チャプター2.二人のヒーロー
画面の中でおんなじ顔が見合っていた。
どうなってんだこの状況、頬がひくひくしている。
「りぶーとってなんだべっ!?」
「時代に合わせた価値観にしたいとか、複雑になったストーリーを一新したいとかの理由で作品をつくりなおすこと!」
「わからんっ!」
「ほぼおんなじだけど!ちがう世界!」
「わかったっ!!」
おんなじなのに、ちがう世界。
だからフーディが二人いるのか!
「とりあえず突入しましょう、このままじゃメチャクチャになっちゃうわ!」
「まってくれ、どうやってはいるんだこれ!?」
ゆっくりしている時間はない。
そうシアウは言うなり、スクリーンのほうへ近づいていく
おらも慌てて、その後を追った。
「スクリーンに触れればいいわ、そこから今映ってる場所に飛べる」
シアウの伸ばされた手は。
ぶつかることなく、スクリーンの中にずぶずぶと沈んでいく。
『ホワイ!?何もないとこから手が!?』
「ね?」
「き、奇々怪界だな……?」
スピーカーから漏れてる悲鳴を他所に。
おらも恐る恐る、スクリーンを指でちょんと触れてみる。
水面のようにゆらゆらと揺れている、不思議だ。
「ビネガーシンドロームに犯されてる作品は、現実との境界があやふやになるの、ほら、いくわよ美桜」
「っと、ひ、ひっぱんないでくれよ!んだぁ!?」
シアウに腕をつかまれると、体勢を崩しながら。
── とぷん、と。
おらたちの身体は、スクリーンの中へ沈んでいった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
私は美桜を引っ張り、スクリーンの中へ突入した。
ぐにゃりと歪んでいた景色は。
足が地面についた感覚と一緒に、ゆっくりと元に戻っていく。
「到着っと」
「んだぁぁ〜……」
《アツダンシティに現れたヴィランは現在 ── 》
場所を確認しようと、私は周りを見回した。
広々としたリビングに、仕切りのないキッチン。
家族用の大きなL字のソファーの前で、テレビの音が響いている。
アメリカの一般的な家庭の内装、これは間違いない。
この世界の主人公である、フーディ・アーツの自宅だ。
「美桜も無事ね」
「何処をみたらそう見えるってんだ!?」
「前」
真横でフローリングに突っ伏している美桜。
不服そうに顔をあげる彼女の目線を、指で誘導した。
「ホワイ!?なんでボクが目の前にッ!?しかもなんか若いデース!?」
『ホワイ!?なんでボクが目の前にッ!?しかもなんか知らない人が増えてマース!?』
「……あぁ」
美桜から、あれと比べればな。
というような声色と苦笑いが漏れている。
「えーっと、とりあえず、そうね」
「シアウさんどうなってるのデース!?」
『……suspicious、アナタたち、もしかしてヴィランなんじゃ?』
私達三人は集まり、真ん中にある大きなテーブルを境にして。
リブート版のフーディから距離を取る。
ジリジリと詰め寄ってくる、リブートフーディ。
一歩、また一歩と私達も後ろへさがる。
この家の玄関は……しめたわ、丁度真後ろにある!
「ややこしいことになる前に、逃げるわよっ!!」
「もう十二分にややこしけどなぁ!?」
美桜たちに合図を出すと、振り返って全力で走り出す。
説明をするのにもリスクがある、あまり知られすぎるとストーリーに影響が出るかもしれない。
破綻してこの映画が崩壊してしまうのは避けないと……!!
「Oh my God!何がどうなって!?」
三人で入り口に向かってダッシュしていると、ガチャリと玄関のドアが開く。
初老の男性が、扉の向こう側から顔を覗かせた。
とことんラッキー……!!
『あれ、お客さんでも来ているのかい?』
「─── 父、さん……?」
「お構いなくっ!!」
「お邪魔したべぇ、土足でごめんなぁ!!」
あいた扉に滑り込んでいく、私と美桜。
一度足を止めかけながら、追従して来るフーディ。
『ふむ元気な事だな、フーディ、お前の友達かい?』
『不審者デーーーース!!!!』
背後から聞こえる叫びを振り切るように、私達は走り続けた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
おらたちはもう一人のフーディが居た家から、かなり離れた位置まで走ってきた。
「ぜぇ、はぁ……!こ、ここまでくれば一安心でしょ……!」
「もう息上がってんのか、だらしねえなぁ」
「アンタたちと一緒にしないでっ!私はかよわいエルフなのよっ!」
「おらもだろ?」
「……」
シアウはぷいっと顔を背ける。
都合が悪くなると子供みたいになるとこあるよなあ。
まあ今はそれよりも。
まわりをぐるりと見渡した。
景色はさっきとはかなり違うとこまで来ていた。
さっきまで一軒家が多かったのに、今じゃあるのは江戸城みたいにでかい建物ばかり。
人も多い、江戸の町人たちとおんなじかそれ以上か。
だけど土地が広々としていて、狭さは感じない。
地面は石が真っさらに敷き詰められている、その上をぎゅんぎゅんと走り回る鉄の塊。
確か車、とか言うんだっけかあれ。
ぐるんぐるんと目が追いかける、あっちこっちを見てみたい気持ちが収まらない。
「それにしても、すっげえなあ〜〜っ!!現実とおんなじような建物いっぺぇだぁ!!」
「世界観のベースが現代だからね、そりゃあ似るわよ、まあ此処は日本じゃなくて、アメリカだけど」
「あめりか、日ノ本とは別の国かぁ」
子供達が目の前を走り抜け、広場に向けてはいっていく。
広場には遊ぶ為のものが、色々と置いてあった。
斜めになった台座を滑り落ちたり。
ぶら下がった板に乗って、親がそれを押してゆらゆらとさせたり。
「アツダンシティ、アメリカ欧州にあるって設定の架空の都市、ここはファンからこう言われているわ」
「んだ?」
「アメコミ一治安の良い街」
なるほど、と。
楽しげな様子を横目に、おらは笑っていた。
(おかしいな?)
ふと気になり、たちどまる。
いつもならこんな会話に割り込んでくるのに。
「ふーでい、黙ったままでどうした?」
「イエ、ソノ……」
振り返ってフーディを見上げてみる。
心ここに在らずだ。
いつも軽快な足取りが、どことなくぎこちない。
「そういえば状況の説明をし忘れてたわね、勝手に動くんじゃないわよアンタ、本当に」
何かあったのだろうか?
最初に入ってきた家から逃げてきてから、ずっとこの調子だ。
「しあう、言い方」
「私達は遊びでやってるんじゃないの」
「……」
シアウの悪態にすら。
フーディは何も返さず、下を向いている。
「大丈夫か、ふーでい?なんかあっ──」
『── きゃあああああーーーーッ!!!』
『ヴィランが、ヴィランが出たぞーーっ!!ヒーローを呼んでくれーーーっ!?』
突然のことだった。
平和な空気を切り裂くように、声が街に響く。
「なんだぁ!?」
驚いてあたりを見回すおらの横を。
さっきまで、俯いていたはずのフーディが颯爽と駆け抜ける。
「……|I'm needed《ボクが必要だ》!!」
「ふーでいっ!?」
「ああもう、また走るの〜〜っ!?」
悲鳴の聞こえたほうへ、誰よりも早く。
おらたちも、それを追って慌てて走り出した。
『人は脆い、だから早急に進化だったのに……私の研究を否定したお前たちは、間違っている』
逃げ惑う人々たちを囲む様に。
『それを今から証明しよう』
虫の羽音が、響いていた。




