上映後.ポップコーンはいかが?
フーディとも目を合わせられず、私は逃げるようにその場を後にしていた。
「なによ、別にデメリットのある提案じゃなかったでしょう」
不貞腐れたように吐き捨てると、開いたままの扉が目に入ってくる。
〈Samurai wonder〉のフィルムがある上映シアターだ。
「……扉を閉め忘れてたかしら」
閉めようと近づくと中から音が聞こえてきた。
ジジジと、フィルムが回転している音。
「映画が上映されてる?」
中をそっと覗くと、美桜がぽつんと一人で映画を眺めていた。
考えるといって何処へ行ったのかと思ったら、こんな所にいたのね。
「何を勝手なことしてるの、あの子」
「じっちゃん」
咎めようと中に入ろうとしたのに。
ちらりと見えた美桜の横顔を見て、足が止まる。
私は気づかれないように隠れながら、その様子をずっとみていた。
「『いってきます』」
言葉なんてかけられなかった。
ゆっくりと座り込み、うずくまる。
……そんなつもりで言ったんじゃない、私はただ、ただ……。
美桜の嗚咽が静かに流れる中で、私はローブを握りしめ、静かにつぶやいた。
「…… パパ、ママ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日、待合フロアにふらふらしながら足を運ぶ。
「グッドモーニング!シアウさん!イイ夢みれマシタカー?」
「お陰様で、寝不足よ」
「haha!またレイトショーデース?好きなものに熱中するのもイイデスケド、肌と仕事効率に響きマスヨッ!」
昨日の鋭い視線が嘘のように、いつもの調子のフーディが笑っている。
それを横目に、椅子に座ると頬杖をついた。
「ふーでい、しあう、おはようさんだべ!」
「グッドモーニングミオさん!今日も元気いっぱいそうでイイデスネ!沢山働けそうデース!!」
「んだっ!もう色々すっきりだーっ!!」
「……おはよ」
そんな中で美桜が元気いっぱいに挨拶をして、フロアへと駆けてくる。
昨夜こっそり見てしまった光景を思い出すと、私は言葉を詰まらせた。
「その、美桜、昨日の」
投げかけてしまった言葉の重さに、今更に気付いた私とは逆に。
昨日までの元気のなさが嘘のように、美桜は眩しい笑顔を浮かべている。
「あぁ!決めた!おら旅についていくっ!」
ずるり、と頬杖をついた腕がすべる。
か、軽すぎるでしょっ!!!
「んだぁ?どうしたしあう、なんかまた小難しい顔しとるぞ?」
「な、なんでもないわよっ!」
一晩たったらすっきりってワケ!?
流石は映画の登場人ぶ……。
「……なんでもないから」
心の中の声を、私は自身で止めた。
「そんで、気持ちはまとまったわけ?」
「んだ!」
「そう」
私は見てしまったからだ。
「おら、みんなの笑ってる顔が好きだ、だから頑張りてえ!」
「……そう」
この軽そうに見える言葉に、どれだけ重い決意がふくまれているのか。
「Newbie、デスネ!」
「にゅうべ?なんだそりゃ?」
「wmm……そうデスネ、期待の星という意味デース!!hahaha!!」
「おぉ、なんかかっけえなぁそれ!」
美桜とフーディは波長があうのかしら。
顔を見合わせてきゃっきゃと騒いでいる。
引きずる罪悪感を胸に、私はそれに混ざれずに見つめていた。
「……確か、あったわよね」
ふと思いついて立ち上がる。
「何処へ行くのデース?」
「待ってて」
「あれか、しあうって寝起きわりいのか」
「ゼンゼン!!寧ろいつも朝方から憎まれ口売ってるぐらいには、朝からハッスルしてマスネ?」
「それはそれで問題だぞ」
売店から出来上がっていたポップコーンを持ち出す。
自分用に、映画を見る前によく作っているものだ。
「ん」
私は、その山盛りのポップコーンを美桜に突き出した。
「んだぁ?な、なんだこれ?」
「ポップコーン、映画には付き物の食べ物よ」
「ぽっぷこーん……ああ、たまにしてた美味そうな香りはこいつだったんかぁ!」
驚いた顔、不思議そうな顔。
美桜は受け取るとポップコーンを見つめてころころと表情を変えて行く。
「昨日からろくに食べてないでしょ、お腹の足しになるかはわからないけど、あげるわ」
「まじかぁ!あんがとなぁ!!」
そして素直な言葉をぶつけてくる。
私はこんなに捻くれて、ろくに言葉すらでないのに。
「……」
「なんだよじろじろと見て、しあうも食いてえのか?」
「別に、口にあうの?」
「んーっ!!うんめえなぁこれ!!」
満面の笑みでポップコーンを食べる美桜をみていると。
そんな罪悪感とは裏腹に、少し顔がほころんでしまった。
「……そう」
この子を利用していいのか。
そんな言葉が、私の中で私を刺してくる。
……それでも、何を利用してでも。
私はやり遂げねばならないのだ、この世界を救うためには。
「気に入ったのなら良かったわ」
「素直じゃないデスネェ」
ニヤニヤと笑いながらフーディがいう。
人の気持ち知らないで。
……なんて、私が言えたことではないわね。
「なぁなぁ!!」
フーディをジト目で睨んでいた矢先。
好奇心に満ちた声があがる。
「次は、どんな映画にいくんだぁ?」
春の陽気を思わせるような、優しい笑顔で。
桜色の彼女はそういった。
私達はまだ知らない。
どんな物語が待っているのか。
彼女の正体が、一体何者であるのか。
これは、映画の登場人物たちが世界を救おうとする物語。
そして ──
「そうね、次は───」
── 美桜がこの世界からいなくなるまでの、物語だ。




