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チャプター1.ファンブル・メイツ

『世界から人間が消えた日、映画だけが残った。』



映画を観たあと

自分が主人公だったら、と思ったことはないだろうか。



…私は何度もある。



画面の向こうに広がる

色鮮やかな景色、心踊る物語、複雑な人間模様。



人々が情熱を込めて、作り込んだであろう世界。



残酷な運命ですらも、胸をときめかしてくれる。


何者でもない自分が

何者かになれたような気がして。


私は、そんな気持ちにしてくれる



"映画"というものが大好きだった。



「おかしいわねぇ…。」


「hey!まーたこんな真夜中に

異変が無いか、チェックしてるのデスカ?」


「そうよ、悪い?」


「健康にはbadデース!」


「アンタも起きてるでしょ、言われたくないわ。」


「oh、手厳しい…

ガチャガチャと機材をいじって

なにかアクシデントデース?」


「"始まりが存在してない"のよ、このフィルム。

何故か、どうやっても映らないの。」


「WHY…?

いつもの異変とは、違うのデスカ?」


「えぇ、こんなのは初めてよ。

このまま放っておいたらどうなるのかもわからない。」


「Hmm…。」


「最悪よ…この映画の冒頭好きだったのに。」


「…気にするのソッチ?どんなのデース?」


「ハァ?有名なのに知らないの?

空を背景に、あらすじが流れるのよ。


最初の一文は…。」



『遥か昔、東方の島国にて…。』



───────────────



───あんな自分(ふう)になってみたい。



そう思うことは、おらにもあった。


殿様のように金を使い、

同心のように人を守り、

美男美女のように皆の視線を集める。


ただ、みんなが心を惹かれてくような "憧れ" と


おらの求めるものは、人とは少し違っていたんだ。




「じっちゃん、いってくるべーっ!!」


「んだ!気をつけてなぁ、美桜。」


おらの名前は美桜(みお)

齢は……捨て子だったらしいのでわからない。


今の背丈は四尺(120cm)ぐらいだから

七、八歳あたり、なのかもしれない。


緑に囲まれ、事件も起こらないような

のどかな農村におらは住んでいる。


まあちょっとした訳があって

家は村の少し外れにあるんだけども、誤差の範囲だ。


そんな外れから、

毎日早起きをして向かってる場所がある。



「ばれたら怒られるよなぁ…!」


村の裏側にある山だ。


“危ないから子供だけではいるんじゃないぞ。“と

大人たちは、常に村の子供に言い聞かせていた。


けれども、念押しされると

行ってしまいたくなるのが子供心と言うもので…。



『おーい、待てよぉ〜!!』


『鬼さんこちら!手のなるほうへ〜!!』


泥だらけの草鞋が土を蹴る音と

子供たちの楽しげな声が聞こえてくる。


森を抜けると開けた場所に出る。

走り回るにはちょうどいい広さだ。



『おーい、あんま奥にいくと熊が出るぞぉ!』


『その方がおもしれーじゃん!!でろでろ〜っ!!』


大人には秘密の楽園(あそびば)が、

すぐに出来上がるのは当然だった。



「いたべっ…!」


『吾作はどうしたよ?まだ来てないのか?』


『あいつ、親に捕まって田んぼの手伝いさせられてるよ。』


『まぬけだなー!ははっ!』


そこに着いたおらは

すぐにでも混ざりたい気持ちを抑え


隠れて楽しげに話したり追いかけっこをするのを

じーーっと、食い入るように見つめていた。



「……ええなぁ。」




───あんな風に。




おらの憧れは、そんなありふれた光景だった。


友人や仲間とおなじ時間を行動を共にする。


皆が当たり前のようにやってるそれが

おらにとっては羨ましく



どうしようもなく、惹かれるものだったんだ。



「ひとりいねえなら、

おらも遊びに、いれてもらえるかなぁ…。」


こちらの方へ歩いてくるのをみて

ゆっくりと深呼吸。



…… 今だっ!!



『もしそれ、俺だったら逃げきれるけどな!』


「あーそーぼっ!!」


頃合いを測って、みんなの前へ飛び出した。


目一杯の笑顔と明るい声色で

仲間に入りたいと伝えてみた。


手応えはばっちりだ、他の子もこうしていたから。



『………。』


次の瞬間、遊びの喧騒はぴたりと止まる。


他の子なら、いいよー!と

すぐ声が返って来ていたのだが


… そこまでは同じにはならなかった。



『また来てるよ、あの耳長(みみなが)。』


『行こうぜ!あんなの無視無視。』


返されるのは好奇の視線だけ


言葉はおらには向けられておらず、

ひそひそと話すと、踵を翻して遠ざかってしまう。



「けっこー上手くいったかなって思うたけど

嫌ってのなら、仕方ねえ…よな。」


引き止めようとした手が空中を彷徨って

行き場を無くして、服をぎゅっと掴む。



追いかけることは出来る、だけど

困らせてしまうのは、きっとよくない。


おらの姿が見えたままじゃ

のびのびと遊べないだろうな。



……せめて

遠くからあの光景を見るぐらいは、許されるかな。



とぼとぼと、さっきのとこから

少し離れた川のほとりに、足を運んだ。



「ここまでくれば大丈夫だべ。」


みんなの姿が遠くに見える。

おらのほうは見えてない、はずだ。



「よいしょっと。」


ちょうどいい岩に腰をおろすと

水面に、おらの姿が映り込む。


長い髪を束ねた(ポニーテール)少女と目があった。

顔も子綺麗じゃないかなと、自分でも思う。



「皆と、全然ちげえもんなぁ。」


問題はその色だった。


桜のような薄紅の髪が、揺れていた。

見つめ返してくる瞳もおんなじ色だ。


肌はそれとは反対に、白く透き通っている。


一番奇妙なのは耳のカタチで

まるで刀の切先のように尖っていた。



「変わってるのは、姿だけじゃねえか。」


逃げられるのも仕方ないな、と自分の耳を隠す。


本当の親もこの奇妙な見た目にびっくりして、

おらを捨てたのかな。



「どうなってんだ、おらは。」


さっきのようなことがあれば

怒ったり泣いたり、が普通の人間のはずだ。


それなのに…

そんな感情も不思議とわかないのだ。


仕方ないと割り切ってるのか、

あるのは妙な納得と少しの寂しさだけだった。



… おらは中身すらもおかしいのだろうか。



そんなことを考えながら、

日が暮れるまで他の子たちが遊ぶのを眺める。



そんな日々を繰り返していた。


「あーそぼっ!」


『やだよ。』



── 来る日も



「おらこんなんできるべ!あそんでくれ!」


『うわっ、手も使ってないのに

木の棒が浮かんでるぞ…!?』


『気味がわるい!離れろ離れろ!』



─── また来る日も



「おらの名前は美桜(みお)っていうべっ!!」


『耳長がまた来たぞー!!』


「おめえたちの名前、を。」


『逃げろーっ!!!!』


「待ってく………んだ…今日もダメかぁ…。」



特技を見せて気を引いてみようかな。

自己紹介してないからかな。



「…大丈夫、大丈夫…。」


どうしたら混ぜてもらえるのかなと


何度も何度もおらなりに考えては

試してみたけど……どれも失敗だった。



「……明日は、きっといけるべ。」


寂しさを紛らわすように呟くと、

おらに向けられてない、“またね”を背に。


ーーーーーーーーーーーー


遥か昔、東方の島国にて…。


ーーーーーーーーーーーー


「また浮かんどるなぁ。」


空に浮かぶ夕陽とその横に添えられた、

おらにしか見えないらしい"文字"を見上げると


とぼとぼと、家路についた。

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