれたぼろぼろな衣服(白衣)

 頭には全面を覆うような奇妙な仮面(ガスマスク)

 その背中からは、虫の足のようなものが10本生えており。

 それぞれが別の生き物みたいに勝手に蠢いている。


「なんだありゃ……ビネガーか?」


 鉄扇を振り抜き構える。

 どうみても普通の人間じゃないのは一目でわかった。


「やはり貴方デスカ、Dr.ゲソマミレ」

「げそ、まみれ」


 が、その名前を聞いてふにゃりと力がぬけた。


「なんだか気のぬける名前だべなぁ?」

「Dr.ゲソマミレ、この映画のメインヴィラン……悪役よ、典型的なマッドサイエンティストって感じの」


 まっどなんたら言うのはよくわからなかったが、シアウが言うには、あれはどうやら、筋書きとおりの悪役らしい。


『私はまだ誰にも名乗った覚えはないのだがな、どうやら私のことを知っているらしい』


「知ってマスヨ、忘れようとしても、アナタの顔は忘れられるものではない……」


「……ぐらすほっぱー?」


 不思議そうにしているゲソマミレに対して、フーディは吐き捨てるように答える。

 その視線は、いつもとは明らかに違うものだった。


『まあいいさ、これからこの国、いや世界中の馬鹿共の頭に、私の名前が刻まれるのだからな!』


 突然高笑いをはじめて両手を広げると、空を仰ぎみるゲソマミレ。

 ジジジ、ジジジ。

 音が絶え間なく鳴り響く。

 おら達の前方にある空を、埋め尽くす大量の影。


『そう、研究の成果と共に』


「さ、さっきのでけえ虫っ!?」


 今片付けたばかりのデカい虫が、ぎゅうぎゅう詰めでこっちへ飛んできていた。


「流石にあんなにおると、気持ちわりいなっ……!」


「それはDr.ゲソマミレのバイオテクノロジー研究によって産まれたバイオ昆虫兵器よっ!!」


 シアウの声が何だか遠い。

 横にいた筈の姿は消えていて、すでに建物の影に隠れていた。

 あれだけ疲れた文句を垂れていたのに…。


「おめえ、いつのまに」


「気をつけなさい!デカいだけじゃない!色んな昆虫の要素をあわせもってるわっ!」


「……ええ性格しとるな、ほんと」


 まあ今は目の前をなんとかすることが先決か。

 虫たちは、通行人に襲い掛かろうと鎌を振り上げる。


「── 疾風。」


 風で加速して、その前に立ちはだかると、鉄扇で鎌を受け止める。

 生身の腕を受け止めたのに、まるで鉄が擦りあうように、ギギギギ、と音が鳴った。


「させねえよ」

「hey!アポイントメントは取ってマスカ?」


 おらが虫を受け止めている間に、フーディは距離を縮めており。


「無いのであれば、大変恐縮デスガ、お帰りを」


 そのままソイツを虫の大群に向けてドォン!!!と蹴り飛ばす。

 大量に巻き込みながら派手にとんでいくと、誰にも被害を出さない所でドシャっと地面に転がる。


『何ッ!?』


「こんだけでけえなら佃煮作ったら目一杯食えそうだなぁ」

「NO!!昆虫食はチョット……!!」

「んだよ、うめえのに」


 背中をフーディにあずけると。

 次から次へと飛んでくる虫を、風で吹き飛ばし、蹴りで吹き飛ばし

 ちぎっては投げちぎっては投げの大立ち回り。


『風を操っているのか、男の方は人間の脚力ではない……あれはまるで、ふむ』


 ゲソマミレは驚いたようにこちらを見ている。


(おっ、そろそろ、あれが来る頃合いかぁ!)


『お前らが何なのか、興味が少し湧いてきた』

「聞きたいなら聞かしてやるべっ!!」


  おらは肩に鉄扇を担ぎ、腰を落としてニッと笑ってみせる。

 そして、声高らかに名乗りを。


「ワッツ!?ミオさん!?なにをしているのデース!?」


「他所様の国だが平穏乱す悪逆非道、たとえ、お天道様は許したとしても、こっから先にゃああああっ!?」


 あげられなかった。

 

 蜘蛛の巣のようなものが虫から放たれて、おらの身体にまとまりつく。

 ねばねばとしていて、どんなに身を捩っても全然とれない。


「んだあああああっ!?」


「あのおばかっ……時代劇のお約束が、アメコミで通用するわけないでしょーーッ!!!!」


『……あ、頭の出来はともかく、興味深いサンプルだ、出来れば綺麗なまま手にいれたいが』


 シアウの叫び声と同時に。

 虫たちが今度は緑色の液体を口から吐き出し、おらへと飛ばしてくる。

 

『ドロドロになってしまいそうだな』


「── 木枯らしッ!!!」


 喰らうわけには行かないと、おらは思い切り鉄扇を横へ薙ぐ。

 強風が吹き荒れると、おらに纏わりついた蜘蛛の巣が吹き飛び。

 飛んできた液体も虫たちへと返される。


「こ、こんにゃろーーっ!!卑怯だぞーーっ!!」


 糸に絡まれ、液体を浴びて。

 虫達は一網打尽に地面へと転がって、足をピクピクさせている。


「hahaha!マーベラス!」


『ふむ、少々予定が狂ってしまいそうだな』


「残りはおめえだけだぞっ!」


 おらたちはゲソマミレを見て構える。

 予想外ではあるっぽい反応だったが、何処かおかしい。

 ……慌てている感じ見られない。


「強がらないでクダサーイ、アナタは此処で退勤デース!」


『終わり?まだ始まってすら居ないぞ』


 ジジジ、と羽音が聞こえる。

 ジジジ、ジジジ、ジジジ、ジジジ。

 ……さっきよりも、音が多い?


 おらたちは周りを見回す。

 今度は前方だけじゃない。

 建物の隙間、前後左右、所構わず這い出てくる。

 余す事なく、虫が街に敷き詰められていた。


「うげぇ、まだおるんかよ」

「Oh boy……残業は良くないデスヨ?」


『この街ぐらいなら、あの程度で制圧は済む計算だったのだがね、こちらとしても想定外の損失だ』


 流石にこの数は骨が折れそうだ、そう思いながら構えた瞬間。


「しかたねえ、もう一踏ん張りすっ ── 」


 あたりが一斉に、しんとなる。

 どうしたんだ?あれだけあったはずの虫の羽音が。


 全部、消えている。


 『ヴィランが現れたと聞いて、飛んできたのだけれど……この程度なら、僕が出るまでもなかったかな』


 虫達はピクリとも動いていなかった。

 身体も羽も、動いていないのに、その場に貼り付けられていたんだ。

 まるで、時でも止まったかのように。


『あぁ、ごめんね、キミにチャンスはもうないよ』


 動揺しているゲソマミレの頭上で、翼の生えた少年が笑っていた。

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